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kouさん

音楽、読書、美味しいお店巡りが好きです。

出没地
趣味
職業
性別 男性
将来の夢
座右の銘 上善水の如し

投稿済みの記事一覧

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トランス

13/12/30 コメント:0件 kou 閲覧数:882

 子供だけの特別な場所。
 荒れ果てた空き地とドラム缶を見るとぼくの記憶のアジトとリンクする。幼い頃、河川敷では当時大学生位のモンタさんがペーパークラフトの飛行機で遊んでいた。「君も飛ばしてみる?」なんて質問を飛ばす以前に、一言ひとこと発する度に目に見える唾が飛んでいたのが印象的だった。さらにはぼくを誘惑しておいてモンタさんの飛行機は全くもって低空飛行で話しにならず、学校帰りに緊密に接するよ・・・

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雪壁の目

13/12/16 コメント:1件 kou 閲覧数:913

「今更だけど、お父さん浮気していました」
 と『雪壁の目』を間に置いて、わたしと向かい合っている父が言った。紫陽花をむしり取ってしまいました!と告白する少年さながらの爽快さがそこには滲んでいた。「相手は、会社の取引先の広報課の女性です。二十八歳の独身」
 父の荷物を運び出す業者は午後の三時に来る。
 部屋の隅には段ボール箱が規則正しく並べられ積まれている。それは錯覚かもしれない。・・・

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フレンチトースト

13/11/18 コメント:1件 kou 閲覧数:1067

 一本路地を抜ければ十字路がある。
 その右隅に『スイング珈琲』という親しみを讃えた店を構えて四十年の店主である水上伊之助は妻である由美子の安らかな眠りを見届けた。最後の時間軸は創業以来歩み、肉体の一部と同化している、この『スイング珈琲』の香りに囲まれながら天に昇りたい、という願望を伊之助は叶えられ満足と共に寂しさも募る。涙は枯れ果て、最後に作った『スイング珈琲』の名物であるフレンチトースト・・・

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リセット

13/11/04 コメント:1件 kou 閲覧数:1237

 制限速度を四十キロオーバーしていた。
 サイドミラー、バックミラーを確認し、彼らが追って来ているのを赤羽葵は念入りに確認した。
「そ、そこまでスピード出す必要があるかい?」
 助手席から恋人である岡田純が声を張り上げた。彼の父親が描くキャラクターが口コミで広まり、気づけば世界を巻き込み、権利収入が莫大に入り成功者の仲間入りを果たす。
 が、父親は十年前に他界。純は莫大な遺・・・

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駆ける火

13/10/21 コメント:3件 kou 閲覧数:1094

 カナル型イヤホンを装着する。耳にフィットしないと落ち着かないし、重低音を体内に取り込み、その音域と共に大地を踏みしめ駆け抜けることを、理沙は習慣にしている。
 マラソン。
 区内のマラソン大会に会社の行事をきっかけに走破した経験が彼女の現在を物語っている。仕事は定時に終わり、それから体力作りと、レベルの高い大会に出場し、入賞までしたいと密かに目論む。ストレッチを入念に行い、シューズの・・・

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角砂糖

13/10/21 コメント:2件 kou 閲覧数:1074

 パスタをフォークに巻きつけ口に含もうとしたが、ナミは止めた。目の前には幼なじみであるカケルがいる。自ら開発した技術を武器に二十二歳で起業。お互い今年三十二歳になるが、彼はやつれていた。対照的に洒落たイタリーなレストランの天井には煌びやかなシャンデリアが飾られていた。
「倒産するの?」フォークを止めた原因はまさにこれだ。どうやらカケルは本業とは別で投資事業にのめり込み、昨今の金融情勢の危うさ・・・

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洗い物は後ほどに

13/10/21 コメント:2件 kou 閲覧数:1201

 カナエは料理に精を出していた。彼女は料理の前段階である調理器具にこだわる。その準備こそ物事を円滑に進めるコツであると彼女は考える。準備なくして勝利はないのだから。
 まな板と包丁がリズミカルな音を立てながら、食材の香りを運んでくる。調理器具から音を放出しているからといって、ここでコンポから音楽を流してはいけない。耳を澄ませば音はあちこちに溢れ、自然発生的な音を組み合わせることに純粋無垢な・・・

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幻の男

13/10/21 コメント:2件 kou 閲覧数:1085

「仕事が忙しいから」
 付き合って一年未満、正確には七ヶ月と十二日の男の言い訳を、最近購入したばかりのiPhone越しに綾子は聞いた。無情にもiPhoneからは悲しげであり、困惑的であり、深奥な、ツー、ツー音が耳奥にこだまする。
 彼氏は二歳年上の二十八歳。
 が、お互い社会人ということもあり最近はどちらも忙しい。恋愛に割く時間が少なくなったのは、ピュアな心を持つ綾子にとって辛い・・・

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アイズ

13/10/07 コメント:2件 kou 閲覧数:1441

 肺に朝の空気。
 耳に退屈ではないメロディ。
 君は私を裏切ったが、言葉は私を裏切らない
 アイドルグループのポップのソングとしては詩的で含みを持たせた言い回しだと、サミは自転車を漕ぎながら通学路を激走する。激走とは変な言葉を使ってしまった。
 いけない。
 レイディーは、そんな言葉遣いをしてはいけませんよ、は祖母の教え。まあ、それはいいのだけれども、いかんせん・・・

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時の赴くままに

13/07/15 コメント:1件 kou 閲覧数:1307

 自殺者が年間で三万人を越える国。
 また一人、異常性を感じるこの国の一角に身を潜めるフラワー荘の住人が川に飛び込み自殺をした。彼はなぜ自らの命をなかったことにしたの、か。
 フラワー荘の彼が住んでいた部屋には主人を惜しむかのように悲しみの目を讃えた猫が数匹棲みついている。壁には彼本人の肖像画が掛けられ、繊細な画風は人となりを表しているようにも感じられる。
 一匹の猫が俊敏な動き・・・

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使者からの言伝

13/05/20 コメント:0件 kou 閲覧数:1307

 ずいぶん前に歯科医の主人が、歯に興味なんてないんだ、と私に言ったことがある。
「歯を朝から晩まで削り、虫歯を治療していくだろ。治療していくのは気持ちいいぜ。でも、歯が好きなわけじゃない」
 人間は日常に忙殺される。私が来たことで、忙殺された中で忘れていた彼の記憶が二時間後に蘇った。その時の彼は快活な表情を見せ、「ありがとな」と礼を述べられたが、もちろんその時は、そんな状態を予期してな・・・

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あなたのそばにいるから

13/05/06 コメント:0件 kou 閲覧数:1247

 アスファルトを照らす太陽が反射しテラスを煌びやかにさせた。空は青で統一され、そこには雲の暗示すらなかった。
「麻理絵おめでとう。幸せになるんだよ」「幸福へ進撃するんだ。幸福が進撃するぞ」
 親族、友人、知人、がバージンロードを歩く麻理絵に声を浴びせる。その声音の響きを全身に感じ、これから夫となる翔太と彼女は腕を組み自然な笑みをこぼす。麻理絵には両親はいない。なので、翔太が登場からバー・・・

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大局の影

13/04/22 コメント:0件 kou 閲覧数:1246

 エンペラーシステムを生み出した広瀬絵美留の存在は明らかにされていない。精神状態を科学的に分析し、感情を数値化。人間の精神構造は全てが数値化され、職業適性、ストレス指数、衣食住に至るあらゆるものが、エンペラーシステムにより個々人を認識、判別、選定してくれる。常にスキャナーマシーンが人間の精神を読み取り、基準値以上の精神数値を叩き出しものは犯罪適性に分類され、地下深くの監獄に送られる。
 私は・・・

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あなたに微笑む

13/04/08 コメント:1件 kou 閲覧数:1494

 数ヶ月前が嘘のように白い世界が色づき、桜の花びらが舞い落ち、財布が落ちてきた。
 私は思わず立ち止まる。否が応でも柔らかい風に運ばれた桜の花びらが群を形成し、私の頬を撫で付ける。ほのかに桜の蜜の匂いがするのは気のせいだろうか。そんなことを言ってる場合ではない。ヤマザクラが等間隔で植えられている並木道で桜の花びらが舞うのはわかる。それが自然な行為であり、桜に性別があるのかは知らないが、彼ら彼・・・

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あなたに微笑む

13/04/08 コメント:1件 kou 閲覧数:1303

 数ヶ月前が嘘のように白い世界が色づき、桜の花びらが舞い落ち、財布が落ちてきた。
 私は思わず立ち止まる。否が応でも柔らかい風に運ばれた桜の花びらが群を形成し、私の頬を撫で付ける。ほのかに桜の蜜の匂いがするのは気のせいだろうか。そんなことを言ってる場合ではない。ヤマザクラが等間隔で植えられている並木道で桜の花びらが舞うのはわかる。それが自然な行為であり、桜に性別があるのかは知らないが、彼ら彼・・・

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太陽

13/03/25 コメント:0件 kou 閲覧数:1317

「私、太陽になりたい」
 彼女である康歩が白光りする歯を見せた。その歯並びは鍵盤のように整然としていた。
「太陽になれるわけないじゃん」
 女性というのはわからないもので、その僕の一言がきっかけで少なからず喧嘩になった。あなたのノリの悪さには問題がある、クールぶっといてただの鈍感、だの、極めつけは、太陽の黒点をもっと愛せ、と無茶苦茶な言われようだった。それでも僕は彼女が捲し立てる・・・

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使命

13/03/11 コメント:0件 kou 閲覧数:1282

 約一年間で一〇六回の空襲を受けた東京。その内の三月、先生はそこにいた。週一回講義していた社会人専門大学も被害。駆けつけた先生は、学生達と救助活動に専念し、可能な限りの人を助けた。先生は煤で真っ黒に汚れた顔のままテキストと人形を出し、そして言った。
「さあ、諸君。授業の時間だ。あと十分ある・・・さて、雛人形についてだが・・・」

「雛人形は平安時代に貴族の子供達の間での人形遊び・・・

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S.R

13/02/25 コメント:0件 kou 閲覧数:1326

 税理士受験生にとって真夏の大決戦が終わった。毎年、試験が連日猛暑を記録する夏に行われるのは、試験に受かる、受からない、は別として、その前段階である人間としての気力≠問われている、と税理士である相原大輔は思っている。会計士と並び税理士は会計℃相iの最高峰。全十一科目ある中から五科目を合格すればいいわけだが、一科目の勉強範囲は広く、深い。それ故に、数科目は合格するが気力が続かず、脱力する者が多・・・

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分福

13/02/11 コメント:0件 kou 閲覧数:1425

 何年経っても早起きというのは慣れないものだ、と浩太は欠伸を炸裂させた。目をこすりながら調理器具に触れ、冷ややかな質感と温度を手のひらに感じ、思考が一瞬でクリアになる。
 すると、「おい、浩太!おい、浩太!道具に、目ヤニつけるなよ、道具に、目ヤニつけるなよ」父であり、ケーキ屋『分福』の師匠でもある、権三が早朝にそぐわない声を飛ばした。ちなみに権三の得意技は、連呼≠セ。そこだけは受け継ぎたく・・・

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音の終わり

13/01/21 コメント:0件 kou 閲覧数:1329

 旅のいきさつは、人それぞれだ。俺も、それぞれ、の一部であり、複数ある、それぞれ、という目的のために旅をしている。よくいうじゃないか、道は続いている=Aて。
 が、気づけば俺は森の中で迷っていた。旅をして数年。人生に迷い、道に迷っている。今までの道中、たしかに道に迷ったことは多々あったが、どれも深刻に思い悩む懸案事項ではなかった。体からは三日前に入った風呂の名残りは消え失せ、胃袋はダークサ・・・

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魂の製図

13/01/07 コメント:0件 kou 閲覧数:1516

 松原優斗の出自を語る上で、建築学科日誌五十三号を紐解かなければならないのは、いささかめんどくさい。東京都杉並区の閑静な住宅街に生を受け、今なお両親は公園を元気に散歩している。「どうも」と私が軽めの挨拶すれば、「君、誰?」と返答されたときは、私の存在意義とは?という疑念が脳内を駆け巡ったが、鏡に映った自分の姿を仔細に眺めた際に、存在意義を見いだした。鏡というのは不思議なもので、己と己が対峙し、魂が・・・

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掴んだ運命

12/12/24 コメント:0件 kou 閲覧数:1451

 ブラインドを微かに開き、外の様子を伺う。寒風吹き荒れる元旦にも関わらず長蛇の列が出来上がっている。アパレル業界にとって元旦三が日はセールという重大なイベントが待っている。福袋に新作を数十点詰め込む。他のブランドは業者に任せ福袋に商品を詰めるが、『ミッシング』のファッションデザイナー兼社長である清野里美はそれを許さない。連日からの寝不足が続き、集中力は切れつつあるが、ビタミン剤を摂取し、肌をパンパ・・・

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再生

12/12/24 コメント:0件 kou 閲覧数:1354

 無機質で静寂に包まれた空間に長時間いれるほど人間は忍耐強くない、と尋問のエキスパート マナカジュンはほくそ笑む。己の利益、保身、それらが、母音変換し、音韻変化し、人は嘘をつき、欺く。
 黙秘?おいおい、このマナカジャンの前でそれはよして欲しい。
 目の前の男。
 スチールの椅子に座り、彼の全身を鋭い目が射抜いている。おお、怖い。元フリーランスの傭兵であり、アフガニスタン遠征にも・・・

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その真実

12/12/09 コメント:0件 kou 閲覧数:1479

「ユウト、いつもケーキ食べるとき、そのフォーク使うね。ああ、あれでしょ。くみちゃんから貰ったものでしょ。いやだねえ。もうそういう仲なの?」マザーが目を細め、だからといって睨みつけるわけではなく、どこか昔を懐かしむような微笑に見えた。僕は赤面し恥ずかしさを滲ませた声で、「そういうんじゃない」と否定する。くみちゃんは同級生でありマザー同士仲がいい。それでいてお互いの家にファザーはいない。そう、離婚して・・・

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ニブンノイチ

12/11/26 コメント:0件 kou 閲覧数:1540

「それはこういう意味ですか。『お前は俺の女になれるのか』、と」義妹は兄が座っているソファーの両端に手を掛け顔をのぞきこむ。
「そこまで品のねえことはいってねえよ」兄は言い放ち、「ではどうなりたいのです」義妹は背を向けた。
「お前、俺のことを兄だと思ってねえだろ」
「当然です。血も繋がっていないのですから」義妹は振り向き目を細める。
「なあ。なんでもお前なんだよ。不合理だろ。・・・

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夢をのせて

12/11/08 コメント:0件 kou 閲覧数:1235

 官房長官である牧村は急いでいた。内閣が発足し官房長官に就任したはいいが外食が増え体重は増加の一途を辿る。スーツは一年間で三回新調しその度にお抱えのスタイリストに、「無駄が多い」と一喝されムッとするが事実なので何も言えない。だから牧村は走った。総理がいるイタリアンなレストラン、へ。
 カランと扉の鈴が鳴り牧村は店に入る。洗練された身のこなしの店員に総理がいる個室に案内され中へ入る。既に総理は・・・

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音の光

12/10/27 コメント:0件 kou 閲覧数:1338

 いくら売れても、キャリアを積んでも、偉そうにしない。上から目線で詞を投げ込むことなく、あくまでも音楽で勝負してくる、かっこよさ。それが世間でのシンガーソングライター千葉竜介の評価だ。時代を痛烈に批判し、ストレートな言葉をメロディに乗せる。その音楽は年代を問わず聴かれ、ある著名人からは、「君の音楽には嘘がない」と真剣な表情で言われ、竜介は照れる。古着とスニーカーを好み、常に飄々としている彼も二十代・・・

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華が咲く

12/10/13 コメント:0件 kou 閲覧数:1346

「風の船よ、大地の恵みを纏い、空高く、舞え」
 僕は空を見上げながら言う。
「ちょっと待ってヒカル。なんで魔法ちっくなの。あんた手に持ってるの風船でしょ」妻であるモモカが僕の持っている風船を指差した。
「い、いや、じゅ、呪文みたいに唱えた方が入居してくれる人が増えるかなと思って」
「普通に不動産会社と契約して募集すればいいじゃない」
 やれやれ、とモモカは両手を上げた・・・

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ノゾミ

12/10/01 コメント:1件 kou 閲覧数:1339

側面ピンクのポストに、花柄の封筒に収められた手紙を希美は投函した。
「間に合って!私が、私があんな約束しなければ」希美はポストの前で崩れるようにひざまずいた。空は灰色の雲で覆われ、小雨がぱらつき、すぐに大粒の雨に変わった。雨粒が彼女の頬を伝い、涙に変わった。

「えっ」と声をだし手紙を持ち希美は首を傾げた。そこには、住所を間違えてませんか?ここは駅です。それに何でポストの一部・・・

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ギフト

12/09/17 コメント:2件 kou 閲覧数:1481

「聞こえるぞ、聞こえるぞ、耳をすませば聞こえるぞ。十万人が一つになる。格闘家らしくない独特の入場曲。単音と和音が交互に醸し出すやさしいハーモニー。コードを変え音階を変えるピアノ曲は十万人の歓声もどこかやさしいぃぃ!おっっっとぅぉ!白い煙の先に現れたのは黄色いランドセルを背負った蔵崎仁だぁぁぁ、真面目と不真面目、真剣とおちゃらけ、天才と努力、トレーニングとテレビゲーム、あらゆる要素を詰め込んだ肉体は・・・

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風にのって

12/09/03 コメント:0件 kou 閲覧数:2245

 ハーフタイムを迎えた。
 ロンドンパラリンピック「ゴールボール」決勝 アメリカ×日本は静かに幕を開け前半終わって、2−0とビハインド。
「諦めるな」綾子は白い紙、いや、黄ばみかかった紙に刻まれている文字を見つめながら頭にその言葉を連打した。
「綾子、鈴に思いをぶつけろ」と観客席から婚約者である勇太の声が響き、綾子は声のする方に身体の向きを変え笑顔で応えた。その直後、審判員の笛が・・・

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囁き

12/08/20 コメント:0件 kou 閲覧数:2075

 第92回夏の甲子園決勝 清和高校×帝都高校は群青色に染まる空の下行われた。午後から気温は急激に上昇し球児達の額には汗が光っていた。
 大会前、優勝候補と目され、さらには三年連続夏の甲子園大会優勝が掛かっている帝都高校は順当に勝ち進み決勝戦に臨んだ。
 が、決勝で異変が起きた。ここまでチームを引っ張って来たエースで四番の三年生畠山の調子がおかしい。練習試合、地方大会、甲子園準決勝まで常・・・

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もやもや

12/07/28 コメント:0件 kou 閲覧数:1440

「どこか行くのか?」僕が住む三〇二号室のお隣三〇一号室の黒田さんが声を掛けてきた。
「自転車でどこまで行けるか試そうと思って」
「この暑い中?」
「そうです。この暑い中」
 最近購入したばかりの自転車を、僕は点検した。ブレーキの張り具合、タイヤの空気圧、購入してから数日経っても残る新品独特の匂いが鼻孔を掠めた。この自転車を購入する際に店員が、「この自転車はペダルが特徴的でし・・・

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フォールティア

12/07/25 コメント:0件 kou 閲覧数:2326

さあ、鐘が鳴る、鐘が鳴る。ツールドフランス第21ステージ、パリ・シャンゼリゼも残り一周」実況が興奮し、「笠原、笠原来い。抜け」と解説者が解説を放棄し私情を挟んだ。
「先頭集団に日本人の笠原!笠原が所属するチーム名は『フォールティア』ラテン語で勇気<Gース笠原はレース前、記者団から低迷するチームに秘策はありますか?と問われ、大丈夫ですよ。勇気って連鎖しますから。それに勇気っていい言葉ですよ・・・

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サンドウィッチで朝食を

12/07/21 コメント:0件 kou 閲覧数:1477

 昨夜セットした目覚ましは意味を成さず僕は目覚めた。カーテンから朝日が射し込み、鳥の鳴き声が聞こえ、起き上がった途端に目覚ましのアラームが鳴った。やれやれ、時間差攻撃はバレーボールだけにしてもらいたい。そんな愚痴を胸に秘めながら目覚ましのアラームを止めた。 顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直し、僕はキッチンへ向かった。
 まずはサンドウィッチ用の食パンを取出した。そのパンは新鮮ではりがあり、よく切・・・

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温もりがそこに

12/06/23 コメント:0件 kou 閲覧数:1540

「行ってこい!不思議なことが起こるから」
 そう父に言われたのが三日前の九月三日だった。
 父の半ば怒気を含んだ物言いに気圧される形で、翌日に一太郎は会社に有給願いを届け出た。上司から、「突然だから無理、有給なんて無理」と冷笑を含んだ口調で言われると思ったが、その翌日には「有給受理したから、行ってこい」と事はスムーズに運んだ。むしろここまで物分かりが良いと、会社に必要とされていないので・・・

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色褪せない想い

12/06/11 コメント:2件 kou 閲覧数:1705

 空には星が輝いていた。一番星が強い光を放ち、その隣りに淡い光を放っている星もあり、これから輝きを放ちたいと願う星々が一番星を取り囲んでいた。それらが新宿の街を照らしていた。
 僕も星達のように輝くことができるだろうか。
 その問いが身体中を支配する。
 彼女に強く手を握られた。なにかあったのかも知れない。仕事でか、友達とか、それはわからない。人間は、人生は、色々な問題を突きつけ・・・

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迷ったときに

12/06/04 コメント:0件 kou 閲覧数:1689

翌日に結婚式を控えた青柳は一人ドライブを決行した。

車の中でFM放送のJAZZ音楽番組を流した。するとピアノ演奏が青柳の耳をかすめた。前半はトビウオのようにスタッカートを意識し、後半は春の穏やかな風のように右から左、左から右へと鍵盤を軽やかに操っているのが耳に伝わってきた。
演奏者は無名の女性ピアニストだった。ベストテイクは最高の精神状態だったのではないか、気分がのった女性ピア・・・

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案内人

12/06/03 コメント:0件 kou 閲覧数:1633

「カツはあるか?」
その一言で私は足を止める。
新宿二丁目新宿新都心の一角にある超高層ビル、NSビルの前だった。
「え?」私は言う。
無視をするか聞き流すのが一般的であるが、それができなかった。
他の通行人はその一般的な行動をしている。むしろその人物に気づいてない様子だった。

私はその人物を凝視する。
ビジネス街にはいないタイプだった。西部劇に出て・・・

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あの頃から

12/05/28 コメント:0件 kou 閲覧数:1629

京都府美山町というのは少なからず僕を癒してくれる。
悩んでいるときは、いつもここに来る。
なぜだかわからないが、心が安らぐ雰囲気を醸し出している。
それはもちろん目に見えないものだ。感じることしかできない。
豊かな森と、清らかな水の流れ、自然と同化する。
都会の喧騒が嘘のようだ。

そこは川に沿って藁葺き民家が多数存在している。自然景観と、茅葺き民家が調和・・・

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雨の日に刻んだ音

12/05/14 コメント:2件 kou 閲覧数:1865

外は雨が轟音を撒き散らし、店内の静けさとは対照的だった。
ようするに僕が経営しいているバーに客がいないということだ。
やれやれ、雨が降ると客足が絶える。僕の力量不足はここに露呈する。
だが、少なからず満足だった。
僕は、お酒が好きであり、音楽が好きだ。ただそれだけのためにこのバーを経営しているようなものだ。
客足が絶えるのは雨の日であり、それなりの天候であれば、それな・・・

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再出発

12/05/10 コメント:0件 kou 閲覧数:1713

切符を後ろポケットから取出し、ある異変に村野は気づいた。
右の掌をおでこにあて、しまった、と呟いた。
京都駅に着いて早々これでは、この先が思いやられる。
そう、鞄を車内に忘れた。
ここで慌てふためくのが人間だろうが、まあ、後で連絡すればいいか、と村野は楽観した。
善意ある人が係員もしくは車掌に言ってくれているか、もしくは第三者に盗られているかだろう。

そ・・・

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青空の向こうに

12/04/22 コメント:0件 kou 閲覧数:2131

スケジュール帳を確認しながら内藤はコーヒーを飲んだ。
税理士になって二年、今年二十九歳の内藤は忙しかった。
本人としては、ゆったりと自分のペースで事を運びたかったが、時代がそうさせるのか、悩み多き企業が多いのか、内藤のスケジェール帳は、びっしりと埋まっていた。
「胃潰瘍になるかも」
内藤は女性事務員につぶやいた。
「ストレス溜まってるんですか?」
女性事務員は毎・・・

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HELP

12/04/11 コメント:1件 kou 閲覧数:2197

ラジオから流れる音楽が終わりを告げ、中学二年になったユキトはギターに手を伸ばした。
携帯ラジオを制服のポケットにしまい、誰もいない教室の片隅でひっそりとギターを構える。
安物のエレキギター。弦は少し錆びている。
ギターは同じ学年で同じクラスのヒロキにもらった物だ。

その時、教室の扉が開く音がした。
ユキトは顔を上げた。
そこにはヒロキがいた。
「お・・・

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お通しは知っている

12/04/02 コメント:1件 kou 閲覧数:2006

懐かしの街を歩いていたら雨が降った。
僕にとって歓喜の雨だった。なぜなら転職が決まったからだ。
履歴書を書く作業、パソコンを駆使し少し誇張した自己PRの捻出から解放された僕は、気づけば傘もささず歩いていた。
それは過去を洗い、清め、光輝く現在から未来への重要なステップワークだ。

髪の毛から雨が滴り落ち、拭った。
ふと辺りを見回し、目の前を見た。
そこにに・・・

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クロスワードパズル

12/03/21 コメント:0件 kou 閲覧数:1938

駅を降りた。
見上げた空は雲ひとつない快晴だった。
目の前のバスターミナルには待ち合わせの人や、暇を持て余した学生、スーツを来たビジネスマン、シャツの襟を際立たせた婦人がいた。もちろん他にもいたかもしれないし、いなかったかもしれない。
僕が一度にできることは限られている。そう、時間は誰にとっても平等だから。

そのまま僕は新宿の街を歩いた。
数年前のこの街では考・・・

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