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山中さん

出没地
趣味
職業
性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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ルームロンダリング

16/08/16 コメント:0件 山中 閲覧数:1618

 1LDKのマンションの一室に住み始めてから、すでに二ヶ月以上が過ぎようとしていた。都心からやや離れた閑静な住宅街の中、最寄駅まで徒歩八分と条件は悪くない。
 築四十五年とはいえリフォーム済みなので古めかしさは感じないし、近隣とのトラブルがあるわけでもないが、この部屋では数カ月ほど前に人が一人死んでいる。いわゆる事故物件と呼ばれる部屋だ。

 こうした物件は借り手が付きにくい。入・・・

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今の私にできること

15/04/20 コメント:0件 山中 閲覧数:798

 
 更衣室へと向かいながらエプロンの紐をほどいていると、店長の呼ぶ声が聞こえ私は足を止めた。

「大沢さん、悪いんだけど少し残業に付き合ってくれないかな」

 店長は申し訳なさそうに首筋の辺りを撫でながら私にそう尋ねてきた。それは店長が困ったときや照れ隠しのときに見せる仕草だった。
 壁に掛けられた時計に視線を移すと、すでに午後十一時を回っていた。あと一時間も・・・

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赤い空

14/11/16 コメント:0件 山中 閲覧数:780

 ガスに覆われた黄色い雲の下、垂れ流された廃液の上を汗にまみれた労働者達が行き交う。錆びついた排水菅のような匂いが、この街のシンボルだ。その中心部には、医薬品工場がある。
 チヅルおばさんは朝まで戻らない。歓楽街に埋もれたチャイニーズの集まるカジノで、夜通しギャンブルを楽しんでいるからだ。その資金には父さんの遺産が使われている。母さんは幼い頃、歴史博物館のキュレーターと恋に落ち、出ていったき・・・

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お節介

14/10/18 コメント:4件 山中 閲覧数:772

 向かいのシートで酔い潰れている男を、私はじっと眺めていた。深夜0時の上り電車。この車両には、私と目の前にいる男しかいない。左右の車両を見渡し人の気配がないことを確認してから、静かに彼の側へと腰を下ろした。男のジャケットの内ポケットからは、黒い皮財布が頭を覗かせている。
 私はもう一度周囲を見渡し、ごめんなさい、と心の中で呟いた。そう呟いたのはこれで何度目だろう。そしてそっと財布に手をかける・・・

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マングローブの森

14/08/08 コメント:8件 山中 閲覧数:1308

 バイクを走らせると砂煙が空高く舞い上がった。畦道のすぐ脇には海へと注ぐ河口が広がる。どこまでも続く荒れた大地に、茶色く濁った水と乾いた太陽。ベトナムの陽射しは容赦がない。昼時には観光客でなくても根をあげそうになる。こんな日はハンモックに揺られながら太陽をやり過ごすに限る。
 そんなことを考えながらしばらく走り続けていると、遠方に人の姿を見つけた。老人のようだ。湿地帯に足を踏み入れ、腰をかが・・・

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留守番

14/07/11 コメント:4件 山中 閲覧数:965

 軽快な音楽が耳に届くと、カーテンの隙間から差し込んだ陽射しがまぶたに触れて、俺は目を覚ました。時計の針は十二時をさしている。ふらふらと起き上がり鳴り続ける携帯を手にして通話ボタンを押した。
「もしもし和博?これから出掛けるから子供達見ててくれない?」
 悪びれた様子もなく、姉は用件だけを伝え電話を切った。姉は用事ができると俺を呼び付け、当たり前のように子供達の面倒を押し付ける。す・・・

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幸福

13/11/15 コメント:2件 山中 閲覧数:1028

 わたし達の過ごした時間を思い出してみる。忘れかけた記憶を探すには集中力が必要だ。それはあなたとの関係が希薄なものだったということではないのよ。そうではなくて、何か大きなものに支配されてしまったということ。
 マイルス・デイビスを聴き終えてからペール・ギュントの「朝」を耳にしたときのような、劇団四季を見た後でブロードウェイを鑑賞したような、そういったとても印象深いものに塗りつぶされてしまった・・・

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帰省

13/10/30 コメント:3件 山中 閲覧数:1081

 実家へと足を運んだのは何年振りだろうか。両親は何度か東京へ遊びにくることがあり、久しぶりというわけではなかった。田舎の風景にしても、むかしも今もほとんど変わることがない。
 ただひとつ変わっていたのは、婆さんがこの世を去っていたことだ。その知らせは、母から土産話のついでのように聞かされたが、そのことを攻めることはできなかった。母は、おれと婆さんとのつながりを知らなかったのだから。
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贈り物

13/09/05 コメント:2件 山中 閲覧数:1273

 彼は静かな海を泳いでやってきた。黄金色の体毛に海水を湿らせながら、力のない声で「フォン」と吠える、悲しい姿のレトリバー。
 首輪にはかすれて読めなくなった文字があり、それが彼の名前なのだろうと思った。だからわたしは、本当の名前がわかるまでフォンフォンと呼ぶことにした。


 誰もいない夕暮れの海岸。響き渡る波の音が、取り残された観客に終わりのない旋律を聴かせてくれる。わた・・・

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コーヒーブレイク

13/08/26 コメント:1件 山中 閲覧数:1777

「相変わらず静かな店だな」

郊外にある気取らない雰囲気の素朴なカフェ。古くからの友人が私の店にやってきた。私は友人を見るなり、どこか気力のない空気を漂わせていることに気がついた。

「元気がないな。悩み事か?」

カウンター越しから伝わる友人の憂鬱を感じながら、私は丁寧にドリップされたコーヒーをカップへと注いだ。

「悩みといえば確かにそう・・・

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