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田中あららさん

出没地 上高地
趣味 登山
職業
性別 女性
将来の夢
座右の銘 仏ほっとけ、神かまうな

投稿済みの記事一覧

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正人の憂鬱

17/08/18 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:60

 正人が書くものは、数式だけではなかった。自室にある一畳ほどの大きさの黒板には、頭に浮かぶアイデアや疑問などがあちこちに書かれていた。真ん中は現在進行中の課題であり、象形文字のような悪筆で主に数式が占領していた。正人は、憂鬱を抱えた数学科の学生だった。

 彼は小学生の頃、少なからず自分の書く字に対してコンプレックスを持っていた。彼はまっすぐにかけず、一つ一つの字もどこかアンバランスな・・・

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二人が歩く前にしてのけたこと

17/08/08 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:58

 優子は二卵性の双子を産んだ。男の子だった。

 息子たちが生まれてから、優子は常に寝不足だった。夜中だろうと明け方だろうと泣き声で起こされた。同時ならまだいいが、そうはいかない。一人の授乳を済ませてうとうとしていると、もう一人が泣き始める。いつもどちらかが起きているような日常の中、2時間続けて眠りたい…それが一番の願いだった。ちなみにその願いがかなったのは3歳になってからだ。
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旅人

17/07/30 コメント:4件 田中あらら 閲覧数:80

 彼は詩人であり、思想家であり、旅人だった。招かれればどこへでも行き、詩を朗読し、彼を招いた熱き思いの人々と語り明かした。出された食事や酒は、ささやかであろうと豪華であろうと、なんでも感謝して食べた。持ち物は少なく、ずた袋に入っているものは着替え1組、手帳、数冊の本が全てであり、定住地はなかった。タゴールの「我家のないものは、全世界を住処とすることができる。友無き者には他人はいない」の詩文に感銘を・・・

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フグ

17/06/25 コメント:4件 田中あらら 閲覧数:280

 リアス式海岸の小さな町は、複雑に入り組んだ海岸線のわずかな平地と小さな谷あいに家々がへばりついていた。水田はほとんど見られず、畑は山に向かって石垣で段々に上がっていき、柑橘類の栽培が盛んだった。みかん畑から見下ろす海は、穏やかで美しかった。

 葉子の家は、目の前が海だった。正確にいうと、海と家は船着場と堤防に阻まれていたが、海までの距離は徒歩10秒だった。船着場は小さな子供が一人で・・・

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アキラ

17/06/09 コメント:2件 田中あらら 閲覧数:192

 一枚の集合写真がある。30人余りの男女がカメラを見て笑っている。背景には白い砂が写っていて、どこのビーチかわかる人にはわかる。もちろん私にもわかる。だが、そこに私はいない。

 アキラは東京に住んでいた。古い都営アパートを借りていて、60歳に届こうという年齢で一人暮らしだった。両親の顔を知らず、唯一の親族だった祖母が他界してからは天涯孤独の身の上だったが、友達は多かった。

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17/06/04 コメント:2件 田中あらら 閲覧数:161

 愛ちゃんの布団の傍らには、おばあちゃんが付き添っていた。昨夜から熱を出し、赤い顔をして寝ている愛ちゃんを時々心配そうに見て、額の濡れ手ぬぐいを取り替えていた。
 愛ちゃんは目を開け、おばあちゃんがそこにいるのを確かめると「おばあちゃん、ここにいてね」と言い、おばあちゃんが「ずっといるからね」と言うと、また眠りに落ちた。
 愛ちゃんはおばあちゃんっ子だった。大好きなおばあちゃんがそばに・・・

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休日の休日

17/05/29 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:161

 俺は待ちに待った定年退職の日、空は青空、心は晴れやか、まさに前途洋々だった。花束を受け取り、多少の感傷を持ちながら会社を出たときは、退職後にすること、やりたいことが盛りだくさんの計画を用意していた。
 会社には非常勤として残ってくれと言われたが、すっぱりやめて、遊ぶ人生を選んだ。誰がもう働くものか!と心に決めていた。
 最初のひと月の計画は、とにかく寝たいだけ寝て、起きたいときに起き・・・

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タバコの煙(高橋君への手紙)

17/05/07 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:194

親愛なる高橋君

 お久しぶりです。お元気ですか。
私の方は昨年と同様山小屋での仕事が始まり、毎日そばを茹でたり定食を作ったり、お泊まりのお客様の天ぷらを揚げたりしております。春のピークである地獄のゴールデンウィークがまさに終わろうとしている最中、いつものことながらいささかうんざりする出来事があり、ペンをとった次第です。

 昨夜仕事が終わりまったり過ごしておりました・・・

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サツマイモ

17/04/29 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:208

 パフィンマフィンの礼子さんが今日焼いたのは、焼き芋のマフィン。マフィンの型に生地を流し込み、真ん中に大きめにカットした焼き芋を差し込んで業務用オーブンで20分焼けばできあがり。他には定番のブルーベリーマフィン、人気のチョコマフィン、おかずを使ったひじきマフィンと切り干し大根マフィンを焼いた。
 礼子さんは1年前、自宅の片隅を改装して菓子製造業の許可をとり、商号を「パフィンマフィン」とした。・・・

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電車デート

17/03/22 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:258

「危険!使用禁止!」の看板のたてられた壊れた吊り橋を渡ろうとする人はいない。それにとっくに見た目にも渡れないことがわかるほど朽ちていた。かつて吊り橋は、隣の村に行く近道であり、それが唯一の道だった。10kmあまり下流に橋ができ、車社会となってからは使われることが少なくなり、朽ちていくままになった。
 下流の橋の横には鉄橋があり、3両編成の黄色い電車が走っている。全線20kmの小さな路線は、旅・・・

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真矢の決断

17/03/21 コメント:4件 田中あらら 閲覧数:297

聡子の話
 私の理想は、夫が生活や将来の不安がないぐらい十分に稼いでくることが基本である。そのために私はサポートをする。共通の趣味である美術館やコンサートに行った後、洒落たレストランで食事をし、たまには遠くに旅行する。穏やかに言葉を交わし、微笑み合う生活だ。
 今の私といえば、生活を支えるための仕事をしている。夫が起業して社長夫人でいられた時期もあったが、ほんのいっときだった。娘の教育・・・

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市役所の小人

17/02/18 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:265

 ケン太の家は市役所の隣にあり、部屋からは市役所の建物と駐車場が見える。風情はないが、夜は車の出入りもなくひっそりしている。
 高校受験が2ヶ月後に迫る冬休みだが、ケン太は勉強に身が入らなかった。パラパラと参考書をめくってはいるが、頭に入ってこないのは、今に始まった事ではない。
 
 外はすでに暗く、出歩く人は少なかった。
「おい」外から抑えたような低い声がした。
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麦穂

17/02/15 コメント:0件 田中あらら 閲覧数:275

 戦争中のことだった。
 幸子の家では疎開をしてきた学生が下宿をしていた。名は泰三。
 泰三は街での空襲が激しくなったことを機に、学校を休学し、造船所での仕事がある当所を疎開先として決め、薄い縁のあった幸子の家に下宿することになった。
 田舎の百姓社会に育った13歳の幸子から見ると、泰三には教養があり、洗練され、知らないことをたくさん教えてくれる兄のような存在だった。泰三に教えて・・・

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白いワンピース

17/02/08 コメント:2件 田中あらら 閲覧数:362

 母は72歳で自動車免許を返上した。前年、脳梗塞で左足が不自由になったからだ。
 田舎で暮らすものにとって、車が運転できないということは、好きな時間に出かけられないということだ。それでも実家は、徒歩10分以内に銀行、病院、スーパーがある田舎の中心部だったので、まだマシだったかもしれない。
 足は不自由なもののまだ元気だった母は、人より時間をかけ歩いた。

 ある時、母はガレ・・・

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