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実さん

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職業
性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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死の時間

15/05/28 コメント:0件 実 閲覧数:853

 狭山荘助は未だに人生の意味を見出せずにいた。それだけでなく彼は酒飲みでギャンブル好きで浪費も激しかった。30歳を過ぎても定職に就こうとしない彼はアルバイトでその生計を立てていたが、家賃を滞納することもしばしばあった。
 支払いが遅れる理由は様々なものがあったが、一番多いものはムダ遣いで財布にお札があると使ってしまいたい衝動に駆られるのであった。給料日までの一週間を塩飯だけで済ませなければな・・・

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慧悟

15/03/07 コメント:5件 実 閲覧数:1377

「ここが渋谷なのか」
世田谷公園からあてもなく歩いてきたホームレスの山中慧悟はボロボロになったジーンズの裾を引きずりながら、道玄坂の丘陵から見晴らす渋谷の街並みに見入っていた。
「電車で通っていた頃にはこんなにも近くにあるとは気づかなかったのにな」
慧悟はかつて自分自身があの歩行者たちのように街の一部に溶け込んでいたことを意外に思った。職業をなくして路上生活者となった今ではそうし・・・

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渋谷に住む花人間たち

15/03/01 コメント:2件 実 閲覧数:939

 渋谷には魔術師が住んでいると知ったのは3年前のことだった。
 当時は僕はあまりにも世間知らずだったし、それにもまして臆病だった。人付き合いに苦しんでいた僕はほとんどの外出を控えるようになり、同窓会や数少ない友人からの誘いも断わるようになっていた。
 そんな中僕と世間を繋ぐものはネットしかなかった。パソコンと向き合っている間は色々な苦痛を忘れることができたし、あらゆる未知の世界が広がっ・・・

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DV〜家庭内武将

15/02/22 コメント:0件 実 閲覧数:784

「太郎は立派な戦国武将じゃな」
こどもの日、鎧兜に身を包んだ孫を前にして作太郎は呟く。太郎はにっこりと微笑みながらハイハイをして作太郎の膝にすがりつく。晴れた午後のことだった。前日の雨が嘘のように晴れ渡り、屋外には子供らが駆け回り鯉のぼりが空をたなびいていた。それぞれが思い思いの家族団らんの時を過ごし、あるいは独り身やホームレスはいつもどおりの生活を送っていた。
 そんな中、斉藤家の作・・・

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ファンタジック戦国おじいちゃん

15/02/16 コメント:0件 実 閲覧数:908

「わしゃあ戦国武将じゃった……」
介護用ベッドに寝そべるおじいちゃんが水平から30度起こした状態でポツリと呟いた。僕は傍らでそれを聞いていて、しばらくその意味を模索した。
「長い戦いじゃった……わしゃあ人を殺したんじゃ……」
きっと夢を見ているのだろう。そう思いおじいちゃんの顔を眺めると目はパッチリと見開かれている。まるで虚空を見つめるように眼の焦点は顔から1メートルのところで結・・・

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破壊された都市

15/02/05 コメント:2件 実 閲覧数:872

 彼は耳をそばだてる。長い間聞くことのなかった音楽のように錯覚を起こす。今は望みという望みはほんの少ししか叶えられない。たった1日のうちにすっかり変わってしまった。戦争は彼から日常を奪っていく。
 瓦礫の山からひっそりと響くのはカンパネラだった。いつ誰がつけたともわからない。大きな羽の音を轟かせて虫たちのようにやってきた『報復者』に攻撃されてからは、誰もが色々なものを失ってしまったのだ。目が・・・

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酒とホームレスとボレロ

15/01/31 コメント:6件 実 閲覧数:849

 タカラはあまり人が好きではなかった。できることなら無人島で暮らし、日長一日をぼうっとして過ごすことに憧れていた。放っておいて欲しかったのだ。ただ景色の音を聞くだけでも幸せなのに、わざわざ言葉を使ってコミュニケーションを取る人の営みに煩わしさしか感じなかった。
 彼の母はとても心配した。最低限の処世術だけでも得させないと、いつか飢え死にして死んでしまうだろうと思った。私が生きている間はいいが・・・

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ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第5番『春』

15/01/28 コメント:2件 実 閲覧数:820

 江里香はピアノの前に座りある男のことを考えてた。凛として背筋を伸ばし、鍵盤を通して聴衆を惹きつけるいかにも権威的なピアニストのように振舞いながら、心は昨日出会ったハンスに向けて飛んでいた。
 鍵盤を撫でる指はそそくさと何度も何度も引き続けたベートヴェンの『春』を、まるで違う生き物のように機械的に流れていく。身体はわかっていた。どのように弾きこなせば母から糸目をつけられずにつまらない時間から・・・

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名もない機体整備士たち

15/01/19 コメント:0件 実 閲覧数:792

 いつか私も飛び立ちたい。こんな辛い日常がある日突然変わってしまうような、そんな出来事を待ち続けている。
「飛行機のようになりたい」私は思い続けていた。
 今までずっと求められただけの道を歩き、車輪がゴウゴウと唸り声を上げる様を今まではただ黙って聞いていたにすぎない。傍らで、まるで英雄たちの凱旋を見守る女子供のように飛行機を見送っていた。
 受動的なのだ。結局は私も道具にすぎず主・・・

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隣室の音

15/01/12 コメント:0件 実 閲覧数:875

 壁にしっかりと耳をあて、隣室の声を聞こうとしたのは何も私がそのような趣味を持っているからではない。身前としては清廉潔白であり、新卒で現在の商社に勤めてからは今に至る20年間一切欠勤することもなく、真面目に仕事をこなし、そして来年には常務になることさえ保障されている地位にいる。部下からの信頼も厚く、敬意を持って「さん」をつけて呼ばれ、相談やあるいは愚痴を聞く役目さえ果たしている。
 そんな私・・・

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行き場のない人生としての無題

14/11/09 コメント:0件 実 閲覧数:831

 生存とは苦しみであると私が知ったのは胎児から膣の狭いトンネルを通り抜けこの生の世界へ生まれ出たことを思い出したからだった。それは長い長い道のりの夕暮れの薄暗いあぜ道を一人歩くように孤独だった。私はそこに一人しかいなかった。当然だ。胎内には一人しか入れないしそのための出口しかない。
 宇宙から母胎へ落ちて来た時の私は希望に満ちていたように思う。これから生存することが楽しみで仕方なく長い間それ・・・

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永遠の結婚

14/05/09 コメント:2件 実 閲覧数:774

彼女と出会ったのはほんの少し前のことでした。彼女はブランコでひとり寂しそうにしていました。


『A子は結婚し、死にました。B子も結婚し、死にました。C子は結婚せずに、死にました。人間の一生はだいたいこのようにして流れていきます』

絵本を読んでいると、タマミは尋ねてきました。

「結婚をして死んだら二人はどうなるの?お別れするの?」

「うー・・・

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夕子、超能力が身につく

14/04/25 コメント:0件 実 閲覧数:816

 人には見えない力が眠っている。見えないといってもそれは単に科学的に証明できないというだけであり、偏見の目を開けば急に見えるものだったりする。

「あっ、A美から電話の電話だ!」
電話が鳴ると同時に思いが浮かぶ。通話ボタンを押すとまさにそうだった。長電話を終えるとふと自分がA美から電話がかかってきたと予感していたことに気がついた。
「どうしてわかったんだろう」
疑り深・・・

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六道輪廻の雨

14/04/20 コメント:0件 実 閲覧数:3285

 かなしいかな。今生で功徳を積まなかった魂が数々と落ちていきます。それらの魂は輪廻転生を理解していなかったのでしょう。彼らはどんどん地へと落下していきます。
 それらはまず動物に生まれ変わります。ちょうど地に落ちた雨粒が大地に溶けていき、水分が植物の管を通り、固定され、そして動物に食べられるように。
 そうして苦しみはやってまいります。動物となった彼らは瞳の、その光輝く瞳孔で輪廻の一部・・・

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人は死んだらどうなるの?

13/11/13 コメント:1件 実 閲覧数:1201

 ある日のこと。AはひさしぶりにレンタルDVDを借りて来たようだが、どうやら調子に乗りすぎてあまり必要のないものまで借りて来てしまったらしい。根っからの怖がりなのにも関わらず、少し歳をとったからといって怖いものが得意になっていると思ったらしいのだ。生まれながらの性格というのは、その根が深いものほどいつまでも残り続けるというのに。案の定、Aは一人で寝れなくなりBの部屋にとぼとぼとやって来た。
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夢待ち

13/09/23 コメント:2件 実 閲覧数:1747

 いつになっても訪れない夢に金城孝之はやきもきした気持ちを抱えながら、ギィギィと音を立てる古びた椅子の背もたれに凭れ掛かっていた。指折り数えながらいったい何日が経過したかを思い返してみる。日の光がカーテン越しに淡い色を放ちながら注いで部屋の隅から隅をぼんやりと照らし出している。角の木枠に隠れていた蜘蛛もそっとタンスの背後へと隠れる。小学生になると同時に買ってもらった勉強机には蕾のままのチューリップ・・・

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夢堕ち

13/09/08 コメント:0件 実 閲覧数:1142

 現実はマンガみたいにはいかないのだと冴島省五ははじめて知った。お互いの存在を意識し合あってライバル心を燃やして、切磋琢磨しながら技術を磨いていくような姿は彼も憧れを持っていた。いつか自分にもそんな時期が来るのだと思っては未来に希望を抱いてそれが努力をする糧にもなっていた。しかし実際には目の前にいるのは白い軽蔑した目をしてくる木内だった。
 ずいぶんと長い間道を間違えてきたのだと冴島は思った・・・

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氷山の一角

13/08/23 コメント:2件 実 閲覧数:4535

 思い返せば神様を探していた。小さい頃は神様なんているとも思っていなかったし、いないとも思っていなかった。別に考える必要なんてなかったんだから。だからいつもふざけたギャグと下品な言葉だって使うテレビが、天皇皇后に対してだけは最高敬語って言われるものを使ってることに僕ら兄弟は不満だった。
「なんで天皇の時だけ様をつけたりするの?」
と、若干苛立って尋ねると母はすかさずこう言った。
・・・

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浅尾ジョゼファの空腹

13/08/04 コメント:1件 実 閲覧数:1269

 浅尾ジョゼファは普段から何も言うことがなかった。幼少期にブラジルから日本にやって来たものの平均よりも知恵遅れだった彼は結局30歳になっても日本語を上手くしゃべれるようにはならなかった。家ではいつもポルトガル語を話していたしいつか帰国を夢見ていた両親も大した問題だとは思っていなかった。
 日本では彼に友達ができたことはなかった。好奇心をもって彼に話しかけてくる人はいたが、簡単な日本語と相槌し・・・

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悪人

13/07/16 コメント:2件 実 閲覧数:1122

 生まれてすぐ人は息をはじめるし、その瞬間からこの世で生きる何かを探しはじめる。目の前にあるすべての事が新鮮で、キラキラとした輝いた目で物事を眺めては、笑い、驚き、ひとつひとつの事に感動する。そんな風に生きて、年を重ね、いつの間にか目の前に起こるすべての事は当たり前になり、だんだんと世界の流れが見えてくるようになると人に悪意があることや、無関心さや、どうしようもない苛立ちがあることさえ見えてくるよ・・・

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ボーリングの玉と引き換えに犬の魂は

13/07/14 コメント:0件 実 閲覧数:1204

 サトルはベランダに突き出た街路樹の枝を一つ折ると目玉に向かって突き立てた。枝の切り口は緑色になっていて、外側に近づくにつれ茶色くそして硬くなっていた。
「オレと同じだな。本心なんて見せずに硬い殻で守ってる」
ため息をつくと意を決して先端を目玉に突き刺す。しかし眼鏡のレンズの上を跳ねて高潮した頬に突き当たった。痛みが徐々に込み上げてくるのがわかる。本当の痛みはジワジワと1,2秒遅れてや・・・

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家出少女Y

13/07/08 コメント:0件 実 閲覧数:1149

 井の頭公園駅の前につくと由子はスマホを取り出し母に繋いだ。
「今日は帰るの遅くなるから。うん。たぶん11時になるけど心配しないで。あとご飯いらない」
詳しい説明もしないままに心配そうにする母の声を遮って電源を切る。もう私に母は必要ないしたぶんもう見ることもないだろう。最後の言葉がご飯いらないだなんて私らしいな、なんて思いながら由子は井の頭池に向かってスマホを放りこむ。ブクブクと泡を立・・・

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名探偵コナソ

13/07/07 コメント:2件 実 閲覧数:1254

 おいらは名探偵コナソ。名探偵というからには何でも推測するのが得意で、例えばA子ちゃんが深夜ひっそりと自宅から離れて彼氏の家へ飛んでいくときも、家を出る数日前からそのことを推測できたりするんだ。そんなのわかるわけないって思うかもしれないけど、人の思いっていうのは突然起こるものじゃなくて、徐々に、無意識の領域では理論だって進んでいくものなのさ。
 衝動だっておんなじさ。あれは感じることのできな・・・

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俺、人生舐めてました

13/06/29 コメント:2件 実 閲覧数:1294

 裁判がはじまると傍聴席には遺族が最前列をとって座り、娘を殺された恨みの篭った野次を飛ばした。大人の品格と呼ばれるものは心の底から沸き起こる殺意に似た感情の前に消えてき、彼らをまるで眼光鋭い獣のように変えてしまう。
 それにも増して佐島愛吏を殺した山口悠介はその細身で猫背な背中で罵倒を一身に受けながら、表情を変えずただ淡々と検察官が罪状を読み上げるのを聞いている。一時は微笑みを浮かべるように・・・

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迷う人、生まれる人

13/06/23 コメント:0件 実 閲覧数:1211

 肉体から放たれた魂は空気の中に立ち止まり振動していた。今この瞬間にかつて私と呼んでいたモノがまるで他人のように横たわっているのを見て、まるで鏡を見ているような奇妙な気持ちに襲われる。
「あぁ、俺死んだんだなぁ」
三秀は呟いた。何の実感もないが、これが以前から死であると聞かされたものであるとわかると突如悲しい気持ちに襲われた。意味もなく人生を棒に振ったのだと思うと魂の形のまま頭を抱えた・・・

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人類はラーメンに侵略される

13/06/16 コメント:3件 実 閲覧数:1195

 人類が麺類に侵攻されはじめたのは数世紀前からだった。彼らがこの地球に訪れたときにはまだ僅かに植物の葉の間にひっそりと生きる菌類のようなものでしかなかった。彼らは雨が降れば地に落ちて死に耐えるし、晴れ間が続けば乾燥して死に絶えるような脆弱な生き物でしかなかった。しかしこの隕石に乗ってきた宇宙からの外来種は地球の気候にその身体を適用しはじめると穀物の細胞そのものに寄生し繁殖することを覚えていった。地・・・

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名古屋・原子爆弾怪奇事件

13/05/31 コメント:0件 実 閲覧数:1371

 まさか原子爆弾がやってくるとは思わなかった。それは名古屋城の最上部に鎮座されている金のシャチホコの口の間から顔を出すと、するっと現実になって現れたのである。しかもそれはシャチホコの口の中から全体を現すと宙に浮いて動かないのである。かつて現実の原子爆弾というものを見たことがなかった市民はその奇妙な物体に眉をひそめたが、それが専門家の判断により広島に落とされたリトルボーイと瓜二つであると告げられると・・・

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母への手紙

13/05/07 コメント:4件 実 閲覧数:1426

−−−−−−−−
 母なんていうのは人間をこの世に送り出すための生物機械でしかない。父から放出された精子と母の胎内にある卵子が結びついて幾多の細胞分裂のあと徐々にそれが人として形成されていくだけなんだ。だってそうだろう。あんたはいつも言っていたじゃないか。
「物事を曲げずにそのままの姿を見なさい」
つまりそういうことだ。生物学的に俺の意見はなんら間違っちゃいない。むしろそれ以上の・・・

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葬式

13/04/23 コメント:2件 実 閲覧数:1337

 あの日以来違う人間になっているのだと思った。以前の”ボク”という過去の人間であったなら、わざと悲しい表情をしないといけないと思っていたし、もし涙が込み上げて来ないなら懸命に渋面を作って「お気の毒に」と言っていたことだろう。しかし今は笑っている。いかにも幸せそうに生きていることに感謝しているみたいに。
 まるで何事もなく過ぎ去る昼や夜や一週間が当たり前のように過ぎ去っていくみたいに自然にその・・・

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浅草占い日記

13/04/15 コメント:0件 実 閲覧数:1284

 悪魔なんていないと思うと同時に嫌な人に接する際無意識のうちに「死ねばいい」という感情が沸き起こっていることに気づいた時、すべてが光のうちに消え去ればいいと思った。そんな感情は顕れなくていいし、顕れたとしてもそれは私のホンネじゃなくって、何か別の、ユーレイのようにふいにやってくる雰囲気みたいな他人の感情だってことにすればいい、そう思い込むことに決めた、私。
 だってそう、ムースケーキが何段も・・・

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浅草の偶然な煙突と数学的な救い

13/04/14 コメント:0件 実 閲覧数:1248

 世の中に絶望した青年・潔志朗は東京の浅草という下町に住んでいて、あとの人生をどうやって死んでいくかを考えながら毎日過ごしていた。まだ19歳になったばかりなのに20歳までには死ぬと決め込んでいた彼は早くも人生の総決算をはじめようとしているのだった。
 上野にあるショッピングセンターでロープを買って上野恩賜公園の雑林でこっそりと首を吊って死ぬか、身元がわからないように所持品をすべて処分したあと・・・

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親不孝

13/04/09 コメント:6件 実 閲覧数:1409

 瑠介は母親のことを本当の母親だとは思っていなかった。生まれた時から片時も離れたことがないにも関わらず、家族といればいつも気苦労ばかりで何の安息もない。一緒にいて楽しいと思ったことはないし、ましてや何か注意されることもない。幼い頃は頭を叩かれたり悪いことをしたら叱られた記憶はあるが、体罰が囁かれるようになったからなのか、それとも性格が丸くなったのか、瑠介が中学生になる時にはほとんど注意される事がな・・・

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わたし、知らない人なんて、知らない

13/03/29 コメント:4件 実 閲覧数:1598

 自転車を走らせていると地べたに座っている2人組の女の子がいた。まだ初春の寒い陽気なのに何を待っているんだか膝をかかえて座っている。
 仕方がないから俺は自動販売機でホットココアを買う。二人分買うと彼女たちに持っていく。
「おーい、こんなところで座ってたら寒いでしょ?これやるよ」
変な表情をしながらも彼女たちは受け取る。どうやら塾に行くバスを一本逃したようだ。余分な金もないしひと・・・

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浅草で、死ねと祈る

13/03/27 コメント:2件 実 閲覧数:1377

「危ねぇよ、てめぇ」
自転車に大量の空き缶を積み上げ路上をふらふらと走っていたホームレスに怒号が飛ぶ。
「買ったばかりなのによぉ…傷つけたらぶっ殺すぞ?あっ?」
相手も酔っているように思えた。目の奥が窪んでいるし、緩んだタイヤの輪っかみたいに口元が歪んでいる。
「弁償できる金も持ってないだろうによぉ?」男は彼を見下しながら罵倒し続ける。「たっく、臭っい匂い撒き散らしやがって・・・

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クソ生きろ、俺らの希望の代わりに

13/03/19 コメント:2件 実 閲覧数:1411

 久喜から来たトラックの積荷はもう殆ど降ろされた。ベルトコンベアーから休みなく流れてくる荷物のペースが落ちる。体が重い。あと3時間すれば夜が明け、週の最後の仕事も終わる。
「マジでそんなこと言ってんの?」
冴島が笑いながら言ってくるから俺だってちょっとは頭に血が昇る。
「はぁ?お前なんて将来のことちっとも考えてないくせに。今が良けりゃーいいって考え方してっと後々後悔すっぞ?」

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死後の世界と、父の財布

13/03/14 コメント:0件 実 閲覧数:1355

 畳の上に敷かれた布団の上に寝ていたことまでは覚えている。しかしその後の記憶が確かではない。思い出そうとすると頭の奥がズキズキと痛み、記憶がショートしたように真っ白になってしまう。そうして今俺は花畑の中にいるわけだ。黄色や白や赤色とりどりの花が咲き乱れている花の海の中に埋もれている。
 気がつけば正座で座りこんでいた。律儀にも服装はあの時のままで、血の痕などはついていない。ここに来る途中で綺・・・

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天にあるという財布

13/03/13 コメント:2件 実 閲覧数:1270

「うまい棒さえ買う金もない」
康二郎は呟く。財布の中身が空になってから一週間は過ぎたが、一向に事体は好転する兆しを見せないどころか上野の街でホームレスに紛れながら生活することにも慣れてきてしまった。あれだけ汚い臭いと罵り忌避していた浮浪者たちの間にいることも今となっては不思議に思わない。ある意味では天罰だったのかもしれない、ふと彼は思う。蔑んでいた人間になることで運命の神か仏が贖罪の道を歩ま・・・

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喜劇のはじまり

13/03/07 コメント:0件 実 閲覧数:1279

「人を騙してまでも幸せになれって、そういうことですね?」
稔は先生に噛み付いた。進路指導室に集っている他の生徒やスタッフたちが興味深そうに二人を眺め、そしてまた元の仕事に戻った。
「そんなことは言ってない。君はすぐ話を道徳的な話に持っていく」先生は困惑しながらも大人らしい落ち着きを保っていた。胸を膨らませて、なるべく怒鳴らないように。
「だってそういう事じゃないですか。僕は入りた・・・

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もしも世界がピエロだったら。

13/02/27 コメント:2件 実 閲覧数:4757

 白塗りの化粧をするのも大分慣れてきた。高校に入学してから一ヶ月の間は化粧をするというはじめての経験に戸惑いがあったが、毎日の習慣になってしまえばあまり気にならなくなるものだ。中学生を卒業し高校生になるという人生の段階の大きな一つを無事に渡ることができた気がする。やっと世間の中に溶け込むことができるのだ。物心ついた頃から白塗りの化粧をした大人たちを見るたびに、素顔のままでいる自分を恥ずかしく思い、・・・

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厄介払い

13/02/19 コメント:0件 実 閲覧数:1985

 綺麗にしてあげるからと言われノコノコとついて行ったのが今になっては間違いなのだと思う。親にはよくよく知らない人について行ってはいけないと言われていたけど、どうしていけないかについて考えるだけの想像力も経験もあたしにはなかった。せいぜい考えられるとしたら誘拐するだとか、強盗目的だとか、中学生にもなってそれぐらいしか考えることができなかったあたしもどうかしてるけど、それぐらい世間に対して、あるいは人・・・

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とある阿呆

13/02/18 コメント:0件 実 閲覧数:1391

 山本雅則は受験勉強なんてしたくなかった。するのはただ他人もしているからで、もし受験しなかったらある重大な線路から脇に逸れてしまうかもしれないと思ったからだ。取り返しのつかないことをしてしまうという恐怖が彼のやる気の源でしかなかった。
 目の前のノートに向かうことは彼にとって苦痛でしかない。みんながそうするように放課後は自習質に篭るも、ペンを握ってからというものいっこうに指が動かず、ふいにパ・・・

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もしかしたら今日、私は死んだのかもしれない。

13/02/17 コメント:0件 実 閲覧数:1411

『雛人形の起源は身代わり。平安時代には赤ちゃんはよく死んでいた。人形は災厄を引き受ける。災厄を引き受けた人形を流す「雛流し」という風習は今でも残っている』

高校時代のノートにそんな記述を見つけて彼と笑い合う。
「何これ、めっちゃ怖ぇじゃん。もっと優雅な由来だと思ってた笑」
「ホント。私もそんなこと書いた覚えないけど、古文の先生脱線ばっかりしてたからなぁ」
引越しの準・・・

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悟くんのスプーン

13/02/13 コメント:0件 実 閲覧数:1219

 今年の四月を迎えれば僕は高校三年になる。部活動のかたわら週末はボランティア活動をして過ごしてきた。ボーイスカウトの先輩の勧めで介護施設やサッカーのボランティアスタッフなど色々な活動をしてきたけど、たくさんの友人も出来たし、今思えばとても充実した二年間を過ごせてきたと思う。結局は自分のやりたい事だったのだ。辛いし行きたくないと思ったこともあったが、意を決して行動することで、結局は心を落ち着かせるこ・・・

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夜空の下、夢の向こう

13/01/29 コメント:0件 実 閲覧数:1909

 受験を受けることが人生にとってどんな意味があるんだろうと、三夫は考えてしまうことがしばしばあった。本当はそんなことを考えても意味がないとわかっているにもかかわらず、周囲の人間が試験が近づいていくにつれ、「勉強だりぃ」と言っていた不勉強なはずの人間まで熱心に参考書を読んでいる姿を見ると、受験というものがいっそう不思議なものに思えるのだった。センター試験に良いと言われる参考書をそろえるために派遣登録・・・

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Give me チョコレート!!

13/01/17 コメント:0件 実 閲覧数:1888

 床に置かれていたチョコレートを真由美は手にとって眺めていた。もし間違ってこの場所に落ちてしまったのなら誰かが誰かに渡そうとしていたということだ。なぜなら今日はバレンタインだしそういう衝動に駆られて一夜漬けでチョコレートを型に詰めて冷蔵庫で冷やし、朝一番に包装して準備万端だったものの急いでいたためにうっかりとこの廊下にカバンから落としてしまったこともあり得るからだ。
 廊下は閑散としていて誰・・・

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俺たちはいつまで待てばいいんですか?

13/01/09 コメント:0件 実 閲覧数:1380

 おもむろに手のひらを見ると大きな穴が空いていた。どこまでも底なしのように暗闇が彼方まで広がっていて、そこに石ころを落とせば何の音もせずに落ち続けるのではないかと思われた。いったいどうして手のひらに穴が開いてしまったんだろう?と思っても何も答えが出てくるはずはなかった。しばらくの間眺め、指先を恐る恐る指先を通過させてみるが、手の甲からは何も出てくることはなかった。手の甲には何の穴も空いておらず何の・・・

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ゴミの仕事

13/01/06 コメント:0件 実 閲覧数:1366

 就職活動に悩んでいる弟が僕にはいて、将来何になるべきか毎日のように問題になっている。人生においての大きな分岐点になるからだ、とみんなは思っていると思うし僕も思っていた。しかし弟は僕の考えとは違って一見するととても非現実的な、でもとても賢い選択をしようとしていた。
 これは就職活動をはじめるもっと前の、高校生になる時ぐらいの話だ。母に将来何になりたいかを聞かれて弟は即座に答えた。
「僕・・・

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宇宙金魚

12/12/30 コメント:2件 実 閲覧数:1858

「君はどうして生きているか知っているかね?」
僕は知らないと言った。この地球上で生きることに意味なんてあるんだろうか?もし意味があるとしたら苦しいことなんて起こらないし、戦争だって、貧困だって起こらない。
「先生は生きていることに意味があるなんて思ってるんですか?もしそうなら意味を教えて欲しいです」僕は少しやけくそな気分でいた。「だって生きている意味なんていろいろな人が主張しているし、・・・

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