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メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

出没地 八ヶ岳 小淵沢 松本
趣味  養生。飲酒。登山。瞑想。
職業 自遊業
性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 知足。悠々自適。日々新た

投稿済みの記事一覧

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夏の長雨

16/08/23 コメント:0件 メラ 閲覧数:528

「ささいな嘘だったんです」
 吉井はそう切り出した。
 吉井は立派な体躯を持ち、風貌も男らしく、無精髭が様になっている。
「成り行き、なんて言うとあまりにも無責任だって事はわかっています。まさかこんな事になるなんて」
「吉井さん」私は今にも首をくくりかねないような、悲痛な面持ちで話す吉井に向かって、できるだけ落ち着いて話しかける。
「私たちは誰も吉井さんを責めているわ・・・

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ゲリラ前線

16/07/25 コメント:0件 メラ 閲覧数:516

「おい、本部との通信がおかしいぞ」
 俺がいる「A8」ポイントから西に二百メートルほど進んだ「B1」ポイントの見張りに立つ笠松がそう連絡してきたのはちょうど一時間前だった。その時点で、異変に気づくべきたったのかもしれないが、おそらくどんな優秀な歩哨でも察知などできなかっただろう。
「本部、本部、こちらA8の吉武。本部、本部」
 笠松の連絡後、俺は何度か本部に通信した。笠松のいるB・・・

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合言葉

16/07/25 コメント:0件 メラ 閲覧数:486

「パンツ泥棒」
「うーん、ちょっとピンとこないなぁ」
「じゃあ、パンの食べ残し」
「いや、単語で行こうぜ。単語で」
「ぱ、ぱ、ぱ・・・」
「パンタロン・・・って知ってる?いや、ブーツカットの事をよ、昔・・・」
「ねえアッくん」
「え?なに?」
「てゆーかさ、どうして合言葉なんて必要なの?そしてどうしていつも『パ』とか『ピ』とかなわけ?」
「そり・・・

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皇帝ペンギン

16/04/02 コメント:1件 メラ 閲覧数:487

「動物園の方が良かったな」
 アシカ・ショーを見た後、休憩所でマナミがそんな事を言った。窓の外にはペンギン達の姿が見える。
 僕はコーヒーカップを持ったままなんと答えていいのかわからず黙っていた。いや、実は一瞬、離れて暮らす小学五年生の娘が何を言っているのかわからなかった。
 マナミはそれ以上は何も言わず、つまらなそうにソフトクリームを舐め続けていた。横顔が、どんどん母親に似てき・・・

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女王への哀悼をこめて

16/02/06 コメント:0件 メラ 閲覧数:638

 彼女は自分の特性や資質をよく知っていた。そして周りの反応や、変化にもいち早く感知できる能力を持ち合わせていた。自分というキャラクターを、その場その場においてもっとも効率よく活躍させ、有効的に使う手段を心得ていた。
 それなりに有名な進学校だった。
 僕は学力的には比較的落ちこぼれだったが、東大に行ったクラスメイトもいるほど、上品な高校ではあった。どうして僕があんな高校に進学したのか、・・・

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若い男

16/02/06 コメント:3件 メラ 閲覧数:591

 若い男というだけで、それは何かの病気のようなものかもしれない。
 そんな言葉を誰かの小説で目にした事がある。当時は僕自身も「若い男」だったが、妙に納得できた。
 そろそろ四十に手が届く年齢になった。もう若い男とは呼べない。
 しかし、その言葉はこの歳になるとなおさら理解が深まった。そう、若い男なんてそれだけで病気のようなものだ。
 病気なのだから、ある意味それは本人が望ん・・・

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睡魔と笑い魔

16/02/04 コメント:2件 メラ 閲覧数:583

 眠い。どうして僕はいつも眠ってはいけないという場面になると眠くなるのか。いつぞやの結婚式もそうだったし、社長の誕生日パーティーもそうだ。猛烈な眠気に襲われる。気を失いかねないような眠気だ。
 横にいる妻が肘で僕の腕をつつく。もう三度目だ。いい加減この肘打ちも破壊力を帯びてきた気がする。後で何を言われるか分かったものではない。いかんせん妻の祖母の葬式なのだ。
 喪服。喪服。喪服。前も横・・・

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チョコになったクマ

16/02/01 コメント:1件 メラ 閲覧数:506

 この時期は例年の事だが、どうしても帰りが遅くなる。ここ一ヶ月、まともに娘と顔を合わせていない。朝早くに出掛け、帰ってきた頃には布団の中ですやすや眠っている。しかし、天使のような寝顔を眺めるだけで、仕事でくたくたになった頭も体も癒されるというものだ。
「よく眠っているな」
 娘の寝顔をしばらく眺めてから、リビングに戻り、スーツの上着を脱ぎながら妻に言う。
「今日は学校が終わってか・・・

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いちょう並木のセレナーデ

15/12/29 コメント:2件 メラ 閲覧数:668

 ジョギングしている女性が私の横を走り抜けていった。サングラスもジョギングシューズも、どれもよく馴染んで見えた。ペースも早い方だと思う。
 遠目に見ると若い人だと印象があったけど、近くに来ると中年を過ぎたくらいの、けっこう年配の女性だと気づく。でもその凛とした姿がカッコイイなと、素直に思った。
 神宮外苑のいちょう並木はすっかり葉を落とし、裸の枝が冬の乾いた風に吹き晒されている。

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愛しい変な人

15/11/16 コメント:2件 メラ 閲覧数:683

 人間の意識は不思議なものだ。何故なら自分がフォーカスしている対象によって、この世界はいくらでも変容するからだ。
 例えば妻が妊婦だった頃。
 街を歩くと、世界には妊婦さんがたくさんいるのだと知って驚いた事がある。
 しかし、それまで妊婦さんに気がつかなかったのは、街に妊婦がいなかったわけではなく、自分の意識になかったからだ。
 そう思って、たとえば赤い色の服を着ている人を・・・

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泣いてる女

15/10/04 コメント:6件 メラ 閲覧数:787

 夜の世界。夜の街。
 きっと彼女は、そんな夜の世界から来た、夜の住人。
 けばけばしい都会の繁華街にも、清々しい緑溢れる公園のように、等しく朝日は昇り、温かい日差しは照らしてくれる。
 そんな朝日の照らす街角で、彼女は薄汚れたコンクリートのビルの壁に寄りかかり、声を押し殺して泣いていた。ブランド物のハンド・バッグ。真っ赤なワンピース。そして、靴は履いていない。ベージュのストッキ・・・

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ハイは一回

15/09/29 コメント:1件 メラ 閲覧数:683

「はぁ、気分が、重いのよね」
「な、なんすか?急に」
「ほら言うじゃない?女心と秋の雲」
「なんか微妙に間違ってるし、超意味分かりませんけど」
「まあ、あんたみたいな若造には分からないわよ。女心とか、そういう微妙な事。だから彼女できないのよ」
「できます。ふられたんです!」
「同じじゃん」
「あのぉ、チーフ、それってセクハラですよ?今の時代、女の上司がセク・・・

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から揚げ

15/09/08 コメント:3件 メラ 閲覧数:918

 また京子さんのせいで僕は大恥を書いた。
 シーサーって言葉くらい知っていたが、京子さんが自信満々に「これは守り神マー・ライオンっていうんだよ」って言うので、僕はまた信じてしまったのだ。京子さんの言い方は、いつも妙に説得力がある。
 僕がソーキソバの店のおじさんに、シーサーをモチーフにした箸置きを見て
「あ、これってマー・ライオンの箸置きですね」って言ったら「このバチあたりもんが・・・

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母親

15/08/24 コメント:2件 メラ 閲覧数:711

 自分のしでかした事の大きさに、事が起こってから気付いた。
 ケンタは私に頬を打たれて、数秒間動きを止めていたが、すぐに火がついたように泣き出した。
 背中に背負った、まだ一歳になったばかりのミコは、さっきからずっと泣き続けている。目の前で起こった事など何も理解してないだろうけど、ケンタの泣き声につられて、さらに泣き声が大きくなったような気がする。
 平日とはいえ、ショッピング・・・・

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世界

15/08/14 コメント:5件 メラ 閲覧数:1011

 目が覚めた。時計を見た。十一時だった。外は明るい。そろそろ昼になる、というところか。
 そこで気付く。
 自分がいた。
 自分の身体。自分の意識。
 自分はまだ、存在している。
 ため息を一つ。
 眠る前にいつも思うのだ。
 このまま自分など消えてしまえばいい。二度と目が覚めなければいいと。
 しかし、いつもこうして目が覚めて、昨日と同じ自分がい・・・

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いびき

15/08/09 コメント:4件 メラ 閲覧数:753

「何度本気で首絞めてやろうかと思ったことか。数え切れないわ」
 母はワインを飲みながらそんな事を言う。最近母はワインが好きだ。でも味もへったくれもないようで、ただ飲みやすい甘口の白ワインをがぶ飲みして、酔っ払ったらさっさと寝てしまう。今日もその内ころっと布団に入るのだろう。
「あのいびき。よくまああれだけ人に迷惑かけて本人は平然としていられるもんね」
 父のいびきを思い出し、母は・・・

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カレーの罠

15/07/17 コメント:3件 メラ 閲覧数:849

 夫の引き出しに怪しいものを発見した。
 大きな茶封筒だった。ずいぶん古いものだ。年季が入っていて、封筒自体はよれよれになり、所々シミのような汚れもある。
 その引き出しは普段は鍵がかかっている。それまで別段気にしたことなどなかったのだけれど、夫の出張中に掃除をしていて、その引き出しがほんの少しだけ開いていることに気付いたのだ。
 夫はここ最近出張が増えた。そして、やけに私に優し・・・

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美しい人

15/07/02 コメント:3件 メラ 閲覧数:1323

 彼に初めて出会ったのは、まだ彼が小学生の低学年の頃です。私は当時中学生でした。
 あんな美しい子供を、人を、存在を見たことがない。私はまるで雷に打たれたかのように、あの子の美貌に打ちのめされ、数日間ロクに食事もできなかったほどです。自分がとても醜い生き物のような気がして、死んでしまいたいくらいの恥ずかしさを覚えました。
 そんなあの子と親しくなれたのは、あの子の高校受験のために、私が・・・

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オニオン

15/06/24 コメント:2件 メラ 閲覧数:794

 玉ねぎを切る。一心不乱に。
 刻むきざむキザム。
 涙が出る。
 ちょうどいい。だって泣きたい気分だったんだもの。
 私は特に料理上手とはとても呼べないけど、玉ねぎを刻むことに関してはプロ顔負けだと自負している。修練の結果。いや、修練なんてしようと思ってたわけじゃない。ただの慣れだ。つまり、それほど私は過去に玉ねぎを刻んできた。
 ちなみに何を作るかは考えていない。・・・

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雨の動物園

15/06/08 コメント:2件 メラ 閲覧数:1293

 上野動物園に来ていた。天気はうす曇から、弱い雨に変わった。
 香織さんは傘を持っていなかったので、僕が駅前で買ったビニール傘の下、二人で並んで歩いた。
 並んで歩いたといっても、僕は体の半分が濡れていた。香織さんは僕の恋人ではなく、僕の親しい先輩の恋人だからだ。
 先輩は香織さんとの約束を急遽キャンセルし――それはよくある事だった――、何故かその日暇な僕に先輩から声がかかり「暇・・・

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タイムマシン

15/05/22 コメント:1件 メラ 閲覧数:854

「ねえねえ、タイムマシンがあったらどうする?」
「はあ?タイムマシン?」
「そう。どこに行きたい?」
「唐突に言われてもなぁ・・・。てゆーかメシ食ってからにしねえ?花マルうどんでタイムマシンのこと話すなよ」
「ええー、いーじゃん?ぶっかけうどんでしょ?すぐ食べれるじゃん」
「すげえ意味不明だよ。それにお前は天ぷら乗せすぎ」
「・・・。うーん、美味しい。でさ、どう・・・

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相談屋ケイジロウ 新宿バッハ 3

15/05/18 コメント:2件 メラ 閲覧数:831

 *全開までのあらすじは、どうぞ『メラ』のページからご覧ください。
 

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 それから数日後。サトウが死んだという噂が巷で飛び交った。サトウと昔から親しかったケイジロウに、何人からもサトウについて尋ねられた。
 元々裏の世界を生きてきたサトウ。本名すら知らないのだ。実際の彼の行方は分からなかった。概ねの多くの意見としては、爆発でバラバラになり、遺体も見つか・・・

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黒潮

15/04/24 コメント:1件 メラ 閲覧数:802

 ディーとはカナダのトロントで知り合った。彼はインディアン、いわゆるネイティブ・アメリカンで、ずんぐりしているが、日本人とさほど変わらないような容姿をしていた。
「オレはアメリカンじゃないよ」
 ディーは訛りのある英語で話す。そう、彼はインディアンの血を色濃く引いているが、南アラスカのインディアンだった。
 ディーの父の代にアメリカに渡り、ディーは父の死後、カナダに移り住んだとい・・・

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フェリー清掃

15/04/19 コメント:0件 メラ 閲覧数:1223

 先日のことだ。
 酒の席でひょんな事から「過去の職歴について」の話題になった。
 皆、それなりに親しい間柄の席だったので、前職くらいは大体知っていたが、学生時代のアルバイトという話題まで遡ると、実に世の中には色んな職種があり、人によってはなかなかお目にかかれないようなアルバイトを経験したという話もあり、なかなかその話題は盛り上がった。
 友人達も話もさることながら、私の話をここ・・・

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新幹線の親子

15/04/13 コメント:2件 メラ 閲覧数:912

 先日、京都まで行った帰りだ。取材がてら、遊びがてら。京都に一泊した。
 こうしてたまに家族から離れ、一人旅をするのが僕の楽しみでもある。毎日毎日、同じ顔をつき合わせて、同じような内容の一日を繰り返すのは、どうも僕の性分じゃないようだ。ただ飽きっぽいだけと言われればそれまでだけど。
 僕は空いていた自由席の窓側に滑り込むように座り、列車が発車すると同時に缶ビールの栓をあけた。京都から名・・・

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引越しアルバイトの思い出

15/04/07 コメント:1件 メラ 閲覧数:921

 もう十五年以上前のことだが、僕は金欠になると引っ越しのアルバイトをやった。ちなみにあの頃は若い男の大半がそうであるように、慢性的な金欠だったので、引っ越し屋のアルバイトはよくやった。
 僕を知らない人のために言っておくが、僕は今も昔もかなり体型は痩せている。高校生の頃から、三十代中盤を過ぎた今も体重は変わず、体脂肪率は8パーセント以下だ。アスリート並みの数値だが、筋肉もないのだ。本当に痩せ・・・

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相談屋ケイジロウ 新宿バッハ2

15/04/05 コメント:5件 メラ 閲覧数:1068

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「この街も変わっていくのかな」
 ケイジロウが歌舞伎町の繁華街をぼんやり歩きながら言った。今からもう七年ほど前のことだ。
「いや、変わらないよ」
 サトウが言った。皆彼のことを『サトウ』と呼ぶが、本当の名前は誰も知らない。噂によると両親は台湾人だと言うが、サトウ自身は日本で生まれ育っているので、見た目はもちろん、こうして話していても日本人と何も変わらない。<・・・

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15/03/24 コメント:7件 メラ 閲覧数:1269

 いつもと違う見慣れぬ風景に、茶沢拓郎は一瞬目を疑い驚いたが、すぐにはっとして思い出した。そう、この風景こそが、むしろいつもの風景になりつつあるのだと。
 がらんとしたリビング。壁紙には数日前まで置いてあった家具の跡が残っている。妻が出て行く際、家具のあらかたを持っていった。実際の所、茶沢にも未練の残る家具などなかった。このマンションも、早々に退室する手続きを始めないとならない。実質的に、一・・・

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新宿バッハ

15/03/18 コメント:5件 メラ 閲覧数:1317

 男が放った右ストレートの強烈な一撃が、ケイジロウの顔面を打ち抜いた。どうやらこの男は打撃系の格闘技をやっているらしいと気付いたのは、ケイジロウが後方に吹き飛び、壁に背中を打ちつけた時だった。一見すると男は普通のサラリーマンにしか見えなかったので、完全に油断していた。
 男は息もつかさず蹴りを放つ。ケイジロウはそれを避けるべく、コンクリートの床を前のめりで転がった。なるほど、スーツ姿でスニー・・・

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ケヤキ並木に差す光

15/03/12 コメント:6件 メラ 閲覧数:1364

 今こっちを見た。
 私は思わず目をふせた。
 彼はいつも見かける仲間たち数人と、わいわいと騒ぎながら、早足で私を追い抜いた。その時、私と一瞬だけど目が合った。
 彼は毎朝、この道を仲の良い男の子達とにぎやかに歩く。制服は来週から夏服に変わるのだけれど、彼はいつも上着を脱いで、白いシャツのボタンのいくつかを、少しだらしない感じで開いている。私も、この時ばかりは早く夏服になればいい・・・

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神の思し召し

15/03/04 コメント:6件 メラ 閲覧数:950

 もしこれが神の思し召しだとするならば、私はやはり神など信じれない。もし神のいたずらだとしても、私は笑えない冗談は好むところではない。
 それは突然私の目の前に飛び込んできた。何の前触れもなく、私の現実に起こった。

 夫がいつものように会社に行った後、私は部屋の掃除をしたり、明日の夫の誕生日のために、今日の内からと、ビーフ・シチューの仕込みをしながら、夕食のメニューを考えたり、・・・

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戦国クイズ

15/02/19 コメント:9件 メラ 閲覧数:947

「あー、なんてったっけ?ここ、ここまで出掛かっているの、あーん、なんだっけ」
「ノド?ノドまできてる?」
「そう、ここ、ここまできてる。あーん、思い出せなーい」
「そのノド元トントンするのやめろよ。なんかオッサン臭えし」
「えー?だって、ほら、もうここまできてるの。分かるでしょ?えーとね、なんだっけ?」
「なんだよ、アッコが戦国大名クイズやろうっつったから問題出してん・・・

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スクランブル交差点

15/02/09 コメント:3件 メラ 閲覧数:1149

「今日はひょっとして、祭りでもやってるんじゃないのか?」
 高校生の頃だ。修学旅行で東京、渋谷に初めて訪れた時、僕は本気でそう思った。
 渋谷ハチ公前。スクランブル交差点。テレビドラマ、漫画、ニュース、尾崎豊の歌。僕はそこがどんな場所かは大体知っていたし、テレビ画面の中でも、何度も見たことがあった。でも、僕の目の前に広がる人の大波は、田舎の一番大きな祭りの時よりも賑やかだった。どこを歩・・・

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カフェ

15/02/04 コメント:2件 メラ 閲覧数:764

 遅い春を待つ信州の四月。夜に外で待ち合わせというわけにもいかない。そもそも、お互いの仕事の終わる時間が曖昧だったというのもある。どちらかが遅くなる場合、冷たい風の下彼女を待たせたくはないし、ずっと暖かい東京から来た俺がじっと待っていられる自信はない。
 予定していたよりも早く仕事は終わった。だから俺はコーヒーを飲みながら、待ち合わせ場所のカフェで時間を潰す事になった。
 カフェは夕食・・・

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浪人

14/11/15 コメント:3件 メラ 閲覧数:802

 僕はテーブルを拭いていた。午後四時。一番暇な時間帯だ。朝八時から夕方六時まで。昨年オープンした念願のカフェは、今の所上手くいっている。
「店長、ホイップ・クリームの仕込み終わりました」
 アルバイトのみっちゃんがキッチンから出てきて、相変わらずのんびりと言った。クリームの泡立たせも、やっと上手にできるようになったが、仕事は人よりも倍かかる。
「ありがとう。まあしばらくのんびり掃・・・

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グラスワイン

14/10/06 コメント:1件 メラ 閲覧数:693

 三杯目のグラスワインをウェイターが彼女の前に置いた。彼女はワインに一口だけ口をつけ、
「ちょっとお手洗い行って来るね」とかわいく言った。昔と変わらない声だと、僕は白ワインのグラスを傾けながら思った。
 テラス席は混み合っている。街行く人々を眺めながら、こうしてのんびり食事をしてワインを飲むのは、とても贅沢だ。
 注文した料理はあらかた食べ終わり、そろそろ僕はバーにでも行きたいと・・・

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秘密屋

14/10/03 コメント:2件 メラ 閲覧数:755

「僕、ある男を殺したんです」
 一見真面目そうな、某進学校に通う高校二年生は、私から目を逸らしたまま告白した。
 私は何も言わず、その学生を観察していた。
「いや、直接何かしたわけじゃなんです。ただ、イジメっていうか、からかっていたら、ソイツ、自殺しちゃって・・・」
「遺書とかで君の名前を出しているなら、それはもうどうにもならないと思う」
 私は正直にそう言ったが、学・・・

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14/08/14 コメント:1件 メラ 閲覧数:690

 何年間ここにこうして置かれていたのだろう。誇りの被った机の上には、同じように誇りの被ったゲーテの詩集が置いてあり、僕がそれを手に取ると、かすかに窓辺から漏れる光の中、細かい埃が舞うのがよく見えた。僕は何故だか光の中で舞う細かい埃に一瞬目を奪われた。
「ごめんなさいね。この頃掃除していないものだから。でも、できるだけこのままに残しておきたくて」
 牧野の母親はそう言ってから、南側の大き・・・

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蝉時雨

14/07/22 コメント:4件 メラ 閲覧数:824

「パパはママのこと嫌いなの?」
 修一がどこか不安げな顔で僕に尋ねた時、僕は何も言えず、完全に言葉に詰まってしまった。僕が答えに窮したという事が、すでにその質問に対する答えであるという事も、七歳の修一に理解できたと思う。
「修一」僕は咳払いをしてから立ち止まり、その場でゆっくりとしゃがんだ。修一の目線が同じ高さになる。僕を見つめる真っ直ぐな視線に、どこかたじろぐ自分がいるのは何故だろう・・・

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夜道

14/07/16 コメント:3件 メラ 閲覧数:805

 疲れた。今日も。疲れた。なんでこんなに忙しいのだ。マジでブラック企業だよウチ。
 俺はそんなことを考えながらクソ満員の西部新宿線の最終電車に揺られていた。
 サービス残業。クレーム処理。手柄は独り占めにし、ミスは部下のせいにする課長。カットされたボーナス。慢性的な人員不足。そんな会社に誰も入るわけない。
 やっと最寄駅についた。急行の止まらない小さな駅。パラパラと電車から人が吐・・・

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GOOD LUCK!

14/07/01 コメント:5件 メラ 閲覧数:730

 涙を流したのなんていつ以来だろう?私の心はすっかり冷え切っていたのか、少なくともここ数年は、涙を流すことなんてなかった。
 私はふと思い出したように、ネパールに一人旅をした時の写真を手に取り、涙を流していた。
 一年間付き合ったしていた男に振られた時も、叔母が亡くなった時も、話題の映画を観に行った時も。感動したり、悲しかったり、悔しさに打ちのめされたりもしたけど、涙は出なかった。ちな・・・

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深い霧

14/06/10 コメント:1件 メラ 閲覧数:827

 足を止めて後ろを振り返る。自分が歩み、辿ってきた道筋が見えるだろうか?
 砂地の上なら、簡単にその足跡はかき消される。しかし、人生は必ずしも砂地の上を歩いたとは限らない。
 後ろを見ても、何も見えない。ただ自分が今まで歩いてきた道が、真っ暗な道だったと気づく。よくここまで来れたものだ。
 と言う事は、俺は闇を抜けたのだろうか?いや、まだまだ自分は暗闇の中を模索しているようなもの・・・

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蜘蛛の巣

14/06/02 コメント:2件 メラ 閲覧数:862

 窓の外に蜘蛛の巣が出来ていた。大きな巣だ。いったいいつの間に出来ていたんだろう。毎日デスクに座って仕事をしているのに、今の今までまったく気付かなかった。
 あるいは昨日の夕方の時点では蜘蛛の巣などなかったのかもしれない。となると一晩の内に蜘蛛は見事は蜘蛛の巣をつくりあげたという事になる。実際に蜘蛛の巣を勢作するのにどれくらいの時間を要するのかはまるで分からないが、どちらにしろ、あっという間・・・

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陽子ちゃんへ

14/05/23 コメント:2件 メラ 閲覧数:865

 このような形であなたにお伝えしなければならないことを大変残念に思いますが、あなたが電話に出ない以上、不本意ながらこうしてメールという形をとらせていただきます。。
 修一君から聞いたかもしれませんが、和也の人生は文字通り、坂を転がり落ちるという表現がぴったりだったかもしれません。ただ勘違いしないで欲しいのが、決して誰もあなたを責めているわけではないという事、和也があのような最後を遂げたことに・・・

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カプセル

14/05/13 コメント:5件 メラ 閲覧数:1028

「なんと言ってもうちの高木くんは優秀だよ」
 増川社長がパーティーの席で私の事を自慢しながら褒める。私は日本でもトップ企業である「マスカワ・トータル・コミュニケーションズ」に入社して五年。社長秘書としてニ年。ようやく今の地位を築き上げた。
「増川さんは本当にスタッフに恵まれている。羨ましい」
 会社の規模としてはマスカワの半分に及ばないが、一応業界内の大手の「トヨトミ通信」の社長・・・

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カミングアウト

14/05/02 コメント:2件 メラ 閲覧数:735

「・・・驚いたか?」
「まあ、な。驚かなかったと言えばウソになるな」
「聞いてくれて礼を言うよ」
「おいおい、ちょっと待てよ。確かにさ、お前が実はゲイだったってのは驚いたけどさ、今の時代、そこまで気にする必要ねえんじゃねえの?」
「でも、オレはずっと本当の自分を失くしたまま生きていたんだ。今までのオレは全部ウソだったんだ」
「わかるよ。うん」
「わかるのか?」<・・・

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結婚しよう。

14/04/22 コメント:6件 メラ 閲覧数:956

「結婚、しよう・・・」
 私の聞き間違えだと思った。だから私は唖然というか、放心したように、何も答えられなかった。
「結婚、しよう」
 聞き間違えじゃない。祐樹は顔をくしゃくしゃにして、涙を流しながら、確かにそう言った。
「結婚しよう」
 三度。彼は言ってくれた。三度目は涙声で声が詰まり、一番聞き取りづらかったけど、祐樹はそう言ったのだ。
 さっきまでの諦めとか・・・

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春を待つ

14/03/02 コメント:3件 メラ 閲覧数:991

 北海道は四月になっても、まだまだ日陰には雪が残っていた。そして道路は車が通るたびに、溶けてぐしゃぐしゃになった汚い雪が飛び跳ねる。うっかり車の横を歩いていると、泥まみれの雪をひっかむる事になる。
 長靴を履いて、そのぐしゃぐしゃの道を歩いていた。むしろ楽しかったかもしれない。子供にとっては雨の日も雪の日も、全部同じ一日だった。晴れても一日、雨も一日、雪解けも一日。
 灯油の臭い。スト・・・

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平凡な奇跡

14/02/28 コメント:7件 メラ 閲覧数:870

 自分の人生は平凡だと、ずっとアズサは思っていた。自分の特徴は、普通。それが一番しっくり来る言葉なのかもしれない。アズサは病院の待合室で、そんな事を考えていた。
 結婚した相手はどんな人かと尋ねられても、
 小学一年生の六歳の娘がいる。普通の夫と結ばれて生まれたのは、これも普通の子供だ。もちろんとてもかわいく思うが、美少女と呼ぶにはお世辞が過ぎる。背の高さは平均よりは少し低いかもしれな・・・

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雪の降る町

14/02/24 コメント:1件 メラ 閲覧数:733

 田舎に帰って一人でこんなにのんびりするのは何年ぶりだろうか。幸次郎はそんな事を思いながら、半分以上がシャッターの閉まった飲み屋街をぼんやり歩いた。積もった雪が道の脇にどけてあり、排気ガスやら泥やらがこびりついて、この場末の飲み屋街には雪国の情緒や美しさはまったく見受けられなかった。
 子供と一緒にいた頃は、毎年最低でも一回は帰郷し、両親に孫の顔を見せていた。しかし、離婚して親権が妻の方へ移・・・

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猫の背中

14/02/06 コメント:3件 メラ 閲覧数:1235

 どうしてこんな事言ってしまうんだろう。いつもそう。自分の気持ちは、いつも人に言えないまま。
「マヤはね、ホントにいい子だよ」
 マヤはあたしの親友。そして、レイにずっと片思いしている。マヤが先にそれを打ち明けたせいか、私もレイのことが好きだとはマヤに言えなくなった。
「そんな事、分かってるけど・・・」
 レイはそう言いかけてから、小石を拾って枯れ細った草むらに投げた。いさ・・・

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ウーロン茶

14/02/04 コメント:3件 メラ 閲覧数:1512

「ソレちょっとありえなくねえ?」
「でしょ?」
「ええと、何だっけそいつ?」
「うん?タカぽん」
「ぽん?」
「タカぽん。かわいいでしょ。本名は・・・」
「いや、どうでもいいけどよ。ユミもそんなんだからナメられてんじゃねえの?」
「嫌だー、カッ君。それ下ネタ?タカぽんとはまだ・・・」
「ばか、全然ちげえよ。空気読めよ」
「でも、タカぽんね、すっ・・・

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中国

14/01/28 コメント:5件 メラ 閲覧数:968

 あるいは彼女が中国人だとは、人によっては気付かないかもしれない。それほど彼女の日本語は流暢で自然体だった。そして見た目も僕ら日本人と何も変わらない。
 でも僕は会話の端々から、地方訛りとは違ういんとネーションに違和感を感じた。いや、そんな言い方をしてしまっては語弊があるかもしれない。違和感といっても何も不快感があったわけではないのだ。
 ひょっとして外国人かな。ただそう感じただけだ。・・・

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その手の中で

14/01/16 コメント:8件 メラ 閲覧数:1126

 歓喜、という言葉がぴったりだったと思います。あなたにとってあの日、あの瞬間の歓喜といったら、私も見ていて涙が出るほどでした。いえ、歓喜の瞬間だけではなく、あなたが積み重ねてきた努力。耐え忍んだ日々。私は遠くから見守っていました。だからあなたの感じた喜びの大きさは、計り知れないものでしょう。
 あなたは女性の私から見てもうっとりするくらいの美貌に溢れ、やさしく、目標に向かって健気に努力すると・・・

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黒い宝石

14/01/12 コメント:4件 メラ 閲覧数:955

 もう冬だというのに、馬達は外に出されている。観光用の牧場だから仕方ないのだろうが、牛なんかと違い、毛の短い馬達は凍えているように見える。しかも、まだ自由に動き回れるならまだしも、頑丈そうな柵に、太いロープでつながれているのだ。それをダウンジャケットやダッフル・コートを着込んだ親子連れが見て喜んでいる。
 車を降りて、僕も馬に近寄ってみる。そろそろ年末。東京から車で二時間もかからないで、こん・・・

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霧の中

14/01/08 コメント:4件 メラ 閲覧数:899

 同じ年代の近所の友人の夫が、長患いの末に先日亡くなった。私は箪笥から喪服を出し、沈んでいる彼女の少しでも力になれれば思った。
 彼女は介護で日々を消耗し、普段から疲れきっていたので、悲しみに沈みつつも、どこかほっとした様子が見て取れた。
 六十台の私達にとって、伴侶の死はまだ早いとも言えるし、一昔前なら遅いとも言える。六十台というのはなんとも半端な年齢かもしれない。自分自身、おばあさ・・・

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デジャブ

13/12/18 コメント:3件 メラ 閲覧数:1045

「あ、今デジャブった」
 お喋りの途中、突然マキが金縛りにでもあったかのようにぴたりと動きを止め、それからそんな事を言い出した。
「また?」
 私は少し冷めたココアを一口飲んで言った。マキがこういう事を言うのはよくあることなのだ。
「そうそう、うんうん。これこれ。絶対見た。昨日、いや一昨日かな・・・」
 駅前にならどこにでもあるカフェのチェーン店。私たちは子供を保育園・・・

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アマイアマイ病

13/10/24 コメント:5件 メラ 閲覧数:1129

 ああ、美味い。あまーい。ぞくぞくする。鳥肌が立つ。頬っぺたが落ちるとよく言うけど、顔面すべてがとろけそうだ。
 オレのばあちゃんは「イタイイタイ病」の人を知っていると言っていた。いや、別に公害の話をしたいわけではない。オレが言いたいのは、オレはもう何ヶ月も「アマイアマイ病」だという事で、それはただ響き的に語呂がいいだけで、不謹慎にもイタイイタイ病の話しなんか持ち出してしまったのだ。
・・・

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ウーロン・ハイ

13/10/21 コメント:4件 メラ 閲覧数:1155

「マジで?」
「ああ」
「ありえなくねえ?」
「いや、ありえるって」
「うーむ・・・。とりあえず飲もう」
「ああ、飲もう」
「プハー、ビールは二杯目も美味い」
「三杯目もそう言うんだろ?」
「つーか、さっきの話し。証拠あんのかよ?」
「多分。ユキチも見たし、俺も確認した」
「それってさぁ、いわゆる都市伝説的なアレじゃねえ?」
「と、・・・

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公園

13/09/24 コメント:3件 メラ 閲覧数:1050

 あのオヤジまたいるよ。
 新田信次は公園の横を歩きながら、なんとも呆れるような気持ちでそう思った。先月から通勤時間が早くなり、この公園を横切るのは午前六時前だ。その時刻に、公園にたくさんいる野良猫に餌をあげている六十台くらいの男性がいて、近所からは「猫オヤジ」と呼ばれている。
 猫オヤジが毎日夕方に、野良猫達に餌を与えているのを知っていたが、こんな早朝にも餌付けしているとは最近になる・・・

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待ち人来る

13/09/05 コメント:5件 メラ 閲覧数:1885

「待ち人来る」
 確か正月に近所の神社で初詣した時、おみくじにはそう書いていたと思う。夏美はそんな事を思い出したが、それは今の状況にとってなんの慰めにもならなかった。
『ごめん!どうしても仕事が終わらない。必ず埋め合わせはするから』
 交際相手である雅人からそんなメールが届いたのは、待ち合わせ場所に着いてからだった。
「ありえない」
 夏美はそう思ったし、そう返信した・・・

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神様ごっこ

13/08/15 コメント:6件 メラ 閲覧数:1499

「じゃあ、次は私が神様ね」
 マユが声高く言った。私はまだ神様になれない。いつもそう。神様はマユとチヒロばかり。
「じゃあ、人間達は松ぼっくりを十個集めること。一分以内」
 私とチヒロは慌てて雑木林の中に駆け込んだ。
 神様ごっこ。誰が名付けたのかは知らないけど、私の学校では一時期、『鬼ごっこ』とか『刑ドロ」なんかと同じくらいの頻度で行われた遊びだったが、皆飽きてしまい、未・・・

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つくね

13/07/22 コメント:6件 メラ 閲覧数:1445

「てゆーかさ、マジでむかつくわけ」
「うん」
「ああいう奴はさ、絶対地獄落ちると思うよ。マジで」
「・・・へえぇ」
「でな、オレは思うんだけど・・・。お、これうめえ!やばくない?このつくね」
「ああ、美味いな」
「これさ、うん・・・、んぐんぐ・・・。このプチプチした食感さ、鳥の軟骨入れてるんだよ。オレさ、こういうつくね大好き」
「へえ」
「ごめんごめ・・・

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家出

13/07/01 コメント:5件 メラ 閲覧数:1377

 家出の計画を立てた。私はもうこんな家、こんな町、我慢できない。
 親友のユミと一緒に来週の月曜日の朝、いつものように学校に行くフリをして、そのまま上り電車に乗って新大阪まで行く。そして大阪から新幹線で東京まで行く。大丈夫、東京にはそのコースで旅行に行った事がある。ユミも何度も行っている。楽勝や。
 東京にはユミの従姉妹のお姉ちゃんも住んでいるし、フェイス・ブックで友達になった一人暮ら・・・

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セナゲ

13/06/20 コメント:1件 メラ 閲覧数:1212

 サークルの飲み会でごったがえす居酒屋。皆大声で喚き散らし、イッキ飲みのコールが響き渡る。和気藹々と赤い顔をしながらも、狡猾な目つきで女の子を物色する男達。そしてさらに狡猾でずる賢く男を品定めしている女の子達。どっちもどっちだろうし、私も実際は先輩達とお近づきになれる機会を伺っていた。
 飲み会はあちこちで小さな集まりを作り、それぞれの席で盛り上がる。そんな中、隣のグループからふと聞えてきた・・・

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 失くしたもの

13/06/20 コメント:3件 メラ 閲覧数:1245

 彼女に恋人がいたなんて知らなかった。そして僕と夜を過ごした日が、彼女がその恋人と別れた日だったと知った時は、自分がとんでもない卑怯者のような気がしたし、同時に彼女との間にようやく実ったと思った恋が、ただの幻想だったと知って、僕は完璧に打ちのめされた。そう、彼女にそんな理由でもない限り、僕ごときに体を許すなんて事はありえなかったのだ。少し考えれば分かったはずだ。それはまだまだ長い夏の続きのような、・・・

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緑のトンネル

13/05/30 コメント:3件 メラ 閲覧数:1425

 この並木道はつい数ヶ月前には「桜のトンネル」だった。車通りの多い道なので、いわゆる花見客こそいないが、桜のシーズンは多くの人々がその道を散歩していた。道路の両サイドから、長い枝が車道の空を覆うように、トンネルを作る。私は中央高速道のインターに向かう時、必ずこの道を車で走る。
 花が散り、鮮やかな新緑の葉が次々と芽生え出すと、あっという間に鬱蒼とした「緑のトンネル」になった。自然とはすごいも・・・

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茶封筒

13/04/22 コメント:3件 メラ 閲覧数:2338

 ある日、しこたま飲んだ帰りに郵便ポストを覗いた。特に意味はない。そうしないとどうでもよいゴミが溜まるからだ。しかし、その日はピザ屋の広告や、いかがわしいチラシに混じって、一通の封筒が入っていた。
 その茶封筒には恐ろしく達筆な文字で、自分とは違う、見覚えのない宛名が記されていた。しかし住所は東京都杉並区・・・。これはここの住所だ。
 封筒を裏返すと、書き主の名前が書いてある。これも恐・・・

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バックの中

13/04/03 コメント:5件 メラ 閲覧数:1653

「あれー?おかしいなぁ」
 エミはまたバックの中をひっくり返すように探す。財布が見つからないのだ。
「エミ、あと五分で急行出ちゃうよ。急がないと」
「だってー・・・、あれー、さっき使ったばっかりなのに」
 昼食は僕がもったからと、先ほど入ったカフェでコーヒー代を支払ってくれた。今から三十分ほど前だ。それから一度も財布は使っていない。
 僕は改札横の券売機の前でやれやれ・・・

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祈り

13/03/23 コメント:3件 メラ 閲覧数:1601

 祈る時は自然と手が合わさる。どんな国のどんな宗教でもそうだ。右手と左手を合わせ、祈りを捧げる。
 写真でしか見た事のない僕の曾おじいさんは左腕がなかった。遠い南の島で砲弾を受け、どこかに吹き飛んだそうだ。僕の父はおじいさんからそんな戦争の話をたくさん聞かされて育った。
 僕はやはり又聞きだったせいか、父がただ単に話しベタだったのか知らないが、父の話す「祖父の戦争体験」に、子供だった僕・・・

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憧れのサーカス団

13/03/15 コメント:1件 メラ 閲覧数:1425

 町にサーカスがくる。そんなサーカスがらみの物語を観たり読んだりした事がある。概ねのストーリーは、町にサーカス団がやってきて、主人公は何らかの障害がありつつも、サーカスのテントに入ることができ、素晴しい一夜を過ごすという、そんな話しだった。
 でも、現実に僕の町にサーカス団がやってくる事はなかった。理由は分からない。北海道の片田舎をサーカス団は巡業の地に選ばなかったのか、それとも僕の住んでい・・・

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ヒーロー

13/01/30 コメント:2件 メラ 閲覧数:1325

「来た来た来た、ゴリ子持っているよ。おい、鉄平、ぜってえあれ本命だって」
 友達が笑いながらオレをちゃかす。何人かがそれを見て一緒に笑う。オレはこの寒いのに冷や汗をかく思いで校門からいち早く立ち去ろうとした。
「ちょっと、鉄平、マリコが話しあるんだから、待ちなよ」
 オレの目の前を女子達が立ちふさがる。後ろからゴリ子が迫って来る。
 長尾マリコ。通称ゴリ子。オレ達の間で「ス・・・

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フェリー・ボート

13/01/14 コメント:4件 メラ 閲覧数:1649

 僕は北海道のとある田舎町で生まれ育ち、二十歳になるまでそこで過ごした。その町は札幌まで電車で一時間ほどの中規模な町で、それなりに有名な観光地だった。
 海がある町だった。僕の実家から緩やかな傾斜の坂道を、十分も下ると港に出れた。だから家の前からはいつも海が見える環境だった。厳しい冬も、暑い夏も、いつも海はそこに、手の届く距離にあったのだ。
 港を仕切る長い堤防の向こうは、見渡す限りの・・・

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砂利道

13/01/04 コメント:6件 メラ 閲覧数:1629

 始めから所帯じみたものを求めているわけではなかった。しかし、だったらどうしてこの女と付き合ったのだろう。恭介はそんな自分の行動を把握できなかった。だが今の所は、きっとただの気まぐれだったのだろうと結論付けている。
「へえ、鎌倉時代からあるんだって」
 ミチコが感心しながら、仏像の前にある説明書きを読み、恭介にそう言った。
「ふーん」
 有名な寺らしい。しかし鎌倉時代だろう・・・

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かるた

12/12/06 コメント:3件 メラ 閲覧数:1920

 子ども達がカルタ遊びをしているのを、オレは従兄弟のマサルと一緒に、ちびちびと酒を飲みながらぼんやり眺めていた。カルタの文面を読み上げているのは同じく従姉妹のミホだ。ミホはマサルの姉にあたる。
 台所ではオレの妻とお袋、妹と叔母さんの四人で正月料理をせっせと仕込んでいる。
 ミホは昔から絵本の読み聞かせなどが上手だった。だから今もこうして聞いていても、なかなか気の利いた言い回しでカルタ・・・

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黒い人

12/11/05 コメント:1件 メラ 閲覧数:1345

 その肌はひんやりしていた。しかし、例えばしばらくの間、肩とか腹のあたりに手を置いていると、携帯カイロが温まっていくかのように、じわじわと熱を帯びてくる。
 そんな彼女と抱き合った後は、体中が静かな炎に包まれたかのように、いつまでも熱い。和也はその内側に篭った熱と、火照った体を持て余すのだった。
 そんな事を彼女の伝えたのだが、本人はまったく興味なさげに、一也の話をほとんど聞き流してい・・・

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エレベーター・ガール

12/10/25 コメント:4件 メラ 閲覧数:2168

 地下二階の駐車場から十一階の屋上まで、エレベーターは、僕の指先一つでどこにでも運んでくれる。人もまばらな火曜日の、午前十時四十五分。僕の好きな時間帯だ。でも両開きのドアが開くと、そこのは早くもエレベーター・ガールが乗っていた。
 僕は子供の頃からエレベーターが好きだった。エレベーターが上昇する時のあの感覚。重力を感じ、大きな力でちっぽけな自分が、無機質に運ばれて行くあの安心感。そしてまた下・・・

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灯油の臭い

12/09/24 コメント:6件 メラ 閲覧数:2132

 スコップを片手に、ようやく玄関のドアに辿り着いた。レールの錆びかかった引き戸を開けると、まず鼻についたのは、むせ返るような灯油の臭いだった。
 玄関には、灯油の入ったポリタンクがいくつか置いてあるが、この臭いはポリタンクからというより、壁や床、天井など、いたるところに染み付いてるものだ。
 父が亡くなってから三年、母が一人で暮らし続けていたこの家も、今は明かりが灯る事なく、雪に覆われ・・・

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時計の音

12/09/22 コメント:4件 メラ 閲覧数:1537

 ハッキリと、置時計の秒針の音が、部屋の中に響いている。今の今まで、この小さな時計が、こんな音を発していた事を、オレはまるで知らなかった。不思議なものだ。今この部屋で、こんなに大きな音を響かせているというのに。
 千夏はうつむいて、さっきからずっと押し黙ったままだ。視線はテーブルの真ん中の、いつ点いたのか分からない、茶色いシミの辺りを見つめている。だが千秋はうつむいているというより、うな垂れ・・・

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駅が見える窓

12/09/11 コメント:4件 メラ 閲覧数:2146

私の部屋の窓からは、ちょうど駅のプラットホームを見下ろす事ができます。窓は東向きで、朝、カーテンを開くと、遠い山間から上った太陽の光が、部屋の奥まで差し込みます。そして、高い建物など一つもないこの町を、その眩い朝日が照らしている様子を見渡す事ができます。
 私は毎朝、目が覚めると一番に窓を開け、朝の冷たい空気を部屋に招き入れるます。そして光を受け、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込みます。そし・・・

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