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泉 鳴巳さん

泉 鳴巳(いずみ なるみ)と申します。 煙と珈琲とすこしふしぎな方のSFが好きです。文章を書くことが好きです。短編が好きです。 まだまだ拙いですが皆様の作品を拝読して勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い申し上げます。 HP:http://izmnrm.wpblog.jp/ Twitter:@Narumiluminous

出没地
趣味
職業 会社員
性別
将来の夢 不労不仕
座右の銘 見ている世界を信じるな

投稿済みの記事一覧

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ゴースト・グラヂュエイション

17/09/16 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:242

 冬の空は橙から深い藍色へ駆け足で向かい、長く伸びた机や椅子の影たちは次第に形がぼやけていく。
「卒業、おめでとう」
 僕は眼を閉じて、誰もいない空間へ向かって呟いた。



 偶然という言葉で片付けるには、「彼女」との出会いは衝撃的すぎた。

 あの日もちょうど今日みたいな、静かな冬の夕方だった。
 宿題のプリントを忘れてきてしまった僕は、・・・

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スターゲイズ・シンドローム

17/03/02 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:268

 星を見る少女、という話がある。
 とある晩、ある男子学生が帰り道にあるアパートを眺めると、窓際に立つ少女に気づく。少女は身じろぎひとつせず、夜空に顔を向けていた。
 次の日も、また次の日も。少女は毎晩星を眺めていた。最初は気に留めなかった彼だが、次第に少女の存在が心の中で大きくなっていった。そして遂に、彼は少女の元を訪ねることを決意する。
 意を決してやってきた部屋の前。呼び鈴・・・

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隻眼のセリカ

17/03/02 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:318

 大学二年生の秋のことだ。サークルの飲み会ではしゃぎすぎて終電が無くなってしまった俺は、この近くに住んでいるという友人・豊田の部屋にお邪魔することにした。
 慎ましやかな二次会と洒落込んだ俺達は、コタツにビールやスナック菓子を並べ、他愛も無い雑談に興じていた。
 この豊田、大学生にもなって無類のオカルト好きだ。中二病を拗らせているのか、片側だけ長く伸ばした前髪でいつも左目を覆っていた。・・・

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顔喰い(フェイス・イーター)

17/02/23 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:469

 雲の多い晩だった。
 草木も息を潜める深夜、郊外のガソリンスタンドでのことだ。併設された二十四時間営業の売店で、店員の若い女が一人、大きな欠伸をした。
 調子の良い店長は「忘れ物を取ってくる」と行ったきり戻ってこない。どうせまた自宅で寝ているのだろう、と半ば諦めている女は、これから朝までどうやって暇を潰すか考えていた。カウンターの隅には飴やガムの包み紙が散乱し、女の口は絶えずもごもご・・・

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BICYCLE THIEVES

17/02/03 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:552

「お前、『自転車泥棒』って映画は観たことあるか?」
 そいつは僕のクロスバイクを撫で回し、にやつきながら言った。
「商売道具の自転車を盗まれ、失業の危機に陥る。やっとのことで犯人を見つけ出すも証拠不十分で放免。自棄になって自分も自転車を盗もうとしたら警官にすぐ取り押さえられる……そんな話さ」
 僕は応えない。応えられなかった。
「悲しい。可哀想。不条理だ。大多数のやつはそう・・・

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ガールフッド

16/12/25 コメント:3件 泉 鳴巳 閲覧数:629

 遺品を整理していたら、カーペットの下に一冊のノートを見つけた。
 パラパラと捲って気付く。これは、彼女の遺した日記だ。
 どうしてこんなところに。疑問に思いながらも、蚯蚓の這うようなか弱い字を目で追っていくうち、私はその内容に引き込まれていった。

4/5(日)晴れ
今日から私は日記を書くことにしました。
私は重い病気で、ほとんど布団から出られません。そのため・・・

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誓い

16/10/07 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:640

『……末筆ではありますが、貴殿のご活躍を心よりお祈り申し上げます』
 流れるような動作で用紙を丸め、屑籠へ放り込む。これで通算百社目の不採用通知だ。
 大学を卒業して、もう二年。在学中から考えれば、三年近く就職活動を続けていることになる。近頃は焦燥感さえ覚えなくなってきた。
 僕はテーブルの上のスマホを取り、友美にメールを打った。
『また、ダメだったよ』
 友美とは大・・・

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背徳のガニュメデス

16/09/03 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:2054

 改札を抜けると、柱に寄りかかりスマホを眺めているその人の姿が目に入った。
 近付く僕の足音で上げられた顔に、軽く手を振り応える。

 三十歳を目前に控えたしがないサラリーマンの僕だが、この不況時に会社はそこそこ安定。妻と、今年二歳になる娘もいる。家族仲も良好だった。
 順風満帆とまでは行かないが、客観的に見ても、概ね不満の無い人生を歩めていたと自分でも思う。
 なの・・・

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サイレント・ガール、ロンリー・ボーイ

16/08/12 コメント:3件 泉 鳴巳 閲覧数:749

 遠方の大学になんとか合格した僕は、とあるアパートの一室を借りた。
 貧乏学生の例に漏れず、低賃金のアルバイトが収入源。そんな僕が借りた部屋は当然それなりだ。
 まあ屋根も壁もあるし、お湯だって出る。一万五千円で借りているのだから贅沢は言えない。
 ただ一つだけ、普通じゃないことがあった。
 
 そこには幽霊がいた。長い黒髪を垂らした、若い女性。
 初めて見たと・・・

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ミスター・ノーネーム

16/08/10 コメント:6件 泉 鳴巳 閲覧数:978

 ――それを“心霊現象”の一言で片付けるには、あまりにも不可解な出来事だった。

 「とある看板写真に、およそ看板の内容にそぐわない謎の人物が写り込んでいる」、発端はそんな、ティーンたちによる他愛もない噂だった。
 驚きは九日しか続かないと言うが、“彼”の噂も有象無象の風聞と共に、すぐに風化してしまうだろうと思われた。
 ……しかし、そうはならなかった。
 看板や広告・・・

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僕がユーレイになったワケ

16/08/01 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:719

「人類は、既に滅亡しているわ」
 八月三十一日、アブラゼミからヒグラシへと主役が移った夕方のこと。
 僕が暮らす安アパートの一室に突如現れた彼女は、明日の天気の話をするような調子で告げた。

 いったい何が起きているんだ。彼女はどうして突然ここへ現れた? 疑問は後から後から湧いてくるが、大騒ぎするタイミングを逸してしまった僕は何も言えず、説教をされている子どものように大人し・・・

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「世界一のお弁当」

16/06/30 コメント:6件 泉 鳴巳 閲覧数:1046


六年×組 白沢 陽子


 わたしのお父さんは料理がとっても下手です。
 不器用なお父さんは、包丁で手を切ってしまうのはしょっちゅうで、いつもどこかの指にばんそうこうを巻いています。
 でもわたしは、そんなお父さんの作ってくれるお弁当は、世界一だと思っています。

 わたしの家には、お母さんがいません。
 わたしがまだ言葉もしゃべれないくらい・・・

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夜啼蕎麦のブルース

16/06/20 コメント:5件 泉 鳴巳 閲覧数:1146

 これは私がまだ新入社員だった頃の話だ。

 その夜、大衆居酒屋を梯子した挙句、何軒目かの店を出た私と直属の先輩は、街灯の下をふらふらと彷徨っていた。
 もはやどこへ向かっているのかさえ分かっていない。私は、呂律は回らず足許も覚束ない先輩に肩を貸し、自身もふらつきながら身体を引き摺るように歩いていた。そんな折、どこからか物悲しい音色が私の耳に飛び込んできた。
 音の正体が気・・・

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卯の花腐し

16/06/04 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:1041

「あ、宇津木先輩」
 部室のドアを開けると、後輩の雨宮が微笑みを携えながら僕を迎え入れてくれた。
 部室、といっても、あるのは机と椅子、申し訳程度の本棚だけ。相変わらず殺風景な部屋である。他に人の姿はない。それも当然のこと、文芸部もとい、部員不足により降格となった文芸同好会は、現在僕と雨宮の二人だけだ。
 窓を見れば、梅雨の走りに降る雨が町を白く煙らせていた。部屋の中はやや肌寒く・・・

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時間旅行者は機械馬で夢を見る

16/05/29 コメント:6件 泉 鳴巳 閲覧数:1203

 机上の時計が示す時間は、午前零時三十秒。
「また、喪ってしまった……」
 もう何度目か分からない。だが何度見ても、いや、回数を追う毎に、張り裂けそうになる胸の痛みは増大していく。
 やりきれない思いを振り払うように、俺は“それ”を視界から外すと、乗馬マシンに腰を下ろした。一昔前に大流行したフィットネス機器に、努めて神妙な顔つきで跨る。そして電源を入れ、目蓋を閉じる。
 す・・・

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スヰート・サマーの予感を胸に

16/04/30 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:1003

 乗客も疎らな土曜日の始電に乗り込んだ。隅の座席に腰掛け、角の革が剥げかけた鞄を膝に載せる。硬くひんやりとしたシート端の壁が、火照った身体に心地良い。
 人心地ついた私は静かに目を閉じ、数分前の光景に思いを馳せた。



 ホームへ続く階段を下って行くと、夏の足音が微かに聞こえる陽光が、ひび割れたコンクリートへ惜しみなく降り注いでいた。連休に浮かれている世間を尻目に、・・・

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1/500のクオリア

16/04/16 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:936

「私、宇宙飛行士になりたかったの」
 右手に持った用紙に目を落とした彼女は、物憂げに呟いた。
 放課後の教室。開け放たれた窓からは橙色の陽が射し、秋の気配を纏った風が彼女の長い黒髪を揺らした。

 僕の手には彼女に手渡した用紙と同じ、進路希望調査票の束がある。学級委員なんて面倒な役割を押し付けられた僕は、期限を過ぎてもまだ調査票が出ていないこのクラスメイトに提出を催促したの・・・

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野良猫のルドルフ

16/03/29 コメント:11件 泉 鳴巳 閲覧数:1968

 おれは猫だ。名前もちゃんとある。

 名はルドルフ。濡れたような艶のある毛並みが自慢の黒猫だ。
 この名前はハヅキさんという人間が付けたんだ。なんでも人間の読み物からとったそうだ。おれは名前なんて何でも良いのだけれど、しかしルドルフという響きはなんだか気に入ってもいた。

 おれは野良猫として生まれ、自分の力だけで生きてきた。野良として中堅の域に達していたおれだが、・・・

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瞳の奥のエトピリカ

16/03/14 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:820

 白沢葉月は俺の幼馴染だ。

 家が隣で親同士も仲が良かった俺たちは、幼稚園どころか満足に言葉も話せない頃からずっと一緒だった。
 家だけでなく、学校や塾でも一緒だったから、家族以上に傍にいる時間が長かった。俺たちはまるで同じ水槽で飼育されているみたいにずっと一緒にいた。だからこのままなんとなく一緒に過ごして、なんとなく結婚するんだと思っていたんだ。

 いつものよう・・・

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さよなら、キネマ・ガール

16/03/08 コメント:6件 泉 鳴巳 閲覧数:806

 彼女に会うのも、今日で最後になるだろう。

 劇場内からロビーへ出た途端、彼女は大きく伸びをした。
「うーん、やっぱり何度観ても良いわ」
「恥ずかしながら、僕は初めて観たんだ。名作と言われるだけあって、余韻の残る素敵な映画だったよ」
「でしょう? もう何度観たか分からないくらい大好きな映画なの」
 得意気にあまり大きくはない胸を張る彼女。
「果たすべき使・・・

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いとしのみどり

16/02/15 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:840

 みどりを引き取り一緒に暮らすようになってから、もうすぐ一年が経つ。

 彼女は元々、母方の遠い親戚にあたる人間だ。
 身寄りを亡くし、親戚をたらい回しにされた挙句、どこかの施設に入れられそうになっていたところを僕が名乗り出た。

 唐突な僕の発言に親戚たちは皆目を丸くした。しかし、妻も子供もおらず、収入もそれなりに安定している僕が名乗り出たことで、体よく厄介払いがで・・・

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クリムゾン・クロス

16/02/01 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:781

 崩れかけた壁の陰に身を潜める。視界は悪いが、それはお互い様だ。
 ゆっくりと息を吐きながら撃鉄を上げる。そして音と気配と勘を頼りに身を起こし、トリガーを引く。
 乾いた音と共に、見当違いの方向を向いていた男は声を上げる間も無く倒れる。
「ふう、切りがねえぜ」
 溜息を吐きながら俺はこの場をどう切り抜けるか考えていた。

 俺は人殺しで金を貰って生きている。得物・・・

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彼と私のティー・タイム

16/01/28 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:777

 僅かに沈む畳の心地良さを足裏に感じながら部室に入ると、既に先客がいた。
 硝子越しに初春の陽射しを受けながら、物憂げに瞼を伏せている横顔。凛とした、という形容が相応しいその姿に、胸が高鳴る。

 高校生活なんて、だらだらと過ごしていければそれでいいと思っていた。況してや部活なんて入るつもりは毛頭無かった。なのに、何気なく立ち寄った文化部棟、僅かに開いた教室の扉、そこで私の運命は・・・

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紫煙とグリーン・ティー

16/01/19 コメント:5件 泉 鳴巳 閲覧数:1575

「知ってたか? この煙草は喉に良いんだ」
 男が肺に溜め込んだ煙をゆっくりと吐き出す。
「漢方が混ぜ込んであってな、それが効くらしい」
 紫煙は行き場を探すように酒場の中空を彷徨い、やがて消えた。
「らしいってお前、実感は無いんじゃねえか」
 俺の言葉に「気持ちの問題だぜ」と笑う男の名はインディゴ。勿論本名じゃない。この店にいる奴の本名なんて一人も知らねえし、興味も無・・・

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サウンド・オブ・サイレンス

16/01/16 コメント:3件 泉 鳴巳 閲覧数:833

「宮田さん、いつもお弁当ですよね。彼女さんですか?」
 いつもの様にデスクで黙々と昼食をとる僕に、その人が声を掛けてきたのは半年前のことだ。
 決して安くないランチ代を毎日払うのがなんだか勿体無い気がして、ならば自分で作ろうと思い立ったことを、むせかけた喉をお茶で抑えこみつつ幼稚園児並の拙い言葉で説明した。
 三十にもなって同世代の女性と――いや、同性ともだが――殆ど会話をする機・・・

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はつ恋

16/01/13 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:708

 初恋の人は、兄だった。
 私は夜の闇に吠えた。
 知らなかった。
 失恋とは、これ程辛く、苦しいというのか。

 兄は、私の憧れだった。
 同年代では一番だった剣術も、兄には一度も敵わなかった。
 完膚無きまでに打ち負かされた手合せの後、兄はいつも、私の頭を撫でてくれた。軽く叩くようなその動作に、兄の不器用な優しさが溢れているようで、堪らなく嬉しくなった・・・

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枸橘

16/01/11 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:747

 正体の分からぬ不穏な影が私の中で蠢いていた。
 窓の外に夜の灯がぼんやりと浮かび上がるのを横目に、蒲団の中で身を捩る。
 学も身寄りも無く、全身で齧りついている職さえもいつ切られるか。明日が見えない。焦燥、不安、嫌悪――そう云う感情が綯い交ぜになった汚泥が、心に堆積していく。
 身体は澱のように溜まっていく感情とともに次第に動かなくなる。そしてこのまま都会の片隅の汚い部屋で、何・・・

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泣き虫じじい

15/11/08 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:880

 今からするのは、ぼくがまだ子どもだった頃の話だ。
 変わった人間はどこにでもいる。けれど、当時ほくが出会った人物も、なかなかのものだったと思う。
 
 その人は、ぼくを含む近所の悪ガキたちから「泣き虫じじい」と呼ばれていた。
 今思えばじじい≠ニいう歳でもなかった。たぶん三十代後半から四十代前半くらいの歳だっただろう。
 脚が不自由なのか杖をついて歩くその人は、夕・・・

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ユートピア

15/11/03 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:764

 今日ぼくらは、スクール≠卒業する。
 八年間を共に過ごした仲間たちに別れを告げ、新しい旅立ちを迎える時が来たのだ。
 理事長先生から最後の激励を聞き、式典を終えたぼくらは、街の広場に集まっていた。
 周囲を見回せば、どの顔もどの顔も未来への期待に満ち満ちていた。
 ついさっきまでは。

 現在。辺りは騒然としていて、たくさんの警備員が、がちゃがちゃと足音を・・・

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ジャック・オ・ランタンをぶっ壊せ

15/10/21 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:826

 トリック・オア・トリート!

 お決まりの台詞を玄関先で叫びながら、ぼくらは扉をノックした。
 数分後、持ちきれないほどのお菓子を抱え、家主のおばさんに手を振る。

 手持ちのずた袋もずいぶん重くなってきた。ぼくらは一度、路地裏の溜まり場に集まり、今日の成果を確認することにした。
 各々の袋には色とりどりのお菓子がどっさり詰まっていた。
 キャンディ・コ・・・

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眠る宝は夢を見る

15/10/20 コメント:1件 泉 鳴巳 閲覧数:700

「自分だけの大切なもの……宝物を見つけなさい」
 まだ五歳だった私に向かって、彼はそう言った。
 その言葉は、今でも消えない古傷のように胸の中で疼いている。

 私は明日二十歳になる。
 宝物は、まだ見つからない。

 * * *

 バレンタインが誕生日なんて馬鹿みたいだといつも思う。

 二月十三日。時刻は二十三時。家族は既に寝・・・

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本屋を襲う

15/10/15 コメント:0件 泉 鳴巳 閲覧数:816

 この事件≠正確に伝えようとするならば、彼との出会いから話さなくてはならないだろう。

 その日は特に予定も無く、昼過ぎの街をぶらつくことで休日を満喫していた。初めて入るわけではないが行きつけというほどでもない平凡な喫茶店の椅子に腰かけ、僕は倦怠感で満ちた午後の空気に身を任せていた。淡々と続く日常が雨漏りのように染み出して、僕を包んでいるようだった。
 そんな時に突然向かいの・・・

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ピクセル・ガール

15/10/08 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:810

 放課後を告げるチャイムが鳴る。
 街へ繰り出す者、部活へ向かう者、ただ教室に残って雑談を楽しむ者。
 彼ら彼女らで賑わう教室の隅で、僕はそそくさと鞄を背負い誰にも気付かれずに学校を後にする。

 別にいじめを受けているわけじゃない。ただ関わりが、関係性が無いだけだ。
 空気のような存在だ、なんて言うと“有って当たり前だけど無いと困る”みたいなニュアンスを含んでしまう・・・

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メランコリック・ホリデイ

15/09/24 コメント:3件 泉 鳴巳 閲覧数:1192

 僕は自分の仕事が嫌いだ。

 仕事柄、休日は多いが、出勤日は這い寄るようにゆっくりとしかし確実に近付いてくる。
 そろそろまた仕事が始まる……一度そう考え始めてしまうと、折角の休日でも心は晴れなかった。
 かといって大雨暴風洪水の大災害というわけでもなく、どんよりと分厚い雲が鎮座しているような不快感が僕を包み込んでいる。
 ソファに座り新聞を広げたものの、少し気を抜・・・

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トゥルーワールド、トゥルーエンド

15/08/30 コメント:4件 泉 鳴巳 閲覧数:910

 「フツー」の学園生活を送る、それが俺のモットーだ。
 目立つことはせず、かといって阻害や迫害を受けないよう上手く立ち回り、平穏な日々を送る。平和の探求こそ人生の至上命題。

 俺こと水上タカシは、この春高校二年生になった。
 今日も今日とて俺は、早すぎず遅すぎず、ほどほどの時間を見計らって登校する。
 「中だるみ」の学年とはよく言ったもので、入学時の緊張感も薄れ、ま・・・

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そして僕はまた夏を待つ

15/08/11 コメント:3件 泉 鳴巳 閲覧数:821

 部屋の梁にネットで調べたもやい結びでロープを括りつけていると、電話が鳴った。
「お盆くらい顔を見せなさい」
 母親だった。

 猛烈なホームシックに駆られた僕は生まれ故郷である山間の村へと帰省した。久しぶりに見る両親の顔にこみ上げてくるものをなんとか堪え、二日が過ぎた。
 八月十五日の夕方。日も傾き、涼しくなってきた。ちょっと出かけてくる、そう言い残して実家を後にし・・・

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四つ辻のヘカテー

15/07/23 コメント:1件 泉 鳴巳 閲覧数:886

「もうほんとうに死んでしまう」

 アルバイトを辞め、サークル活動にも参加せず、当然勉学に励むこともなく昼寝ならぬ夕寝を貪ろうと万年床に横になった僕は、身体のあらゆるところから汗を吹き出し塩水浸しになりながら数分で起き上がった。当初は純白であったであろう機体は薄褐色にくすみ、ギイギイと軋み震える年代物の扇風機だけで闘ってきたがもう限界であった。いくら寝返りを打とうが、枕をひっくり返そう・・・

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