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日向 葵さん

「ひなた あおい」と申します。 小説を書きます。 よろしくどうぞ。 twitter@aoi_himata_21

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将来の夢 なれるものなら何でも。
座右の銘 God is in the details.

投稿済みの記事一覧

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旅の行く先

17/07/30 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:277

 私は、からっぽの人間でありました。
 どこかに人間らしさというものを置いてきたのか、お前には何もないと昔から言われて参りました。
 
 「人を知りなさい」

 父から告げられた言葉は、もうこの家に私の居る意味は無いのだと悟るには十分でありました。そんな厄介者の私が家を追い出されるのは、むしろ自然なことであったのかもしれません。
 ただ、両親にも一匙ほどの良心が・・・

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コーヒーミルに愛を込めて

17/06/17 コメント:6件 日向 葵 閲覧数:317

 日曜の朝、入口のカウベルが鳴って、彼女は店にやってきた。
 ドア窓にはまだCLOSEの文字を掲げているので、店内に客はいない。

「おはようございます、早いですね」
「おはよう、コーヒー貰える?」

 そう言って彼女はいつものカウンターテーブルに座った。
 別にコーヒーが好きだったわけではない。実家の喫茶店を兄が継がないと言ったので、僕が継ぐことになった・・・

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スケープゴートの受難

17/05/20 コメント:6件 日向 葵 閲覧数:394

「どうして嘘を吐いたの?」
 反省文を書き終えて、職員室から出てきた僕に話しかけてきたのは同じクラスの斉藤だった。
「何が?」
 そう言ってはぐらかそうとしたが、斉藤は誤魔化さないでと語気を強めた。



 事が起きたのは水泳が終わった後の現代文の授業中だった。堅い文章と気怠さが眠気を誘う。そんな弛緩した空気の中、高らかに鳴った携帯の音に目が覚めた。にわ・・・

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ショート・ミステリー

17/05/08 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:308

それでは推理を始めよう。
杜若菖蒲(かきつばた あやめ)はそう言った。
猫を捜索中、悲鳴が聞こえた他所様の家に何の躊躇もなく突撃した彼女は意気揚々とそう言った。現実の私立探偵というのは小説のように殺人事件に遭遇したり、警察から協力を依頼されたりはしない。それ故に今の彼女はこの状況に歓喜に踊り狂わんばかりの心境なのだろう。僕は半ば呆れながらも、尻拭いをするために彼女に付いていかない訳には・・・

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待ち人

17/04/24 コメント:8件 日向 葵 閲覧数:533

 その老婆は海に向かってゴミを投げていた。遠目から察するに、それは丸められた紙片のように見える。漁師である私にとって、老婆のその行為はとても許せるものではなかった。「海にゴミを投げ入れるのはよしなさい」と咎めれば良いのだが、老婆があまりにも汚らしく、およそ常人とは思えぬ風貌であったので、私は声をかけるのを躊躇っていた。しかし、このまま放置しておくわけにもいかず、意を決して老婆の元へと歩を進めた。<・・・

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そのアナウンスは誰が為に

17/04/08 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:289

『只今、人身事故の為運転を見合わせております――』
 朝の構内にアナウンスが響いた。雑多に混み合う中、二列に並んでいつ来るかもわからない電車を待つ。背後からは溜息や舌打ちがちらほらと聞こえ、私の前に立つスーツ姿の男は腕時計を睨みながら、綺麗に磨かれた革靴をカツカツと打ち鳴らしている。これでは出社時間に間に合わないだろう。そんなことを考えつつ、僕は千草のことを思い出した。

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失敗の味は苦くて甘い

17/03/27 コメント:5件 日向 葵 閲覧数:471

 気付けば彼のことを目で追っていた。
 きっと最初は憧れだったのだろう。彼の周りにはいつも人が集まっていて、賑やかな雰囲気が絶えなかった。教室の隅で目立たない様に過ごしている私からは、彼の存在はとても眩しく見えた。私は毎日、隙を覗っては彼の姿を目に焼き付けた。彼を見つめていることがバレたら彼はどんな反応をするだろう。私の事を少しでも意識してくれるだろうか。日々そんな妄想を抱いたが、結局彼の視・・・

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外身と中身

17/03/12 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:403

 こんな話を聞いたことはあるだろうか。
 『とある廃工場に行けば生まれ変われる』のだと云う。
 荒唐無稽な話ではあるが、今の私には聞き流せる話ではなかった。私は半ば逃避行のように夜毎、車を走らせては郊外の廃工場を訪ねて周っていた。



「君、入社して何年経つの?」
 上司の小言が槍のように胸突き刺さり、私という人間を内側からぐちゃぐちゃに崩していく。必・・・

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九官鳥と自転車

17/02/20 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:365

『わたしが前輪で、あなたが後輪。――』
 自転車を見ると思い出されるのは、そんな彼女の言葉。疾うの昔に交わしたその言葉を未だに覚えているのは、きっとそれが世界の見方が変わった瞬間だったからに相違ない。



 このペダルを漕げば、どこまででも行ける気がした。
 夏休みに入ると同時に買ってもらった新しい自転車が、日差しを受けて早く色々な場所に連れて行って欲しいと・・・

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新宿回顧録

17/02/04 コメント:4件 日向 葵 閲覧数:623

 私は新宿駅にて迎えを待つことにした。
 プラットホームの末端には、腰ほどの背丈しかない鉄製の柵が一枚、行く手を阻む様に寂しく突っ立っていた。私はそれにもたれ掛かり、煙を肺に溜め、やがてゆっくりと外へと吐き出す。
 夜明け前の駅に木枯らしが吹いた。私は体を震わせ、薄手のコートを身に付けてきたことを後悔する。後悔など疾うに尽くした筈の私であったが、この期に及んで未だ後悔することがあろうと・・・

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虚構の人間は箱庭で踊る

17/01/31 コメント:1件 日向 葵 閲覧数:420

 郵便受けの錆びた金具が軋む音が私の部屋に響いた。
 安アパートの一角にある朽ちかけた木扉に備え付けられた、手が入るか入らないか程度の厚みしかないその長方形の郵便受けが僅かに開き、一枚の手紙がストンと落ちる。
 四畳半の小部屋に寝転んで、天井からぶら下がった裸電球が発する頼りない光を眺めていた私は重い腰を上げた。

『初めまして、こんにちは。誰かおりますでしょうか? 507・・・

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その五分間は永遠に

17/01/02 コメント:3件 日向 葵 閲覧数:529

 酷い痛みが、暗い意識の底から僕を引きずり出した。体の節々がミシミシと軋み、芯を蝕むような鈍痛が僕の体を刺す。
 寒い。とても寒い。
 気付けば十二月の冷たい雨が僕をバチバチと叩いていた。更に濡れたアスファルトの冷ややかな感触が背中から伝わって、僕の心臓まで凍り付かせているようだった。
 掌底で頭を押さえ、重い体を起こす。瞼を上げると世界が赤く染まっていた。奇妙な光景に頭が混乱す・・・

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雪解けは灯滅と共に

16/12/11 コメント:5件 日向 葵 閲覧数:761

 十二月の冷たい雨が病室の窓を叩いていた。病院のベッドに横たわる父の姿は、暫く見ないうちに、しぼんで小さくなっていた。

「もう長くないから」

 久しぶりにかかってきた実家からの電話の主は母だった。何もクリスマスに呼び出さなくても良いではないか。相変わらずの空気を読まない態度に、私は憤りを通り越して呆れ果てた。手短に見舞って帰ろう。そう思い、最小限の荷物と金を持っ・・・

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返花

16/12/03 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:479

 教室に置かれた花瓶を、僕はあの時どうしただろうか。

 地方の小さな美術館で浮かんだその問いに、僕は答えることが出来なかった。僕の目の前には、真っ白な陶器の花瓶と、一枚の絵画がスポットライトに照らされて、薄暗い室内に浮かんでいた。


 彼女は絵を描いていた。光量を絞った薄暗い美術室に一人、彼女はいつも白いカンバスに筆を走らせていた。筆が揺れるのに呼応して、彼女の長・・・

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叫び

16/11/16 コメント:4件 日向 葵 閲覧数:598


 「気が付いたかい?」と夫が言った。 

 病院のベッドに横たわる私を、夫は優しい笑顔で包んでくれた。こんな笑顔はいつ以来だろうか。それは、もう思い出すことさえできない程に長く、遠い昔だった。 
 しかし、私はその想いを伝えることができない。私の喉からは、只々空気の漏れる音が出るばかりで、それが呼吸なのか、はたまた声を発しているのか、聞き手にはわからな・・・

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鉄の鳥は何を孕む

16/10/29 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:525

 27歳の冬、僕は広島を訪れた。ふと思い立って赴いたそのわけは、今となってはわからないが、おそらく過去の残痕に安心感を求めたのだろう。もしくは、片足を失ったばかりでナーバスになっていたのかもしれない。まあ理由はともあれ、鉄骨が剥き出しになった、そのコンクリートの塊を眺めていると不思議と心が落ち着いたのは事実である。
 辺りには幾つもの人影があったが、誰も口を利ける者はいなかった。歩き回ってい・・・

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江戸蕎麦屋漫談

16/10/15 コメント:3件 日向 葵 閲覧数:636

 時は江戸、とある藩の城下町に大層弁の立つ旅の芸人がいた。名を小助と言う。小助は町から町へと己の口一つで渡り歩き、行く先々で笑いの花を咲かせていた。そんな彼であったが、いささか金にがめつい節があり、モノを買う際には、その流暢な口でもって値切る事は日常茶飯事。時には人から金品を騙し取ることもあった。
 いつものように町でひと仕事終えた小助は、客の一人に尋ねた。
「この辺りで美味い蕎麦屋・・・

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緑と朱と白

16/10/01 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:546

 母方の実家に来たのは祖母の葬式のためであった。片田舎の田園地帯に建つ木造の家はどこか哀愁を漂わせて、まるで空を独り占めしているような風体でそこに建っていた。しかし、母が他界してからというもの母方の縁者とは疎遠になっている。およそ数十年は訪れていないであろうその家は私にとって懐古に値するものではなかった。
 夏も過ぎようという頃にも関わらず、逝き遅れた蝉の喧しい声が煩わしさを煽る。特筆好意に・・・

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白紙に我を想う

16/09/17 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:796


『あなたの本売ってます』

 京都は下鴨、鴨川と高野川を脇に抱える下鴨神社を中心に、歴史を感じる木造の住居が建ち並ぶ。そんな街の一角の、まるで人目から隠れるように埋もれる古本屋の入り口に、その貼り紙はあった。
 就活に失敗して、気晴らしに京都へ一人やってきたは良いが、先の見えない将来への不安が頭の中を支配し、辺りの美しい景色は私の目にはまるで入ってこなかった。そんな私の重・・・

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そしてあなたに最大の裏切りを

16/09/03 コメント:4件 日向 葵 閲覧数:1642

 雨が降っていた。

 川沿いを歩く私の手には、傘の代わりに、一枚の用紙が握られている。緑の文字が印字されたその紙には、夫の名前と判が押されている。天を仰いだ。顔を叩く軽い雨粒が束となって私の頬をなぞった。脇を流れる藍鼠色の川は、うねり、荒れ狂っている。それはまるで私の心の声を代弁しているようで、思わず吸い込まれそうになる。
 ふと、土手にシロツメクサの群生を見つけた。灰色の景色・・・

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路傍の献花に

16/08/27 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:748

 大学の先輩にドライブに誘われたのは暮れ泥む夏の夕方だった。先輩はバイト帰りの僕を待ち伏せて、嫌がる僕を半ば無理矢理愛車の中古車に押し込めた。自分勝手で周囲の空気をまるで読まない、人間性に問題を抱える先輩だが、彼の博学広才な様だけは人間として尊敬の念を抱かざるを得なかった。
「なぜ野郎二人で夜景を見に行かなければならないのですか」
「あそこの夜景はいつ見たって良いものだよ」
 噛・・・

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宙に浮かぶ想いは蛍

16/08/20 コメント:4件 日向 葵 閲覧数:894

 夏の暑さに抗ってタオルケット一枚で眠るお寝坊さんなあなたを、私はそっと揺り動かす。あなたはそれに気付いたのか、それとも自然に目が覚めただけなのか、重い体をゆっくりと起こし始める。
 「ああ、もうこんな時間か…」
 「あなたはいつも起きるのが遅いから、その鳥の巣みたいな髪の毛を直す時間が無いのよ」
 隣では娘の香織が可愛い顔を枕に埋めて寝息を立てている。
 「香織を起こさな・・・

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食料問題課ペロペロキャンディー対策係

16/08/14 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:447

 私は「食料問題課ペロペロキャンディー対策係」に所属する国家公務員である。この部署は名前に似合わず、世界で最も重要な係であると言っても過言ではないだろう。なにせ、この世界の食料は全て、プリン味のペロペロキャンディーになってしまったのだから。
 科学技術の発展に伴い、世界中で生活基盤の全自動化が進んだ。今や洗濯、風呂、掃除、果ては料理まで、全て機械が人間の代わりに行ってくれる。時間に余裕のでき・・・

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忘却の彼方に蘇るあの日

16/07/23 コメント:0件 日向 葵 閲覧数:663

 気付くと見知らぬ場所にいた。

 薄暗い灰色の空間が果てしなく続き、奥へ行く程にそのグラデーションは濃くなる。先の見えない暗闇が永遠に続いている。そんな大海原を巨大なドームで覆ったような空間に私はポツリと立っていた。出処のわからない光源が私の足元をぼんやりと照らしている。私はこの状況に不思議と不安を感じなかった。音のしない空間に私の心音がゆっくり脈打つのが聞こえる。

た・・・

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弁当理論

16/07/15 コメント:4件 日向 葵 閲覧数:747

「弁当」とは何だろうか。

「弁当」と聞いてまず思い浮かべるのは、四角や楕円の箱に詰められた色とりどりのおかず、真ん中に梅干しが埋め込まれた白いご飯などが一般的だろう。そのどれもは美しく煌めき、私達はそれに食欲を掻き立てられる。しかし、只一口に「弁当」と言っても様々な種類の「弁当」がこの世には存在する。

一般に「弁当」と呼ばれるものは大きく分けて二種類に分類されるだ・・・

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蕎麦の実の生る頃

16/06/25 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:590

 私は蕎麦屋の一人息子である。物心ついた時から母はおらず、気付けば蕎麦を打たされていた。それもあの親父の影響だろう。絵に書いたように無口な親父は、蕎麦を打つことでしかコミュニケーションをとらない人であった。私の蕎麦打ちを後ろから眺め、「まだ緩い」だの「太すぎる」だのと吐き捨てるように言う。幼い頃は文句も言わず蕎麦を打っていた私だったが、小学校を卒業する頃になると反発することが多くなった。田舎のおん・・・

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梅雨に咲くひまわり

16/06/11 コメント:2件 日向 葵 閲覧数:748

 雨が降ると思い出すのは、黄色い雨合羽。
雨合羽に小さな体をすっぽりと包み、黄色の長靴を履いて、フードを目深にかぶった彼女は私に顔を見せてはくれない。

「また梅雨がやってきたよ」

 四畳半のアパートの一室に設けられた仏壇には、沢山のひまわりを背に、麦わら帽子をかぶった娘が笑っている。窓の外を見ると、どんよりと曇る空から落ちた雨粒がアスファルトを静かに濡らしていた。・・・

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