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aloneさん

好き勝手に小説を書き散らしています。

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趣味
職業
性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの記事一覧

3

更新されることのない場所

17/01/26 コメント:2件 alone 閲覧数:320

 俺はまた受話器を取っていた。
 発信音が一定の調子で鳴る。中立的な響きは、誰の味方もしない。
 決めるのは俺自身だ。
 渇望と自責。葛藤を覚えながら、遂にはある番号を押してしまう。
【#304】
 四種類のプッシュ音の後、短い沈黙をはさみ、呼出音が鳴り始める。
 一度目が終わり、二度目の最中、相手が出た。
「ご予約ですか?」
 一方的な問いかけ。俺・・・

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フォロー・ミー

16/10/26 コメント:0件 alone 閲覧数:488

男は朝食を食べながら、ニュースを見ていた。
「今週のフォロワー数ランキングの発表です! まず第十位から――」
ハリウッド俳優や有名モデルの名前が次々に挙げられる。誰もが知っており、一度はフォローしたであろう有名人ばかりだ。
「そして今週の第一位は……ジャスビー・ティンバー! 平均フォロワー数は驚きの三億越え、さらに今週で十週連続の一位です!」
人気ポップアーティストのジャス・・・

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いつか、誰かに

16/09/24 コメント:0件 alone 閲覧数:445

帰り道の途中、見慣れない本屋さんを見つけた。
毎日のように通ってきた道だけど、どうして今まで気づかなかったのだろう。

店構えは、古くからある町の古書店という雰囲気で、引き戸に使われている木材は、年季の入った濃い色をしていた。
戸にはすりガラスがはめ込まれていて、店内は開けてみなければ分からない。お店の名前はどこにも書かれていなかった。

営業中なのか不安に思い・・・

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リンゴ一個分の無機質な人生

16/09/23 コメント:0件 alone 閲覧数:446

「検査の結果、心臓に原因があると考えられます」
医師は僕の胸部レントゲン画像を見ながら答えた。その面持ちは暗く険しい。
「治療にはどれくらいかかりますか?」
背筋が冷たくなる想いを振り払おうと、医師の言葉に希望を託す。しかし――
「残念ながら、我々に治すことはできません。現代医療では治療不可能です」
全身から力が抜けた。希望は呆気なく砕け散り、絶望に呑みこまれる。

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幽霊の恩返し

16/08/22 コメント:0件 alone 閲覧数:628

ピンポーン!
インターホンが鳴って確認しに行くと、画面には見知らぬ女が映っていた。
長い髪に白いワンピース。テレビなどでよく見る典型的な姿に、もしや幽霊では……という疑念が起こる。
無視しようか。でも、怒らせてしまうともっとヒドイことになってしまうかも。
恐るおそる応答ボタンに手を伸ばし、勇気を振り絞って押し込んだ。ピッという機械音に心臓が跳ね上がる。
スピーカーから・・・

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量子ダンサーは孤独に踊る

16/07/17 コメント:2件 alone 閲覧数:511

いくつもの装置が置かれ、無数のコードが床を這い、大小さまざまなパイプが縦横に走る。
スイッチは明滅を繰り返し、コンピュータは次々に映像を切り替える。
照度が抑えられた薄暗い研究室。視界は機械類に占拠され、部屋の大きさすら推定できない。
ライトが不意に点く。ひとつではない。数えきれないほどだ。
だが室内を照らすためではない。すべての光は、ある場所に集中していた。
研究室・・・

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すべてがEになる

16/06/23 コメント:3件 alone 閲覧数:610

ガチャン――と玄関ドアを閉めて、鍵をかけた。
振りかえると、短い廊下が唯一の部屋へと続く。右手にはトイレと浴室のドア、左手には廊下に沿ってキッチン。まだ何も置かれていない調理スペースがくすんだ銀色に鈍く光っている。
居住者のいなかった時間が埃っぽさとなって室内の空気に含まれていた。そこに今しがた帰った引っ越し業者の汗のにおいがかすかに混じっている。
換気しよう。そう思って廊下を進・・・

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月に住み、星を食べ

16/06/04 コメント:0件 alone 閲覧数:503


ザザァ――――…… ザザァ――――……

打ち寄せる波音で、僕は目を覚ました。
起き上がると、波が昨日より迫っていることに気づく。
もうすぐ《新月》だ。この《月》も、じき沈む。
そろそろ新しいのに引っ越さなきゃ。
そう思いつつ、また寝転がった。
《月》面はひんやりとして心地いい。
天上では《太陽》が変わらず照り輝いていた。
とても綺麗な・・・

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クオリア・クローラ

16/05/22 コメント:3件 alone 閲覧数:530

Updating. Please wait...

「初めまして。私が君の先生だ」
「先生? 一体、何の」
「すべてさ。君という存在に関わる、すべて」
突然現れた存在は僕にそう語る。
いや、突然だったのは僕の方か。僕の意識の発露はほんの数瞬前だ。
「クオリアは知っているかい」
「クオリアはヒトが主観的に体験する『感じ』のこと。その内容は五感や痛覚など・・・

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暗渠化

16/04/29 コメント:1件 alone 閲覧数:558

道路が陥没し、停めていた僕の車は呑み込まれた。
嘘じゃないさ。本当にそう見えたんだ。
少し遡って話せば分かってもらえるのかな。ならそうしよう。それは今からほんの数分前のことだ。
久々に戻った地元を車で走っていたら、見慣れない一本のみかんの樹を見つけた。
小さい頃はこんなところにみかんの樹なんてなかったし、生えている場所は道路の片隅だ。そこの所有者が誰なのかも見当がつかない。・・・

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神の見えざる掌のうえで

16/04/23 コメント:0件 alone 閲覧数:575

「色彩学の第一人者である先生だからこそお尋ねします。こちらは何色でしょうか」
アダムと名乗った男はスーツの内から何かを取り出し、テーブル中央に置いた。
コトリッという確かな重みのある響きが届く。しかしアダムが手を退いた後、そこには何も在りはしなかった。
「これは禅問答か何かか」
「いいえ。しかし宗教という点では通じるものがあるやもしれません」
アダムは真面目な声音をも・・・

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概念ねこ

16/04/10 コメント:5件 alone 閲覧数:586

正面から歩いてくる女性はとても美人で、両肩に一匹ずつ『ねこ』を乗せていた。
左肩にいるのは“みりょく”で、右肩にいるのは“じしん”だ。
二匹とも僕が持っていないもので、自然と視線を落としてしまう。
すれ違いざま、“みりょく”の尻尾が首筋を撫でた。
思わず立ち止まり、振り返る。だが、彼女どころか、二匹すら僕のことなんて見ていなかった。
「にゃあ」
ねこの声がした。・・・

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また今度

16/04/04 コメント:2件 alone 閲覧数:570

「海が見たいな」
窓の外を眺める彼女が、ぽつりと呟いた。
「手術が終わったら、また一緒に行けるよ」
ベッドの脇に座って、僕はリンゴの皮を剥いていた。
「また、があるのかな」
彼女の不意の言葉に、僕は動きを止め、顔を上げる。
「もし失敗したら、もう一緒に行けないんだよ。わたしは嫌だよ、そんなの……」
成功率は50%です、と言った医者の言葉が脳裏に蘇った。成功・・・

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誰がために点てん

16/01/31 コメント:2件 alone 閲覧数:612

着物姿の老婦人は、棗から茶杓で抹茶をすくい、二度ほど茶碗に落とした。
柄杓を手に、着物の袖を抑えつつ、茶釜から湯をすくうと、静かに茶碗に注ぎいれる。
茶碗からのぼる湯気がゆったりとたゆたう。老婦人は茶筅を取り、左手を茶碗に添えた。
茶筅の先を茶碗に沈め、手首を使い、しゃくしゃくと湯を攪拌し、茶を点(た)てる。
室内に音だけが響いた。老婦人は少しずつ手首を上げ、最後に表面の泡・・・

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人工意識は恋の夢を見るか?

16/01/17 コメント:0件 alone 閲覧数:634

外していたウェアラブルデバイスを首筋につけると、ニコラは倒れるようにベッドに飛び込んだ。
「どうしました? 元気がないようですが」
テスラが骨伝導を通じて話しかけた。その口調はニコラのことを案じていた。
「ちょっとね……」
元気のない応答をニコラは漏らした。ついさっきの出来事が脳裏を過ぎる。
ずっと前から好きだった男子に、今日、ニコラは想いを告げた。
だが彼には・・・

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文字の雨が降る

15/12/19 コメント:4件 alone 閲覧数:1170

空を覆う厚い黒雲。薄暗さのなか、銃声が響き、銃火が瞬く。
跳弾が火花を散らし、刹那の光景を照らし出す。
地表を覆う、無数の文字(アルファベット)。
それが、言葉革命によって迎えた、人類の新たな日常だった。

荒廃した都市、コンクリート製のビルに陣取り、ガラスのない窓から、俺たちは銃を構えていた。
風が凪ぎ、雲が黒さを増す。そろそろ頃合いだ。
コツン――と何・・・

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賢者と愚者

15/12/13 コメント:4件 alone 閲覧数:646

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」
賢者は手を振り上げ、声高に語った。
「我々は今、決断の時を迎えている。世界各地で生まれた火種が戦火を呼び、さらに飛び火し、世界全体を巻き込む大きな戦争へと発展しつつある。我々に残された道は、静観か戦争だ。だがもし静観すれば、歴史が物語るように、我らが祖国は侵略され、伝統や文化は蹂躙されることだろう。ならば侵略される前に、我々が侵略するしかない。我・・・

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最大多数の最大健康

15/10/04 コメント:2件 alone 閲覧数:778

 カーテン越しの暗さが、まだ夜であることを物語っていた。
 精神と意識の違いはなんだろう。帰りの飛行機で思った疑問が、ふと頭をもたげてきた。
 精神とは、意識とは。定義づけを行おうとするが、思考は遅々として進まない。
 目覚めたばかりということもあるが、主な原因は時差ボケだろう。私は枕元のサイドテーブルからブレスレット型のウェアラブル端末を取り、手首に装着した。生体認証が行われ、・・・

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命を吹き込む

15/09/15 コメント:5件 alone 閲覧数:774

子供のころ、寝るまえに母が話してくれた一匹のトラのお話が大好きだった。
困っているネコの女の子を助けたり、みんなをいじめる悪いライオンをやっつけたり、トラはいつも誰かのために頑張っていた。
悲しくて涙を流したこともあれば、興奮のあまり眠れなくなったこともあった。トラの活躍が知りたくて、もっと話してと母にせがんだこともあった。
トラのお話は面白くて好きだった。でももっと大好きだった・・・

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高等生物の傲慢さ

15/06/24 コメント:2件 alone 閲覧数:823

「ねえ、動物園って何を見るところなの。閉じ込められた可哀想な動物? それとも、その動物を嘲笑いに来ている人間?」
 動物園に入ってすぐ、辺りを見渡しながらキーシャは言った。付き合い始めてから気付いたことだけど、彼女はときどき普通という感覚を軽々と超える。
「なに冗談言ってるんだよ」
 微笑みつつ僕は返した。さすがに本気じゃないと思ったんだ。けれど僕を見るキーシャの眼は、あの眼だっ・・・

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押しボタン旅行記

15/05/29 コメント:2件 alone 閲覧数:842

朝起きると右手の甲に変な数字が浮き上がっていた。
――35:10:21:17:38:13
擦ってみるが消えそうにはない。不思議に思いつつ見ていると、一番右の数字が刻々と変化していた。
13、12、11、……カウントダウンか?
もしや、とあることに気づき、まずは右端の数字がゼロになるのを待つ。
……02、01、00、59。そして右から二番目の数字が37になった。
・・・

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くそったれの地上へ

15/05/07 コメント:4件 alone 閲覧数:890

海に潜って水面の空を見つめながら漂う。
差し込む光が珊瑚や海藻を斑に染めて、隙間を縫うように魚は泳ぐ。
ここには様々な色が溢れ、生命が満ち、輝いている。
地上なんかから離れて、この世界の一部になりたい。
そう考えて、想像する。
肺の中の空気を吐き出して、ゆっくりと沈んでいく。
遠のいていく空。優しく抱いてくれる海。
次第に意識が遠のいていく。脳が酸素を欲し・・・

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チャンス・オン・ザ・テーボ

15/04/09 コメント:2件 alone 閲覧数:921

「俺は十年後のお前だ」
突然現れた男はそう言ってきた。確かに似ているような気もする。けど頭は白髪交じりで頬はこけていた。十年の間に何があったんだ。
「今夜どうしてもやってもらいたいことがある。とても重要なことだ。お前の人生が懸かっている」
男は必死に訴えてくる。わざわざ過去に戻って来てまでしてもらいたいこと。僕なんかに務まるだろうか。
「今日のディナー」男の声が震える。僕は・・・

1

いくら暗くとも、音は聞こえる

15/01/12 コメント:0件 alone 閲覧数:784

音大には才能が溢れていた。寝る間を惜しみ、食事もせず、練習に没頭しても、上には上が必ずいた。
僕の評価は常に、二流。先生の言葉は、否定、否定、否定。
ボウイングがめちゃくちゃ。ポジショニングが悪い。曲の解釈がなってない。そして――才能がない。
いくら練習しても、評価は変わらなかった。才能がない、その判だけを押され続けた。
周りの人間すべてが敵に見えた。嘲り、蔑み、卑しみ……・・・

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アイスマイ、ライキュー

14/12/22 コメント:2件 alone 閲覧数:787

「笑って、優(ゆう)。見送りはそうするの」
空港の出発ロビーで、咲(さき)は荷物を片手にそう言った。
「でも彼らは泣いているよ」
僕は泣き喚く男女を指差した。
「あの人たちは良いの。でも私たちは、別」
そう言うと、咲はとても柔和な笑みを浮かべた。
「じゃあもう行くね。ばいばい」
「うん。じゃあね」
軽く手を振り合って、咲の出発を見送った。
咲は・・・

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“僕”が見つかりません。

14/11/22 コメント:3件 alone 閲覧数:797

「あなたの個性はなんですか?」
そう質問されて、ぼくは答えることができなかった。

  * * *

世間は個性を重視する。けれど個性とは何なのだろう。
個性的と言われる人間は、集団から浮いている人間であることが多い。
一方、集団のなかに溶けこんでいると、今度は没個性的だと言われてしまう。
個性的と没個性的を決めているのは、いつも集団だ。でも、それは・・・

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髪に宿るは、恋

14/11/06 コメント:2件 alone 閲覧数:1250

「何か悲しいことがあったみたいだね」
行きつけの美容院の店長さんは、私の長い髪を見ると言いました。
思い当たることはありました。なぜならそのために私は、この長い髪と別れようと決めたのですから。
「分かりますか」
私はいつも通りの口調で答えたつもりでした。けれどその声は、自分でも初めて聞く弱々しさでした。
「分かるよ。だって髪が泣いているもの」
そう言うと店長さん・・・

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14/08/09 コメント:3件 alone 閲覧数:728

僕はきっと夢を見ているのだろう。

空は真っ赤に染まっていた。「通りゃんせ」がどこからか聞こえてきた。けれど横断歩道は見当たらない。信号も見当たらない。
僕は道の真ん中に立っていた。
道はまっすぐ伸び、他の道と交わっていた。いち、に、さん……五本の道。そこは五叉路だった。
五本の道はどれも直線だった。右に曲がることもなく、左に曲がることもない。ただまっすぐに伸びていた・・・

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『私』の境界線

14/02/03 コメント:9件 alone 閲覧数:1016

目の前に一頭の馬が立っていた。馬は赤毛で、全身が筋肉であると錯覚するような、よく引き締まった身体を持っていた。
私は馬と目が合った。すると馬は語りかけてきた。
「君はここに居てはいけない。もうすぐ『死』が来る」
おそらく馬はただ嘶いているだけなのだろう。しかし不思議とその声は、私のなかで人間の言葉に変換されていた。
「君は逃げなければならない。さあ私に乗りなさい」
馬・・・

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絶望は産声とともに

14/01/29 コメント:7件 alone 閲覧数:1049

ずっと母親の羊水のなかで眠っていたかった。
永遠に思える微睡み。現にそれは私にとって永久に続く営みだった。
眠り、揺られて、母親の温度を肌に直に感じた。
この永久は終わらないでほしいと思った。
この眠りから覚めたくはないと思った。
終わりなき眠りは私を満たした。羊水が身体の隅々にまで渡っているように、私のなかを安堵の睡眠が満たしていた。
目覚めたくない。それは切・・・

5

今日の天気は晴れ、ところによっては魚の雨でしょう

14/01/05 コメント:6件 alone 閲覧数:921

「神様! 大変です!」
「ん? どうしたの、曇り空くん?」
「実は青空のやつが、『毎日毎日働かされて、これじゃ過剰労働だ』って言って飛び出してしまったんですよ。おかげで青空の空けたシフトを、いまは雨や雪や嵐が駆り出されて埋めている始末です」
「えっ、青空くんが? そりゃあ困ったなぁ。それで彼はどこに行っちゃったの?」
「それが――人間界なんですよ」

その日、世・・・

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雪は知っている

13/12/12 コメント:8件 alone 閲覧数:1725

ソノは思いつく限りの防寒着を身に着け、ひざ掛けの上に手袋をつけた手を乗せ、僕が押す車いすに座っていた。
「今日はやっぱり寒い?」
こちらを振り向くことなく、ソノは僕に訊ねた。僕は車いすを押す手を止めることなく、押したまま答える。
「そうだね。少し肌寒い」
「そう……」
ソノは寂しそうな音を含んだ声を漏らし、そのまま黙った。
乾燥した空気が冷たい風に揺り動かされる・・・

2

僕は夢を見た、という夢を……

13/12/07 コメント:2件 alone 閲覧数:1003

夢を見た。
夢を見た、という夢を見た。
夢を見た、という夢を見た、という夢を見た。
……。


目を覚ますと、彼女が僕の隣で寝ていた。
彼女は下着だけを身に付け、静かに寝息を立てている。
陶器のような白い肌。まるで彫刻のようだ。触れてはいけない美しさがあるように感じられる。
僕は静かに手を伸ばし、彼女の顔にかかる髪に触れようとした。
さら・・・

2

彼に幸あれ

13/12/01 コメント:2件 alone 閲覧数:1001

薄暗い部屋のなか、コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれ、俺は椅子に縛り付けられていた。
小さなはめ殺し窓から、雲越しの薄い月明かりが入り込んでくる。
暖房器具なんてなく、足元からしんしんと寒さが這い上がってくる。
寒い。……けれど、俺はこの罰を受けなくてはいけない。
すべては俺が悪いんだ。あのとき俺がしたことが、彼をこうしてしまったのだ。

時は中学時代に遡る。・・・

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君の葉を重ねて

13/11/08 コメント:11件 alone 閲覧数:1612

注文していたものが店員の手により僕たちのテーブルに届けられる。
僕の前には一杯のコーヒー。遥(はるか)の前には紅茶とミルフィーユ。
僕は湯気の立ちのぼるコーヒーカップを取り、一口啜る。遥はフォークの先でミルフィーユの表面を撫でながら話し始める。
「ねぇ、人間って、ミルフィーユと同じだと思わない?」
何の脈絡もなく発せられたその言葉に、僕はコーヒーを手にしたまま固まってしまう・・・

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白い糸

13/10/14 コメント:0件 alone 閲覧数:1180

ねえ、白い糸の噂って知ってる? 赤い糸は運命の糸って言うでしょ。でも白い糸は不幸の糸なんだって――

気怠い半身を起き上がらせる。頭に残る反響音のような鈍痛。どうやら昨晩のアルコールの置き土産らしい。
俺はぼやけた意識のなか、額をさする――と、そこで視界で揺れる変なものに気づく。
なんだこれ?
カーテン越しの薄明に照らして、右手にぶら下がるものを見る。
白い糸。・・・

5

恋の色、君の色

13/10/04 コメント:7件 alone 閲覧数:1467

道行く人々、取り囲む建造物、雲を抱える空。
生まれてこのかた僕の目には、すべてのものがモノクロに映った。
けれど――君は違った。君だけは、色を持っていた。


大通りを進むなか、僕は異常な色をした女性を見た。
白でも黒でもない。僕がまったく知らない色。とても美しい、輝き放つ色。
僕は無意識に駆け出した。そうせずにはいられなかった。
人混みを掻き分け、・・・

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私だけの、小さなアイドル

13/09/19 コメント:0件 alone 閲覧数:1059

私が夕ご飯を作るとき、キッチンはコンサート会場になる。
観客は私。舞台はキッチンの床のうえ。そして主演は五才になる娘のハナ。
ハナは流行りの歌を歌い、キッチンの床のうえを飛び跳ねて踊る。気分はまさしくアイドルだ。
トン、トトン――。
ハナは楽しそうにステップを刻み、小気味よくキッチンの床を鳴らして踊った。
でも、もうそのステップは聞こえない。すべてはあの急ブレーキに掻・・・

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ネットアイドル

13/09/12 コメント:0件 alone 閲覧数:1169

学校から帰るとすぐにパソコンを起動して、私はいつものように生放送を始めた。
特に中身のない、ずっと喋っているだけの放送。人気があるわけではないけど、数名の常連さんさえ居てくれれば私には十分だった。
画面を「かわいい」や「マジ天使」などの言葉が流れていく。彼らは私を肯定してくれる。それが私には救いだった。


「おい、クソ原〜。口臭いから息すんなよ」
いつものよう・・・

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温もりの海の中で私は待ち望む

13/09/04 コメント:3件 alone 閲覧数:1198

トクン……――。トクン……――。
トクン……――。トクン……――。

絶え間なく同じ間隔で刻まれるリズムが、温もりの満ちた海に浸透していく。
音色は海の中に強く響き渡り、深く深くどこまでも息づいている。
そこで私は微小な存在として、意識を確立した。
右も左も、上も下も、前も後ろも、何も分からない。
ただただ、同じ間隔で伝わる音の染み入る海の中で、私はその音・・・

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貧しさと幸福のユーフォニー

13/08/18 コメント:2件 alone 閲覧数:1248

「はい、どうぞっ」
少女は私にひと欠片のパンを差し出した。その手は貧しい生活のために細くやつれてしまっている。
「ありがとう」
私は礼を言い、彼女の細い腕から小さなパンの欠片を受け取った。
食にありつけるかも分からない日々の中で、少女がやっとの思いで手に入れたパン。そんなにも大切なパンを、手に入れる度に少女は私に分け与えてくれた。
だが、私は食べなくても死ぬことはない・・・

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無口なお喋りお父さん

13/07/19 コメント:0件 alone 閲覧数:1117

私のお父さんとお母さんは不思議な夫婦だ。だって二人は言葉のやり取りをまったくしないから。
お母さんが何を話しかけても、お父さんは何も喋ろうとしないで、ずっと無口に黙っている。
私が今までに見たお父さんの喋っていたところなんて、指の数にも満たないと思う。
それだけお父さんは無口な人だった。――――――でも、お母さんにとっては違うらしい。


私は食卓テーブルに座り・・・

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正解なき世界

13/07/06 コメント:4件 alone 閲覧数:1440

「検査結果が出ました」先生は感情を殺したような声で言った。「その結果、あなたのお子さんには先天的な病気があることが分かりまして……」
「先天的な病気……?!」
「はい……分かりやすく言えば、生まれてくるお子さんは障がい児ということです」
障がい児……? あの……しょう、がい、じ……?

私は我に返った。周囲を見渡すと、そこは病院の待合室。固めの長椅子が私の身体を支えて・・・

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謎を愛す名探偵諸君へ

13/06/29 コメント:6件 alone 閲覧数:1481

類まれなる優れた頭脳を備えた名探偵の諸君。ごきげんよう。
私は盗みを生業としているのだが、最近仕事に面白味が欠けてな。何かおもしろいことはないかと考えていたら、君たちとのゲームを思いついたというわけだ。
これから君たちにはある問題を解いてもらおうと思う。その答えこそが、私がこれから盗むもののヒントというわけだ。
どうだい、面白いゲームだろ?
もし君たちに私の謎が解けなければ・・・

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探偵だけでは成り立たない

13/06/21 コメント:10件 alone 閲覧数:1753

名探偵さえいれば事件が解決すると思っては居ないだろうか? もしそうなら、それは甘すぎる考えというものだ。推理小説世界はそんなにも甘くはない。
もちろん名探偵というのは華となる主人公であり、彼が事件を解決することがメインなのだが、探偵と事件だけというのでは芸がない。
皆さんもお知りだろうが、シャーロック・ホームズに登場するジョン・H・ワトスンしかり、エルキュール・ポアロに登場するアーサー・・・

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僕と愛犬と賢者の石

13/06/21 コメント:2件 alone 閲覧数:1254

僕は天才だ。しかし先天的なものではない。



僕は昨晩から手掛けていた論文をようやく書き上げることが出来た。
机の端に置かれた時計を見てみると、もう朝になっていることを告げている。どうやら論文ひとつに徹夜してしまったらしい。
だいぶ時間がかかっちゃったな。やっぱりわざわざレベルを下げて書かなくちゃいけないのは面倒だな。当たり前のことを改めて書かないといけないな・・・

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時は短し選べや決めろ

13/06/04 コメント:6件 alone 閲覧数:2503

この度の戦場は、○×中学食堂脇にありし券売機の前。
許されうる時間は、わずか十数秒。
決着は一瞬。誤れば、味わうは後悔という敗北の味。
選ばねばならぬ。どちらを。
今日の昼食。A定食か、それともC定食か……。

私は券売機前に連なる長蛇の列に身を置きながら悩みに悩んでいた。
今日の昼食、どちらにすべきか。
量りに掛けられたるはA定食とC定食。どちらも・・・

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親父のラーメン

13/05/29 コメント:2件 alone 閲覧数:1290

俺はラーメンが大っ嫌いだ。味の好みの問題ではなく、ラーメンというもの自体が嫌いなんだ。
その原因は分かり切っている。それは、俺の家がラーメン屋だからだ。
周りの友達の親はサラリーマンだとか医者だとかまともな職業に就いているのに、うちはラーメン屋。恥ずかしくって言えたもんじゃない。
しかも、いくら両親二人でラーメン屋を切り盛りしたって、うちは万年貧乏だった。小さい頃からゲームなんて・・・

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言葉の波止場

13/04/30 コメント:0件 alone 閲覧数:1264

すべて会話文になっています。

**************************

題名:「『普通』ってなんだよ」


「なあ」
「ん? 何だよ?」
「思うんだけどさ、『普通』っておかしくね?」
「ふつう? 『ふつう』って、あの『普通』か?」
「おそらくお前が今考えてるであろう、『普通』だな」
「『普通』ねぇ。で、それがな・・・

4

新たな門出

13/04/28 コメント:5件 alone 閲覧数:1439

私は八十歳を迎えた矢先、おまけに死も迎えてしまった。その呆気ない終わりに、自分でも驚いてしまうほどだ。
実際、いまだに目の前に横たわっている死体が自分であったとは思えない。実は私には双子の兄弟がおり、彼が死んでしまったのだ、とでも言われた方がまだ信じられるというものだ。しかし、目の前にあるのは完全に私の肉体であり、その傍らで私は魂だけとなっていた。
私は死体を残して外に出てみた。幽体と・・・

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忘れられない瞳

13/04/18 コメント:3件 alone 閲覧数:1309

 とても小さい頃、私は父の手にひかれて、雷門を訪れたことがあった。
 初めて見た雷門の巨大な赤提灯は、私の想像をはるかに超えた大きさをしていた。
 あの下をくぐっていく時、もしあの赤提灯が落ちてきたら僕はどうなってしまうのだろうか。
 そんな変な想像をして、ひとりで変に緊張してしまったのを今でもよく覚えている。
 しかし、雷門の思い出として最も胸に刻まれたのは赤提灯ではなく・・・

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冒頭

13/04/13 コメント:6件 alone 閲覧数:1608

 ――この手紙を読んでいる頃には、もう私はこの世にはいないでしょう。
 これは、家出少年の書置きに綴られた「捜さないでください」と同じくらい、お約束の言葉だろう。テレビや映画では穴が開くほどに使い回されてはいるが、今でも涙を誘う効力は衰えていない。
 しかし、それは実際に死んでしまった場合である。書いた本人が目の前で病気と無縁な元気な姿でいると、滑稽であることこの上ない。
 俺は・・・

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