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智宇純子さん

思いつくままに綴りますが、読む方が好きです。 『素人の読み手』としておじゃまさせていただきますので、至らぬ点が多いかと思いますが、どうぞご容赦ください。 ※諸事情により、登録当初から使っておりましたニックネーム『ポリ』を『智宇純子』に変更しました。引き続きよろしくお願いいたします。

出没地
趣味
職業
性別 女性
将来の夢
座右の銘 自由になりたければ自分の言動や行動に責任を持て

投稿済みの記事一覧

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存在

15/10/15 コメント:10件 智宇純子 閲覧数:878

 薄暗い店内、うっすらと流れてくるマイ・ファニー・ヴァレンタイン。タバコの煙とアルコールのにおい、そして人の吐息が漂うカウンター。
 ああ、ほっとする。三橋は腕時計を外すと、スマートフォンと一緒にそっとカウンターの上に置いた。

 この継ぎ目のないカウンターはマスターが一本の古い木を削って造ったものらしい。木の温もりと時間の重みを感じさせてくれるこのカウンターが三橋はたまらなく好・・・

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秘密

15/09/28 コメント:8件 智宇純子 閲覧数:913

「夜店にいきましょうよ」妻に誘われて久しぶりに外に出た。
 風に揺れる無数の灯、焼き鳥屋のオヤジの景気のいい笑い声。気付けば、横を歩いている妻は紺色に菖蒲の花をあしらった浴衣を着ていて、髪を簪で綺麗にアップにしていた。化粧もちょっといつもより濃い。「あ!綿菓子!買ってくるね!」と、嬉しそうに下駄を鳴らしながら遠ざかる妻の後ろ姿を見ながら『これも悪くない』と達哉は思った。
 サンダルを引・・・

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採点

12/08/09 コメント:0件 智宇純子 閲覧数:1600

 風が強い、ようだ。
 小林久隆は食卓のテーブルに頬杖をつきながら、カーテンの隙間から見える握りこぶしほどの青空に向かって煙草の煙を吹きかけていた。窓の横にある大きな液晶テレビには、オリンピックの開会式らしき映像が流れている。

「だからさぁ、なんでおまえは働かないんだよ。もう三十過ぎてるんだぞ?」
 マザコンって思われても仕方がないだろうよ。みっともねぇ。前田は垂れ下がっ・・・

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碁石

12/08/05 コメント:0件 智宇純子 閲覧数:1381

「戸野倉さん。大丈夫?」
 体育係の美玖が聞いてきた。転校してきて半年にもなるのに、まだ、クラスメイトは皆、来海のことを「戸野倉さん」と呼んでいた。
「ええ、今日は大丈夫」
 本当は大丈夫ではない。さっきまで来海は水着を忘れてきたことにしようと決めていた。
「大丈夫さー。こいつ、さっきの給食全部食べきってたらぁ?」
 でっかい口開けてたに。チビの豪太がやっと水面から顔・・・

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傷跡

12/07/26 コメント:2件 智宇純子 閲覧数:1592

「おー、ドンマイ、ドンマイ!」

 鶴屋幹夫は振り返るピッチャーに大きく手を振った。目はグラウンドの入口の方に座っている若い女性二人組みを捕らえている。表情は柔らかいが、胸の内で軽い息切れを感じていた。

 俺が11人いればこんなことにはならないのに。あの時だってそうだった。

「ま、楽しんでやろう!」キャッチャーが大きなお腹を揺すりながら球を投げ返す。幹夫はウ・・・

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星が見えない

12/07/17 コメント:4件 智宇純子 閲覧数:1668

 星が見えない。

 都会の空というのは本当に星が見にくい。そうでなくても排気ガスと夏の湿気で空気が重たいというのに。
 朱夏は明るい方向に腕を伸ばし腕時計を見た。午後七時半過ぎ。腕の向こう側に見える高層ビルが立ち並ぶ夜景。その隙間からちらちらと見える花火。
「お台場にある観覧車みたいだわ」朱夏はひとつ大きな伸びをすると、居酒屋の前にある花壇の淵に腰掛けた。ここからでも隙間・・・

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お隣さん

12/07/09 コメント:5件 智宇純子 閲覧数:1727

 カビ臭い雨合羽を脱いで自転車の上に放り投げる。管理人が窓から横に頭を出して睨んでいるのが視界に入り、仕方がなく綺麗にかけ直す。すぐ横に止まっているブルーメタルの自転車を目で確認すると、舞は重たいカバンを胸元に抱え込んだ。
 
 時間がないのに。あの電車に乗らないといけないのに!
 
 舞は管理人に軽くお辞儀をすると、スカートのシワを叩いて直しながら駐輪場から飛び出した。傘・・・

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待ち合わせ

12/07/02 コメント:8件 智宇純子 閲覧数:1840

 約束の時間まであと10分。可奈子は時計を見ながら、ショーウィンドーに映る自分の姿をチェックしていた。
「ちょっと派手だったかしら。なにしろスカートなんて何年ぶりって感じだから、どんなのを選べばいいのかわからなかったのよ。仕方がないわよね」
 頭で思えばいいだけのことなのに、自然と言い訳が口から漏れる。「あの人はいつも遅れて来るから、きっとあと20分くらい待つことになるでしょうね」可奈・・・

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片品村の雪女

12/06/25 コメント:2件 智宇純子 閲覧数:1783

「ねえねえ、ばあば。ミズバショウの花の匂いがする!」
 覚えたての干支を辿々しく口ずさんでいたミサが、鼻をくんくんさせて嬉しそうに叫んだ。「本当ね」佳子はミサの小さい手をふわりと包んだまま空を見上げた。横で芳江も深く深呼吸して瞳を閉じる。ミズバショウの花の香りと共に、ふと、懐かしい想いが芳江の胸の中でパチパチと弾けてきた。まぶたの裏に広がる夢のようなオレンジ色の風景。忘れもしない22年前の冬・・・

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カブトムシ

12/06/11 コメント:2件 智宇純子 閲覧数:1803

 健は洗濯カゴにブルーのユニフォームを放り投げると、キッチンテーブルの上に置いてある大好物の大福には目もくれず、テレビの前に寝転がった。
 なんかうまく行かんことばっかり。つまらんわ。
 テレビのチャンネルをまわすが、なにも頭に入ってこない。でも、無音でいることには耐えられず、とりあえずあたり障りのないニュース番組を流す。画面には『直川憩いの森公園』の入口にあるカブトムシの巨大モニュメ・・・

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プチ同窓会

12/06/10 コメント:0件 智宇純子 閲覧数:1726

「ねえねえ!ここ!よく仮面ライダーが戦ってるわよね!見たことある」
 新宿モノリスの前で幸子が興奮気味に携帯電話のカメラを向けている。
「剣、キバ、ディケイド、フォーゼ……本当ね。結構使ってる」アイフォンを片手に振り向きもせずに美智が小さく呟いた。
「さゆり様のブログにはマイガール、特上カバチ、バーテンダー、鍵のかかった部屋で出てたって書いてあったわよ」
 さゆりは嵐ファン・・・

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獣道

12/05/29 コメント:2件 智宇純子 閲覧数:1800

 オヤジが泣いた。

「なんだよ。オヤジだってそんな時があっただろう?」
「まあな」
「やっぱり。そうだと思ったよ。オヤジも隅には置けないなぁ〜」
 一瞬間が空いて、次の瞬間。「おまえは………どうしておまえはいつも自分勝手なんだ」そう震えているような声が聞こえてきた。晋一郎は軽快に相槌を打ち電話を切ると、いきなりその場に蹲った。枕から漂ってくる整髪剤と汗が混ざった臭い・・・

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満月

12/05/28 コメント:2件 智宇純子 閲覧数:1993

 ドラマのヒロインが、行きつけの洒落たレストランで上司役の二枚目俳優と食事をしている。そこに、上品なセレブが登場。上司の驚いたような顔がアップで映り、聞きなれた派手な曲がテレビから流れてくる。

「あ、ええ。聞いてる。今日は遅くなるのね。わかった」
 頑張ってね。尚美はテレビの方に顔を向けたまま手探りで受話器を置いた。
「ああ、やっぱりね。このままうまく行くはずないと思った・・・

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変わらないモノ

12/05/14 コメント:4件 智宇純子 閲覧数:2014

「ノーサイド精神って知ってっか?」
 カツを口いっぱいに頬張りながら、更にまた白米を詰め込もうと開いた晋也の口からよくそんな言葉を聞いた。
「俺、ラグビーやってて本当に良かったわ」
 晋也のキラキラした笑顔が沙耶果の瞼の裏に映し出される。トンカツの匂いがするといつもこの時の光景が蘇る。

「俺、ラグビーやめたんだ」
 そして現実。薄目でそっと目の前に座る晋也の輪・・・

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応援グッズ

12/05/06 コメント:2件 智宇純子 閲覧数:2841

「もしかしたら、明日、死んじゃうんじゃないかしら」

 少し薄暗くなってきた廊下を歩きながら、香織はそんなことをぼんやり思っていた。右手にはちょっと小ぶりの緑色のビニール傘。
 死んじゃう、というより、存在が消えてしまう?消滅してしまう?そんなイメージ。家族に不満があるのではない。世の中がつまらないわけではない。今日も親友の敏子と一緒に大笑いした一日だった。確かに、担任の小宮に眼・・・

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思い出

12/05/03 コメント:6件 智宇純子 閲覧数:2790

 窓から引込川が見える。もうすぐ東福寺。あとひとつ、間に合うだろうか。

 美穂子は電車に揺られながら、うっすらとJR京都駅の改札口を思い浮かべていた。
 あの日と同じ白いタートルネックのカットソーに黒のカーディガン。あの時履いていたロングスカートは去年一也にハサミで切られてしまったので、今日はベージュ色のパンツを履いてきた。

〈そういえば、あの日はすごく寂しい思い・・・

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ボウフラ

12/05/01 コメント:4件 智宇純子 閲覧数:2431

 記憶を辿りながら入り口の戸を静かにあける。香ばしいような甘い香りが、懐かしさと共に身体中をゆったり包み込んでくる。
「いらっしゃいませ。あら」
 芳江さんじゃないですか。と、奥から懐かしい顔が覗いた。街並みとは裏腹に、あまり変わっていない店の雰囲気にホッと胸を撫で下ろすと、芳江は迷わずカウンターの右から三番目に腰かけた。いつも座っていたこの場所。フィルターから落ちるコーヒーの音が雨音・・・

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