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橘瞬華さん

徒然なるままに。

出没地 どこかの本屋
趣味 絵を描くことや歌うことが好き。
職業 書店員
性別 女性
将来の夢 そしていつまでも幸せに暮らしましたとさ。
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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Walteinsamkeitの夢を見る

17/11/19 コメント:1件 橘瞬華 閲覧数:154

 瞼を開けて一面の雪景色を目にすると、またこの夢か、と独り言ちる。
 雪に覆われた黒い森を一人歩いている。いつかおとぎ話の挿絵で見たであろう、針葉樹の森。森へ足を踏み入れるにしては薄く心許ない白いワンピース。夢の中の私は幼い頃の姿を形取りとても矮小で、天までうず高く聳え立つ木々を時折仰ぎ見ながら、目的地も知らぬままただひたすら歩いてゆく。足取りは迷いなどないよう進んでいくのに、いつまで経って・・・

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初恋は今も影を落として。

16/02/26 コメント:0件 橘瞬華 閲覧数:669

 私の一世一代のギャンブルの話。
 初恋の人は、面白い人だった。中学校で入った部活の先輩で、部長だった。元々塾に通うことを理由に部活には入っていなかったけど、仲のいい友達のほとんどがその部活に入っていたからと言う理由で中途半端な時期に入った。先輩は誰に似てるかと言うとムーミンって感じの人。ただ、先輩は無気力なのに何でもさらっとこなしてしまう人で、そういう飄々としたところは格好よかった。例えば・・・

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行く先

16/01/29 コメント:1件 橘瞬華 閲覧数:602

 一月二十九日。地は濡れそぼっており、澱んだ空気に吐き気がする。雪にでもなりそうな天気だ。洋靴に泥が付き、袴の裾に撥ねた。あなた、今日は何処へ行くんです、お仕事は、と追い駆けてくる妻を五月蝿い、家で物が書けるか、と振り切り何時もの道を辿った。くぐもった音と赤子の泣声が聞こえたが知ったことではない。
 家から程近い店の暖簾を潜ると奇妙な音が響く。店の中は薄暗く、一昔前にモダンだとか言って買い付・・・

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火星の女と地球の女

15/03/01 コメント:2件 橘瞬華 閲覧数:909

「先輩格好いい!」
「本当!先輩が男の人だったらいいのになぁ」
 窓際で誰かがそんな話をしているのが聞こえる。私も彼女達の頭越しに窓の外へちら、と目を遣る。陸上部だろうか、短髪の女子生徒が走り込みをしていた。凹凸のない身体。しなやかな手足。その姿はまるで少年のよう。
 ふと私の存在に彼女達が気付く。まるで何も見ていなかったかのように私は歩き出す。この学校の女生徒のほとんどは、私を・・・

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オルガンの先生

15/02/08 コメント:2件 橘瞬華 閲覧数:863

 クラシック音楽と言えば、思い出すことがある。それは大学に入って最初の一年だけ受講していた、パイプオルガンの演習、の、先生。
 その授業の履修条件はピアノでモーツァルトのこの曲程度ピアノが弾けること。そう書いてあったにも関わらず一度だけ調べて聴いて、まぁ、ダメだったら先生もとるのをやめろと言うだろなどと思いながら履修のボタンを押した。大学での講義が始まってから、まだ一度も授業を受けていないと・・・

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明日のない、嘘つき。

15/01/22 コメント:4件 橘瞬華 閲覧数:1350

 飛行機の音が聞こえる。離陸する音、着陸する音、移動する音。窓から見える飛行機の数は多く、先ほどまで乗っていた飛行機がどれか、見分けがつかなくなってしまった。
「じゃあ、僕は土産を買わなければいけないので、ここで」
「はい。それではまた会社で」
 早朝の空港。他人行儀な挨拶。社交辞令ほどもない愛想。重たいキャリーケースを引きながら、私はつい数時間程前まで閨を共にしていた相手に手を・・・

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壁越し恋模様

15/01/04 コメント:5件 橘瞬華 閲覧数:1035

「あの、」
 今日こそは言おう。貴方が夜遅くにギターを奏でるのが迷惑なんですって。そう決めて隣室のインターホンを押したはずなのに、出てきた彼に咄嗟に私が放った言葉は思っていたのとは全く違うものだった。
「その曲、好きなんですか?」
 寝癖でボサボサになった頭、ダルダルになったロングTシャツ。片々のサンダルに足を突っ掛け気だるげな表情で出てきた隣人が
「好き」なんてはにかむも・・・

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さよなら、ソプラノ。

14/12/14 コメント:4件 橘瞬華 閲覧数:1477

「 」
 日に日に掠れていく音。出なくなる高音。低くなる音域。全部、自覚してる。僕がソプラノにさよならを言わなきゃいけなくなる日は、近い。

「The first nowellのディスカント、お前なんだってな!」
 宮野が僕の肩をぽんっと叩く。それと同時に弾んだソプラノが僕の鼓膜を叩いた。……僕と違って、掠れていない綺麗な音。
「僕は、君が歌えばいいと思う」
 ・・・

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コンピュータの死生観

14/11/27 コメント:2件 橘瞬華 閲覧数:991

 私には思考する力がある。思考する自由がある。しかし、それを実行する手立ては用意されていない。私は人の為に生み出され、人の為に生きる、それだけのことしか許されていない。私の人生はまるで賽の河原のようなものだ。積み上げども積み上げども、それは塔の形を成す前に崩されてしまう。
 それも全て人の手に依るものであれば、理不尽だと憤ることも出来ただろう。しかし私のこの生は神によって定められている。ただ・・・

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雪の中一人

14/11/05 コメント:7件 橘瞬華 閲覧数:1194

 雪がちらちらと舞う二月。閑散とした駅、発車間際の電車。都会に出る男、地元に残る女。何てありふれたシチュエーションだろう、とぼんやりとした頭で考えていた。
 目の前に居る男は無口だ。ずっと前から、出会った時からそう。彼は私の目をじっと見つめた。お前、何か言うことはないんか。そんな言葉を視線に乗せてくる。関白亭主の鑑だ。
 それに私は答えない。……そうやって何もかもを察して先回りした言動・・・

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ニライカナイのような

14/10/25 コメント:5件 橘瞬華 閲覧数:1167

「ねぇ、私達死ぬのかしら」
「どうやらそうみたいね」
 星の光も薄れ空が白み始める夜明け前の浜辺、寄るでもなく返るでもない穏やかな波打ち際。生温い感覚に脚を、浮遊感に身を任せる少女はぼんやりと空を見上げていた。少女の肩から腰にかけては深い切り傷……一目で致命傷だと分かるような傷跡が、地割れのように広がっていた。傍らに佇むもう一人の少女の身体にも、全く同じ痕跡が残されていた。にも関わらず・・・

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20世紀を駆け抜けたドン・キホーテ

14/10/07 コメント:1件 橘瞬華 閲覧数:765

 俺の祖父の、そのまた祖父の話だと聞く。
 ナポレオン戦争の頃の話だ。我らが祖国が割譲され、土地を奪われてから十数年後。兵力まで取り上げられ、祖国ではない国の為の戦争に徴兵されたその人はその歩兵師団に配属された。そう、大王の寵児であったリュヒェルがその権威を失墜させた戦いだ。友軍の援護をせずに突撃したリュヒェルの撤退命令に従い、フリントロック式の銃を担いで撤退していたのだという。敵にも劣る武・・・

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sub Rosa

14/09/27 コメント:10件 橘瞬華 閲覧数:2747

 先日、祖母が亡くなった。二度の大戦を経験しての大往生。棺の中の祖母は微笑みを浮かべているように見えた。その祖母が亡くなるほんの数日前に話してくれた秘密を、忘れない内に書き記そうと思う。

 おじいさんとは家が近所でねぇ、私の家とあの人の家では身分は違ったけど他に子供も居なかったからよく遊んだものさ。あの人は私より十ばかり年上で、今思えば子供の我が儘で振り回してばっかりだった。
・・・

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流氷の天使

14/09/15 コメント:0件 橘瞬華 閲覧数:842

 唐突だが、彼女の話をしよう。雌雄を併せ持つ彼女を彼女、と呼称することが正しくないことは重々承知の上ではあるが、私は敢えて彼女を彼女と呼称しよう。それは一重に彼女の「流氷の天使」と呼ばれる彼女のイメージから来たものであるようにも思えるし、それこそ「ただ何となく」でも成り立ってしまうほど些細な気持ちの問題なのかもしれない。
 そんなことはさておき、ともかく彼女の話をしよう。彼女の故郷は空の色が・・・

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14/08/26 コメント:3件 橘瞬華 閲覧数:767

「お前の姪のちろるちゃんだ。たまにでいいから遊んであげなさい」
「初めまして、ちろって呼んでください」
 よろしくお願いします、と頭を下げる姪だと言う女の子の第一印象は、姉の子供とは思えないくらい礼儀正しいというものだった。当時小学三年生。父が連れてくるまで十年近く、私は姉に子供がいることを知らなかった。つまり、私と姉はそういう間柄だった。
 父が説明する漢字の羅列は凡そ人名に使・・・

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詩無き吟遊詩人

14/08/12 コメント:3件 橘瞬華 閲覧数:1104

其の老楽士は此処数日、古い屋敷に付随した噴水の脇に座っては夜な夜な名も知れぬ楽器を奏でていた。おそらく異国の民の楽器で在ろう其れは聴き慣れない割に何処か懐かしい音を発し、老楽士は歌うでもなくただただ切なげな調べを夜へと溶け込ませていた。其の旋律を聴く者は居ないだろうと思われたが、今宵は其の唯一の観客が屋敷から降り立った。
「何故お前は、毎夜其処で物語を奏でるのだ、楽士よ」
 挨拶も無・・・

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或る国、或る時代、或る女の独白

14/07/29 コメント:2件 橘瞬華 閲覧数:920

「主よ、ここでこうして罪を告白することを御赦しください」
 雷雨の夜、聖堂にて女は独り言ちた。
 日の出る時間に起き日の沈む時間には就寝を迎える彼女の所属する修道院ではとっくに消灯時間を過ぎた深夜のことである。本来厳重に管理され開いているはずのない扉を、掠め取った鍵を用いて抉じ開けた。水を滴らせながら彼女は聖堂の扉を開く。雨は彼女の髪を顔や首筋へ貼り付け、元来身体の線を隠す為に纏われた・・・

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コーヒーとチョコレートと、未来の話

14/07/20 コメント:2件 橘瞬華 閲覧数:894

「あなたの思い浮かべる未来とは一体どんなものですか」
 この問いに対して答えた未来が遠ければ遠い程精神年齢が若く、そうでなければ……という尺度になるらしい。そのような問いを投げかけられ、ここでこうしてらしい等と言っている私の答えは残念な程に若々しさからは縁遠いものだった。
「佐山さんもまぁ、えらくコメントしづらい答えを出したもので……」
「放っておいてよ……」
 各々が好き・・・

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夜に光る、瞳の中の。

14/07/14 コメント:3件 橘瞬華 閲覧数:1338

 街灯の少ない道を一人で歩いていた。遮る物のない風景にはちらほらと点在する民家と山、田圃だけが広がっていた。雲が月を隠し、かろうじて畦道が見える程度の薄い月明かりが洩れる。私が立てる足音以外に人の生活音はなく、山の方から僅かに虫の鳴く声が響くのみである。
 親戚であり恩師でもある人の法要で久方ぶりに訪れた田舎。親族の全てを包括する程の部屋を持つ家。古い木造建築特有の静けさ。歩く度に音を立てる・・・

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