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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

出没地
趣味 読書、 演劇鑑賞(特に宝塚)、 空想(妄想)、 愛猫(プロフィールの写真参照)と遊ぶこと
職業
性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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あるニャン事訴訟

17/07/16 コメント:7件 光石七 閲覧数:281

 右手の甲に痛みと赤い筋が走った。――このバカ猫! 鬱憤が爆発し、私は即座にニャン事訴訟を起こした。K島ニャン裁M出張所はその場で受理してくれ、夕方からの審理が決まった。

「平成二十九年(ニャ)第22号。原告 七石ヒカリ、被告 七石ちー」
 私は静かに原告席に座った。ちーはニャン護士に抱きかかえられ被告席へ。訴えられているのに呑気に欠伸、毛繕い。私が睨んでもどこ吹く風だ。ほどな・・・

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失われた休日

17/06/05 コメント:8件 光石七 閲覧数:308

 尿意を感じて目が覚めた。……背中が痛い。ぼんやりしたまま起き上がり、また床で寝ていたことに気付く。空き缶や空瓶、ビニール、プラスチック容器などが散乱する部屋をふらつく足取りで進み抜け、トイレに入り用を足した。
(俺、やっぱ生きてんなあ……)
 部屋に戻り、テーブルの上の飲みかけのカップ酒を喉に流し込んだ。次の酒に手を伸ばそうとしたが、どれも中身を飲み干した後だった。ふらふらと台所に行・・・

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誘引

17/05/08 コメント:0件 光石七 閲覧数:252

 幼い兄妹が森で迷子になった。泣きじゃくる妹を兄は懸命に慰める。
「大丈夫だよ、帰れるから」
 兄は妹の手を引き、帰り道と思しき道を歩き始めた。だが、それは帰り道ではなかった。兄妹は更に森の奥へと進んでいたのである。
 歩けども歩けども、鬱蒼とした森が続くばかり。疲れと空腹が兄妹を支配していく。
「お兄ちゃん、あれ……もしかして誰かのおうち?」
「ホントだ、行ってみよ・・・

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『乙姫』と『儀式』

17/04/24 コメント:2件 光石七 閲覧数:265

 部屋に響く赤子の泣き声の三重奏。八度目の『儀式』も実を結び、私は安堵した。いきみ続けた体はもう指一本動かすのも億劫だ。
「乙姫様、お疲れ様でございました。当分ゆっくりなさって下さいませ」
 二名の世話係のみを残し、侍女たちが退出していく。生まれたばかりの三つ子もそれぞれ乳母に抱かれて出ていく。私は子供の養育には関与しない。それは『乙姫』の役目ではないからだ。
 海中に暮らすわが・・・

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一番の失敗は

17/03/27 コメント:4件 光石七 閲覧数:275

 我ながら損な性分だと思う。日頃散々迷惑を被ってるのに、たった二日音信不通なくらいで心配してアパートを訪ねるなんて。でも、彼女は着信や受信に気付いたら必ず折り返してくるはずなのだ。担当編集者としての立場や責任も勿論あるけれど、腐れ縁の幼馴染への情に突き動かされていると自覚する。
 表札プレートに書かれた『ナーナ・レイザーストーン』の文字。生粋の薩摩オゴジョのくせに、この変なペンネームを生活全・・・

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『タコ唐八ちゃん』のキセキ

17/03/12 コメント:5件 光石七 閲覧数:466

 Q県の駄菓子メーカー『青丸製菓』は危機に直面していた。一番の取引先である地域大手のスーパーが全店舗で契約を打ち切ると言ってきたのだ。
 主力商品は『タコ唐(から)八ちゃん』だが、知名度と人気は今一つ。新商品の開発にも取り組んでいるが、どれも鳴かず飛ばずで売上向上には結びついていない。新たな販路開拓を期待して起ち上げたオンラインショップは、年に数件小口の受注があるのみ。先行きの見えない弱小企・・・

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『ばいせくる』の遺言

17/02/27 コメント:5件 光石七 閲覧数:352

 美術室で一人、石膏の胸像をモデルにデッサンを繰り返す。美術部には十人ほど在籍しているが、半分は幽霊部員で残りの連中も気が向いた時しか来ない。真面目に活動しているのは僕くらいだ。顧問の美術教師は基本放任主義、でもこちらが助言を求めればちゃんと指導してくれる。今週は三者面談で忙しいらしく、まだ一度も描いた絵を見てもらっていない。
 かく言う僕も今日が三者面談だった。第一志望に書いたT大医学部は・・・

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彼の〈304〉

17/01/29 コメント:3件 光石七 閲覧数:387

 菅の提案に藍田は感心したように頷いた。
「北欧調の中にオリエンタルテイストを混ぜ込む、か。なるほど」
「暖炉を活かしつつ、ありきたりな構図は回避できるかと」
 藍田は食品加工会社の社長、菅は家具やインテリアのレンタル会社の社員だ。前任者から藍田の会社とのリース契約の担当を引き継いで二年、菅は定期的に藍田のもとを訪れている。だが、今回の呼び出しはいつもとは違う。
「別荘をペ・・・

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優しさの復讐

17/01/16 コメント:5件 光石七 閲覧数:599

『  ぼくのお母さん    二年二くみ 木山なおき
 ぼくのお母さんはかえでという名前です。いつもニコニコしていて、ぼくのすきなりょう理を作ってくれます。ぼくがすきなことをさせてくれます。
 ぼくを生んでくれたお母さんは三年前にしんでしまいました。ぼくはかなしくて、さびしくて、何どもなきました。でも、今はかえでお母さんがいるのでさびしくありません。
 ぼくは何でもしてくれるやさし・・・

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サンタさんへの手紙

16/12/17 コメント:2件 光石七 閲覧数:376

 タク君は今日も学校でサンタさんに手紙を書きました。サンタさんへの手紙はタク君の秘密の日課です。いよいよクリスマスが近づいています。
 手紙をポストに入れて帰る途中、橋の上で釣り糸を垂らすおじさんがいました。
(近頃ここ通るたびにいるけど……)
 タク君はおじさんに声をかけてみました。
「あの、いつも何を釣ってるんですか?」
「クリスマスツリーです。うちは貧乏で買えな・・・

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捨て台詞を笑う者は捨て台詞に泣く、かもしれない

16/11/21 コメント:10件 光石七 閲覧数:759

 ある日の午後、丸跋交番に一人の青年が訪れた。
「落とし物を届けに来ました」
「どうぞ、こちらにお掛けください」
 新米警官の沢津はにこやかに椅子を勧めた。先輩の矢内は午前中の物損事故の書類を仕上げている。
「さっき、バイト帰りに拾ったんです」
 背中からリュックを下ろし、青年が話し出す。沢津は拾得物件預り書を用意し、机を挟んで青年と対座した。
「星印書店の脇の・・・

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平和にまつわるとある愚話

16/11/07 コメント:0件 光石七 閲覧数:422

 昔々、ビッグバンが起こるよりも前のこと。そこには、今の宇宙とは別の宇宙が広がっていました。その宇宙の中に、今の地球によく似た惑星がありました。住人の姿も、動植物も、地球と似ていました。
 その星の人々は科学を発達させ、医学で病気を克服しながら、便利で豊かな生活を手にしていきました。しかし、人々がどうしても解決できない問題が一つありました。戦争です。その星の人類史は、そのまま戦争の歴史でもあ・・・

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ママの平和はボクらの不幸

16/11/04 コメント:2件 光石七 閲覧数:424

 ママが寝息を立て始めた。ボクは寝たふりをやめて、そっとベッドから抜け出した。忍び足で廊下に出る。
「ゴウ兄ちゃん……?」
 小声で呼ぶ。リビングにはいないようだ。キッチンに移動して、もう一度呼んでみた。
「ハヤト、ここだ」
 戸棚の陰からゴウ兄ちゃんが姿を見せた。
「ゴウ兄ちゃん……ごはん食べた?」
「食えるもん食った。心配すんな」
 ゴウ兄ちゃんは明る・・・

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覆水盆に返らず

16/10/10 コメント:3件 光石七 閲覧数:432

 学生時代に所属していたイベント企画サークルには伝統的な余興ネタがいくつかあり、コント『タイムマシン』もその一つだった。
 登場人物は博士と助手の二人で、遂にタイムマシンが完成したというところから話は始まる。完成に至るまでの苦労話をテンポよくやりとりし、グラスにジュースまたはビールを注ぎ、乾杯して共に一気飲みする。グラスを空にした後、さっそくタイムマシンを試してみようと一緒に五分前に戻る。す・・・

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Monologue for myself, including some omissions and some lies

16/09/12 コメント:11件 光石七 閲覧数:1422

世の中に絶対なんてものは無い。
形あるものは姿を変えゆき、
人の心も移ろう。
常識は時代や場所によって非常識へと変わり、
強者と弱者、
栄える者と衰える者、
立場と状況はめまぐるしく入れ替わっていく。

絶対じゃないものを絶対であるかのように錯覚するから、
裏切られたと思うのだ。
落胆する者、
悲嘆する者、
憤る者、
反・・・

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迷作パピプペポ劇場 episode7.3214

16/08/15 コメント:7件 光石七 閲覧数:610

 国境の長いトンネルを抜けるとパピプペポだった。
「着いた……!」
パピプペポは歓声を上げた。車窓から見えるのは紛れもない夢の国だ。長旅の疲れも吹き飛んだ。
「着いたぞ! パピプペポに着いたんだ!」
「着いたのね! 私、貴方とここで生きていくのね!」
パピプペポの隣に座る恋人も興奮している。
「ああ、パピプペポのパピプペポによるパピプペポのためのパピプペポ! も・・・

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エア

16/07/18 コメント:9件 光石七 閲覧数:595

 洗面を済ませ着替えてリビングに行くと、今朝も千沙は対面式のキッチンでいそいそと動き回っていた。
「おはよう。朝から張り切ってるね」
声をかけると、千沙は手を動かしたまま微笑んで答える。
「玲音がアンパンジャーのお弁当がいいって言うから」
カウンターの奥を覗く。青い小さな弁当箱の中央に戦隊物のキャラクターの顔が鎮座している。鮭フレークを混ぜたおにぎりに各パーツ形に切ったチー・・・

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雨に濡れれば

16/06/20 コメント:9件 光石七 閲覧数:722

 時々、無性に“渇き”を覚えることがある。のどの渇きではない。のどの渇きなら、水なりジュースなり何か飲めばおさまる。そうではなく、体全体、細胞一つ一つが“潤い”を渇望している感じなのだ。夏の暑い日に経験する、体から水分が抜けて干からびそうな感覚と似ているようで全く違う。季節や天候、時間帯、場所などは関係ない。肌から“潤い”を浸透させたい気がするが、化粧水をつけたところで“渇き”はおさまらない。お風・・・

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What a beautiful world,but...

16/05/09 コメント:7件 光石七 閲覧数:690

 フウの目を治したい――。それは僕が願ったことで、何よりフウ自身が望んでいたことだった。手術は成功した、はずだった。目の包帯が取れた日、フウは初めての光の刺激に戸惑いつつも、もうじきこの世界のあらゆるものの色形をはっきり捉えることができるんだと、期待に胸を膨らませていた。だが、その三日後……。僕にはわからない。何故フウがあんなことになってしまったのか。

 僕がフウと初めて出会ったのは・・・

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ラ・シャルール・ドゥ・ノアール ―黒の温もり―

16/04/25 コメント:14件 光石七 閲覧数:964

 本当の理由は誰にも言わないし、言えない。強いて言うなら、悪いのは私だということ。誰のせいでもない、私が弱かっただけ。
 抗うつ剤なんて、飲んでも飲まなくても一緒だ。私が本当は何に絶望していて、心の奥底で何を思っているのか、私はあえて誰にも伝えない。
「私なんかが生まれてきたのが間違いだった」
「生まれてくるんじゃなかった」
「なんで私を生んだの?」
生み育ててくれた・・・

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彼と共に棲んだもの

16/03/14 コメント:13件 光石七 閲覧数:841

 普段温和で優しい主任の険しい表情。僕のミスのせいで、顧客の自宅で二時間も怒号を浴びる羽目になったのだ。最後は先方もこちらの謝罪を受け入れ笑顔を見せて下さったが……。
「直帰の許可が出た。晩飯食って帰るか」
顧客宅を出て部長に電話報告した後そう言ったきり、主任は黙って僕の前を歩く。バスの中でも無言。駅前の定食屋に入ってビールと定食を頼んだものの、主任はしかめっ面で宙を睨んでいる。この状・・・

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ギャンブルなんてやりません ―徒然なるままに駄文―

16/02/29 コメント:13件 光石七 閲覧数:853

 困った。今回のテーマは【ギャンブル】である。まあ、毎テーマ何かしら頭を抱えてはいるが、それはさておき。
 ギャンブル、ねえ……。夜な夜な愛猫ちーちゃんを強引に布団に引きずり込んで手籠めにし、遊びに来た甥っ子姪っ子におやつのおすそ分けをねだる品行方正な私には、全く以て無縁である。これほど私に縁の無いものがあろうか。……いや、それを言うなら『結婚』や『モテ期』のほうがはるかに縁遠い。この世に生・・・

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しょっぱい玉露

16/02/15 コメント:10件 光石七 閲覧数:935

 どうやら明日、世界は滅ぶらしい。昼休みとなり、ディスカウントストアで買った安いおにぎりにかぶりつこうとしたら、休憩室の片隅のテレビに速報のテロップが流れた。くだらない昼のバラエティ番組を映し出していた画面が切り替わり、某国の科学者のコメントが同時通訳で生中継される。それだけではよくわからなかったが、その後の日本のスタジオでの解説で大まかな状況が呑み込めてきた。何でも、新たな宇宙の泡が生まれようと・・・

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一妄想家のたまゆら純文学論もどき

16/02/01 コメント:10件 光石七 閲覧数:862

 少し肌寒い微風が黄金色のトンネルを揺らす。枝から離れた黄葉が力尽きた蝶のように舞い落ち、先に地面で眠る仲間たちの上に重なる。銀杏並木を歩きながら、ニャツミは物寂しさを秋のせいにしようと努めた。ニャオキとの結婚を控え、幸せなはずなのだ。一番辛い時に傍にいてくれたニャオキ。これからも変わらぬ愛で自分を守ると誓ってくれ、ニャツミもニャオキを信じている。なのに、何がこんなに不安なのだろう。
 前か・・・

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魔法の鏡は少し外れた音を奏でるけれど

16/01/18 コメント:12件 光石七 閲覧数:955

 外は小雪が舞っている。あの日のように。僕はお気に入りの椅子に腰かけ、コーヒーを啜った。
「おはようございます。寒いですね」
恋奈君が出勤してきた。いつものようにすぐ店の掃除に取り掛かるかと思いきや、綺麗にラッピングされた小箱を僕に差し出す。
「これは?」
「わかりませんか? 今日はバレンタインデーです」
恋奈君が呆れたように言う。
「そうだっけ?」
「も・・・

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違和感

16/01/04 コメント:12件 光石七 閲覧数:942

 今日も首相官邸に側近たちが集い会議が始まる。場を仕切るのはやはり第一首相補佐官である根古川先生。私は首相秘書として部屋の隅に控える。
 ……ずっと根古川先生を信じてついてきた。先生の理想が私の理想で、それは現実のものとなりつつある。だけど……
「では、元Q県議の井沼衣良武も殺処分に」
革命の中心人物だった根古川先生の提案は決定事項と同義だ。……もう何人目の粛清だろう? 側近たち・・・

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モモの憂鬱な日

15/10/19 コメント:20件 光石七 閲覧数:1080

 サチヨの指が毛並みをかき分け、肌を心地よく刺激する。アタシはサチヨの膝で眠りかけていた。
「あ、誰か来た。モモ、ごめんね」
サチヨはアタシをソファに移すと、玄関へ向かった。……寝よ。体を丸める。
「まあ、ヒロ君。いらっしゃい」
「ばあ!」
「ヒロ、先にじいにナンマンダァ」
……聞き覚え……ある……声……ZZZ
「にゃんにゃん!」
間近での大声にビク・・・

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私だけのアニメは ―断片的かつ微妙なmy historyっぽい話―

15/09/21 コメント:19件 光石七 閲覧数:1279

 それらのアニメにはタイトルが無かった。ストーリーも定まっておらず、途中で巻き戻って別な展開に進むこともしばしばだったし、未完のまま打ち切られるものも多かった。それらのアニメを観ていたのは私だけだった。作っていたのも私。私の思い描くキャラクターたちが、私の望むストーリーに沿って、私のイメージする絵柄で動き、私の思う声で喋る。その時その時で漫画やテレビなどの影響を受けながら、私は一人の少女を主人公に・・・

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ささやかな祭事

15/09/07 コメント:8件 光石七 閲覧数:857

 蓮掛祭名物の山車行列は勇壮できらびやかだった。締めの花火も豪華で美しい。でも……
「純君、どこ見てるの?」
深月さんが女神のような微笑みを僕に向ける。
「え、その……う、うちの田舎のチャチな祭りとは全然違うなあって思って……」
深月さんに見惚れてました、なんて言えず、咄嗟に口から出たのは変な感想もどき。浴衣姿の深月さんはいつもに増して艶やかだ。この美人の先輩が僕の彼女だな・・・

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ある改心

15/08/24 コメント:17件 光石七 閲覧数:1276

 ペシュ刑務所の死刑囚監房に一人の青年が収監された。テオ・ニネーム、殺人犯だ。四人もの命を奪ったにもかかわらず、テオには罪悪感も後悔も皆無だった。
「被害者の遺族に謝罪の手紙を書いたほうがいい。彼らの悲しみと憤りを少しでもなだめるんだ。反省してる姿勢を示せば裁判官の心証も良くなる。極刑を免れることができるかもしれない」
拘留中弁護士が助言したが、テオは聞く耳を持たなかった。
「な・・・

8

ナトシオア王朝終焉の内幕

15/08/10 コメント:11件 光石七 閲覧数:951

 弟を見舞った王ラトは宮廷医の言葉に愕然とした。
「ルーは二度と歩けぬと……?」
「恐れながら陛下、毒に神経を侵されたため御御足が……」
「そなた医者であろう? 治せぬのか? ルーはまだ十四、これからが……」
「申し訳ございません」
宮廷医はうなだれる。
「兄上、責めないであげて。命は助かったんだし」
従者に支えられながらベッドに腰掛けていたルーが口を挟ん・・・

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瞳の行方

15/07/27 コメント:8件 光石七 閲覧数:909

 ナディは侯爵家の一人娘として生まれ、大切に育てられた。
「何て綺麗なお嬢さんでしょう」
ナディを見た者は皆、口を揃える。
「きっとこの美しさに嫉妬した女神が、ナディ様の目から光を奪ってしまったのですわ」
ナディは生まれてすぐの高熱が原因で失明した。しかし、屋敷の者たちは彼女を心から慈しんで育てた。
 十五歳になったナディは社交界にデビューした。目の見えないナディの傍・・・

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掃除機は人に向けてはいけません

15/07/13 コメント:10件 光石七 閲覧数:1070

 隣でマニキュアを塗る女。その様子を横目で見ながら、そっとため息を吐く。このバンには空気清浄機能が付いてるから臭いは抑えられてるけど……普通、家でやるものでしょ? 大体なんで今なの? 私たち、清掃の仕事に向かってるんですけど。まったく最近の若い人は……。
「イラさん、この仕事初めてよね? 何か不安なこととか聞きたいこととか無い?」
心中を隠して笑顔を作り、新人を気遣う優しい先輩を演じて・・・

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幸か不幸か

15/06/29 コメント:8件 光石七 閲覧数:1157

 バイトを終え、俺は一人夜道を歩き出した。俺の給仕が下手で服にソースが付いたと客に文句を言われ、対応が大変だった。
(クリーニング代、結局俺の給料から引かれるのかよ。マジきついって)
うちは代々医者の家系で、両親も共に現役の医師だ。兄貴は国立大医学部在学中。俺は二浪の末医学部を諦め、理工学部に進んだ。元々家族から落ちこぼれだと見下されていた俺だが、留年が決定したことで完全に愛想を尽かさ・・・

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移ろひやすきは

15/06/15 コメント:15件 光石七 閲覧数:1458

 染野の手が好きだ。あたしを撫でる優しい手が。染野の声が好きだ。「ふく、おいで」とあたしを呼ぶ温かい声が。染野の匂いが好きだ。染野の胸に抱かれると、伽羅の香りにほんのり甘さが混じって鼻孔をくすぐり、心地良い。染野と会えない時間は寂しいが、染野は客を見送ると真っ先にあたしの元に来て抱き上げてくれる。
「男よりふくのほうがええ。しなやかでやわらこうて。その赤い首輪、よう似合うてる」
あたし・・・

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未だ消えぬ影

15/06/01 コメント:11件 光石七 閲覧数:1354

 中途採用者の歓迎会はそこそこ盛り上がった。あまり飲めない私もノリで二次会まで参加し、楽しく過ごせた。でも同僚たちと別れて一人になると、一気に心細さや不安が押し寄せてくる。仕事や歓迎会の間は忘れていられたけど、今日は……。さっき駅で見た時計は午後十一時前だった。あと一時間……。ついカウントダウンしてしまい、余計に心がざわつく。
(コーヒーでも飲んで落ち着こう)
帰り道の途中にある自販機・・・

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Flog in a Well

15/05/18 コメント:8件 光石七 閲覧数:968

 僕がアンナと出会ったのは六つの時だった。鉱物商の父に連れられて訪ねた小島の研究所。そこの責任者レン博士の一人娘がアンナだった。
「実験の途中なのに」
仏頂面で連れて来られた白衣姿の七歳のアンナ。彼女が三歳で化学式を理解し父親の研究を手伝い始めた天才少女で、すでに独自の研究にも着手しつつあったことなど、当時の僕は全く知らなかった。一緒にいても難しい言葉を並べるアンナに僕は戸惑った。

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三匹目の子豚

15/05/04 コメント:12件 光石七 閲覧数:1619

 昨夜は眠れなかった。授業が始まっても菜緒の心は落ち着かない。
「内木、聞いてるのか?」
国語教師に注意された。すみません、と菜緒は小声で応える。
「まあ、大上の件でみんなもショックを受けてるだろうが……」
先週このクラスの生徒 大上彩がP駅の階段で転落死した。現場に居合わせた通行人が「足を踏み外すのを見た」と証言し、事故として処理された。だが、菜緒は知っている。彩は殺され・・・

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三匹の子ブタたち

15/05/04 コメント:2件 光石七 閲覧数:917

 むかしむかし、あるところに、ブタの家族が住んでいました。お父さんブタとお母さんブタ、そして三匹の子ブタたちです。兄弟たちの名前は、一番上がピガー、真ん中がピギー、一番下がピグーといいました。三匹はお父さんとお母さんの愛情を受けて、すくすくと育ちました。
 ある日、お父さんとお母さんが兄弟たちに言いました。
「お前たちはもう大人だ。家を出て、それぞれ暮らしなさい」
 三匹の子ブタ・・・

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ミッション・ニャンポッシブル

15/04/19 コメント:20件 光石七 閲覧数:1661

 まひるちゃんは優しいけどママは少し怖い。柱や障子で爪をといだり机や調理台に乗ったりしたら大目玉だ。でも、このミッションを遂行しないと僕は一人前のぬこレンジャーになれない。ママが自分の夕飯をテーブルに並べてる。僕はおかずのサンマを横取りする機会を窺っていた。

 この町で悪の組織『ダークラッツ』と戦う『肉球戦隊ぬこレンジャー』。元は『ぬこホワイト』こと白玉さんと『ぬこブラック』こと墨丸・・・

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ある母娘の春休みの一コマ

15/04/06 コメント:8件 光石七 閲覧数:950

 義母は最後まで不満げだった。
「母親ってだけで親権はあっちだなんて。晃が引き取ったほうが経済的にも安心だし、私も面倒見るのに。学校に上がってもこっちなら歩いて五分で行けるのよ。知美さん、実家で生活するんでしょ? お母様、田舎で一人細々と暮らしてたのに大変よねえ。萌ちゃん、お友達と別れて寂しいわよ。苦労しそうだし、可哀そう」
ようやく夫と義母から解放される。春になる前に離婚が成立してホ・・・

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赤い雫に溶けたもの

15/03/22 コメント:12件 光石七 閲覧数:1159

 一一〇番の声は弱々しかった。
「夫を殺してしまいました……」
現場のマンションで警官を迎えたのは美しい女だった。乱れた髪、血で赤く染まった服。青白い頬にも血が付着している。
 奥の部屋に男が倒れていた。目を開けたまま苦悶の表情を浮かべているが、本来は美男子だろう。腹部からの出血がひどく、床に大きな血だまりができている。傍らにボイスレコーダーと血のついた包丁が転がっていた。

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夢の渋谷ジャック

15/03/10 コメント:7件 光石七 閲覧数:1067

 『緑茶カフェ園畑』オープン一週間前。カフェとしても利益を出し、わが『園畑製茶』の知名度を上げて全体の売上を向上させる。九州の片田舎の零細企業の小さな挑戦、不安と緊張の日々が続く。
「お疲れ様」
夜遅く帰宅した俺に、お袋が煎茶を淹れてくれた。親父の介護で疲れてるだろうに。ありがたく頂戴した。
「……うん。うちのお茶は最高だ」
お袋が笑顔で頷く。先祖代々の茶畑と製茶工場。一度・・・

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九分九厘あり得ぬ話

15/02/22 コメント:17件 光石七 閲覧数:1754

 あの男がこのような暴挙に出ようとは。秀吉の援軍に向かわせたはずが主君を奇襲。信長は歯噛みしつつ、なだれ込んでくる兵に矢を放つ。
(光秀……!)
弓が折れ、信長は薙刀に持ち替えた。近づく兵を切りつけ、突き刺す。鉄砲の弾が信長の肩をかすめた。敵勢は更に押し寄せてくる。信長は応戦を諦め部屋に下がった。寺に火を放つよう蘭丸に言いつけ、奥の小部屋に向かう。
(ここで果てようぞ)
戸・・・

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ショパンの呪い

15/02/08 コメント:11件 光石七 閲覧数:1328

 私はショパンに呪われている。好きな人と一緒にショパンの曲を聴くと、その恋は絶対うまくいかない。
 小学生の時、音楽の授業で『小犬のワルツ』を聴いた翌週、好きだった同じクラスの男の子が突然転校した。中学では全生徒強制参加の特別音楽鑑賞会があり、直後に先輩に告白して玉砕。曲目の一つがショパンの『ピアノ協奏曲第1番』だった。
 高校で初めて彼氏ができたけど、交際三ヶ月で「他に好きな子ができ・・・

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砂上の離陸の裏に

15/01/26 コメント:12件 光石七 閲覧数:1310

 たった七分の乗車でこのタクシー代。加世田バスセンターで降りた澄香はため息を吐いた。普段利用しない分、余計に高く感じる。しかし一日二本のみのバスで来た場合、鹿児島空港行きのリムジンバスに乗り継ぐまで一時間以上待ち、空港でもフライトまで三時間空いてしまう。
(田舎だ……)
またため息が出る。澄香は乗り場へと歩き出した。リムジンバスで空港まで一時間十五分、フライトはバス到着の一時間二十分後・・・

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光石七の自己満足的隣室奇譚

15/01/12 コメント:14件 光石七 閲覧数:1376

 どうも、光石七です。テーマが「隣人」ということで、初めて一人暮らしをしたアパートでの体験をお話しします。
 今から十ウン年前、入試直後に雪道で滑って転ぶという不吉な出来事を乗り越え、私は大学に合格しました。私の故郷、滅多に雪降らないんですよね。ちらっと降っただけで大はしゃぎ、積もれば一大イベントで。あの時は試験が終わった解放感もあって余計に雪に浮かれて……って、これ関係ないか。
 で・・・

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Trauer(トラオアー)

14/12/27 コメント:10件 光石七 閲覧数:1358

 少年が最初に失ったのは故郷だった。平和な村に突然現れた異国の軍隊は、少年の遊び場だった水車小屋も、少年の家も、村人たちの家も、何もかも打ち壊して火をつけた。男は殺し、女子供は捕まえて連れ去る。二十人ほどの村人は兵にみつからぬよう村を抜け出した。少年も両親と共に逃げた。
 次に少年は家族を失った。他の村々も襲われており、父は他の村の男たちと義勇軍を結成して侵略者に反旗を翻した。しかし、敵の軍・・・

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メランコリック・ペンギン狂詩曲

14/12/14 コメント:13件 光石七 閲覧数:1505

 空に憧れたペンギンの話を知ってるかい? 空を飛びたいと、崖から飛び降りては懸命に羽をバタつかせたペンギンの話。何度も挑戦するけど、失敗と怪我の繰り返し。もう体はボロボロさ。それでもペンギンは崖に上って飛ぼうとするんだ。このペンギン、最後はどうなったと思う――?

 天井の木目とシミがはっきりしてきた。カーテン越しの光と小鳥のさえずりが僕に朝だと知らせる。
(今日も生きてる、か…・・・

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デズデモーナになれなかった女

14/11/29 コメント:7件 光石七 閲覧数:1123

 隣国レヴィスに嫁いで八年。皇太子妃である私の唯一の楽しみは、束の間宮廷を離れての観劇だ。
「デズデモーナが可哀そうですね」
帰りの馬車で侍女のサラが感想を述べる。イアーゴの奸計でオセローは妻デズデモーナの不貞を疑い、嫉妬のあまり彼女を殺めてしまう。
「それだけオセローの愛が深かったのでしょうけど。妻への愛ゆえに……」
サラは口を噤んだ。私の不機嫌を察したのだ。
(デ・・・

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Nouveau départ

14/11/17 コメント:8件 光石七 閲覧数:932

 ようやく仕事が一段落した。久々の三連休。せっかくなので、二泊三日で沖縄にファンダイブに行くことにした。ダイビングもしばらくご無沙汰だった。
 朝イチの飛行機に乗り、さっそく午後からボートダイブ。今回一緒に潜るのは初対面の三人だ。内二人は夫婦で、もう一人は僕と同じく単独で参加した男性。自然とバディが決まった。移動中、いつものように参加者と話しながら気持ちを高めていく……はずなのだが、今日はな・・・

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共白髪

14/10/31 コメント:13件 光石七 閲覧数:1172

 ジン博士は困惑していた。
「お願いです、薬を分けてください!」
土下座を繰り返す若い男。
「お金は払いますから」
「……あの薬はまだ試作段階だ。そもそも人間用ではない」
「牛や豚が大丈夫なら、人間も大丈夫なはずです」
「しかし……」
「お願いします!」
男は再び頭を床にこすり付ける。ジン博士は思案に暮れた。

 リエはパソコンの電源を落・・・

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Is he foolish?

14/10/20 コメント:11件 光石七 閲覧数:916

 朝、実津の目に最初に映るのは孫の秀也の寝顔だ。秀也は高校生になった今でも実津の隣の布団で休む。
(ゆうべはだいぶ遅かったけど……)
実津はいつも夜九時頃に床に就くが、秀也が部屋に入ってくる気配で一度目が覚める。昨夜は三時半を回っていた。秀也が遅くまで勉強することは時々あるが、さすがに遅すぎだ。
(夜はちゃんと寝ないと)
成績優秀なのは喜ばしいが、実津には孫の健康が第一であ・・・

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嘘から出た……?

14/10/05 コメント:10件 光石七 閲覧数:1156

 とあるマンションの一室。部屋には香が焚かれ、厳かな音楽が流れている。十人ほどが集まり、それぞれ床に座って瞑想していた。
「アジブ神様のお導きの時間です」
古嶋が告げると、彼らは姿勢を正した。ほどなく、ゆったりした白い長衣に身を包んだ御子柴が部屋に入ってくる。御子柴は柔和な笑顔で会釈し、部屋の奥に設けられた上段に登った。目を閉じ、奇妙な言葉で祈り始める。
「セコヨネーカ、ダモカラ・・・

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イノチヲカケテ

14/09/21 コメント:7件 光石七 閲覧数:933

 王宮は窮屈なところだ。
「口元を扇でお隠しください。大声で笑うなんて、はしたない」
「品の無い言葉遣いはおやめください」
教育係は事あるごとに私の言動を注意する。王女らしく、優雅に、気品を持って――。ここに来る前にも何百回と言われた。田舎のお城から移ってきて十日余り。まだ公の場には出ていないし接する人間も少ないけれど、そろそろ王女ルアナとして社交界に踏み出さなければならない。<・・・

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不確かな無花果

14/09/08 コメント:15件 光石七 閲覧数:1112

 『ラ・フィーグ』で働き始めて六度目の春が来た。男を誘うための服と化粧もとうに当たり前で、いろんな客に抱かれることにも全く抵抗を感じない。すっかりこの仕事に馴染んでしまった自分がうら悲しい。どこかの貴族様があたしを見初めて迎えてくださるんじゃないか、初めの頃抱いていたそんな淡い期待は下町の安っぽい娼館では無謀なものだった。
「今日も大入り、結構結構。エマ、奥の一見さんを頼むよ」
「はい・・・

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告白シンドローム

14/08/23 コメント:8件 光石七 閲覧数:1120

「あのさ、お前MEGUの写真集が無いって騒いでたじゃん?」
「ああ、先月ね。結局みつからなかったけど」
「実はさ、あれ俺が売っちゃったんだ」
「は?」
「小遣い欲しくてさ。サイン入りだし高値が付くかなって」 
「……兄貴、マジ?」
「悪い。秘密にしとくつもりだったんだけど、なんでか言っちまった」


「私ね、本当は美憂のこと嫌いなの」
「・・・

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ひとりよがりな傷、描けぬ明日

14/08/10 コメント:6件 光石七 閲覧数:931

 妹が無事に第一子を出産したとの知らせに私は安堵した。
(これで死ねる……)
いい加減この世から消えたかった。決意を固めつつあったところに妹がおめでた婚となり、ショックで流産されても嫌だと実行を延期していたのだ。
(2か月後、だな)
出産後しばらくは体が大変だろう。妹が赤ちゃんとの暮らしに慣れて落ち着いた頃がいい。私は密かに自らのXデーを定めた。

 鹿児島の実・・・

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蛍籠

14/07/27 コメント:9件 光石七 閲覧数:953

 まもなく暮れ六つという頃。弓月藩江戸屋敷の居室でそよは一通の文に目を通していた。読み終えるとそよは無造作に文を畳み、びりびりと裂いた。
「よろしいのですか? ご実家からでは?」
侍女のたづが遠慮がちに尋ねる。
「構いません。先日の文と同じ事しか書いてありませんから」
そよは答えた。
「これは捨てておきなさい」
「かしこまりました」
たづは破れた文を受け取・・・

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MALADROIT

14/07/13 コメント:6件 光石七 閲覧数:1152

 朝教室に入ると、クラスメイトの視線が私に集まった。
「ひより、その髪どうしたの?」
聞かれて当然だろう。ロングで通してきた私が突然ショートになったのだから。
「ただのイメチェン、気分転換。いい加減鬱陶しかったし」
用意していた答えを返す。
「だけど、今まで切っても整えるくらいで短くしたこと無かったじゃん。もしかして失恋?」
「まさかあ。ひよりのキャラじゃないで・・・

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アルマヘメラ

14/06/30 コメント:12件 光石七 閲覧数:1270

 町なかを走るその車はひどく目を引いた。エメラルドグリーンとネイビーのツートンカラー。スタイリッシュなフォルム。バラの花をモチーフにした大きめのエンブレム。外観もさることながら、人々が注目するのは運転席だった。30歳ほどの男が座っているのだが、ハンドルを握っていない。シートにもたれて腕を組み、目を閉じている。助手席には誰もいない。それでも車は他の車と同じように走っている。ちゃんとカーブを曲がり、前・・・

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石蹴り

14/06/16 コメント:7件 光石七 閲覧数:1272

 小学生の頃、よく石を蹴りながら学校から帰った。校門を出たら道端に落ちている石を一つ選び、それを蹴る。蹴ったら後を追いかけながら止まるのを待つ。止まったらまたその石を蹴る。それを繰り返すのだ。石は不規則な形をしているから、なかなか狙い通りには転がらない。まっすぐ前に蹴ったつもりでも大抵曲がって進む。通学路は車通りの少ない田舎道だったから、道の真ん中を歩いても咎められることはなかった。石が側溝などに・・・

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Miniature garden

14/06/01 コメント:6件 光石七 閲覧数:1115

 また転寝をしてしまった。揺り椅子で編み物をしていたのに、気付けば毛糸も針も手元に無く、体には毛布が掛けられている。
「奥様、妊娠中は眠いものですよ」
年配の侍女はこう言うけれど、あまりの眠気に病気ではないかと疑ってしまう。
 何やら屋敷が慌ただしい。侍女の一人に何があったのか聞いた。
「旦那様のご指示で荷造りをしております」
夫はしばらく屋敷に帰ってきていない。伝令・・・

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ほろ苦マトリモニオ

14/05/18 コメント:9件 光石七 閲覧数:1172

 休日なのに遊びにも行けない。しかも制服を着て過ごせ、と。移動の車の中でも僕はため息しか出てこなかった。運転している父さんも助手席の母さんも普段は着ないスーツやワンピースでめかし込んでて、余計に息苦しい。
 到着したのは海の近くの白い建物だった。
「トモ、いい加減仏頂面はやめなさい。おめでたい日なんだから」
入り口の前で母さんに注意された。今日、従姉のリホ姉がここで結婚式を挙げる・・・

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その予感は

14/05/03 コメント:10件 光石七 閲覧数:1415

 仕事帰り、なんとなく一杯やりたくなって少し手前の駅で降りた。目についた居酒屋にぶらりと入る。連れで来ている客が多いが、俺のように一人の客もいる。カウンターの隅で飲んでいる男も一人のようだ。……ん? あいつ、どこかで見たような……。
「もしかして、尾渕?」
思い切って近寄り、声を掛けた。相手は一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出したように目を見開いた。
「……日下?」
やはり・・・

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雨に打たれたら

14/04/20 コメント:8件 光石七 閲覧数:1051

 図書館でレポートを書いていたら、いつの間にか6時を過ぎていた。外に出ると、小雨が降っている。天気予報は日中の降水確率20パーセント、夜から雨って言ってたけど……。私はバッグから折りたたみ傘を出して広げた。
 歩きながら夕食の献立を考える。冷蔵庫の半端な野菜たち。冷凍のひき肉もそろそろ使い切りたい。昨日買った豆腐もあるし……。一人暮らしだと食材を余らせてかえって高くつくと言う人もいるけれど、・・・

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プリマヴェーラ

14/04/06 コメント:10件 光石七 閲覧数:888

 あの日雨が降っていたら、空がどんより曇っていたら、君と出会うことは無かっただろう。風が強かったり、寒かったりしてもあの出会いは無かった。よく晴れた穏やかな春の一日。だからこそ、僕のような出不精も珍しく外で昼を食べる気になったんだ。
 あの日、午前の就業時間が終わると、春の陽気に誘われるように僕は会社の外に出た。そしてコンビニでお茶とおにぎりを買い、公園に向かった。木陰のベンチをみつけ、腰掛・・・

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静かなる詩

14/03/30 コメント:10件 光石七 閲覧数:978

 カーラは愛する夫の帰りを待っていた。二人で働いて買った町はずれの小さな家を、決して離れようとはしなかった。
「必ず帰ってくるから」
出征する時、彼はこう約束したのだ。孤児だった彼には、他に肉親も家も無い。
(リオンは嘘を吐かないもの。必ずここに帰ってくるわ。この家が無くなったら、リオンはどこに帰ればいいのかしら?)
カーラにとっても家族はリオンだけだ。カーラはリオンの無事・・・

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ある別離

14/03/22 コメント:13件 光石七 閲覧数:940

 とうとうこの日が来てしまった。翔吾はお出かけと知って朝からご機嫌だ。私がのろのろと食器を下げている間に、自分で帽子を引っ張り出して後ろ前に被っている。
「おそと、おそと」
うれしそうに走り回る翔吾。だんだん帽子がずり落ちていく。
「翔ちゃん、転ぶよ。帽子が反対」
捕まえて帽子を被せ直してやった。
「ママ、おそと」
「うん、ママがお洋服着替えてからね。アンパンジ・・・

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奇跡は訪れる

14/03/09 コメント:13件 光石七 閲覧数:1316

 ルクが朝食をとっているとラミナがやってきた。
「お、おはよう。今日は早いね」
ラミナが来るようになってひと月になるが、ルクはまだ慣れない。
「今日の最初の患者さん、8時半に来るでしょ? それまでに片付けと掃除やっとかないと」
村はずれの小さな家は、居住スペースがそのまま診療所になる。ルクは使った物をそのままにしてしまう癖がある。来客対応も不得手なので、ラミナが手伝いを申し・・・

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ぺたんこトライアングル

14/02/21 コメント:10件 光石七 閲覧数:1315

 奈結は保健室のベッドで目を覚ました。
「大丈夫か?」
傍らの篤樹の輪郭が徐々にはっきりしてくる。
「あっくん……」
「カエルの解剖は奈結にはきつかったか。グロいの苦手だもんな」
篤樹が奈結の頭をそっと撫でる。奈結は自分が生物の時間に倒れたことを思い出した。
「もうすぐ4時間目始まるから、俺戻るわ。奈結も元気になったら教室来いよ。昼、一緒に食おうぜ」
篤樹・・・

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人形は踊らない

14/02/09 コメント:10件 光石七 閲覧数:1252

 机と椅子があるだけの殺風景な部屋だった。黒髪の青年が一人、表情無く壁にもたれるように座り込んでいる。足音が近づいているが、青年には聞こえていないようだ。ドアが開いても振り向かず、眉一つ動かさない。赤毛の青年と年配の男が部屋に入ってきた。赤毛の青年が黒髪の青年に話しかける。
「シウ団長、ヒュリです。お医者様をお連れしました」
それでも黒髪の青年――シウは反応しない。
「ずっとこう・・・

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ファンタスチカの瞳

14/02/01 コメント:7件 光石七 閲覧数:1025

 脚が折れた馬は安楽死させられる――。左腕が元通りになることは無いと知った時、そんなことを思い出した。

 世界的なバイオリニストの父とその教え子の母。二人の間に生まれた私は、物心つく前に既にバイオリンを握っていた。子供の頃から数々のコンクールで入賞し、サラブレッドともてはやされた。しかし、世界の壁は厚かった。目指すは世界一のバイオリニスト。ずっと親に言われてきたし、私自身もそれを夢見・・・

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銀河の果てで昭和ノスタルジー

14/01/21 コメント:9件 光石七 閲覧数:1033

 マコが僕の方を向いて目を瞑った。部屋には二人きり、ソファに並んで座ってる。これは……だよな? バラのような唇が僕を誘う。僕は両手をマコの肩に置いた。少しずつ顔を近づける――。

 ♪毎日毎日 僕らは鉄板の

……ムードを壊すなよ。マコはじっとしている。よし、無視して続行だ。

 ♪上で焼かれて 嫌になっちゃうよ
  ある朝 僕は 店のおじさんと
<・・・

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La main chaude

14/01/06 コメント:7件 光石七 閲覧数:1367

 夢を見てた。小さい頃の夢。
「このおじさんと大事な話があるの。和葉、外で遊んでて」
ママに言われて、私は一人家を出た。川沿いの道をてくてく歩く。懐かしい旋律が聞こえてきた。河原でギターを弾きながら歌ってる人がいる。私は注意しながら土手を降りた。――そこで目が覚めた。
 隣で髪の薄いおじさんがイビキをかいている。数時間前に会ったばかりの人。私はベッドから起き上がって服を着た。前払・・・

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根古野町の空の下

13/12/19 コメント:12件 光石七 閲覧数:1158

小さな穏やかな町、根古野町。この町の平和を守るため、人知れず戦う者たちがいる――。

草が生い茂る空き地でのデッドヒート。
「ブラック、そっちだ!」
「OK、肉球フラッシュ!」
「チュ、チュチュウゥ……」
「ホワイト、とどめを!」
「いくぜ! デス・ニャン・ファング!」
――人間の目には二匹の猫がネズミを捕まえているとしか映らないだろう。ネズミに黒猫・・・

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You may buy it ... ?

13/12/11 コメント:10件 光石七 閲覧数:1246

 手足を縛られ床に転がされた谷を、鳴沢は冷たく見下ろした。
「鳴沢、何の真似だ!?」
叫ぶ谷の腹を鳴沢は蹴った。谷が呻く。
「いつも無茶ばっか言いやがって。ストレスなんだよ。何でも下に押し付けんじゃねえ!」
鳴沢は左手で谷の胸倉を掴み、上体を浮かせた。右手で頬を殴りつける。谷は再び床に倒れた。鼻血が出た顔を苦痛に歪ませ、体を捩る。鳴沢はその頭を足で踏んだ。
「課長風情・・・

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訪れぬ雪解け

13/11/20 コメント:12件 光石七 閲覧数:1280

 雪の絨毯に赤い斑点が染み込んでいく。あの方の血……。大勢の観衆が詰めかけた処刑場に、もう一発銃声が響いた。再び血が飛び散る。執行人があの方の首を切り落とし、高く掲げた。滴る血が更に雪を紅に染める。歓声が高くなった。私は一人震えながら、嗚咽を堪えていた――。

 白い息を吐きながら石畳の道を歩く。アパルトマンまであと少し。一日の労働を終えた私は家路を急いでいた。
「アンリさん、ち・・・

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ルナティック・ノクターン

13/11/05 コメント:17件 光石七 閲覧数:1500

 私は道路脇に車を止めた。左側のアパートに目をやる。明かりが点いている部屋は半数ほど。今まで何度も来たアパートだが、なんだか違う建物のようにも見える。でも、間違いなくここだ。
 私は車を降りた。後部座席から小さめの段ボール箱を下ろす。箱には封をして伝票を貼り付けてある。私は今日のためにネットオークションで手に入れたそれっぽいユニフォームに身を包んでいる。腰にはウエストポーチ。この格好なら宅配・・・

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祖母と伯父とバームクーヘンと

13/10/22 コメント:16件 光石七 閲覧数:17497

 二年ぶりに実家に帰省した。父も母もバス停で待っていてくれた。久しぶりの孫たちとの再会に顔がほころんでいる。
「柊平君はやっぱり来れないのか?」
父が少しがっかりした声で聞いてきた。
「うん、仕事が大変みたいで。お父さんと一局指したかったのに、ってぼやいてた」
「そうか、残念だ」
将棋という共通の趣味を持つ父と夫は、会えば必ず対局する。父はパソコン等が苦手なため、オン・・・

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『ウー』の真実

13/10/12 コメント:9件 光石七 閲覧数:1529

 ユッチャンイカの売上急増、バッツバーガーの廃業、Pタワーでの転落死事件。一見無関係なこれら最近の事象には、ある共通点があった。――原因が都市伝説。
 ユッチャンイカは『耳削ぎ女』が嫌いなものだとされている。耳削ぎ女とは「あなたの耳を頂戴」とカッターを持ってしつこく追いかけてくる女だ。ユッチャンイカを投げれば耳削ぎ女が耳と間違えるため、逃げ切ることができるという。
 バッツバーガーはパ・・・

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コイナリ異聞

13/09/25 コメント:9件 光石七 閲覧数:1541

 田舎の小さな神社だというのに、小石川御崎稲荷神社を訪れる女性は後を絶たない。恋愛成就、縁結びにご利益があると言われているからだ。実際、この神社に参拝して恋人ができた、結婚できたという話は昔から数多くあり、近年では略称と“恋が成る”を掛けて「コイナリ神社」と呼ばれている。奉納されているたくさんの絵馬からは、乙女たちの必死な祈りが伝わってくる。
「……“ジョニーズの星瀬快斗と結婚できますように・・・

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虚像

13/09/13 コメント:10件 光石七 閲覧数:1497

 ライブが始まるまであと30分。
「今日の客入りは?」
俺は慌ただしく動いているスタッフの一人に聞いた。
「超満員です。通路も立ち見でいっぱいです」
Rioシアターの客席は300。俺は報告に満足した。
 楽屋の通路で怒鳴っている少年がいた。警備員の一人が外へ連れて行く。
「RIONAに会わせろって?」
俺は残った警備員に声を掛けた。
「はい」
・・・

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偶像の救い

13/09/13 コメント:0件 光石七 閲覧数:1191

 僕がシイナの存在を知ったのは中2の終わりだった。2学期の途中から不登校になった僕は部屋に引きこもり、オンラインゲームや漫画で日々を消化していた。その日、たまたま見た投稿動画が、ある地下ライブの様子だった。客は20人弱、出演者は4組の地下アイドル。その中で、唯一ソロで舞台に立ったのがシイナだった。ソロのくせに、歌もダンスもいまいち。だけど、一生懸命さがすごく伝わってきた。蔑みや中傷、説教、うわべだ・・・

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ハナシノブ

13/09/06 コメント:2件 光石七 閲覧数:1308

 ようこそお越しくださいました。お荷物お持ちいたしましょう。――ええ、ありがとうございます。ここは緑の美しさが自慢なんですよ。お部屋にご案内しますね。
 お客様はどちらから来られたのですか? ――そうですか、道中長かったでしょう。ぜひゆったりおくつろぎください。こちら、「ハナシノブの間」がお部屋になります。
 ――いえ、花の名前ですよ。まあ、限られた場所にしか咲かない花だそうですから。・・・

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待ちわびた光は

13/09/02 コメント:10件 光石七 閲覧数:1488

 カイは絵本を読んでもらうのが好きな子供だった。
「――こうして白ウサギは黒ウサギと仲直りしました。二匹が空を見上げると、きれいな虹が架かっていました。おしまい」
母のエレナが絵本を閉じた。
「ママ、虹ってなあに?」
カイがエレナに聞いた。
「雨が降った後とかね、お空に光の橋が架かるのよ。赤とか黄色とか青とか、七つの色をしてるのよ」
絵本にはちゃんと挿絵もあるの・・・

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最後に笑うのは

13/08/12 コメント:9件 光石七 閲覧数:1743

 二之原舞が常崎一花に出会ったのは小学五年の二学期だった。転入生として一花が教室に入ってきた時、クラス中がざわついた。大人びた都会的な美少女。簡単な挨拶をして指定された席に向かう一花を憧れのまなざしで追うクラスメイトたち。舞はその様子を冷めた目で見ていた。自分のほうがかわいいし、このクラスのリーダーは自分だ。ところが三ヶ月後、クラスは一花を中心に動くようになっていた。舞の取り巻きだった子たちも半分・・・

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あるバーにて

13/08/03 コメント:8件 光石七 閲覧数:1513

 『バー・レイム』に一人の男が入ってきた。黙ってカウンターの隅の席に腰掛ける。
(見慣れない顔だな)
マスターはその男に注意を向けた。もちろん新規の客が来ても不思議ではないが、その男が纏う空気は明らかに異質だった。気高さと慈愛、厳格さと温厚さ、相反するものが絶妙に共存している。近寄り難いような、近づきたいような、そんな気持ちにさせられる男だ。
「何になさいますか?」
「適当・・・

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神は……

13/07/31 コメント:9件 光石七 閲覧数:2177

「ありがとうございます。先生は神様です」
患者の家族が涙ながらに感謝してくる。難度の高い手術を次々とこなす私を「神の手だ」ともてはやす輩もいる。私はそのように言われるのが好きではない。もちろん心臓外科医としての矜持も、それなりに鍛錬を重ねてきた自負もある。担当した患者が元気な姿で退院していくのはうれしい。しかし、どこかやりきれない思いが残る。
 患者全員を助けられるわけではない。手術の・・・

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彼女が無口な理由

13/07/15 コメント:14件 光石七 閲覧数:2531

 高校生活がスタートして二ヶ月が過ぎた。初めのうちは同じ中学出身者同士で固まっていたけれど、今はもう新しい仲良しグループができている。休み時間にダベったり、お弁当を一緒に食べたり、買い物に付き合ったり、私もそれなりに楽しんでいる。
 クラスの中にどのグループにも属さない女子がいた。琴田さんだ。かわいい顔をしているのに、大人しくてあまりしゃべらない。話しかけても簡単な返事を返すだけ。授業で同じ・・・

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最後の暴君

13/07/01 コメント:8件 光石七 閲覧数:2227

 国王が急な病で床に就いた。二十歳を過ぎたばかりの王太子が留学先から密かに呼び戻される。国王の病状は深刻で、もはや治る見込みがなかったのだ。
「畏れながら、まもなくあなた様は一国の王となられるでしょう。どうかお心づもりを……」
側近が王太子に告げる。王太子は頷き、国の現状を尋ねた。
 まもなく国王が崩御した。新国王の誕生だ。国民は新しい国王を歓迎した。外国で見聞を広め、旧態を打破・・・

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死者からのサプライズ

13/06/27 コメント:17件 光石七 閲覧数:1931

 小堂探偵事務所に一人の女性が訪ねてきた。
「小堂君、久しぶり」
いきなり君付けで呼ばれ、小堂は当惑した。
「失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
カッコ悪いと思いながらも、小堂は聞き返さざるを得なかった。
「私です。Y高校で同じクラスだった、今川結衣です」
「えっ、今川さん?」
確かにそんな名前の女子が同級生にいたが、まるで印象が違う。
「わか・・・

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Looking for somebody

13/06/20 コメント:12件 光石七 閲覧数:2238

『ぬこ様の肉球にかけて、俺は真実を暴く!』
テレビから聞こえるドラマの主人公の台詞。今話題の深夜ドラマ『ぬこ厨探偵 猫川唯斗』だ。
「そうそう難事件に遭遇するかよ。この決め台詞、意味不明。どうせ犯人はあの医者だろ? 知識を利用して、犯行時刻を遅らせたんだ」
ぶつぶつ文句を言いながらも、何故か毎週見てしまう。
「お前も好きだな。明日は早いんだから、さっさと寝ろよ」
所長・・・

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四十ニシテ惑ハズ

13/06/05 コメント:13件 光石七 閲覧数:2461

 いつの世にも優柔不断な人間はいるものだ。木野弥生も幼い頃から何かを決めるということが苦手だった。外食したら、他の者はとっくに注文しているのに、最後までメニューとにらめっこするのが弥生だ。好きな人ができても告白すべきかどうかでまず迷い、友人に励まされてやっと告白すると決めても、手紙がいいか、直接告げるのがいいか、いつどこでどんな形で告白しようかと散々悩み、結局その間に他の子が相手に告白してカップル・・・

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恋はラーメンの味

13/05/20 コメント:17件 光石七 閲覧数:1994

 夫が夕食は外で食べようと言うので、娘を呼びに2階へ上がった。声をかけようとしたが、中から何やら音がする。ガタッ、ドン、チャッ――。
「あーん、どれにしよ? 全然決まんないよお……」
娘の困ったような声が聞こえてきた。私は思わず微笑んでしまった。明日、娘はボーイフレンドと初デートに行くらしい。行先は水族館。きっとどの服を着ていくか、迷っているのだろう。時代は変わっても、好きな人のために・・・

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桜の約束

13/05/06 コメント:14件 光石七 閲覧数:1976

 数か月だけだが、名古屋で暮らしたことがある。名古屋駅、ナナちゃん人形、栄の地下街、コメダ珈琲店、小倉トースト……。多少なりともあちこち出かけ様々な風景を見たが、真っ先に思い浮かぶのは鶴舞公園の桜だ。それも、植えられて数年ほどであろう、私と背丈が変わらない細い桜の木だ。
 私が名古屋に住んだ理由。それは、勤めていた会社が支社を立ち上げるに当たって、本社から派遣するリストに名前が入ったからだっ・・・

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ある新人研修

13/04/28 コメント:7件 光石七 閲覧数:1611

 講師が壇上で滔々と語っている。参加者たちは皆真剣な面持ちで聞いている。中には熱心にメモを取っている者もいる。
「相手の目を見て話しましょう。目を逸らしてはいけません。落ち着いた、誠実な印象を与えることが重要です。睨んでもいけません。ガンを飛ばしてしまっては、反抗的だと受け取られます。どんなに腹立たしくても、ぐっとこらえましょう」
講師の言葉に参加者たちは頷いた。講師は正面を向き、参加・・・

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オレは新人に嫉妬する

13/04/28 コメント:4件 光石七 閲覧数:1626

「虎次郎、ご飯だよー」
マキの声を聞いてオレは駆け出した。お、マグロの刺身なんて珍しい。気が利くじゃねえか。
「たまには贅沢もいいでしょ?」
そうそう、安いキャットフードばっかじゃ飽きるっつーの。腹が減るから仕方なく食べてやるけどさ。
「虎次郎、なんでそんなにちまちま食べるかなー。時間かけ過ぎ」
余計なお世話だ。オレの勝手だろ。
 オレは虎次郎というマキに飼われ・・・

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一通の不幸の手紙

13/04/11 コメント:8件 光石七 閲覧数:1930

 やっくんに一通の手紙が届きました。やっくんはあまり手紙をもらったことがないので、とても喜びました。ところが、封を開けてみると、便箋にはこんなことが書いてありました。

『これは、不幸の手紙です。
 この手紙を3人に送らないと、私に災いが訪れるそうですので、申し訳ありませんがあなたに送らせていただきました。
 3日以内に、同じ文面で3人に同様の手紙をお送り下さい。
 ・・・

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ロン、ありがとう

13/04/10 コメント:4件 光石七 閲覧数:1514

 ロンは、わたしの家でかっている犬です。ロンはとてもおりこうです。「おすわり」というとちゃんとすわるし、「お手」も「まて」もできます。知らない人にはほえるけど、小さい子どもにはほえません。わたしはまい日ロンとあそんでます。ロンはわたしのともだちです。
 でも、さいきんロンがあまりうごかなくなりました。立ち上がるときもヨロヨロします。わたしはおかあさんにどうしてとききました。
「ロンは人・・・

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祖母のハガキ

13/04/08 コメント:11件 光石七 閲覧数:1647

 大学3年の秋に祖母が亡くなった。当時私は広島で一人暮らしをしていた。入院する前から危ないかもしれないと言われていたので覚悟はしていたが、やはりショックだった。父から電話連絡を受けるとすぐに飛行機の時間を調べ、友人に講義の欠席を連絡して荷物をまとめた。飛行機の中で、バスの中で、帰省のたびに目にするいつもの光景が、ひどく色褪せて見えた。
 祖母は化粧を施され、いつもより若くきれいだった。だが、・・・

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小さなサーカス

13/03/18 コメント:12件 光石七 閲覧数:1661

 僕の名前はシルバ。小さなサーカスの団員だ。特技は綱渡り。命綱など全くつけず、高く張られた1本の綱の上に僕が足を踏み出すと、客席が静まり返る。僕は颯爽と真ん中まで歩いてみせる。そこでジャンプをしたり、逆立ちを見せたり。宙返りを披露することもある。観客は大きな拍手を送ってくれる。渡り終えるまであと5分の一というところで、わざと足を踏み外すふりをする。すると観客は息をのむ。しっかりバランスを取って綱の・・・

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赤い財布

13/03/16 コメント:6件 光石七 閲覧数:2077

 午後の一コマ目の講義が休講になったので、彼は学食のテーブルでレポートを書くことにした。学食のメニューは安くて美味しいので昼時はかなり混雑するが、それ以外の時間は割と空いている。遅めの昼食をとっている者もいるが、友人と雑談をしたり、学習室代わりに利用している学生が多かった。
 レポート自体はまだ期限があるしそこまで難しくはなかったが、彼は困っていた。空腹だったのだ。どこをどう間違えたのか、気・・・

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