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じゅんこさん

文芸部部長引退。 文章を書く練習の場としてここをつかわせていただいてます。 ご指摘、感想等お待ちしてます。

出没地
趣味 読書、小説の創作、辞書をひくことが好きです。
職業
性別 女性
将来の夢 本に携わる仕事
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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気泡

17/06/25 コメント:0件 じゅんこ 閲覧数:155


 自分の名前というのは、ひとが心理的にいちばん聞き取りやすいものなんだそうだ。つい振りかえって、がっかりしてしまった。
「傘忘れちゃって。よかったら、いれてもらっていいかな……」
 同じクラスの女の子。仕方ないなあと笑って、傘の花びら部分をうごかし二人分のスペースをつくる。それを確認し、彼女は礼をいって玄関から走り寄ってきた。
 ありがとう、を引き出させておきながら言われ・・・

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go round

17/02/01 コメント:0件 じゅんこ 閲覧数:290



 街灯の下にできた青い陰を、避けるように歩いていた。
 この時間になると、道路は寛大になる。
 僕の情けない足音さえも鼓膜に届けようとするから、自然と早足になった。
 まわる。
 僕を見下ろす月と、あの忌まわしい自転車の車輪と、僕と、記憶が。
 病院からの帰り道は特に、どんな些細な風景もあの事故のことを思い出す引き金となる。きっと今、メリーは笑っている・・・

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幽霊心中

16/08/10 コメント:0件 じゅんこ 閲覧数:396


 雨に打たれていた。打たれながら、どうかそのまま僕も一緒に地面に叩きつけてくれと願った。
 あと一歩だ。あと一歩踏み出せば、僕は数秒の恐怖を代金に死ぬことができる。その代金は今までに十分すぎるほど「勇気」として蓄えてきた。フェンスをこえるまでは造作もなく出来た。なのに僕は、雨で足が滑っても大丈夫なようフェンスを両手で握りしめ、情けなく泣いている。
 入社して初めて、風邪を装って・・・

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『失恋の風景』

16/04/17 コメント:2件 じゅんこ 閲覧数:530


 今日は本当によく晴れていた。
 だから余計に、悲しみの準備をすることを忘れてしまっていた。
 笑ってきき返すことも涙を流すこともできず、ただ今まで当たり前に行っていた呼吸の方法を模索する私の前で、彼は何でもないように携帯を操作している。
「どうして?」
 理由を聞く意味も効果もないことは承知の上で、そうすることでしか彼の目を見れない自分に驚いた。
「お前は悪・・・

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爪先の宇宙、それが私のすべてだった頃の話

16/03/31 コメント:0件 じゅんこ 閲覧数:576


 肩に残る、黒い痣。外は涼しいからと言い訳をして、隠すように上着を羽織る。
 左手に缶ビール。右手には携帯。裸足にサンダル。これが今の私のスタイルだった。
 別れてからもう半年になる。新しいマンションに越し、思い出の品を捨て、華やかに生まれ変わるんだと思っていた。しかし自由になった筈の私が出来たのは、夜に仕事から帰宅したあと、ベランダでビールを煽ることくらいだった。元から何もな・・・

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二人の苦い休日

16/01/19 コメント:0件 じゅんこ 閲覧数:603




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 二番煎じの茶は苦い。お茶にしようと提案はしたのは自分だったが、嫁から出された茶を飲み男は顔をしかめた。
 男は俳優であった。二枚目だが演技の才はなかなか認められず、歯がゆい思いをしていた。会社でお茶汲みをしている嫁との新婚生活はなかなか苦しいものであった。
「大したものじゃありませんが、茶菓子を作ってみたんです。どうですか?」
 甘い・・・

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紙の中を泳ぐ魚

16/01/12 コメント:9件 じゅんこ 閲覧数:944





 わたくしは、所謂《本の虫》です。
 現代では、ビブリオマニア、と言った方が良いイメージを持たれるかもしれませんが、いいのです。こっちの方がしっくりくる気がします。

 昔から読書に勤しみ、様々なジャンルを読破してきましたが、その中でも特に好んで読んでいたのは梶井基次郎でした。初めて読んだのは傑作『檸檬』。文章全体を統括して流れる頽廃的かつ清澄な空・・・

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てのひらに舞い落ちる温度

15/12/21 コメント:2件 じゅんこ 閲覧数:617



 雪、降りそうだね。
 呟いた彼女につられ顔を上げれば、白い息が宙に泳いだ。

「今年は、例年より寒くなるんだって」
 もう、そんな季節なのか。例年より寒いって、去年どれくらい寒かったかなんて、数値を出されても解らない。去年は今が史上最高に寒いと考え、きっと今年もこの寒さが一番だと記憶するんだろう。いつも俺は、そんな感じだ。
「だから、そんなとこにいる・・・

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メルヘンチック・バタフライ

15/12/03 コメント:2件 じゅんこ 閲覧数:657




 何度期待し振り落とされたら、私は記憶に居る蝶を、手放すことができるのだろうか。


 妻は、書斎から一冊の詩集を胸に抱き、リビングに戻ってきた。
 ソファに深く腰掛け、開いたのは中原中也の『在りし日の歌』。
 もしかして、覚えているのか──。そう、一時でも考えた自分を呪った。認知症が発覚してからもう四年だ。妻の病状の進行は速く、もう私が夫であ・・・

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黄色、金色

15/11/21 コメント:1件 じゅんこ 閲覧数:549




ふと頭をよぎった、懐かしい記憶に足を止めた。秋晴れの空に、鳥が泳いでいる。風が運んできたのが金木犀の香りだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
記憶が香りを仔細に思い出させることはないのに、香りは記憶を色濃く浮き立たせる。そして僕にとっての記憶の鍵は、ここ一帯の街路樹である銀杏の実から出るものでなく、黄色の香りでなくてはならない。
金・・・

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