1. トップページ
  2. 野々小花さんのページ

野々小花さん

野々小花(ののしょうか)です。

出没地
趣味
職業
性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの記事一覧

1

上手にその手を離せるように

17/08/13 コメント:0件 野々小花 閲覧数:56

 暖かい手に繋がれていた記憶がある。まだ小学校に上がる前。養護施設「くすのき園」の園長先生が、化粧っ気のない顔で微笑んでいる。
 周りの皆には、時々、お父さんやお母さんが会いに来てくれる。私には誰も来ないけれど、園長先生がいるから平気。手を、しっかりと繋いでいてくれる。それだけで、私は安心できた。

 カーテンの開く気配で目が覚めた。三歳になる娘の陽菜が、おぼつかない手つきでカー・・・

1

檻の家

17/08/08 コメント:0件 野々小花 閲覧数:63

 朝の五時に、私の一日は始まる。早起きは子供の頃からの習慣だ。二十九歳になった今でも、それは変わらない。夫を起こさないように静かにベッドが降から降りた。隣のベビーベッドでは、もうすぐ二歳になる息子の翔汰が気持ち良さそうに寝息を立てている。
 寝室を出て、洗濯機のスイッチを入れた。洗濯が終わるまでに、洗面台を磨き、風呂掃除をする。玄関、台所、リビングも、順番に掃除していく。家中の床に掃除機をか・・・

5

river

17/07/27 コメント:2件 野々小花 閲覧数:138

 中学三年の夏休み、僕は誰とも遊ぶ気分になれなかった。黙々と机に向かい、宿題を片付けていく。最後に、作文だけが残った。テーマは「旅」だ。クラスの皆は、家族旅行の話でも書くのだろう。そこには、楽しい思い出が綴られているはずだ。でも、僕にはそんな作文は書けない。
 夏休みに入ってすぐ、僕の名前は変わった。両親の離婚に伴い、母親の旧姓を名乗ることになった。十三年間「杉原秀一」だった僕は、一週間前か・・・

1

顔のない隣人

17/01/31 コメント:0件 野々小花 閲覧数:299

 午前0時になると、隣人はベランダで煙草を吸う。壁の薄いマンション。窓を開けてベランダに出たな、と気配でわかる。私も追いかけるようにしてベランダへ出る。安物のサンダルを履き、脇に置かれたほうきを手に取る。
 カチッとライターの音がして、すぐに煙のにおいが夜の風に混ざって流れてきた。冬のつめたい空気と一緒に、肺の中に入ってくる。むせそうになるのをこらえ、私は乱暴な手つきで掃除を始める。ザッザッ・・・

3

【エッセイ】 つめたい背中

17/01/16 コメント:3件 野々小花 閲覧数:241

 年の瀬になると、決まってある光景を思い出す。
 私は小学校の低学年だった。冬休み、近くに住む祖父母の家に泊まりに来ていた。離れで暮らす、二つ年下の従妹と遊ぶためだ。
 古い大きな家には、畳の部屋がいくつもあった。中庭や、白い壁の蔵や、昔は馬がいたという小屋もあった。子どもにとっては、良い遊び場である。中庭にある黒板に絵を描いたり、蔵の中をのぞいたりして、その日も夜遅くまで、私は従妹と・・・

1

五分間の継承

17/01/02 コメント:0件 野々小花 閲覧数:342

 冬の都大路に、全国高等学校駅伝競走大会のスタートを告げる号砲が響いた。
 一斉に、各都道府県の一区の選手たちが飛び出して行くのを、アンカーである津田将人は、最後の中継地点のモニター越しに確認した。
 一年生でありながら、最終区を任された。異を唱える者はいなかった。それだけの実力が将人にはあった。幼い頃から、常に同世代の先頭を走ってきた。他人の走りに興味はない。目に留まるようなランナー・・・

2

【エッセイ】 残る日々

16/12/19 コメント:0件 野々小花 閲覧数:378

 元夫の父親が経営する店を、結婚しているあいだ、私も手伝っていた。日本に出稼ぎに来ているブラジル人向けの店である。食料品が主で、店の大きさはコンビニと同じくらい。レジはひとつだった。
 当時、私は彼らの言葉がまったくわからなかった。それなのに、無謀にもそのたったひとつのレジを担当していたのである。バーコードを通せば値段は表示されるから、私はとにかくニコニコしてその金額を指さしていた。
・・・

4

【エッセイ】 ふたりのクリスマス

16/12/17 コメント:6件 野々小花 閲覧数:335

 幼稚園に通っていたころ、近所に神戸から引っ越してきた家族があった。両親と姉、兄、妹の三人きょうだいであった。末の女の子は私と同い年で、幼稚園も私と同じ所に通うのだという。
「家が近いんだし、お話してみたら」
 母にそう言われて、翌日、私は幼稚園で女の子に声をかけた。
「家、近いんだけど」
 口下手で、私はそれ以上なにも言えなかった。けれど、不安だったのだろう。私が発した愛・・・

1

画家と踊り子

16/12/01 コメント:2件 野々小花 閲覧数:351

 町の中心に大きな美術館ができた。レンガ造りの真新しいその美術館には、世界各国の著名な画家たちの絵が飾られている。
 町のはずれに住む画家のドラントは、その絵の数々を一度も見ていない。今日食べるパンにも困る生活なのだ。入館料を払う余裕はない。
 代わりに、美術館の絵を描いている。噴水がある広場のベンチに腰掛け、そこから見える美術館の、外壁のレンガに這う蔦の葉を一枚ずつ丁寧にスケッチして・・・

1

悔いる言葉

16/11/21 コメント:2件 野々小花 閲覧数:304

 着古した部屋着のまま、和樹は一人暮らしをしているアパートの部屋を出た。
 人目を避けるように、うつむき加減でコンビニへ向かう。他人の視線が気にりはじめたのは、仕事を辞めてからだ。
 大学卒業後、そこそこの企業に就職できた。配属された部署は忙しく、無理をしている自分に気づかなかった。
 ある日突然、ぷつりと糸は切れた。限界を超えてしまったのだ。
 無職になった自分は、周囲か・・・

3

マッチョ・ビーンの綻び緩び

16/10/19 コメント:4件 野々小花 閲覧数:605

 仕事から帰宅すると、響子はすぐにテレビのスイッチを入れた。
 毎週見ているお笑い番組「今と昔をエヘヘと笑う」が、ちょうど始まる時間なのだ。
 オープニングから、番組は賑やかに進んでいく。
 カラフルなセットを背景に、ボケて、ツッコんで、笑いが起こる。演者は楽しそうだ。観覧席の笑い声も聞こえてくる。
 だけど、響子は笑わない。笑うために見ていないし、そもそも、お笑いのことは・・・

7

【エッセイ】 帰る場所

16/10/17 コメント:6件 野々小花 閲覧数:733

 結婚してすぐ、新築のマンションを購入した。常駐の管理人が共用部分の掃除や中庭の草木の手入れをしてくれるおかげで、エントランスはいつもぴかぴかだった。
 ゴミはもちろん、落ち葉や、枯れた草花を目にすることもなく、生活の匂いを感じないマンションであった。
 気づくと、散歩が日課になっていた。知らない町を歩くのが楽しかったのだ。駅へ行く近道を見つけたときは嬉しかったし、昔ながらの商店街や古・・・

  1. 1
ログイン
アドセンス