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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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職業
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将来の夢
座右の銘

投稿済みの記事一覧

4

山中の鬼

17/11/19 コメント:1件 待井小雨 閲覧数:100

 黄昏時の山中で鬼に会った。口減らしで捨てられて三日が過ぎた頃だった。
「お前、捨てられたのか」
 巨躯を揺らして愉快そうに鬼は言った。最後に持たされた食料も尽きていて、私は木の根に背中を預けたまま力無く頷いた。
「へへへ、酷いもんだな。食いもんがないと人間は子供を捨てる」
 裂けたように大きな口で酷ぇよなあ、と笑う。
「なあお前、憎いだろう。村の奴らが恨めしいだろう・・・

1

次に逢うなら

17/11/03 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:134

 よく晴れた日は年老いた夫婦揃って一緒に公園に行くのが、私と妻の習慣だった。
「うぅ、寒い」
 妻が震えながら言う。
「もっと厚着をすれば良かっただろう」
「こんなに寒いと思わなかったわ」と妻がマフラーを首に巻く。
「歩いている内に体も温まるさ」
 道行く人と挨拶を交わしながら妻は歩く。十五分ほどで公園に着き、日当たりのいいベンチに腰かけた。
「ここが空い・・・

1

財布の中に秘めたもの

17/10/22 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:126

 雨の降る背景に紗里の横顔が映え、私はつい見入ってしまう。写真に収めておきたくなるほどに、紗里は特別で美しい存在だった。
「なに?」
 私の視線に気が付き、紗里が振り返る。私は咄嗟に視線を外して天を仰いだ。
「雨、止まないなあと思って。傘忘れてきちゃったんだよね」
 学校の昇降口は湿気に満ちている。
「天気予報で言っていたのに。コンビニまで相合傘してあげるわ」
・・・

1

僕とちびすけのお買い物隊

17/10/22 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:153

 ちりん、となるのは財布の鈴。買い物に出るお母さんの後ろを付いていく。歩けばころろんと僕の首輪の鈴が鳴る。
 お母さんは足元の僕に気付き、微笑んだ。
「あら、また付いてきたの? 猫はお店に入れないのよ?」
 仕方ないわね、と抱き上げられて僕はお母さんの腕の中。お店の中には入れないけれど、家族の為の買い物をするお母さんを待つのが僕の日課。
 お母さんの家族はだんなさんと小学生・・・

1

白い森に彷徨う

17/10/01 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:275

 白い森にいる。私はここから出られない。
 私は死んだばかりで疲れてしまって何もしたくはない。なのに私の手は一本の腕を掴んでいて、それを離そうとはしないのだ。
 腕の先に胴体はない。
 だけど腕の主が私を責めているのは感じ取れる。声がするから。
(――お前のせいでこんな姿になってしまった)
 その声は真上の樹の枝から降りてくる。……ああ、そこから見ているのか。そこから・・・

2

Phantom Pain

17/09/23 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:259

 僕にはずっと、誰よりも大切な少女がいた。
 僕の小鞠。僕の特別。

 幼い頃に越してきた田舎の家で、幽霊に出会った。十二歳ほどの姿をした、小鞠という少女の霊だった。
「驚かせてごめんなさい」
 初めて聞いた言葉は僕と両親への謝罪だった。鈴のような声に負の感情はなく、怖くはなかった。それよりも空気に溶けそうで綺麗だな、と僕は見とれていた。
「天に行く道が分からな・・・

1

願い花の管理者

17/09/08 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:274

 願いを抱いて天に昇ったので、僕は夜空の川のほとりで星の花を咲かせる仕事に就く事になった。
 真っ直ぐな茎につぼみが一つ。透き通った青い石のような花が咲くという。一人につき一輪が担当。僕の他にも、つぼみを抱いた新人がたくさんいた。

「決められた日までにちゃんと咲かせるんだよ」とここでの上司にあたるヒサシさんという人が言った。花々の管理と新人の指導をしている人だ。
 自生す・・・

4

メタモルフォーゼ

17/08/26 コメント:5件 待井小雨 閲覧数:242

 僕の卒業式を一か月後に控えた冬の日、先生は黒板になってしまった。
 生徒は僕一人、男の先生が一人だけの小学校。僕の卒業後に廃校になる。

 僕は教室に一つだけの席につき、黒板となった先生を見つめる。
「どうして黒板になんてなったんですか、先生」
 問うと『だって』と黒板にチョークの文字が浮かび上がった。
『寂しいのだもの』
 先生はもう五十歳過ぎ。六年間・・・

4

いつか二つ転がる

17/08/10 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:492

 あなた方は失敗したのです。それを認めてどうか傲慢な姉をこの家から追い出して下さい。

「お姉ちゃんはいつになったら働くの?」
 ――と、何度か繰り返してきた問いを両親にぶつける。二人はいつもと同じ答えを返した。
「あの子にもペースがあるから」
「もう何年も働いていないよね」
 詰め寄っても父母は困ったように微笑むばかり。
 歳の離れた姉妹だった。私が中・・・

6

旅人の哀歌

17/07/29 コメント:9件 待井小雨 閲覧数:507

 物置部屋で一幅の絵を見つけた。
 手前から奥に向かい、遠くの山への道が長く伸びるだけの絵だ。その道に、馬を連れてこちら側に背を向けて歩く男の姿が描かれている。これは旅人の絵だ。
 何となく惹かれ、書斎に飾る事にした。
「傷んでいるな」
 長い事放置されていたのだろう、くすんだ色が気になった。空しい色合いの絵に指を伸ばす。と、触れた部分が仄淡く色づいた。
「しまった」・・・

4

猫又のもたらした騒がしい日々

17/07/16 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:319

 歳を取り病床で人生を追想すれば、私は随分とあの猫に迷惑をかけられてきたものだと思う。
 白髪を生やすよりも前、妻と結婚するよりも恋を覚えるよりも前。ほんの幼いあの日に、私はこの人生を永く付き合わざるを得ない相手に見つかってしまった。
 生まれた時から肩にあった傷の様な痣。これが目印だったのだとあの猫は言っていた。

 夏の縁側、昼寝をする幼い私。あまりの暑さに私は起きだし・・・

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あした海になる

17/06/27 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:656

 とぷりと水の音がした。
 吸い寄せられるようにして、私は音の方に首を向ける。閉めきられた障子の向こう、縁側の先は池のある庭だ。
「どうしたの」
 母が怪訝な顔で振り返る。
「いま――潮の香りが」
 ……したような気がして。
「するわけないでしょう、そんなの。ここから海まで何時間かかると思ってるの」
 そんなことより、と母は言う。
「ちゃんと、おば・・・

7

ホロホロ鳥の歌

17/06/14 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:498

 ホロホロ鳥が鳴いているのだ。
 ホロホロ、ホロホロとあれは涙を零しているに違いない。
 幼い日に聞いたあの鳴き声は確かだったと思うのに、ホロホロ鳥はそのようには鳴かない、それは君の架空の生き物だよ、と婚約者に言われてしまった。
「これがホロホロ鳥の鳴き声だよ」と彼に見せてもらった映像では、本物のホロホロ鳥がけたたましく鳴いていた。
 確かに、ホロホロ、と囁くように鳴く私の・・・

7

ゴン太の華麗なる休日

17/06/03 コメント:13件 待井小雨 閲覧数:727

 せっかくの休日だというのに彼氏の休日出勤でデートがキャンセルになった。
 ちぇー、とむくれて私は我が家の柴犬、ゴン太に抱きつく。
「ゴン太は寂しい私を慰めてくれるよねぇー」
 ぐりぐりと顔をすりつける――と、その頬ずりが肉球によって押し返される。
「ぐえ」
 呻く私にゴン太は人の言葉でこう言った。
「すいません、今日はペットをお休みしますので」
「は――・・・

5

人さらいの夜

17/05/21 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:625

 僕が失敗をすると、ばあちゃんはいつも「悪い子は人さらいに連れてかれるんだよ」と怖い顔をして言った。
 お味噌汁を零すと僕の頭を掴んで「お前なんか攫われてしまえばいいんだ」と言う。お皿を割ってしまうと「悪い事ばかりして!」と怒鳴る。
 僕は正義の味方が出てくるアニメが好きだった。僕もあんな風に強くなりたい。
 けれどそのテレビもすぐに消されてしまう。ばあちゃんは僕の頭を小突いて「・・・

4

陽だまりケーキ

17/05/07 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:617

 洋菓子店の帰り道、私はひたすら息子をなだめていた。
「イチゴのケーキも好きでしょ?」
「やだ!」
 いつもなら売っているモンブランが今日は売切れていた。そんな時に限って息子が「黄色いケーキがいい」と駄々をこねたのだ。
 落ち着けるために立ち寄った公園には、私達の他にベンチに七十代ほどの男性が一人。うるさくてごめんさい、と心の中で侘びる。
「黄色いケーキはまた今度ね?・・・

5

竜宮の亀

17/04/16 コメント:9件 待井小雨 閲覧数:710

 夏の日差しが射すアスファルトの路上に、亀が引っくり返っている。
 海は遠く、近くに水場は無い。子供の悪戯だろうかと、俺は掌ほどの大きさの亀に歩み寄った。
「大丈夫か」
 車通りのない道だから轢かれる事はあるまいが、そのままにしておく気にはなれなかった。
「やめて下さい」
 手を触れる寸前、当の亀から声が上がった。
「助けないで下さい。私にどうか、触れないで下さ・・・

1

おきつね電車

17/04/08 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:344

 新しい高校に転入するというその初日から寝坊をぶちかまし、俺は必死で走っていた。
 予定よりもだいぶ遅れて小さな駅に駆け込んで、「乗る乗る乗ります!」とドアに滑り込む。この電車に乗れても遅刻なのは確定しているのだが。
 肩で息をしながら制服のシャツのボタンを外して緩ませる。初日くらいはきちんとした格好で登校しようと思っていたのだが、すでに無理そうだ。
 車内には俺と小さな男の子の・・・

5

夕暮れの街で彼に会えたら

17/03/12 コメント:8件 待井小雨 閲覧数:636

 非常に珍しい事に、自分に近いモノとすれ違った。
「あれ――人面犬?」
 不繊布のマスクのまま久しぶり、と笑いかける。
「口裂け女じゃねぇか」
 おっさん顔をした小汚い犬がしかめっ面でそう言った。

 ベンチに腰掛けて缶コーヒーにストローをさす。人面犬にも適当な器にコーヒーを注いであげた。
「ストローなんかで飲むのかよ」
「マスクを外さずに飲む方法が・・・

5

夕暮れの街で彼女に遭えたら

17/03/11 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:656

 夕暮れの住宅街で一匹の犬とすれ違った。その瞬間、ずっと謝りたい人がいた事を思い出した。

 俺は口裂け女に「遭った」事がある。
 小学生の頃の事だった。夕日に染まる公園で一人、砂に絵を描いて過ごしていた。そこに、大きなマスクをした女性が近づいてきた。
「……ねえ」
 笑んだ瞳が綺麗に半月の形を作っていた。優しそうな人だ、なんて何の根拠もなく思った。だから一人きりで寂・・・

2

まほろばの手前で

17/02/23 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:451

 あの坂道を真っ直ぐに行けば父母のいる場所に辿り着く。山から見下ろすのは岬の町。――まほろばは海の向こう。

 小学校に上がる春、祖父母の家に自転車が届いた。使用人をそっと呼び出す。
「自転車が届いたって本当ですか」
 両親を亡くして引き取られたばかりのこの家で、僕は心の拠り所を見付けられずにいた。厳格な祖父母の元で、僕の暮らしは激変した。狭いアパートは蔵を持つ屋敷となり、・・・

3

ひとりだけのあなたを探して

17/02/10 コメント:3件 待井小雨 閲覧数:408

 これほど人がいるのに、どうしてあの人だけがいないのだろう。
 人の溢れる新宿駅の構内で、私は人の波を見ていた。改札を通る人の顔を、電車に乗る人達の顔を見つめては探す。あの人の顔を。あの人に似た人を。
 担任の先生のお葬式が昨日、あった。白髪の多い頭髪は積み重ねた年月の豊かさを感じさせ、眼鏡の向こうの目尻は優しい皺を刻む。遺影の中の先生も穏やかに微笑んでいた。
 恋をしていたのか・・・

3

雛のへや

17/01/28 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:459

 放置されて伸びきった隣家の樹木の枝が差し掛かるビルの三階、三部屋ある内の角部屋に住んでいる。人によっては煩わしいであろうその枝を、切る事もなく放置していた。
 その木に鳥の巣を見つけたのは数日前のこと、雛の鳴き声がするまで間近に生き物の巣があるなど気付かなかった。そっと覗くとまだ羽の未熟な雛が数羽見えた。自分が知らなかっただけで、巣自体は前からあったのかもしれない。ストレスを与えないよう、・・・

1

火星の穴

17/01/26 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:457

 ブラジルの穴、というものがある。地面をどこまでも掘っていくと、地球の裏側のブラジルまで辿り着けると言う話だ。もちろんこれは作り話でどこにもそんな穴は存在しない。
 だが、俺の部屋にはそれ以上の穴がある。
 古びたアパートのじめじめとした和室に住んでいる。敷きっぱなしの布団の下が何やらら湿っぽくかび臭くなったのは夏の頃。そのまま数ヶ月放置していたが、さすがに耐えられなくなってようよう布・・・

6

から傘むすめ

17/01/15 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:518

 ……今日は風が強いので、あの人が咳をしていないかばかり気になる。

 大八車に縛り付けられ、見世物小屋に売られる道中にある。
周囲からの目隠しとしてかけられているぼろ布があおられ捲れて、風の強い事を私に教えた。私は自分を作ってくれたあの人の事を想う。
「ずいぶんと大人しいが、見世物小屋じゃあちゃんとしゃべれよ」
 布の向こうからのぞんざいな男の言葉に、私は何も答えな・・・

2

やすらぎの世界へ

17/01/14 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:557

 天気のいい日にしようと決めていた。

 太陽の光が家の中を明るく照らしている。私は中学生の娘の部屋のドアをノックした。
「唯、起きたの?」
「起きてるよ」
 屈託なく笑う唯が部屋から出てきて、私も笑い返す。
「朝ご飯はおにぎりがいいな」
「そんなのでいいの? フレンチトーストとかだって、言ってくれれば作るのに」
 せっかく今日はどんなものでも作れる・・・

1

秘密

17/01/14 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:370

 燃え盛る炎の中、返事のない部屋の戸を叩く。
「出てきて! 生きてよ!」
 ――こんな風に終わるのなんて、赦さない。

 夜半に起きた火事だった。屋敷についた炎に気づかずに寝入る私を救ったのは叔母だった。
 火の手を背に、必死な顔で叫ぶあの人。
 ――火事よ! 逃げなさい! 逃げて!
 異常な状況に混乱する頭を整理する暇も与えずに、叔母は私を布団でくるみ、・・・

3

36792000分の余暇

16/12/29 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:666

 進歩を続ける科学技術により、人類は超高速の移動手段を手に入れる事となった。装置のある場所なら何処へでもごく短い時間で移動――すなわちワープが可能となったのである。かつて誰もが空想した瞬間移動には及ばないが、人類にとって大きな一歩となった。
 この技術が一般的なものとなるまでには時を要したが、次第に誰もがこれを利用するようになり、通勤や通学、買い物から海外旅行まで五分で行けるのが当然となる。・・・

3

あたしのサンタ

16/12/16 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:491

 ミニスカワンピのサンタの衣裳に、ずっと憧れていたわ。クリスマスにケーキの売り子さんたちが着てるやつ。真っ赤なワンピースの裾がふわって広がるのがとっても可愛くて、あたしはずっと「いいなぁ」「あれが着たいなぁ」って思っていたの。
 だけどあたしは男の子だったから、スカートが穿きたいなんて言えなかった。それに、うちはクリスマスにパーティーをして浮かれられるような家庭じゃなかったから、ミニスカワン・・・

2

永遠の蝶の樹

16/12/03 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:437

 蝶をモチーフとした美術館の図録を見ています。蝶を偏愛し、固執し続けるお祖母様が集めた物を収蔵した美術館がもうすぐ完成するのです。

「これだけのはずはありません」
 図録を閉じて、お祖母様に言いました。
「それが全てですよ。他に何があるというの」
 お祖母様にそう返されました。
 蝶を描いた絵画や図案化した蝶の装飾品や着物など、幼い頃から身の回りは蝶の美術品に・・・

3

あなたがくれた金色の

16/11/19 コメント:4件 待井小雨 閲覧数:610

 あの頃の兄には、私の姿が見えなかったのだと言う。私は三歳、兄は七歳。母が私を疎んじていた頃。

 母の怒り顔をよく憶えている。
「二度と触らないでッ!」
 幼い私の掌を力いっぱい振りほどき、母は捨てゼリフを吐いて背を向けた。振りほどかれた力のままに小さな私は転がる。
 頭や体をぶつけるのは日常の事だったので、一瞬だけ泣いて私はすぐにある物を探して床に這いつくばった。・・・

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平和の小部屋

16/11/04 コメント:11件 待井小雨 閲覧数:902

 学校から家に帰るなり、酒で顔を赤くした父親にいつもの小部屋に放り込まれた。階段の上、小窓とテレビしかない部屋だ。無抵抗のまま縄で縛られ、足がつかないよう吊るされる。
 父は僕の顔近くで酒臭い息をいっぱいに吐きながら、ものすごい剣幕で怒鳴りたてた。
「ニュースを見てみろ!」
 父の太い指が指すテレビの中では、日常の一コマのように事故や事件のニュースが流れていた。
「これは何・・・

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わらうひと

16/10/22 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:442

 妻の病室で寝入ってしまった。その眠りの中で夢を見る。

 夢には奇妙な面を被った人物が佇んでいた。ひょっとことおかめを組み合わせたような、滑稽な面だ。
「君は何か、芸人のようなものなのか」
 つい、声をかけてしまった。面の人物は軽妙な声音で「そうですとも」と答えた。
「私は言うなれば、お笑い芸人のようなものですよ。あなたを笑わせるためにやってきました」
 妙な・・・

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春の化け物

16/10/08 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:425

 秋の早朝、日直すら登校してこない時間帯に榎本は教室に現れる。
「あ――おはよう、須田君」
 榎本は教室の戸を開けて、一瞬驚いた顔をする。独り言のように「わぁ、また来られた」と呟いた。
「榎本。おはよう」
「いつも早いね。誰も登校してないじゃない」
「そっちこそ」
 そう返すと、榎本は肩をすくめてみせる。
「僕はホラ、時間とか選べないから」
 そうい・・・

0

時をすべる雪だるま

16/10/01 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:496

 中学二年の夏にいなくなったクラスメイトの事が、どうしても忘れられない。転校していった彼女を、僕は好きだったのだと思う。
 一年生の時からクラスと委員が同じ彼女とは、友人として良好な関係を築いていた。けれど饒舌な方でもなく、不器用で臆病な僕には、夏の陽のようにまばゆいばかりの彼女に想いを告げられなかった。
 窓ガラス越しの冬空を見上げて溜息を吐く。灰色の曇天には、いつの間にか白いものが・・・

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猫のうたたね本屋さん

16/09/22 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:504

 小さな本屋で、店主のおじさんはいつものように店番をしていました。
「本屋のおじさん。本屋のおじさん」
 カウンターの下から声がします。見ると、ふくふくとした毛並の前足がありました。覗くと三角の耳がぴんと立っています。
「おや、一体誰だろうなぁ」
 おじさんは笑いながら、背伸びしてカウンターに前足を乗せる猫に問いかけました。
「一生懸命背伸びする僕を抱き上げてはくれな・・・

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ブックス・シー

16/09/04 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:670

 電車に揺られてふと目を開けると、窓の外に知らない景色が広がっていた。
「え――」
 海の中のように見えた。
 澄んだ青の中に海の生き物たちが泳いでいる。ゆっくりと止まった電車から、誘われるようにしてその世界へ出た。
 明るく光に満ちた海底の白い砂を踏んで歩く。頭上高くに水面があり、そこから差す光がゆらゆらと帯のように揺れていた。辺りを見回し、広がる光景に息を飲んだ。

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アイちゃん -sweet baby-

16/08/30 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:475

 ふわふわのフリルとレースの華やかなドレス。ぴかぴかの靴を履いたお姫様みたいな着せ替え人形。
 ――大好きな私のお人形。

 穴の底に人形を置き、じっと見つめる。
「……ごめんね」
 きらきらとした目を手で覆って隠した。私の手は土で真っ黒に汚れている。
「さよなら、アイちゃん」
 自分で名前を付けてあげた大切な人形だった。
 夕暮れの林には誰もいない・・・

2

アイちゃん

16/08/24 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:546

 ふわふわのフリルとレースの華やかなドレス。ぴかぴかの靴を履いたお姫様みたいな着せ替え人形。
 ――大好きな私のお友達。

 穴の底に人形を置き、じっと見つめる。
「……ごめんね」
 きらきらとした目を手で覆って隠した。私の手は土で真っ黒に汚れている。
「さよなら、アイちゃん」
 自分で名前を付けてあげた大切な人形だった。
 夕暮れの公園には誰もいな・・・

1

束縛金魚

16/08/14 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:528

 金魚を食べた。
 誰もが寝静まる深夜にそっと、金魚鉢に手を浸す。捕らえた金魚をつるりと飲み込んだ。尾ひれが食道をくすぐり、余韻がいつまでも残った。

 翌日の夜、とんとんとん、とドアを叩くものがある。
 昔ながらの無駄に広くて古いこの家は、あちこち隙間があって風が通る。そのせいで部屋のドアが揺すられたのかと、気にせず読書を続けた。
 するとまた、とんとんとん――と音・・・

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束の間のノア

16/08/12 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:484

 しっぽだけがゆらゆらと揺れていた。それは我が家の飼い猫、ミアのしっぽだ。もう大人猫で、走り回ったり飛び跳ねたりする事はあまりない。しっぽだって、名前を呼んでも億劫そうにゆっくりぱたん、ぱたん、と振るくらいしかしない猫だ。
 それが珍しく機敏にしっぽを動かしている。いつになく活発な動き(しっぽだけだが)に、僕は首を傾げる。
「何してるんだ、ミア」
 しかしミアはちらりと目を寄越す・・・

0

ピーちゃんのお風呂

16/08/03 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:466

『ぱ』パパがかってきたのは
『ぴ』ピーちゃん ことりのピーちゃん
『ぷ』ぷくぷくしててとってもかわいい
『ぺ』ペットじゃなくてかぞくみたい

「ヨシ君のおうち……この辺よね」
 職員室で用意しておいた地図を頼りに、欠席したヨシ君の家を訪ねるところだった。普通は一日休んだ程度で家を訪問する事はないが、今回は例外だった。
 家を見つけ、表札をなぞりながらヨシ君・・・

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神に捧げる

16/07/17 コメント:3件 待井小雨 閲覧数:590

 私が姉を監禁したのは、もう、どうしようもなかったからだ。
 姉は幼い頃から度を越えて傲慢な人だった。両親はそれを咎めず、増長した姉はたやすく暴力をふるうようになった。

 先日、両親が揃って逝った。諸事が片付き、喪服を仕舞う頃になってはたと気づく――この家にはもう、姉と私の二人きりなのだと。
「何か買ってこいよ、役立たず」
 夕飯を床に落とされた後だった。
「・・・

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おべんとう切符

16/06/26 コメント:6件 待井小雨 閲覧数:886

 一日に数本しかバスの来ない停留所で、お弁当を食べながらバスを待つのが私の日課だ。日差しを遮る屋根の下、私の他にバスを待つ人間はいつもいない。
 ベンチに座り、母に持たされたお弁当の包みを取り出す。
「やっぱり、大きいなぁ」
 いつもは普通の弁当箱に詰めてくれるのに「今日は作り過ぎちゃって」と重箱を持たされた。とても食べきれる量ではない。
 いざ食べようかと箸を構えた時、バ・・・

1

産道

16/06/22 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:603

 死んだばかりの老いた私に、大きな何かがこう言った。
 ――お前にこれをやろう。腹が減るごとに一つずつ食べて道を進むといい。
 周囲は仄白く、全体的にぼやけている。私が歩く一本の道以外には何も見当たらない。声の主もどこにもおらず、私一人がそこにいた。
 両手の上に包みが乗っている。覗けばそれは、おにぎりが三つ入った弁当だった。
 つい先ほど死んだのであろう私の魂は、景色のは・・・

4

母の年越し蕎麦

16/06/09 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:640

 年老いてから、母の喉は食べ物を通しづらくなった。
 硬めに炊いたご飯をおかずと一緒に口いっぱいに頬張るのが好きな人だったのに、もう何年もおかゆのようなご飯を食事にしている。
「今日は……どうかな」
 味見をした物をベッドの母に運ぶ。自宅で二人、暮らしていた。
 おかずも柔らかく煮込んだ物が増えた。歯応えを楽しむ食事はもうとれない。喉につかえてしまえば命にかかわる年齢になっ・・・

4

絵麻に降るあめ

16/06/08 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:608

 雨をなめたらきっと甘いに違いないわ! と幼馴染の絵麻は言う。
 甘い物が好きな絵麻。僕の事を好きな絵麻。
「空が優しい気持ちで降らせるのが雨だもの、きっと絶対甘いのよ」
「甘いわけないだろ。それに雨は汚いから口に入れちゃいけないって言われてる」
 そっぽを向いて冷たく言っても絵麻は気にしない。幼稚園のおやつで配られる飴は絵麻の大好物だ。「雨」と「飴」は同じ名前だから、味も・・・

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最後の花火

15/09/05 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:850

 屋台の並ぶ河原への道、浴衣の人々を抜けた先――父が待っていてくれる。
 お父さん! とはしゃぎ呼びながら父に飛び付く。腰で結んだ兵児帯の先が揺れた。
「――ああ、来たな」
 るり、と私の名を呼んで父は微笑む。私は伸ばされた父の手を握った。
 浴衣似合うかな、と私は白地の浴衣を見せびらかす。すると父はほんの少し悲しげにする。
「……別の色の着物を着ているのを、見たかっ・・・

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