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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

出没地 http://www.pixiv.net/member.php?id788787
趣味 ロベリアの動画を見ながら耳掃除
職業 うんこマン
性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

投稿済みの記事一覧

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もうひとりの賢者

16/12/19 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:271

「おばあさん。よかったら私たちと一緒に……」
「悪いけど、遠慮しとくよ。流石にこの歳で長旅は無理さね」
 そう言って首を振り、老婆は昨夜気まぐれに泊めてやった三人の旅人の後姿を雪の降る中見送った。
 どうやら三人とも高名な学者らしかったが、彼女には何の関係もなかった。ただ夫に先立たれて以来、家政婦時代に磨いた料理の腕を久々に振るう事が出来て悪い気はしなかったという、それだけだ。お・・・

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お楽しみはこれからだ

16/10/10 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:302

「おい、今すぐその女から離れるんだ!」
 何もない空間にぬっと開いた穴から現れたおっさんは、おれと彼女の姿を認めるなり大声でまくし立ててきた。
 大した超常現象っぷりだが、もう少しTPOってやつを弁えて欲しかった。おれはその時面倒くさい愛撫を一通り終え、まさに彼女とひとつになろうとしていたところだったのだ。
 彼女もシーツに産まれたままの裸身を包んで、ベッドの隅で脅えてしまってい・・・

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16/09/12 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:461

 僕、堀江ツバサと中村タスク、そして町田カナエは幼馴染だった。
 いや、果たして僕らの関係はそれだけだろうか。ベッドタウンの離れにぽつんと並んだ、たった三棟の一戸建てにそれぞれ、同じ年に産まれた一人っ子がいるだなんて何という偶然だろうと、3人で話した事もある。幼かった僕らは無邪気にも運命めいたものをすっかり信じ込んでいた。何があっても助け合い、一緒にいようと誓い合った。
 事実、あの頃・・・

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幽霊の住処

16/08/30 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:541

 巨大な有機分解槽は暗闇の中バックライトに照らされて、撹拌機に為されるがまま水面を煌々と揺らめかせていた。
 分解層を満たす液体の正体は、炭素を筆頭に水素、酸素、窒素、リン、硫黄、フッ素、アンモニア、そしてマグネシウムを始めとするミネラル群が混ざり合ったものだ。これらは生命体を構成するものであり、当然生命維持には不可欠なものだった。多種多様な生物が地球上から死に絶えた今、有機物はかつての石油・・・

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パペル

16/08/15 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:661

「……であるからして、エントロピー増大則に基づきパピプペポが証明されるのであります」
 T教授のいつもと一切変わらない語調の狭間に、その単語は危うく埋もれてしまうところだった。もちろん講義室の学生よりも先に、発話者であるT教授が内心首を傾げていた。
 確かに自分は今、宇宙の熱的死と言ったはずなのだ。一般教養レベルの講義はこれまで何百コマもこなしてきた。今更間違えようもない。ホワイトボー・・・

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ダンスは上手く踊れない

16/08/01 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:412

「こりゃ、どう見ても心神耗弱狙いだな」
 先に昼飯を食い終えていた同僚の村木が、僕の遥か後ろにある定食屋のTVを観ながらそうこぼした。
 当然ここからでは見えないが、僕も耳だけはずっとそばだてていた。ニュースが連日伝えているのは、先年起きた障害者施設襲撃事件の第一審についてだ。
 事件の仔細は食事中ゆえ省かせて貰うが、弁護士事務所に所属している僕らでもさじを投げたくなるような人数・・・

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甘夏の熟す頃

16/05/23 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:577

 どこかぼんやりとしたところのある自分が、僕は昔からずっと嫌だった。
 例えば人からいい話を持ちかけられた時、逡巡した挙句タイミングを逃してしまった経験が若い頃に何度もあった。そのどれもこれもが、強い後悔として深く記憶に刻まれている。
 僕は世の中の些細な事についてもっとじっくりと考えたかったのだけど、時間はそれを待ってくれない。そう気付いたのも、二十歳を過ぎてからしばらく経った後だっ・・・

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三色の虹

16/05/09 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:633

 僕は昔から、嘘をつくのがたまらなく嫌だった。親にそう躾けられたという以上に、生まれつき性に合っていなかった。
 そうやってありもしない嘘をつく事に一体何の意味があるのか。
 よく嘘をつくクラスメイトに問い詰めて泣かせた事もあった。別に糾弾しているつもりはなく、ただただ純粋な興味として聞いたつもりだったのだけど、そうとは伝わる筈もなく。それで何故か僕が意地悪なやつだと怒られる破目になっ・・・

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たとえ全米は泣かなくても

16/03/28 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:413

『☆★★★★観る価値なし、金と時間と資源と人生の無駄』
 業界屈指の辛口で知られる映画ライター、富野ヒロキは今月も送られてきた見本誌を手に取ると、担当した新作映画の批評コーナーにさっと目を通した。
 これはまた、制作会社と主演俳優のファンから編集部宛てにクレームが来るかもしれないな。
 徹頭徹尾自分で酷評しておきながら、どこか他人事のように笑って富野はグラスの氷をからんと鳴らした・・・

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白蟻の恋

16/03/14 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:539

「……た、ただいま」
 家に戻った小男は、誰にも聞き取れないほどの声でそう言った。
 おかえり、の返事はない。いや、あっては困る。
 老朽化した一戸建ての一階と二階の間にぽっかりと開いた空洞が、この小男のねぐらだった。外壁の綻びから、生来手先の器用だったのを活かして簡単な部屋を勝手に拵えてしまったのだ。
「ただいま」
 小男の帰宅からやや遅れて、若い女の声が階下より聞・・・

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やめてくれ

16/02/29 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:544

 俺は縛り付けられたように、この箱の中から一歩も動けなかった。
 視界は固定され、ここから日がな一日ずっと正面だけを見させられていた。箱男、という小説を知っているだろうか。あれの全く動かないやつを想像してもらえば解り易い。
 もちろん、俺は本家と違って好き好んで箱を被っているわけじゃない。詳しくは俺自身も判らないが、ペナルティとして放り込まれたと考えるのが妥当だろう。……もし地獄という・・・

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最初にして、最後の大勝負

16/02/25 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:635

 池袋の殺し屋の異名を取る真剣師、浅田昇一は昨夜も組の代打ちとして鉄火場で鎬を削っていた。勝負の帰りは昂ったまま何人かいる女のもとへと寄り昼過ぎまで熟睡するのが常だったが、今日に限っては女よりも先に起きてしまった。
 浅田は腕に纏わりついた産まれたままの姿の女を振りほどくと、机に置いてあったゴールデンバットを一本拝借し、窓際で火を点けた。そして煙草を持っていない方の手から節くれだった指の一本・・・

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その花を君は見たか

16/02/14 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:1035

 全自動茶摘機の独立ユニット、個体識別コードMX-P04Aは光学センサーで茶畑に白い着蕾が見られたのを認識すると、すぐに生育状況レポートを作成し本部へとネットワークを介して送信した。整然と並んだ茶畑の畝の間に敷かれたレール上を一日に何往復も行き来し、茶の栽培、収穫にあたるのが彼ら独立ユニットに求められた職能だった。
 本部、とは言ったものの、そこにも誰一人として人間はいなかった。かつては茶摘・・・

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先生はお前らが大っ嫌いです

16/01/31 コメント:5件 高橋螢参郎 閲覧数:779

「……どうですか、先生」
 副部長の今井春香がせっつくように後ろから覗き込んでくるのを、俺は「まだ読めてないよ」と手で遮った。
 大体どうですか、も何もよう。こんな衆人環視の中で落ち着いて小説なんか読めるわけねえだろ。バカ。
 本音はそんなとこだったが、残念ながら俺はこれでも高校の先生だ。しかも形だけとは言えこの文芸部の顧問ときてる。となればあまり滅多な事は口に出して言えねえわけ・・・

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僕の胸に開いた穴

16/01/15 コメント:3件 高橋螢参郎 閲覧数:1043

「え、ちょっ、うそ……」
「どうしました?」
「手、抜けないんだけど」
 松岡先輩の右手首から先は、僕の胸に開いた穴へすっぽりと吸い込まれたまま一向に出てこなかった。
 胸にぽっかりと穴が開いた、なんて随分詩的な表現だと思われるだろうけど、僕の場合は違った。辛いことや哀しいことがあった時に比喩でも何でもなく、胸に穴が開いてしまうのだ。今もみぞおちの辺りがひゅっと引っ込んで、・・・

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革命家の見た夢

16/01/04 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:658

「神よ! あなたは我が兄弟を見放したもうたのか!」
 傍で跪く朋友アレハンドロの祈りを、病床のエルネストは白い天井を見つめながら聞いていた。
 ――早いもので五年来の付き合いになるが、あの静かに燃える炭火のような男がここまで大きな声を出したのを初めて聞いた。
 今まさに、世界を股にかける若き革命家の命の灯火が消えようとしているというのに、当のエルネストは我が身を案じるよりも先にそ・・・

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今日も夜空に星の降る

15/12/14 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:627

「あっ、流れ星!」
 小さな女の子が気付いて指差すが早いか、澄んだ寒空に星がすーっと一瞬光の尾を引いたかと思うと、それっきりすぐに消えていった。
 あそこ、あそこと指し示した先を両親も探すものの、時すでに遅く後には暗闇が広がるだけだった。
 母親は頬を膨らませる女の子と夫に魔法瓶に入れてきた暖かいココアを淹れてから、夜風の冷たさで紅く染まった娘の小さな耳を、愛おしそうにミトンの手・・・

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キジン

15/11/30 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:562

 その日、目抜き通りを行進するパレードの主役である王様は、何故か一糸まとわぬ姿のまま天蓋の下、国民に手を振っていた。その動きに連動するが如く、しなびた睾丸もぶらぶらと振り子のように揺れていた。
 権威の象徴である王冠だけは最後の砦とばかりにしっかと被っていたが、出っ張った下腹部に半ば埋もれる形で小さく悄気込んだ陰茎との対比はあまりに滑稽で、見ている者の失笑を誘った。
 しかし市井の人々・・・

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朧の会

15/11/02 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:593

 オフィス街に間隙なく束ねられたビルの剣山の一角に、その屋敷は堂々と建っていた。
 都市計画のセオリーからはとても考えられないような立地だが、乱れひとつ見当たらない真っ黒な燻し瓦の屋根は、そういったものを風雪とともに跳ね除けてしまうような気骨を備えていた。事実、古くから何代も続く朧家にとって昨今のちょこざいな決め事などは全くの埒外にあった。
 安土桃山時代に生きた戦国武将にして、氏景系・・・

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悪魔のささやき

15/10/19 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:645

「よっ、兄ちゃんまた来たんか」
 会社のトイレに籠る僕へ気さくな態度で声をかけてきたのは、あろう事か悪魔だった。
 それもそんじょそこらの小悪魔ではない。かの有名なキリスト教七つの大罪のうち怠惰を司るという、ベルフェゴール。オカルトに明るくない僕でもTVゲームで名前くらいは知っているほどの、超メジャーな悪魔だ。
 ……が、僕も名前しか知らなかったので、まさか格好いい名前とは裏腹に・・・

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祭りの後で

15/09/07 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:644

 ――蓋し夏にまつわるものは、宿命的にどこか儚さを隠し持たずにはいられないのだろうか。
 線香花火がぽとりと落ちるその瞬間。
 あれほど喧しかったのに、ふと気付けば季節とともに遠ざかっていた蝉時雨。
 気まぐれに降り注ぐ一瞬の夕立。
 夏祭りで買ってもらったカラーひよこの、その後。
 そういったものに思いを馳せるようになったのは、高校時代の彼女の何気ない一言がきっかけ・・・

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花になれなかったかまきり

15/08/10 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:1252

 蘭の花畑を飛び回っていた蜜蜂たちのうちの一匹が、ある時ふっと姿を消した。仲間の蜂がその事に気付きしばらく探し回ってみたものの、見つからない。
 巣では幼虫と女王が待っている。たかが一匹の、それも替えの利く働き蜂の為にいつまでも時間を割くわけにはいかなかった。残りの蜂たちは決まった量の蜜をきっちりと集め終えるなり、元来た道をそそくさと帰って行った。
 蜂はこの花畑で一体どこへ消えたとい・・・

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マリスの函

15/05/04 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:853

 果たしてそれは本当に家だったのだろうか?
 真っ赤な煉瓦作りの壁はセメントで隙間という隙間を執拗なまでに塗り固められており、四方にはたったひとつの窓すら設けていなかった。風雪にはよく耐えるだろうが、藁で造られた家のように季節の流れを肌で感じる事などできず、木で造られた家の暖かみもなく、さながら小要塞の如き様相を呈していた。
 内と外との繋がりとして入口の扉だけはひとつ備えていたものの・・・

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テーブルの上

15/04/20 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:825

 小さい頃から、あたしはテーブルに昇るのがたまらなく好きだった。
 何度注意されたかわからないけれど、それでも椅子を足場にしてはしつこく昇り続けた。テーブルの上から見下ろす世界はチビのあたしにはあまりに新鮮で、居心地がよかった。一度クセになると注意されてもなかなかやめられなかった。
 そしたらそんなに高いところが好きなのかと、テーブルの上にもう二度と昇らない事を条件に、じいさんが東京タ・・・

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ゆきつくところ

15/04/17 コメント:3件 高橋螢参郎 閲覧数:841

 目覚めると、そこには真っ白な平原が延々と続いていた。
 それが敷き詰められた雪の比喩でないのは二、三歩歩いてみてすぐにわかった。こつん、こつん、と高く張った足音がしたからだ。足元を覗き込むと、床はぼんやりと僕の影を映し込んでいる。大理石、いや、白磁か。手で擦ってみると、きゅっ、きゅっと音がした。よく磨かれているらしい。気を抜いた瞬間滑って転びそうだ。
 再び遠くに視線をやっても、地平・・・

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岩崎城の夜明け

15/02/23 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:858

 時は天正十二年、四月九日夜半の事であった。
 岩崎城城代、丹羽氏重とその姉婿、加藤忠景は天守にてただ二人きり向かい合っていた。忠景の出していた物見が戻り、豊臣勢が東北東にある香流川を越えすぐそこまで迫っているとの報がもたらされたばかりだった。その数は夜目である事を差し引いても六千は下らないという。
 だというのに、大それた戦評定は開かれなかった。粗末な床几に腰掛けた氏重が、忠景の報告・・・

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むかし、むかし。でも今は....

14/12/27 コメント:1件 高橋螢参郎 閲覧数:1083

「よくも騙しやがったな、あのクソアマ!」
 一人の老人が、誰もいない冬の浜辺で水平線に向かって悪態の限りをついていた。彼があの浦島太郎であるなどとは信じ難かったが、それでも彼は浦島太郎なのだ。助けた亀に連れられて竜宮城に行った、まさにその帰りである。
 帰還した太郎を待ち受けていたのは様変わりした地上の風景と、それ以上に変わり果てた自分自身だった。服装こそ絵本でよく見るままだったが、そ・・・

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土くれは語らない

14/12/21 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:888

 果てのない闇の中、無数の土くれたちがぷかりと宙に浮かんでいた。
 大きさは巨大なものから取るに足らないようなものまであり、あるものは絶えず燃え盛り、またあるものは決して溶けない氷に覆われていた。それらはまるでよく整備された機械のように、決まった軌道をただ粛々と、延々と周り続けていた。
 ごくまれに道を逸れた土くれ同士がぶつかって割れたり、古くなったものが爆発したりとその数は絶えず増減・・・

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アダムとイヴ

13/10/21 コメント:5件 高橋螢参郎 閲覧数:1153

 昔々、エデンの園にアダムとイヴという一組の男女がいたらしい、っていうのは有名な話でございます。
 じゃあこのアダム、エレファント・マンもびっくりするほどの超絶ブサイクだった事は皆さんご承知で? あ、ご存知ない。で、どんなもんかって? それはもう耳たぶは垂れ下がり鼻はあっちの方向、顎はそっちの方向にそれぞれ向いちゃって、視線は上の空でどこ向いてるかわからないと来た! これじゃまるでサルバトー・・・

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届かなかった想い

13/10/21 コメント:5件 高橋螢参郎 閲覧数:1070

――まるで夢を見ているようだ。あの日の光景がまた、寸分違わず再現されている。
駐車場になってしまった近所の空き地、学校帰りによく寄っていた駄菓子屋、そして、吹き抜ける春一番にすっかり桜を塗された校庭。過ぎ去っていった何もかもが、もう一度目の前に用意されていた。制服の感触なんて久しく忘れていた僕は窮屈な詰襟を開け、息を大きく吐いた。
もちろん時間を遡れる訳がない。現実の僕は大仰なヘッドギ・・・

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I?

13/10/07 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1120

女は起き抜けに、部屋へ備え付けられた姿見の前に立った。
映っているのはどこからどう見てもごくごく普通の女の子だ。
丸っこい輪郭。いささか自己主張の乏しい小さめの瞳。やや低めな鼻。そして白い肌へ散りばめられた、いくつかの黒子。紋切り型の美人というよりかは少々個性的で、愛嬌のある顔だが、恋愛、結婚と平凡な人生を送っていく分には特に不自由する事もないだろう。
ただこれから努力を・・・

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サーカスの日

13/03/25 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1264

 ――日本海上空。
 曇りなく広がる蒼穹の彼方を、戦闘機たちが雲の尾を引いて飛び交っていた。日の丸のマーキングを施されたF-35Aは空中で綺麗な弧を描き、敵機であるMiG-29の背後を取る。日本のアニメでは激しい空中格闘戦をサーカスと表現するが、成程、その軌道はまるで見えない糸に吊り下げられたブランコのようだった。
 万雷の拍手の代わりにGAU-22/A 25mm機関砲が激しく鳴り響き・・・

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バレンタインデーの終わりに

13/02/07 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1409

 時は1936年。ミルウォーキー・アヴェニュー、85番地。掃き溜めのようなボウリング場の片隅に、その男はいた。
 他にもざっと20名は居ただろうか。ニューディール政策もどこ吹く風と、真昼間からなけなしの日銭を投げ打っては賭けボウリングに興じている労働者たちが、ピンの動静に一々雄叫びを上げている。男は参加する事もせず、ただレーンの端にあるベンチへ腰かけてはじっと客を待ち続けていた。最近は、麻薬・・・

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金閣寺燃ゆ

13/01/21 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1548

「こりゃ、どえらい事に……」
 学僧の康助は食堂より自室に戻り上着を身に纏うと、同門の者とともに学生寮を出て鹿苑寺へと急いだ。
 昭和25年7月2日、未明。夜半にして京都鹿苑寺一帯は騒然となった。敷地内に存在する舎利殿――通称金閣が、今まさに燃えているのだという。
 寮主からそう告げられた時、そんなまさかと、その場に居た者は皆一様に信じようとはしなかった。それは代表で電話を受けた・・・

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学校で学んだ事

13/01/07 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1370

今にして思えば、先生は神様だった。
いや、人間ではない、とするのが正しいか。外界から切り取られ、ともすれば軍隊にすら程近い謎の集団行動を強いられていたあの学校という歪な空間において、確かに統率者が人間であってはならなかったのかも知れない。そして元々子どもは動物であると考える。あそこは学習という名の調教、矯正施設だ。その証拠に社会に出てから最も役に立ったのは、初等であるところの小学校で学ん・・・

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骨正月

12/12/24 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1416

 煮立ってきた鍋をかき回すと、からからと哀しい音がした。
 湯気を立てるのは酒粕、野菜、大豆。そして随分軽くなった骨。今日一月二十日は骨正月、二十日正月といって、古来から正月の祝い収めにあたる日だという。地域によっては正月のご馳走や餅をこの日に食べ尽くすらしい。それを真似してみたのだけど、そう言えば今年は産まれて初めて、正月におせち料理を食べなかった。
 だからこれは本当に、ただの空し・・・

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サンタなんか信じてない

12/12/10 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1421

「どろぼ……」
 そう叫ぼうとした少女の口を、女は慌てて抑えた。
「いや、どう考えても違うでしょ! ほら、この格好!」
 何が泥棒だ。時は十二月二十六日、未明。このタイミングで子どもの下へ現れる人間といったらあいつしかいないだろうと、女は歯噛みした。成程、顔こそマスクで隠していたものの女の服は赤と白、そして頭にはふわふわの帽子。手にした大きな袋といい、あの老人を意識しているのだろ・・・

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プライドと偏見とコーヒーの味と

12/11/26 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1483

「えーと……じゃあ、ブラックで」
 何故あの時、あんな事を言ってしまったのだろうか。
 そういう思い出の一つや二つ誰にだってあるだろう。僕にはある。忘れもしない高校一年生の夏休み、人生初めてのデート。
 当時気になっていたクラスメイトの曽我部さんを映画に誘った帰り道、僕らは映画館のすぐ近くにお洒落なオープン・カフェを見つけた。
「入ってみようか」
 そう誘ったのは僕か・・・

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ヴィルトゥス

12/11/12 コメント:2件 高橋螢参郎 閲覧数:2047

奴隷メムノンはその日も大型闘技場の地下で、歯車を回していた。
彼らの回す歯車は昇降機を動かし、剣闘士や猛獣といった、ありとあらゆる暴力をコロッセオの舞台へと送り出すのだ。
学や富こそないにしろ、それでも奴隷としては幸せな部類だ。命のやり取りに晒されはしないし、日に何度かの試合のあるまでは、待機させられている事の方が多かった。
呑気に談笑する他の奴隷を尻目に、メムノンは独り悩んでい・・・

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エレベーターガール

12/11/12 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1516

「6階でよろしかったですか?」
若い女の声。
確かに職場はこのビルの6階だ。だから僕より先に6階のボタンを押してくれたのは助かる。けれど全然よろしくない。だって今エレベーターに乗っている人間は僕一人の筈なのだ。
「え、幽霊?」
「エレベーターガールです! ……幽霊兼、ですけど」
残念ながら幽霊だというのは嫌でも信じざるを得なかった。事実やり取りを続けている間、エレベー・・・

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パンドラ

12/10/29 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1947

今、僕の家にテレビはない。
最後に観たニュースがいまだに僕の脳裏へと強く焼き付いている。それは武装勢力に殺害された米兵の遺体が、アフガンの民間人によって市中を引きずり回されている映像だった。厳重に張り巡らされたモザイクの周りでは、大人も子供もみんな白い歯を見せて笑っていた。
一緒に観ていた母がすぐさまリモコンを手に取って電源を落とし、翌日には粗大ゴミへと出してくれたのだが、それでも僕は・・・

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例のキャラメル

12/10/15 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1167

……こいつは正直、予想以上だった。産まれてこの方17年間、ここまでひどいものを口にした事があっただろうか。
味が舌の上でのた打ち回り、味蕾を蹂躙していくのが判る。だが、何の味と問われると答えようがない。全くのカオスだ。キャラメルだから、一応甘い。確かに甘いのだが、それを是としない対抗勢力が組織的に、散発的に武力衝突を繰り返している。そんな感じだ。
部室に置いてあった科学雑誌で読んだ、未・・・

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あの駅から、どこかへ

12/10/01 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1254

その朝も投げた石は綺麗な放物線を描いて、フェンスの向こう側へと落ちていった。
そして小学生の僕は一目散に走って逃げ、そのまま分団の集合場所を目指す。
よくある悪戯だ。でもこれは、石をレール上に収める事が目的ではなかった。もしそうなら、わざわざ鉄条網も張られていないフェンスの手前でこんなまどろっこしい事はしていない。
つまりその程度の軽い気持ち、幼い覚悟だったのかも知れない。

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幻のオリンピック

12/08/29 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:2281

1980年5月。俺の最後の夏は始まる前から終わりを告げられた。
ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻を受け、西側諸国はこの夏のモスクワオリンピックをボイコットした。アメリカの子分である日本もその例には漏れず、俺の100m走代表選手の内定は事実上取り消された。
それでも俺は、今日も市営グラウンドの端っこで独りウォーミングアップを続けていた。腿を上げ、腱を伸ばし、少しでも速く走るというその一点・・・

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傘がない

12/05/13 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1762

雨が降り止まなくなり、幾年もの月日が流れていた。
少なくとも僕が産まれた時から、傘は当たり前に頭の上へ広がっていた。人々を雨から守ってくれる、街単位で設置された半透明なドーム状の屋根。それが、傘だった。
そして黒く厚い雲から落ちて来るのは化学物質の溶けた強酸の雨で、皮膚に直接触れれば肉をえぐる代物だ。
古くなった傘は破れ、いくつも穴が開き始めている。人々は日々狭まっていく傘の下で・・・

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