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青海野 灰さん

逢いたい人は遠すぎて

出没地 公園全般
趣味 散歩
職業 SE
性別
将来の夢
座右の銘 そこを楽しむのさ

投稿済みの記事一覧

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デュアル・プリズム

14/05/26 コメント:2件 青海野 灰 閲覧数:1252

私が辻先輩に声をかけたのは、十名程の部員がざわめく部内でもいつも一人でいる彼が一番話しかけやすそうであり、また、少し親近感を覚えたからだった。
彼はいつも文芸部室の窓際の陽だまりにパイプ椅子を置き、細長い足を組んで難しそうな本を静かに捲っていた。部室に舞う埃が秋の陽光を受けキラキラと光り、そこだけ時間がゆっくりと穏やかに流れているように見えた。
その視線の先の物語に向けられる、薄いフレ・・・

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さよならの風はクチナシの香り

14/05/15 コメント:5件 青海野 灰 閲覧数:1389

奏花は笑顔だった。それでいいんだと思う。
クチナシの花を配した純白のドレスに包まれ、皆から祝福されている姿を見ると、僕の胸に空いた穴が少しだけ塞がる様な気がした。

大きなガラス窓から六月の海が見える、白を基調とした式場で行われた結婚式は、参列者も大満足のようだった。
その後の空色のログハウス風披露宴会場も好評で、密かに式場選びに付き合わされていた僕も、肩の荷が下りた心地だ・・・

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白百合渡る蒼穹に

14/01/06 コメント:4件 青海野 灰 閲覧数:1522

盗んだパンを抱え、汚れた灰色の石の街を裸足で駆け抜けた。身に纏うのは街よりも汚れたボロ一枚。背に浴びる怒号は風よりも早く遠ざかる。私の足は、富と贅肉を持つ大人には決して捕まらない。
暗い路地裏の塵捨て場に身を隠し、乱れた息のままパンを齧る。足の裏に刺さった硝子片を抜き取り、腰袋に入れた。袋の中にかちりと落ちるその音を聴くと、少しだけ心が弾む。笑みを浮かべ再びパンを齧る私の耳は、背後の微かな足・・・

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Lovers End Worlds

13/12/23 コメント:5件 青海野 灰 閲覧数:1503

人類が未知のウィルスにより死滅してから、もう五十年が経つ。

科学者であった夫が作った私の義体は、必要な熱量の摂取さえ怠らなければ問題なく稼働し続けていた。彼の最期の贈り物――今も胸部ドライブで回転を続ける思考ユニットが、無機物である私を、彼の妻であった私という人間に保ち続けている。
でも、それももう、限界に近い。
体は問題ない。自己修復の素材により老朽化の傾向も見せず、自・・・

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「 snow letter 」

13/10/01 コメント:14件 青海野 灰 閲覧数:1481

引っ越しの準備の最中、懐かしい本から、はらりと一枚の栞が落ちた。

月が、綺麗ですね

それは何の柄もないただの厚紙で、その言葉だけがそっと囁くように書かれている。印刷ではないから、ユキの手書きなのだろう。
暫く眺めた後、ふと窓のカーテンを開けたが、あの日のような雪が暗闇の中を静かに降っているだけだった。
白い、白い夜。しんしんと、想いばかりが募るのに、私はまだ・・・

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銀の牢獄

13/09/04 コメント:14件 青海野 灰 閲覧数:1527

彼女は奇跡だった。
黎明の光の中でそれは踊る様に、唄う様に、自らも光を放っているかの様に美しく舞っていた。
彼女は希望だった。
いつも見上げていた。
ずっと眺めていた。
焦がれていた。

――あなたはいつも、そんなに険しい顔をして何を待っているの

だからそれが僕に向けられた言葉だと気付くのに、時間がかかってしまった。

…命だよ<・・・

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CROSS SAVIOR

13/08/07 コメント:11件 青海野 灰 閲覧数:1833

穏やかな温もりを持った唇が、そっと離れた。彼が塞いでいた私の口元に、教会の静謐な空気が触れた。
たったこれだけのことで、あれだけ溢れていた涙も叫びも、呆気なく止まる。
全身が雷に打たれたように硬直し、やがて思い出したように熱が胸元から溢れ出し体中を駆け巡る。

「……ごめん」

愕然とする私から目を背けるように、彼はその長い睫毛を伏せて、消え入りそうな声で言った・・・

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Worlds End Lovers

13/07/29 コメント:12件 青海野 灰 閲覧数:1345

釣竿とバケツを持って、私は家を出た。

立ち並ぶビルの廃墟は、それを覆う蔦や緑の葉を、今日も風に揺らしている。風に乱され視界を遮る邪魔な髪を耳にかけ、緑の茂る廃墟の街を歩く。この長い髪が煩わしいと思う事もあるが、これを切る権限を私は持たない。
港に着き、餌を付けた針を海に投げ込み、魚を採る。私の駆動維持に必要な量を確保した後、焚き火でそれを焼き、食べる。
「なーう」
・・・

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gray promenade

13/07/04 コメント:3件 青海野 灰 閲覧数:1398

 灰色は、嫉妬の色らしい。

 空は梅雨らしく陰鬱な雲を広げ、太陽の光を閉じ込めて仄暗く輝いている。今にも雨が降り出しそうだが、悲しみを避ける為の傘さえも、僕は持っていない。
 二人でよく散歩をした遊歩道を、いつもよりも少し距離を開けて歩いた。道の両端には紫陽花がそこかしこに咲いて、僕たちの最後の散歩を無慈悲に華やげている。
 10メートル程前を歩く冬彦は、無関心なフリをし・・・

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ポケットの中の相棒

13/06/25 コメント:1件 青海野 灰 閲覧数:1537

「くそっ、何でも屋と化してた俺には荷が重いって」
真冬の鋭い月が浮かぶ夜の町外れを、悪態を吐きながら自転車のペダルを漕ぐと、乱れた息が何本もの白い柱となって立ち昇った。
目的の工場が見えてきた辺りで太ももが限界を訴える。呼吸を整えながら自転車を止め、左手の手帳に書き込んだ。
<今現場前に着いた。マジキツイ>
俺の書いた文字のすぐ下に、サラサラと文字が追加される。
<そ・・・

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refrain restrain

13/06/03 コメント:3件 青海野 灰 閲覧数:1975

言葉は、羽に似ている。
言葉は、鎖に似ている。

<手紙の誤配があったようです。申し訳ありませんが、気付かずに読んでしまいました>

あなたがくれた全ての手紙を右手に持って、私は海を見下ろす崖に立った。闇の中うねる波は目に映らないが、強い波音が誘うように繰り返されている。ここに来るのは、もうこれで何度目だろう。
今日こそこの言葉を全て捨てる。それが出来なければ、・・・

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君の温もり

13/05/28 コメント:6件 青海野 灰 閲覧数:1506

 三分が経ちフタを開けようとすると、目に見えない温もりにその手を止められる。僕の手に触れる安らぎの感触の中に、妙な強い意思を感じる。
「いつも思うんだけど、気に入らないならもっと早くに止めてくれないかな。お湯を入れる前とか、コンビニで買う時とかさ」
 そう出来ない事は分かっていて悪戯っぽく言ったが、当然返事はない。だが僕の手を止める力が緩められる気配もない。
「ああもう、分かった・・・

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前を向くライオン

13/04/22 コメント:10件 青海野 灰 閲覧数:2134

黄金の鬣を靡かせて、太く逞しい前脚を岩にかけ、その獅子は唸る様な声で言う。

――これから初めて獲物を追うお前に、狩りの心得を教える。

はい。お願いします。

――まず我々は強くなどない。他の生命を奪わなくては生きることさえ適わない、血と肉の定めに縛られた、悲しい生き物だ。それを忘れるな。

はい。

――我々が奪い喰らおうとしている命・・・

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祖父の家

13/04/16 コメント:4件 青海野 灰 閲覧数:1336

 私の母方の祖父は、浅草の町外れの平屋に住んでいた。
 その家にはお風呂もなく、水洗トイレもなく、古ぼけて黒ずんだ柱と壁のおかげで年中暗い印象を受ける部屋は、職人気質で寡黙な祖父の性格も相まって、子供の頃の私には恐怖心さえ抱かせた。
 ただ、夏なんかは、家から出て少し歩くだけで隅田川の花火が見えてきて、その時だけは無邪気にはしゃいで祖父に飛びついたりもした。夏の夜の蒸し暑い空気と、耳に・・・

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日常と、最後の手紙

13/04/13 コメント:9件 青海野 灰 閲覧数:2446

春の爽やかな朝日の差し込む明るい喫茶店には、似つかわしくない悲しげなジャズピアノが、誰からも忘れ去られたように流れていた。
結婚してからもう数年が経つが、こうして朝食を外でとるというのは、意外にも初めてのことで、二人で微かに驚いて笑ったりもしていた。

カウンター席から眺める外の風景は、慌ただしくもありふれた日常を映し出していて、僕の精神を激しく揺り動かし続けた音のないやりとりも・・・

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