1. トップページ
  2. かめかめさんのページ

かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

出没地 ひきこもり
趣味 ネットサーフィン
職業 兼業小説家
性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

投稿済みの記事一覧

0

ケダモノ

17/07/11 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:207

 まただ。あの猫が入ってきやがった。薄く開いた勝手口を力いっぱい閉めると金属がぶつかる鈍い音がした。その音も癇に障る。台所をチェックしたがとりあえず被害はなさそうだった。
 野良猫を初めて見つけたのは車庫だ。うずくまっている猫に妻が気付き抱き上げた。
「この子、すごく人懐こいわ。飼ってもいいでしょう」
 俺はケダモノが嫌いだ。即座に却下した。妻は残念そうに抱いたままの猫を撫で続け・・・

1

海の名残

17/06/29 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:250

「いらっしゃいませ」

 北風に髪をなぶられながらオーク材の重い扉を押しあけると深く暖かな声に出むかえられた。開店から間もないバーに客は居らず、カウンターの中で口髭をたくわえた店主がひとり、グラスを磨いている。カウンターの一番奥、壁にもたれるように彼女はスツールに腰かけた。

「お久しぶりです」

 紙製のコースターを差し出しながら店主が挨拶した。

0

ああなたが遺した北極星

17/06/16 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:222

「久保、よく顔が出せたな」
 こっそり去ろうと足早に向かった葬儀場の出口で林の声が背中に刺さった。見なくてもわかる。林はあの頃と変わらず僕を見下しきった目をしている。僕は見えない鎖に縛られて動けなくなった。
「フルートの才能なんかこれっぽっちもないお前を見捨てなかった先生を裏切ったくせに」
 葬儀の間に奏された林のフルートは圧倒的な力で荘厳な空気を会場いっぱいに響かせた。先生の奥・・・

0

アタシ革命

17/06/04 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:229

 空を見上げた。雲は昨日の雲じゃない。光は昨日の光じゃなかった。
  アタシはアタシをやめた。

 ずいぶん遠くまで来た。びょうびょうと風が耳を、頬を、髪をなぶる。腰ほどまである枯れ草が波のように渦巻いている。
崖っぷちまで歩いていくと、激しく岩にぶち当たる波頭が見える。
 何もかもが荒々しくアタシを包んでいた。アタシは自分の体を抱いてまだ見ぬ世界を迎える興奮に震えた・・・

0

愛と勇気と正義の強盗団

17/05/21 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:261

『逮捕されたのは、斉藤愛容疑者、竹中勇気容疑者、上杉正義容疑者の三人です。三人は昨夜未明、金生町のコンビニエンスストアに押し入り、店員をナイフのようなもので脅しレジの金を強奪した疑いで……』

 つけっぱなしのテレビから流れてきた声に唖然として食っていたカップ麺の汁をテーブルにこぼしたことにも気づかず画面に釘付けになった。昼下がりのお気楽なワイドショーだが、冗談でこんなニュースを読むは・・・

2

とろけちゃったらミルクセーキ

17/04/29 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:239

 太郎がお菓子作りにそそぐ愛情は執着と言えるほどの熱量だ。休日は朝から多種類のお菓子を作るのはもちろん、平日も仕事から帰ったらお菓子を作らないと落ち着かず寝ることも出来ない。作るのは大好きだが食欲は人並みで作り上げたお菓子も少ししか食べられない。大部分のお菓子は職場に持っていき同僚に振る舞うことになるのだった。
 コールセンターのバックオフィスが太郎の職場だ。一日中ずっとパソコンの前に張り付・・・

0

恋の泡沫

17/04/21 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:278

 宝物庫の管理者になって数百年が経った。ヒラメは今日も重い閂を外して宝物庫に入る。閂などかけなくとも竜宮城に乙姫の宝物を盗むようなやからはいない。城にいるのは鯛やヒラメ、ウミガメ、ヒトデ、どれも乙姫に忠実だ。ヒラメも金銀珊瑚に興味などなかった。竜宮城に太郎がやってくる、その時までは。
 竜宮城の中でウミガメは特殊な存在だ。乙姫の使いで陸にある珍しいものを蒐集する任にあり、定期的に陸に上がる。・・・

2

青い電車

17/04/09 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:363

 サラリーマンがふらふらと道を歩いてきた。ずいぶん酔っぱらっているようで、顔が真っ赤だ。薄っぺらい書類カバンの重さに振り回されるように右に左によろけている。
 行く手の駅に電車が停まっているのが見えて、サラリーマンはハッと顔を上げた。
「終電じゃないか?」
 急に酔いが覚めたような心地になったが、しっかり酒が染み込んだ体はいうことをきかず足がもつれて道端にたおれこんだ。
 ・・・

0

恐怖の強風

17/03/26 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:201

 かずくんのおじいちゃんはすごく強い。
 空手、柔道、剣道、どれも強い。
 頭もいいし、おしゃれで、かっこいい。
 かずくんは自慢に思っているけれど、怖いときもある。

 かずくんは泣き虫で怖いものがたくさんある。
 虫も、犬も、雷も、暗いところも。
 おじいちゃんは、かずくんに強くなってほしくて虫や、犬や、雷や、暗いところを怖がっているかずくんの背中を押・・・

0

ふかふかマフラー

17/03/05 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:269

 その話を聞いたとき、不思議な気持ちを抱いた。それをよく知っているような気がしたのだ。デジャ・ビュという言葉が一番近いように思う。けれどそうではない。私が確かにどこかで経験したことなのだ。手に触れるほどに確かに経験したことなのだ。

 それは不思議な都市伝説だ。「ふかふかマフラー」というそうだ。夜道を歩いていると急に暖かくなり、気がつくと首にふかふかのマフラーが巻かれている。あまりに気・・・

0

盗んでほしい

17/02/22 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:329

 高校の通学用にと母が早々と自転車を買ってきた。受験すらまだなのに気が早いと父が笑うと、母は絶対に合格するからと言って美和に笑いかけた。美和は曖昧な笑みを返して自室に入り鍵をかけた。
 部屋の鍵は先月やっとつけてもらった。それまでは母がいつでも勝手に部屋に入ってきた。美和はいつもびくびくしながら机の前で勉強しているふりをした。本当は漫画も小説も読みたかったけれど、母に見つかると取り上げられた・・・

0

憧れをこの足に

17/02/10 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:290

 麻美子が嫌い。小さくて可愛い麻美子が嫌い。でも葉月は麻美子の親友。
「いつまでも仲良しでいてね」
 麻美子に言われたら断れない。小さい頃から側にいて麻美子の愛らしさを一番知ってる。
『オズの魔法使い』がすべての始まり。葉月が大好きな絵本。幼稚園のお遊戯会の劇で葉月は自分が主人公のドロシーになると信じてた。だって誰よりずっとドロシーのことをよく知ってたから。けれど主役は麻美子。ふ・・・

0

謎解きとビジネスマン

17/01/29 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:286

 まさか、と思った。この薄汚れたホテルで目にするものではあり得なかった。いや、おそらく一生、実物を目にすることはないだろうと思っていた。ルームサービスのワゴンが304号室の前の廊下に鎮座していた。
 糊のきいた白いテーブルクロスが銀色のワゴンにかけられ、その上に真っ白な大きな皿が三枚、小さな皿が二枚、皿の蓋であろうドーム型の銀色のものが三枚重ねて置いてある。
 つまり、こういうことだろ・・・

0

優しさをありがとう

17/01/07 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:383

「すみません」
 午後八時。仕事帰りの僕は駅前で声をかけられた。見れば東南アジア系の顔立ちの若い女性だった。道でも聞きたいのかと立ち止まると、彼女は一枚のカードを差し出した。
『恵まれない子供たちのために署名と寄付をおねがいします』
 名刺サイズのカードには片面に日本語、片面には英語で同じ意味の言葉が書いてある。
 彼女は赤い手帳を開いた。子供たちの写真がたくさん貼ってある・・・

0

アイラ島の暖炉の前で

17/01/01 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:332

「本当にあんたは本を読むのが早いわねえ」
 母の言葉を背中で聞きながらフミは次の本を手に取った。
「文庫本一冊を五分で読むなんて普通じゃないわよ。ある意味、天才よ、天才」
 後ろからの声はもう聞こえない。フミは本の海の中にダイブする。文字と文字の間のわずかな空気を吸いながら、すべての文字に透明な手で触れていく。文字は触れた瞬間フミの体をつつみこみ、あたたかな水のように肌に浸透して・・・

0

クリスマスに靴下を飾るわけ

16/12/12 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:398

「ほっ?」

 新年のごちそうを食べていたサンタさんが、ぱたっとフォークを置きました。

「ほー、こりゃしまった。トナカイたちにクリスマスプレゼントをやるのを忘れていた」

 サンタさんは白いふわふわのおひげをひねりながら考えます。

「しかし、新年を過ぎてからクリスマスプレゼントをやるわけにはいかん。こりゃまいったな」

 窓から外を見・・・

0

裏側へ歩き出そう

16/12/04 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:385

 望に美術館のバイトを紹介してくれたのは学芸員課程の教官だった。本気で課題に取り組む望を高く買ってくれたのだ。
「勉強になるよ」
 その一言が嬉しくて、内気でバイトなどしたことはなかった望だが何があっても頑張ろうと心に決めた。
 バイト初日、与えられた仕事は冬の県展の受付だった。美術館の嘱託職員の神崎さんと長机を並べて参加者の作品をじっと待つ。
「望さんは学芸員を目指してい・・・

1

ぼくのお父さん

16/11/19 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:472

 ぼくのお父さんは俳優です。テレビや映画に出ています。でも、友達はみんなお父さんをテレビで見たことがないと言います。それは仕方ないです。
 お父さんは時代劇にしか出ないのです。しかも主人公に切られる「切られ専門の大部屋役者」だそうです。ぼくはお父さんの仕事があまり好きではありません。
 ある日、仕事から帰ってきたお父さんがうれしそうに言いました。
「翔、今度の時代劇な、セリフがも・・・

2

あの夏の香り

16/10/21 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:702

 長崎には坂が多い。
 僕が通った中学校も坂の上にあった。あの日も僕は夏休みだというのに、息をきらして坂を駆け上がっていた。
 八月九日。長崎市内すべての学校で原爆記念日の平和教育が行われる。戦争の惨禍や現代にまで残る傷跡を写真や文章で見ていくのだ。毎年のことなのに休みに慣れてしまった僕は、うっかり寝過ごして、汗みずくで走っていた。始業時刻もとっくに過ぎた無人の校門にようやくたどり着い・・・

0

明けない夜

16/10/21 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:409

「能天気に騒ぎやがって」
 くわえていたタバコをコンクリートの床に投げ捨て靴で踏みしだきながら、ケニーは気だるげにテレビを眺める。テレビの中では数人のお笑い芸人が笑えないコントを繰り広げていた。未来人が現代にやってきて色んなものを古美術だと言って珍重する。例えば、トイレの便器やウイスキーの瓶などだ。一昔前の陳腐なお笑いだ。未来人など銀色のぴったりした服を着た外見で、数十年前のSF映画のようだ・・・

0

未来を見て来たよ

16/10/08 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:459

「昨日、俺、タイムスリップしたんだよ」

「タイムスリップ? なんだそりゃ」

「時空をわたったんだ。未来へ」

「ふうん」

「あ! 信じてないな」

「まあ、いいから話せよ。続きはどうなるんだよ」

「俺は午前七時十五分に起きた。いつもその時間に目覚ましをセットしているんだ」

「ふんふん」

「昨・・・

0

本屋酔い

16/09/25 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:681

 私は本屋で酔う。本の海に陶酔する、という意味ではない。車酔いするように、本屋へ入ると目眩、頭痛、吐き気に襲われるのだ。本屋に入り、なんとか新刊が平積みされた一角にたどりつき、しかしもうそれ以上は耐えられず本屋から逃げ出す。本屋の前を通りかかるたびに、それを繰り返している。苦しい思いをするくらいなら何もわざわざ本屋に入らなくてもよかろうに、と友人はあきれる。しかし私は本屋の楽しさを知っている。あの・・・

0

とんからりん

16/09/05 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:613

「とんからりんに石を落として音がしなかったら、願い事がかなうんだって」
 そう言ったのは美咲。
「とんからりんに石を落として音楽がなったら、その後すぐに死んじゃうんだって」
 そう言ったのは香夏子。
「今から行ってみようか」
 そう言ったのは私。

 深夜、へべれけになった私達はワインの瓶をぶら下げたまま家を出た。私の家からとんからりんまで徒歩で一時間。私・・・

2

繰り返すのか、それは永久に

16/08/23 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:646

 私が死を選ばない理由はただひとつ。死後の世界が本当にあるのかどうか分からないからだ。死後の世界……。考えただけで吐き気がする。この苦しい世の中から消えてなくなりたいのに、死後の世界というものがあって、死んでも苦しみが続くなら死は救いになんかならない。私はただ消えてしまいたいだけなのに。
 産まれた時から人間に馴染めなかった。他人が近くにいるのが苦痛だった。私にとっての「他人」とは私以外の全・・・

1

分からないその答え

16/08/08 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:518

「今日のパピプペポ当番、誰だった?」
「増子さんだよ」
「もう車出さないと、お寺さん待ってるよ」
 私はピタリと足を止めて聞き耳をたてた。そっと階段の陰に隠れる。パピプペポ当番、何それ?  パピプペポってなんなの? 流れていた涙がぴたりと止まった。
「ああ、増子さん。やっと来た。もうパピプペポは積んであるから」
「悪い悪い。トイレ行ってたんだよ」
 火葬場の職員・・・

0

メイポールダンス

16/07/31 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:583

 メイは体育祭が憂鬱で仕方がなかった。出来ることなら、なんとか休んでしまいたい。けれどそんなわけにはいかなかった。
 聖花女子高等学校の体育祭には保護者だけではなく近隣の、あるいは、わざわざ遠方からも見学者がやって来る。体育祭の目玉、メイポールダンスを目当てに。
  メイポールダンスは大正時代から続く聖花女子高等学校の伝統行事である。三メートルほどの高さの杉の丸木に結ばれた色とりどりの・・・

1

なくしたレール

16/07/12 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:635

 シュゴオっと煙を噴き上げ汽車が走りだした。惣吉は最後の客に窓越しに弁当を手渡すと、さっと身を引き汽車から離れた。敬礼をして汽車を送りだす。その姿はこの支線の名物にもなっていた。
「お帰りなさい、惣吉さん。今日もお疲れさまでした」
 家に帰ると妻の沙代が濡れた手拭を惣吉に差し出した。惣吉はすすで汚れた顔をごしごしと拭きながら沙代に駅弁を渡した。
「まあ、今日も持って帰ってくれたの・・・

1

蕎麦がゆの味

16/06/23 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:658

 幸代の子ども時代は空腹の記憶である。戦後間もなく生まれた幸代の家は貧農で、食べるものはかろうじて自足できたが、子ども五人の大家族、腹を満たすというには程遠かった。
 父がGHQの仕事を始めたのは幸代が四つの頃。貧しさの中でも幸代の父は飲む・打つ・買うの放蕩を続け、母が屑拾いをして稼いだ金でなんとか糊口をしのいでいた。そんな家に突如として米兵がわんさと押し寄せた。父が仲良くなった米人を見境な・・・

0

僕達は雨を知らない 

16/05/30 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:589

 見渡す限りのサボテン畑で小柄な少年が二人せっせと刈入れをしていた。
「だからさ、ジョイ。夜に抜けだして最終チューブで帰ってくれば大丈夫だって」
「けどワットが見逃すはずないよ」
 いたずらの罰当番中だというのに黒髪のカルはまた孤児院を抜けだす算段をしていた。
「だって雨だよ、雨!本物なんだから!」
「空から水が降ってくるなんて信じられないよ」
 カルより一回り・・・

1

悲しみ日本海

16/05/25 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:644

 そうだ。冬の日本海が今の私にはぴったりだ。
 涙も枯れた腫れぼったい目を見開く。久しぶりに見たテレビの中では、今まさに刑事が犯人を追い詰めたところだった。海に突き出した崖の上、砕け散る波濤、吹きすさぶ寒風、その中で犯人の独白が始まった。
『愛も、お金も、夢も。あの男は私のすべてを奪い去ったの』
「ああ、わかる。わかるわ。私も同じ」
 思わずテレビの中の犯人に向かって語りか・・・

0

きっとまたくる

16/05/12 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:649

「岡さんちの畑、くずれたらしかよ」
 母が受話器を置きながら振り返る。
「甘夏?」
「そう。あそこ、山肌に添って開けてたけんが。全滅やって」
 岡家は父方の伯母が嫁いだ家である。代々農業を営んでいる。近年は柑橘類に力を入れて米作からは離れているのだと二十数年前に聞いた覚えがある。その当時、小学生だった私に岡のおじさんは酔っ払った赤い顔で滔々と語った。
「今の日本で米は・・・

1

蜜柑の花咲く

16/04/29 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:635

「こら!何をしとる!」
 泰三の怒鳴り声にびくっと身をすくめ、女の子は手に持っていた蜜柑の小枝を取り落とした。泰三が一歩近づくと、目を見開き泰三を見ていた隣家の女の子はぴゅうっと家に駆け戻った。
「ああ、なんてことをしてくれるんだ」
 泰三はコンクリートの上に落ちて散った小さな小さな白い蜜柑の花びらを一枚ずつ丁寧に拾う。玄関先の蜜柑の根元に花びらと小枝を埋めると力が抜けたようにし・・・

0

脱ぎすてた春の空は遠く霞んで

16/04/10 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:579

 もうどこにも逃げ場はない。冬用のセーラー服を着て、まっ白い花を棺に入れる。美夜は呼吸をやめた祖母の顔をきつく睨みつけた。
「うそつき」
 誰にも聞こえない声で小さく小さく祖母をなじった。
 家族そろって火葬場で祖母が骨に変わるのを待つ。
「やれやれ。やっと肩の荷が下りたよ」
 父が朗らかに言う。
「こう言っちゃ悪いけどさ、寝たきりになってまで長生きされて、けっ・・・

1

人魚姫のカクテル

16/03/28 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:625

 目まぐるしく色が変わるネオンに照らされたネオンテトラは、はたして何色の皮をまとっているのかさえわからない。人間たちはそんな魚を見ながら熱に浮かされたように歩く。水族館はいつも暗く、ひやりとして、厚い壁の向こうの水の匂いがするようだ。
 登場人物は二人。私と彰彦。エキストラは、手を繋ぎクラゲに見入るカップル、遠足の幼稚園児たち、魚を見るより写真に納めることに夢中な女性たち。舞台は、ここ。水族・・・

2

詐欺師

16/03/20 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:647

「映画に出たきゃ太れ」
 そう言い置いて春日は部屋を出ていった。苑子は唇を噛み、シーツを握りしめた。その裸の胸にはほとんどふくらみがなく、あばらが浮いていた。

 春日に取りいったのは、彼が有名な脚本家だからだ。だれが好き好んであんなゲスに抱かれたいと思うものか。苑子は歯を食いしばって執拗に肌を這いまわる舌の感触に耐え続けていた。
「新しい映画の話がきたよ」
 ベッ・・・

1

うたかたの

16/03/13 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:537

 春樹と暮らし初めて二年目の春をむかえた。僕は密かに、僕たちは同棲しているんだと思っているけど、春樹にとっては男同士の同居でしかない。そんな毎日に空しさを感じないわけはない。胸の奥に押し込めた片想いが僕を押し潰しそうになる夜もある。それでも毎朝、目が覚めると春樹がいる幸せを、僕は手放すことはできない。
 僕たちは産まれた時から一緒だった。母親同士が親友でスープの冷めない距離に住んでいたから、・・・

0

ビンゴ!

16/02/18 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:591

 人は彼をミスター・ビンゴと呼んだ。彼の行く所ビンゴあり、彼の行うところビンゴであり、彼の思うところもまたビンゴであった。彼はパーティーというパーティーに呼ばれた。彼が催すビンゴは華やかで優雅で軽快であった。ミスター・ビンゴは誰よりもビンゴ会場を盛り上げた。
「13番!」
「ビンゴ!」
 会場から、わっと明るい声が上がる。マイクを握っていた彼は両腕を大きく広げ、幸運を引き当てた参・・・

2

おてらのぼうずとそのことこのこ

16/02/12 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:653

 舘山寺の倉は江戸時代後期にできたもので県指定重要文化財になっている。だが舘山寺の住職、英哲は生来のいい加減さから倉に人を入れることを嫌い閉鎖したままだ。地元の歴史研究家から何度も要請をうけたが、その都度、軽く「ヤだ」と断っている。
「もう!お父さん、いい加減にしてよ」
 英哲の娘、蓮華が父のパンツを指先でつまみ体からできるだけ遠ざけ、逆の手で鼻をつまんでやってきた。居間で寝転がって尻・・・

1

くそをくらえ

16/01/30 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:632

 その文学賞に応募したのは三回。芥川賞作家が選者をつとめるその純文学の賞は「題材自由」とうたっている。私はとっておきのプロットを書き賞に臨んだ。
 一回目は二次予選突破。二回目は四次予選突破。私の文章はこの文学賞に向いているのだと自信を持って臨んだ三回目、予選落ちだった。屋根に上ったところで梯子を外された気持ちだった。
 モニタの前で次々に発表されていく名前を睨んだ。脳味噌をぎゅっとし・・・

1

もくもくと湯気

16/01/02 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:624

 やっと涙が止まった礼子はトイレットペーパーで鼻をかむと、ベージュのコートの襟を掻き合せながら駅のトイレからこっそり出た。公衆トイレに入ったのはこれが初めてだった。礼子はあまり外出をしなかったし、外に出ても用事だけをさっとすませて飛ぶように家に帰っていたからだ。
 けれど今日は、どうしても入らないわけにはいかなかった。電車のホームでぼたぼたと涙を流し続ける事などできなかったから。
 生・・・

3

二枚の赦し

16/01/02 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:777

 俺の人生ってなんだろう。ベッドに寝そべってぼんやりと天井を眺める。薄汚れて黄ばんだ壁紙が所々たわんでいる。窓と桟の間に隙間があって北風が吹きこんでくる。俺にぴったりの貧相な部屋。繁華街の路地裏の薄汚いアパートの一室、負け犬の住処だ。
 小さな頃から何をしてもダメだった。勉強も運動も人並みに出来た事などなにもない。負けっぱなしだ。じゃんけんでさえ勝った事が無い。もちろん就職活動も勝ち抜くこと・・・

0

石の女

15/12/02 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:591

「ほんとにあの嫁は何の役にも立たなかったねえ」
 たづの言葉に夫の茂吉も頷く。
「貧乏小作の娘でも我が家のための肥やしにはなるだろと思って貰ってやったが、孕みもしねえで無駄飯食うばかり。石はやっぱりただの石だ」
 両親の言葉を吾一は唇を噛んで聞いていた。お岩は恋女房だった。是非にと頭を下げて、来てもらった娘だ。けれど両親にとってお岩は子を産むための家畜でしかなかったのだと吾一は思・・・

0

蜘蛛

15/11/16 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:606

 ナカザワはいつも生徒に馬鹿にされていた。同じく教師の俺でさえナカザワを馬鹿にしたくなる気持ちはよく分かった。いつもおどおどしていてきょろきょろと定まらぬ視線は壁をさ迷った。職員室で隣あって座っていても、ナカザワの挙動不審は目の端にうるさい。爽やかな朝が台無しだ。俺はできるだけナカザワに背を向けるようにして仕事をしていた。と、突然ナカザワが叫んだ。椅子を蹴倒し俺の背中にしがみつく。俺は背を押され机・・・

3

心の宝石

15/11/03 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:671

 久美がベッドで泣いていると叔父さんがドアの隙間から心配顔を見せた。久美は知らんぷりをしていたのだが叔父さんは黙ったまま見つめ続ける。久美はため息をついてドアを開けた。
「叔父さん。いつ帰ってきたの?」
「久美ちゃん大丈夫かい、お腹でも痛いのかい? 診せてごらん」
 叔父さんが手に持っている診察鞄を掲げて見せる。久美はまたため息をつく。もう六年生なのだ、そんな理由で泣いたりしない・・・

1

微熱

15/10/17 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:763

 三十七度五分の水銀計を振りながら玄関へ行き通学用の革靴をしまう。両親はもう仕事に出たあとで学校へ休みの連絡もしていない。
 今日の体育の授業はマラソンのはずだ。霧のように細かい繊細な雨の中を揃いのジャージを着た十代になったばかりの少女たちは足を引きずり進んでいるのだろうか。吐く息は甘くミルクのように香るだろうか。
 窓の外は灰色で寒々とした雨のせいで一足早い冬を思わせる。
 夏・・・

2

夢なるは夢のまた夢

15/10/04 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:724

 休日、その娘はカーテンを開けない。電気もつけない。薄暗い部屋の中、布団を被ったまま出てこない。

 うつらうつらと薬のせいでおとずれない夢と苦しめられるだけの現に揺られながら、真っ黒な眠りに落ちるまでの一とき、己の肌に爪を立てる。

 肘の内側から手首まで真っ直ぐな線を引く。
 手首から肘の内側まで線を引く。
 その娘の腕にはもうすでに無数の線が刻まれていて、・・・

0

南から香る風

15/09/26 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:829

 最悪だ。
 風は冷たく、空も海も灰色。ついでにスコールで一張羅のサマードレスがぐっしょり濡れて嫌な臭いを発している。

 だいたい旅立ちから最悪だったのだ。
 すっぽかされたのだ、結婚式を。ウエディングドレスで待っていた佳奈に、ヤツは電報で別れを切り出してきた。お祝い電報に一通だけ混じったお見舞い電報。何がお見舞いか。嫌味なのか、何も考えていないのか、いたわろうとしている・・・

1

空も飛べるはず

15/09/18 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:781


「目覚めよ」

 その看板に気付いたのは四日前。ビルの屋上にある巨大なパネル。白地に黒の角ゴシックで、その一言だけが書いてある。

 いったい誰に向けた言葉なのか、何に目覚めればいいのかさっぱりわからない。「起きろ」という意味ならば、看板に書いたところで寝ている人には見えはしない。

 会社の行き帰りに立ち止まっては看板を見上げ、首をひねった。
<・・・

0

日本全国ウナギ祭り

15/08/25 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:807

 その神社は通称「ウナギ神社」と呼ばれることがある。神様の御使いがウナギなのだ。
 ウナギ神社はこの辺りの一ノ宮で江戸時代には殿様も信心していたという。そのため国中に夏の例大祭の間ウナギを食べてはいけないという風習が残っている。そのお触れが無くても国中の人は信心深かった。一年中、誰一人としてウナギを食べるものはいなかった。


「というわけで、我が家の土用丑はウリを食べるの・・・

1

どこまでも透明な青を見た

15/08/16 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:775

 気がつくと、空を見上げていた。

 体の下にはやわらかな草の感覚がある。
 そっと首をもたげて見ると、辺り一面の花畑だった。あたたかな陽光に花たちがきらめくように揺れていた。
 ゆっくりと体を起こして、ゆっくりと立ち上がる。首を振って手足を振ってみる。どこにも痛みは無いことを確かめると、ゆっくりと歩き出した。

 何もかもがゆったりとしていた。頬をくすぐる風さ・・・

4

風祭り

15/07/30 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1091

「じゃあ、いつまでもいな。お姉ちゃん帰るからね」
 由岐がそういって雪を踏みしめ児童公園を出ていく。
「おねえちゃん! やだ、置いてかないで!」
 鼻にかかったひなの声に由岐はため息をひとつ吐いて振り返った。そこには一面の雪が広がっているだけでひなの姿は見えなかった。
「ひな、ふざけないで。ほんとうに帰るよ!」
 そこここに作られた雪山、大人よりも大きな雪だるま。二十・・・

1

瞳を閉じて

15/07/11 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:883

 ソナタを聞くときに瞳を閉じたことはある?
 たとえばラフマニノフのチェロソナタ。ラフマニノフが産み出した、チェロの声を存分に生かしたロマンティシズム。
 チェロの存在感ある低音が高く響く第三楽章の終わり。ふと瞳を閉じると、今まで伴奏かと思うほど控えめだったピアノが奥深く草原のように広がって。その上を自由に駆けるチェロはまるで翼を持っているよう。大事なのは、瞳を閉じることだけ。あなたに・・・

0

思い出のヒョウタンツギ

15/06/27 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:783

「さやかちゃんは本当に良い子で。クラスのまとめ役なんですよ。私のいたらないところもしっかりフォローしてくれるんです」

 五年生になったさやかの担任の菅野先生が家庭訪問の時にそう言って褒めてくれた。
 母親が喜んでその日の晩御飯はさやかの大好物のカキフライにしてくれたけれど、さやかはそれよりも自分が一人前と認められたようで嬉しくて、夕飯も半分も手つかずで残してしまった。
 ・・・

2

パパと おべんとうと ごくらくちょう

15/06/14 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1129

「パパ―! おなかすいた!」

 麻友が大きな声でいいました。

「そうだね、ゾウさんのところで、おべんとうたべようか」

「ううん! 鳥さんのところでたべる! パパ、はやくいこう!」

 麻友はいっしょうけんめい小さなお手手でパパのようふくを引っぱります。パパはゆっくりゆっくりあるきます。
 鳥さんのこやは、大きな大きな鳥かごです。麻友のおう・・・

2

月下の桜

15/05/28 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:887

 武蔵の剣は月光を受けギラリと光る。
 対する権之助は手にした杖を突き力を入れぬ態で黙然と立っている。
 二人相対するのは二度目のこと。

 初めて権之助が武蔵に挑んだのは血気盛んな二十歳の頃。その時すでに有名をほしいままにしていた武蔵は竹刀で権之助を打ち据え、力の差を見せつけた。
 権之助は唇を噛みしめ、去っていく武蔵の背を睨んだ。しかしその視線さえも武蔵の気合いの・・・

1

黒く 黒く 黒く

15/05/25 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:839

 アリスは走る。
 深い森の中を。
 生い茂る枝葉に遮られ陽が射さない深い森を。
 
 アリスは走る。
 暗い森の奥へ。
 道もない下草に足を取られそうになりながら。

 アリスは走る。


 真紅のキノコがアリスに囁く。

「ハヤク シナイト テオクレニ ナルヨ」

 水玉のキノコがアリスに囁く。
<・・・

1

灰色の海のかなた

15/04/25 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:916

 改札を出て深呼吸してみた。吐く息は白く、もこもこと立ち上った。
 故郷は昔のままだった。
 何もない駅前、シャッターが下り切った商店街、道端に打ち捨てられた自転車。
 道の向こう、迫りくるような灰色の海。
 俺はダッフルコートのポケットに両手をつっこむ。
 駅からまっすぐのびた道を海に向かって歩いた。

 海岸と言うほどのものもなかった。コンクリートの護・・・

0

豚野郎ども

15/04/25 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:801

 ぴしっと鞭が鳴る。

「遅いぞ子豚ども! 四つんばいになって整列!」

 ああ、さっきの鞭の一打ちを僕のお尻にいただきたかった……。だけど僕たちはまだまだ見習いの子豚。立派な豚野郎にならねばご褒美などいただけない。

「さあ子豚たち、お前たちの薄汚い欲望をさらけ出してごらん。アタシに何をさせるつもりだい?」

 僕たちを飼育してくださっている女王様・・・

2

追跡開始

15/04/05 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:937

「やめろ、やめてくれ、殺さないで……」
 尻餅をついた男にナイフを持った女の影が迫る。コンクリート壁が、じりじりと下がっていた男の背にぴたりと付き退路を断つ。女はナイフを振り上げると、男の顔めがけて振り下ろした。
「ひいっ!」
 顔をかばう男の腕を、ネクタイの胸を、腿を脛を、倒れ伏したその背中にも。ナイフはきらきらと閃き突き立つ。女の口から次第に笑いがあふれ出す。血の池に沈んだ男・・・

1

肉まん

15/03/29 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:977

 薬局でもらった風邪薬の袋をカサカサ言わせながらコンビニに入る。外の寒さのせいか熱のせいか、鼻水が止まらない。孝はずびりずびりと洟を啜りあげながら店内をまわる。ゼリータイプの栄養補助食品やレトルトのお粥などを買い物かごに放り込む。ついでにアイスクリームもいくつか入れてレジへ持っていった。

「肉まん半額セール中でーす。いかがっすかー」

 バイトの若い男性のやる気のない声に・・・

1

青い香りを

15/03/29 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:885

 今年も春がめぐってきた。
 公亮は棹を突いて小舟を止めた。水路の両岸には雪柳やレンギョウが盛りを迎え空気まで華やいでいるようだ。こんな日は、あの人のことを思い出す。

 水郷と言われるこの町は縦横に水路が走り、そこを行く小舟は住む人の生活の足になっている。
 船頭の家に生まれた公亮は歩くようになった頃にはすでに棹のさし方を覚えたほどで、小学校にも自分で小舟に乗って通った。・・・

1

雨ざらしの欲望

15/03/15 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:932

 あいつは何でも持っている。
 先祖代々受け継いだ財産、どこに出しても恥ずかしくない礼儀作法、誰にでももてる美しく整った顔。もちろん運動神経もよけりゃ勉強も出来て、それになにより性格までいい。
 大学の入学式で初めて隣あって座った時も、にこやかに挨拶してきた。その綺麗な笑顔に、コミュ障な俺は下を向いてうなずくのが精いっぱいだった。

「宮部君、おはよう」

 今・・・

1

待ち合わせはスペイン坂で

15/03/07 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:879

「ようやくきたな、コノヤロウ」

 雄吾が俺の胸をこぶしで突く。少し緊張していた俺の肩から力が抜ける。久しぶりの再開に、胸が熱くなっていた。

「五年も待たせやがって。これ以上待たされたらミイラになっちまうところだ」

 あいかわらずの軽口に頬がゆるむ。雄吾と道を別ってから、俺は雄吾の声を聞かないようにしてきた。別に嫌いになったわけじゃないし、立派になっていく雄・・・

4

時空を超えてみたりなんかしたりして

15/02/14 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1061

 気がつくと、見知らぬ部屋にいた。
 広々としたフローリングに畳が四枚だけ置いてあって、そこに寝かされていたようで、私の上にはなぜか着物がかけてあった。なぜ?
 古い木造家屋は風通しがよすぎて、初夏だというのにくしゃみが出た。扉を全開にしてあるからそのせいなんだけど。
 私は立ち上がると部屋の外、庭に面した廊下に出た。どうやらこの廊下は建物の周りをぐるりと囲んでいるようだ。お寺み・・・

3

天上の音楽

15/01/22 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:891

『めぐみ音楽教室』

 703号室のポストに書いてあるその名を、僕はうっとりと見つめる。エレベーターに乗り、階数ボタンを押そうとして慌てて手を引っ込める。『7』というボタンを押してしまいそうになった。僕の住まいは603号室なのに。703号室に行きたいという強い思いが、いつも僕の手を勝手に動かしてしまう。

 このボロビルに引っ越して半年。
 最初は家賃が安いだけで取り・・・

0

飛び立つ間際のものがたり

15/01/08 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:806

 いつものように芝刈り機に乗車して芝を刈っている時、それに気付いた。
 滑走路の最奥、アスファルトが芝に飲み込まれる寸前のその位置に、小さな赤いものがあった。
 芝刈り機から降りて屈みこんで見てみると、赤いものは小さな鳥居だった。鳥居は高さ10センチ、幅12センチほどの小ささで、どうやら木製のようだった。つん、とつついてみてもびくともしない。鳥居の足は固くアスファルトに埋め込まれている・・・

2

輪廻

14/12/18 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:812

 怒声。
 悲鳴。
 割れる音。
 赤ん坊の叫び声。

 今夜も壁の向こうから聞こえてくる。
 俺は壁に背を向け、眠りにつく。

 その人はいつも扉の前に立っている。
 まだ小さな赤ん坊を抱いて、その瞳には何も映っていないかのように。
 俺は無言で通り過ぎる。会社へ行くとき、家へ帰るとき、そこに何もないようなそぶりで、通り過ぎる。
・・・

1

ひかりとうそ

14/12/03 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:814

『わるい! おくれる』

 リヒトから連絡が入ったとき、私はすでに月エレベータの行列のなかにいた。

『またあ? どれくらい?』

『よんじゅうあくせす……くらい?』

『はあ!? えれべーたいっちゃうよ!!』

『ほんとごめん! なんならさきいっといて』

「先行けって!?」

 思わず口に出して叫んでしまって、・・・

0

月明かり

14/12/03 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:759

 ある夜、透の窓から魔女が入ってきて言った。

「お前の命はあと一週間だよ。呪いをかけたからね」

 寝床に横になっていた透は、首だけを巡らせ魔女を見た。
 先が尖ったいかにも魔女らしい靴を履いている。
 それを認めると、透はまたごろんと横たわった。
 透の四角の部屋は閉めきられ、風も吹かない。透は寝るともなく起きるともなく横たわっている。

・・・

4

さようなら、こんにちは

14/11/25 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1117

朝起きる。
歯を磨く。
飯を食う。
仕事する。
飯を食う。
仕事する。
飯を食う。
酒を飲む。
歯を磨く。
夜ねむる。

規則正しいくらし。変わらない毎日。

朝起きる。
歯を磨く。
飯を食う。
仕事する。
飯を食う。
仕事する。
飯を食う。
酒を飲む。
歯を磨く。
・・・

1

光輝

14/11/06 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:962

 一気に、光がはじけた。
 それはもう音ではなくて、光だ。
 その光は俺の網膜を焼き、俺は幻想の世界を見た。世界は青く、ときおり黄色の光を発し、うぞうぞとうごめく原生生物のような半透明の生き物を擁している。その世界は俺の目から耳から入ってきて、俺の体を突き抜け、はるか彼方へ飛び去った。

 ぶるりと頭をふるってステージに目を戻す。そこでは彼が、マイクに噛み付くように歌ってい・・・

0

ロードムービー 2

14/10/25 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:729

○映画研究部部室
   雄一、机の前に立ち熱弁をふるう。 

雄一「車の上にカメラを積むだろ? それが猛スピードでかっ飛ばして、
  道路上に仕込んであるピアノ線に触れたとたん、カメラが千切れて飛び跳ねるんだ!」

   司、頭を抱える。

司 「猛スピードでって、それはいったい何キロメートルで? 
   そんな高速で走っていい道がどこにあるの・・・

2

モノワスレヤ

14/10/03 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:895

《あなたのことわすれます》

 首からプラカードを提げたおさげ髪の娘が一人、橋のまん中に立っている。
 橋を行く人々は興味なさげに娘の前を通り過ぎる。車に座り引かれいく紳士。パラソルを開いた淑女。飯椀をかかえた乞食。本をかかえた文士。エトセトラエトセトラ。
 娘は立っている。忘れるべき《あなた》を求めて。



「なあ、なあ! こんなことしても、あん・・・

6

さよなら。大輔。

14/09/22 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:967

 私には兄がいる。
 兄はうまれたときから死んでいる。

 私がものごころついたころにはすでに、家にぶよぶよした腐った赤ん坊のようなものがいた。そのことを母に話すと泣き崩れた。それはきっと私の兄の大輔だという。
 流れた赤ん坊。生まれなかった肉塊。
 私はそのぶよぶよを「大輔」とよびはじめた。なぜかそれ以来、大輔は私と共に育ちはじめた。
 初めは弟ができたみたい・・・

6

いつか君に届けたい

14/09/08 コメント:7件 かめかめ 閲覧数:1032

『拝啓、お元気ですか。

 今夜も大きな月が出ています。窓の外、鈴虫の音が聞こえてきます。
 こちらは朝晩すずしくて、もうはや秋がやって来てしまいました。今年は夏らしい夏を感じられないまま。
 そちらはこれから春にむかうのかな?

 君がそちらへ旅立ってしまってから二ヶ月。
 僕は毎日、同じような日々を過ごしています。朝起きて、寝癖を直し、背伸びして。

6

まもりなされ

14/08/25 コメント:9件 かめかめ 閲覧数:984

「ねえ、こずえ、『攻める』の対義語って、なんだっけ?」
「受ける」
 国語の参考書を開いて質問したさやかに、こずえは即答し、すぐに『しまった』と満面で無言のうちに叫んだ。
「受ける、ね。ありがと」
「いや、いやいや! 間違った! 間違いました! 『守る』です!」
 こずえが言った言葉をそのままノートに書き込もうとしたさやかの腕を、ぐいぐいと引き、こずえが叫んだ。

1

むかしむかし森の中に

14/08/23 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:859

むかしむかし森の中に小さな家がありました。そこに女の子がたった一人住んでいました。
ある日、森に旅人がやってきました。女の子は目をぱちくり。森に住んでいる熊や兎の友達はいましたが人間を見たのは初めて。
「あなたはだあれ? くま?」
「私は熊じゃない。人だ」
「ひと?」
「そうさ君と同じ。人だよ」
女の子は怪しみました。
「あなたはなにができるの? くまはち・・・

6

夏がかおる

14/08/17 コメント:10件 かめかめ 閲覧数:1228

 初恋は6歳の夏。
 それは私にとって黄金の想い出。

 
 夏休み、私はまたここへ来た。
 蝉しぐれ、入道雲、青い空、喪服の人々。

 祖父が亡くなった。82歳。大往生。
 祖母は少し泣き、それから寂しそうに笑った。
 私は冬用のセーラー服の袖をまくりあげ、母に叱られている。この鬱陶しい長い髪だけでも切ってくれば良かった。

「紗・・・

5

いつか四つ葉のクローバーが絶えた野原で

14/07/28 コメント:7件 かめかめ 閲覧数:1030

 その人に気付いたのは三日目の晴れた日のことだった。
 僕は一眼レフを抱えて近所の橋の上から川岸を見下ろすことを、ここ最近の日課にしていた。映像学の課題の写真のために。
 初夏の風に揺れる草花。にこやかに散歩する夫婦。決まった時間にランニングする人。すべてがおだやかに、すべてが僕の被写体にぴったりな午後だった。
 草むらにしゃがみこんでいる一人の女性に目が止まった。早春ならば土筆・・・

4

きたるべき未来

14/07/19 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:891

 2028年、日本の偉大な発明家・ドクターまかなつによって、人の脳に直接、情報を記憶させることができる装置<すいすい記憶くん>が開発され、

 そのおかげで教育格差がなくなり、すべての試験が廃止された。

 加速する少子化も伴って、小中高校は完全無料化、大学は希望者のみだが低廉で進めるようになった。

 しかし、学習はすべて<すいすい記憶くん>によって行われるた・・・

3

 蛍 火

14/07/12 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:890

 夜の闇はねっとりと、肌にまとわりつくように重い。
 祭り囃子が遠く聞こえる。
 美夜子は明るさに背を向けて走る。
 足元を照らす灯もなく、足の先は闇。月は厚い雲におおわれ地に影を落とさない。美夜子は走る。

 村はずれの六本松。そこから南の山際へ十町。
 御蔵川にかかった橋のたもと。あの人がそこで待っている。
 逸る足を押さえ、息を整え、いかにも余裕のあ・・・

2

君のために

14/06/16 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:861

僕はなみだ。
いつも君のそばにあるもの。
哀しみを洗い、孤独を彩り、君の後悔をきらめく思い出にする。

僕はなみだ。
いつも君のために流れるもの。
笑い転げるとき、心揺さぶられるとき、君の明るさを照り輝かす。

僕はなみだ。
君が産まれたとき、君が転んだとき、君が成長するたび流れてきた。

僕はなみだ。
今日また、君のために流・・・

5

ロード・ムービー

14/06/05 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:917

   暗い部屋にモニタの明かりだけがある。
   それに照らされた雄一の顔。
   目はモニタを睨み唇を噛んでいる。
雄一「また落選か……」
   つぶやき立ち上がる。
   足音、4歩。
   冷蔵庫の扉が開き雄一のシルエット。
   雄一2Lのペットボトルを取り出す。
   足音、4歩。
   モニタの前に座る雄一。
   キャップを・・・

1

転がらない石、むすぶ石

14/06/05 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:844

「新居に引っ越す時には、家具より何より、オモトの鉢植えを運び込むの。そうすると家内安全に過ごせるのよ」
 そう言って母が抱えてきたオモトの鉢植えは大きめの石の上に苔が敷き詰められその間からオモトの葉がすっくと立っている美しいものだった。
「オモトは水さえやればいいから無精のあんたにピッタリよ」
 そう言って鉢植えを置くと引っ越しの手伝いもしてくれず母はさっさと帰ってしまった。父の・・・

2

皮膚

14/05/05 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1437

ざわざわざわざわ。
ざわざわざわざわざわざわ。
ざわざわざわざわ。
ざわざわざわざわざわざわざわ。
ざわざわ。

音がする。
私の腕の中。
私の腹の中。
私の脳の中。

ざわざわざわざわ。
ざわざわざわざわざわざわ。

皮膚の下を這いまわる音がする。
長いヤツだ。
長くてイヤなヤツだ。

ざ・・・

9

レベルアップ

14/04/21 コメント:13件 かめかめ 閲覧数:1476

シャンパンのグラスがカラになった。何杯目かは覚えてない。ルリは私には目もくれず、幸せそうに笑っている。
まったく、もう。私とルリが交わした約束は、きれいさっぱり反故にされた。
『行き遅れたもの同士、どんなステキな男性が現れても一生結婚しないで生きようね!』
「……なぁにが、一生結婚しないでだぁ」
舌がもつれる。二次会は立食パーティだったから、好きなだけシャンパンをおかわりし・・・

4

激しい雨のあと

14/04/07 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:999

「どんなに辛い目にあっても憎んではいけない」

そう言った彼女は何かを予感していたのだろうか。
その言葉は聖者の預言のようで。



窓の外が青白く光り、激烈な爆発音がしたかと思うと、窓のガラスが部屋の中に飛びかかってきた。窓辺で作業していた仲間たちが爆風で吹き飛ばされ、ガラス片で体を切り裂かれて倒れた。
庄司が窓から外をのぞくと、市内中心の空にキノ・・・

4

真実は手をとりあう

14/03/24 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:1052

 ざぶざぶと激しく打ち付けるような水音で目覚めたようだった。
見慣れぬ天井は、真っ黒なタールを塗られた木材でできている。
男は首を起こし、ぐるりと周囲を見渡してみた。三方は天井と同じ黒い壁。一方は木材で作られた柵で一面を覆われている。
がばと跳ね起き、柵へ走る。両手で、丸く削られた木を掴む。力を込めて揺すってみたが、びくともしない。
改めて部屋を見渡してみると、女が一人、う・・・

5

海と月とあの日の熱

14/03/10 コメント:7件 かめかめ 閲覧数:1178

長い間、ルカは僕の憧れだった。
太い喉、豊かな金髪、大きな手、すらりと長い足、そして人を熔ろかすような、その声。
聖堂へ向かう廊下でルカとすれ違う時、僕はいつも俯いて、彼の爪先だけを見つめていた。

ルカは「お気に入り」を連れて歩くことを好んだ。
「お気に入り」たちは色白で、華奢で、弾けるような笑顔の少年たちだった。
そのどれも、一つだって僕は持っていない。そば・・・

8

幻の影

14/03/06 コメント:11件 かめかめ 閲覧数:1459

 忘れ物があるんだ、そう言って、田辺が消えた。

 1987年3月、僕らの母校は廃校になった。島に一つだけある小学校の最後の卒業生が僕たちだった。
 児童数の減少から廃校が決まっただけのことで、土地の二次利用などということもないまま、校舎は当時のままに残っている。
 集まりのため島に戻った僕と田辺は、寄り道することにして母校へ向かった。
たそがれ時の光を受けて木造・・・

4

湧く泉

14/02/24 コメント:8件 かめかめ 閲覧数:1101

 まあるい夕陽が沈む。
 うすくひろがる雲のすきまから、光の帯が垂れていて天使が舞いおりてきそうだ、と由佳は思う。白百合を手にしたガブリエル。キリストの母、マリアに神の子を宿したことを知らせた精霊。知らぬ間に孕んだ妻を、夫のヨセフはどう思ったのだろう。我が子を抱けないと知ったヨセフは?
 窓の外でかわいた洗濯ものがゆれている。よく晴れた一日だった。とはいえ、早春のこと。陽がかたむくまで・・・

4

オーロラの下 祈る

14/02/10 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:1366

壁に貼ったオーロラの写真だけが生きる糧だった。
旅行会社のパンフレットを切り抜いただけの写真。擦り切れて色もなくなった。
毎日、見上げていた。
父に体をまさぐられながら。


母は私が十二の時に消えた。
それからすぐ私は初潮を迎えた。
私の血の色を見た父は、私を組みしいた。
父は抵抗する私の顔を、腫れて形がわからなくなるほどに殴ったから、私はた・・・

4

ずるい。

14/01/27 コメント:8件 かめかめ 閲覧数:1246

なつみから数学の教科書を貸してもらった。
うっかり忘れたんだけど、忘れてよかった。
私が借りる直前に航介くんが借りていたらしい。そんなこと、考えただけで胸が高鳴る。

教科書の表紙をそっと撫でてみる。航介くんが触ったところを私も触ってるんだ……。
いけない。馬鹿なことしてないで、少しでも予習をしなきゃ。

あわてて教科書を開くと、裏表紙のあたりから、なにか・・・

1

干上がった国

14/01/13 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:978

 と、その時、ポツリ、と地面に黒いシミが落ちた。
 誰からとなく、空を仰ぐ。

 数十年、乾ききったままだった空が、みるみる黒く染まる。

 ポツリ、ポツリ。
 一粒、一粒、落ちてきた水滴はすぐに水の束になり、人々の上に降りそそいだ。

「雨だ!」

「雨が降ったぞ!これで助かる!」

 空に向かい喜びを撒き散らす人々の足元、・・・

4

ひだりうま

14/01/07 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:1542

 美代子は左手でもてあそんでいた舞扇で、ふと汗ばんだ襟元をあおいでみた。宗家に見つかればどれだけ叱られるかしれない。虫の居所が悪ければ「破門だ!」と怒鳴りつけられるかもしれない。
「それもいいのかな」
 ひとりごちて美代子は稽古場の柱に肩をもたせ掛けた。

 小さな流派だ。宮部流というのは。
 片田舎に残る土着の地唄舞。
 宮部村に住むもの意外で宮部流の名はおろ・・・

2

伝説を担うもの

14/01/07 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1036

 福岡市の中心地、天神にその伝説はある。
 数多の有名ミュージシャンを輩出し、今もなお若いミュージシャンたちがそのステージに立つことを夢見る。
 『喫茶 昭和』
 そこはストリートミュージシャンの登竜門だ。
 
 昭和51年6月。
 記録的な水不足をもたらした空梅雨の下、俺の心もカラカラに乾いていた。蒸し蒸しと煮え立つアスファルトの上でギターをかきならし声を枯ら・・・

2

変身前夜

13/12/17 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:990

 自転車のチェーンがはずれた。田園風景のど真ん中で。
 自転車ってヤツは、なんだってこう手間のかかる乗り物なんだろか。チェーンははずれる、パンクはする、サドルは盗まれる。それより何より、しょっちゅうタイヤに空気を入れてやらなくちゃならない。
 一人ぶつくさ言いながら、アタシはチェーンと格闘する。はずれた自転車のチェーンを元にもどしてやるには、思いのほか力がいる。か弱い乙女が従事する労働・・・

2

晴れ空の下、その空き地で

13/12/12 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1104

私は家から出られません。
だから、いつもベッドの上で、まどの下を見るのがすきです。
おうちは七階だから、道を歩く人の頭が小さく小さく見えます。
はれた日は、自転車でぴゅうっと走っていく人がおもしろいです。
あめの日は、いろんな色のかさがくるくる通っていくのがおもしろいです。
道路のむこうがわに小さな空き地があります。
春にはき黄色の花がさきます。秋はすすきがはえ・・・

2

     白

13/12/07 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1641

まっしろいへや


まっしろいおんなのこ


まっしろなおやつ


まっしろなおんなのひとが


まっしろなてでおんなのこを


まっしろなとびらのむこうへ



雪崩くる丸太、丸太、丸太、丸太の洪水。
押し流される、押しつぶされる、そして


        ・・・

5

咳の夜に思う

13/11/18 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:1160

雪の日にひろったから名前はユキ。
手のひらに、ふうわりと軽い、しろい子猫。
母親とはぐれ雪の降りつむ公園で、にーにーと鳴いていた。
私は赤い傘を置き、子猫を抱き上げた。
子猫は私の指をくわえ、力強くちうちうと吸った。
それからユキと私の二人暮らしが始まった。

 目も開かぬころに拾ったせいか、ユキは毛繕いが下手な猫に育った。いつも適当に舌で毛を・・・

4

ひるがえす 袖

13/11/04 コメント:8件 かめかめ 閲覧数:1309

鴨居に掛けた喪服の陰が、畳の上に長く伸びている。

義母が死んだ。

玲子が押し入れから喪服を出したのは、祖父の葬式以来だから10年はたっている。
クリーニングに出さずに、葬式が終わったら捨ててしまおう。
そう思い、玲子は埃を払いもしなかった。

義父は背中を丸めてダイニングの椅子に座っている。
喪主は義父になるのだが、実際の采配は玲子の夫がつ・・・

2

おお、麗しのサバラン

13/10/24 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1127

「すみません、サバランはありませんか?」
洋菓子店の扉を開けると佐和子は真っ先にそう尋ねる。返ってくる答えは十中八九
「やってないですねえ」。

サバラン。
フランスの美食家の名前を冠するこのケーキの歴史は古い。
伝統的なフランス菓子であるがゆえ、日本にも早くに紹介された。
やや古臭い印象なせいか今ではなかなかお目にかかれない。

佐和子がこの・・・

4

たまごのふわふわ ゆでぷりん

13/10/21 コメント:7件 かめかめ 閲覧数:1402

たまごのふわふわ ゆでぷりん

   材料(2人分)
卵      2個
牛乳   1カップ
砂糖   大さじ1
蜂蜜     適宜

   作り方
1. 卵をよく撹拌し砂糖を混ぜ溶かす
    (泡立てない)
2. 牛乳を小鍋で煮立たせる
3. 牛乳の表面にできた膜を取り除く
4. 鍋肌に添わすように卵液を流しいれ、す・・・

0

風祭り

13/10/17 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1059

バスは右に左にゆれながら坂道を登っていく。
窓の外すぐそこまで杉の木が迫っていて、カーブを曲がるたびに枝がガラスを突き破るのではないかと、夢はヒヤヒヤした。

 『玉川前』というバス停で、一人きり降りた。
クーラーの効いたバスから外へ出た途端、アスファルトから立ちのぼるムっとした空気をあびて顔を顰める。ぐるりとあたりを見回す。
山間を走る一本道はバスが行ってしまうと人・・・

1

希求の旅

13/10/07 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1145

鈍い頭痛とともに由希子は目覚めた。
口の中はネバつき、胃を取り出して洗いたいほどのムカつきがある。
不快だ。
昨夜の記憶を求めて部屋を見渡すと、夕食の膳が下げられぬまま放置され、一升瓶が二本転がっており、脱ぎ散らかされた浴衣がしわくちゃに丸まっていた。

昨夜の夕食も豪勢だった。
山海の珍味、とひとくくりでは言い表せない、うまい料理の数々。

烏賊の・・・

3

かげをうつして

13/09/26 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1399

美術室のドアを開けると、部長が窓から外を見てスケッチしていた。
アタシは邪魔しないように音がしないように、そっとドアを閉め、部長の後ろをすり抜けて自分のスケッチブックを取りに行った。

美術部員は名簿上だけは20人以上いるのだけれど、ほとんどが幽霊部員で、毎日まいにち活動しているのは部長とアタシ、二人だけだった。
それはとっても好都合で。
今日もアタシは部長の背中をス・・・

2

闇にひらく

13/09/25 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1281

たそがれのどことなく物憂げな通りに、彼女は見台を立てる。台の上には黒いクロス、彼女の頭には黒いフード、黒い蝋燭に火をともすと白い肌が際立った。
複雑な紋章が背に入ったタロットカードを見台に置く。
しばらく座っていると街は宵闇に沈んで、蝋燭の灯りだけが生き物のように踊っていた。
彼女がふと顔をあげる。通りの向こうから人影が近づいてきて、見台の前で立ち止まった。
細身で背の高い・・・

1

永遠の笑顔

13/09/09 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:1228

応援しているアイドルがいる。
彼女のことはブログでしか知らないのだが、
現役大学生で、東京で活躍している。出身は新潟県。
ネコ顔の可愛い女の子。なまえはマミちゃん。

彼女のブログを知ったきっかけを説明するには、少々時間がかかる。
もしお時間が許せば、ご一読いただければと思う。

そもそも私は映画脚本家になることを目指し、文章を書き始めた。
ど・・・

1

眠れぬ夜のたわむれに

13/09/09 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1115

午前0時、由美は皿に乗った料理を三角コーナーに捨てる。
三角コーナー、なんて変な名前かしら。三角で、コーナーだなんて。用途をちっとも表さない。
三角で、コーナー。形だけ。

由美は三角コーナーに、サワラの香草ワイン蒸しを捨てる。キャベツとベーコンのソテーを捨てる。ニンジンとツナのサラダを捨てる。コーンポタージュスープを捨てる。夫の好物たち。

三角コーナーに臭い・・・

2

ひまわり

13/08/27 コメント:3件 かめかめ 閲覧数:1222

うるさいほどの蝉時雨が降ってくる。
暦は秋ととは言え吹く風は熱を抱き、立っているだけで肌は汗ばむ。
木陰に避難して、梓は帽子で顔をあおぎながらカナに話しかけた。
「もう、沙知はまた遅刻だよ。あの子、いくつになっても変わらないねえ」
「ふふふ。しょうがないよ、沙知だもん」
「それにしても、私もずいぶんご無沙汰しちゃったね、カナ」
「ううん、ぜんぜん。梓、忙しいんで・・・

1

或る漢の闘いの記録

13/08/12 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:1157

闘っている。
俺は今、猛烈に闘っている。

今日こそは、この男に勝つのだ。
この勝負は俺の一方的な闘志ゆえに勃発した。
しかし、後悔はしていない。
俺は今日も正々堂々と闘うのみだ。

相手の男は腕組みして背筋をまっすぐ伸ばし、身動きしない堂々とした構えだ。
俺は上半身を低く落とし、膝に肘をつき筋肉の消耗を防ぐ手に出た。
じわりと額に汗が浮・・・

1

名探偵 金田一耕介の事件簿〜金持氏殺人事件〜

13/08/03 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1354

死体を前に、小林少年は深く悩んでいた。

財産家として有名な金持駄蔵氏の誕生パーティに、全く部外者の名探偵・明智耕介とその助手・小林少年が招かれた時から、不穏な空気は感じていた。
実際、パーティが始まってからも、場の空気はなごやかとはとても言えず、誰もが不快の念をあらわにしていた。
そんなことには頓着しない性質なのか、そらっとぼけていたのか、駄蔵氏が平然と開会の挨拶を述べ、・・・

0

 搏  動

13/07/29 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1203

目が覚めた。
暗い。
ただ、暗い場所にいることだけはわかった。
男は右脛に、風が吹きつけるような冷たさを感じていた。
首が胸につくほど、がっくりとこうべを垂れた状態で目覚めたため、首と肩が凝って容易に身動きもできない。

「けーけーけーのーおーまーけーつーき」

愛らしい少女の声が途切れると同時に、左腿に熱いものが触れた。
反射的に左足を動かし・・・

0

川を渡る小石のように

13/07/15 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1174

 リビングから、両親の声がする。
 太一は頭から布団をかぶって耳をふさいだ。耳をふさいでも、声は容赦無く布団の奥まで突き刺さる。

 母が父をなじる。
 父が母をけなす。
 太一は生まれたことを後悔する。

 オレが生まれなければ、きっと両親はケンカなんかしなかった。
 ほらまた。
 太一が悪いのは母親のシツケが悪いからだ、って。
 太一・・・

0

老いて候う

13/07/05 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1087

美琴は老人が嫌いだ。
老人特有の饐えたような臭いが嫌いだ。
古いゴムのようにしなびた薄黄色い皮膚も嫌いだし、時代の流れを感知しない無知な図々しさも嫌いだ。
センス悪い服、薄暗い家、口うるさいわりに自分が働かないところ。とにかく、老人のなにもかもがウザかった。
独居老人宅へ福祉の弁当を宅配するバイトを始めたのも、福祉的精神からでも敬老心が起きたからでもない。
ただ、他に・・・

0

きざはし

13/07/02 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1114

列車に乗るため並んでいたら、おっさんが横入りしてきた。
ムっとした。すかさずポケットから弾を出し、発射!!
狙いたがわず。おっさんの背中に「こいつサイアク」の文字が張り付いた。

このインクは偶然の産物である。
もともと書いてすぐ消せるボールペンを開発していたのだ。が、どういうわけか、一度書いた文字を剥がしてどこにでも貼り付けることができるインクができた。商品化の目処・・・

1

走れ。兎のように

13/07/01 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1213

駅からの帰り道。愛美はいつもビクビクしながら歩く。
残業などで遅くなってしまうと人通りはなく、街灯も少ない。
数日前「痴漢出没!注意!」と言う看板が張り出されていて恐怖のあまり鼻水が垂れた。
すび。
と鼻をすすり何食わぬ顔で通り過ぎたが、内心では叫び声を上げつづけていた。

今日も遅くなってしまった。
お世話になった先輩の結婚を祝う会だった。お目出度い会だ・・・

0

ワインセラーのミステリー

13/06/24 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1338

「あのお話を聞きたい、とおっしゃるのですね?
かしこまりました。
いえ、とくに秘密にしなければいけないお話ではございません。
代々、このお屋敷にお勤めさせていただいておりますが、大抵の旦那様は一番初めに確認されますので。
わたくしも心づもりはいたしておりました。

そもそもの始まりは、今より100年ほど前、このお屋敷の10代目の当主様が悪夢をご覧になったことでご・・・

2

祭囃子の椿事〜名探偵・明智耕助の事件簿〜

13/06/17 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:1700

祇園祭りの準備で賑わう夕暮れ、常のごと小林少年が駆け込んでくる。
「先生!事件です!」
明智耕輔探偵はゆったりとした仕草で助手にソファを示した。
「そんなに慌てずとも事件は逃げません、小林君。まずは座って落ち着きたまえ」
素直にソファに掛けながら少年は叫んだ。
「事件は逃げませんが犯人が逃げます!3丁目の梅屋敷に空き巣が入ったんです」
探偵は組んだ両手に顎を乗せ・・・

1

はかたっこ 迷走。

13/06/06 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1455

ラーメンについて語らせたら、かめかめはうるさい。
なんせ、博多っ子ですから。ラーメンの前線基地ですから。
なにせ、中学生になるまでとんこつラーメン以外のラーメンが存在することを知らなかったくらいですから。サッポロ一番味噌ラーメンくらいは知っていましたが、あれはインスタントラーメンならではのお遊びだと思っていたんですよ。それくらい、とんこつは魂に染み付いていました。

で。そ・・・

1

世界一のスープ

13/06/06 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1397

生き物の住めない熱い熱い砂漠をこえたところに、その国はある。
美しい湧き水とたわわな果実、めずらしい宝石と勤勉な国民。
その国に行けば両手にあまる宝物が手に入ると、たくさんの人が砂漠を旅した。
多くの人が砂漠で命を落とし、その国にたどりつけるのはほんの少しの人だけだった。
旅人たちは疲れきり、砂漠をおそれ、帰れなくなった。
余るほどの果物があるこの国にいれば飢えて死ぬ・・・

0

New  Teeth。。。

13/04/27 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1336

私はストレスに弱い。
ちょっとしたことで、ストレス性の病気になる。
膀胱炎だのヘルペスだの。自己免疫機能が狂う系の病気ばかり繰り返している。
そういうヤツらにはもう慣れた。
のだがひとつだけ、今までにどうにもこうにも困った病気がある。

顎関節症。
もともと、アゴでカクカク音がするな、という自覚はあったのだが。

異動してきた職場の上司が、驚く・・・

1

南極より愛をこめて

13/04/16 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1365

夫が浮気している。
以前ならどこへ誰と何をしに行くのか小学生のように話していた夫がここ最近、隠れてコソコソと外出する。
あの手紙のせいだ。
水色の封筒、差出人の名前はなく消印はいつも読めない。
夫は封筒を手に取るとソワソワした様子でトイレに篭る。由佳は夫の態度が変わっても知らんぷりした。そして冷静に観察を続けた。
「動かぬ証拠を掴まぬ限り、夫はどんな嘘でもつく」と言う・・・

1

ふるさとの訛りなつかし

13/04/06 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1361

「わたくし筑紫黄楽の博多独楽(ハカタゴマ)をご覧頂きました〜!
 この後も浅草演芸ホール、まだまだ演目つづいてまいります。
 どうぞごゆるりとお楽しみ下さいませ〜」

まばらな拍手を背で受けながら舞台袖にはけて、黄楽はため息を落とした。
曲独楽(キョクゴマ)の芸一本で食べていくのだと大見得を切って博多から上京して10年。
演芸ホールに定期上演させてもらう以外は、・・・

3

落ちていた恋

13/03/17 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1426

美香が地面を見て歩くようになったのは中学生のころ。
私立の女子中学校の制服に憬れて受験し、小学校時代の友人と離れたころ。
公立中学に通っている顔なじみが挨拶してくれても、人の顔を覚えるのも、ずっと記憶しておくのも苦手な私が「だれだろう?」と怪訝な表情をしている間に、一人、二人と友達をなくしていったころ。
声をかけられることが億劫になり、誰とも視線を合わせないように、地面を見つめて・・・

0

サーカスの夜

13/03/08 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1399

回る 回るよ 回転木馬
この世は 夢かまぼろし
めぐる めぐる 輪廻はめぐる
もう一度あなたに あいたい

サーカスの幕が開く 一夜かぎりのものがたり
高い 高いツナワタリ 落ちるは奈落

あなたは猛獣使い 響くムチの音
炎を超えてとんでいく あなためざして

回る 回るよ 回転木馬
明るい月は まぼろし
めぐる めぐる・・・

0

トイレのカミサマ

13/02/22 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1376

「トイレには〜それは、それはきれいな、めがみさまが……」
便器の裏の尿石をブラシでこすり取りながら、知らず歌っていた自分に気付き、カナは苦笑いした。

自分と同じ名前を持つ歌手が歌う『トイレの神様』と言う曲が初めてラジオから聞こえてきた時、カナの記憶の底がふるふるとゆれた。
私はこの歌を知っている?
いや、違う。このお話を聞いたことがあるのだ。
小さい頃、トイレ・・・

0

手作りできるモン!

13/02/22 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1587

ポストに入っていたピザ屋のチラシを、夫が熟読している。

「…なあ、ピザ頼もう」

「だめ。そんな高いもの」

由香は一蹴する。

「いいじゃないか、たまには。贅沢しようよ〜」

「だめ。むだ。」

「ピザ食べたい、食べたい、食べたい、食べたい〜!」

子供のように手足をバタバタさせて駄々をこねる夫を、気持ち悪そう・・・

1

HOLIC !!

13/02/08 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1533

「買っちゃった♪」

いつになくウキウキした様子で由香が宅配便の荷物をほどいている。

「またスイーツのお取り寄せ?ほんとに好きだなあ。今度は、なに?」

「えへへへ〜。じゃーーーーーん!!」

包みから出てきたのは高級そうな黒い箱。
スイーツ、と言うよりは、カバンか靴でも入っていそうな大きさと高級感だ。

「え、もしかして、甘いも・・・

2

地平線に祈る

13/01/20 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2274

そこを寺というのは勇気がいった。
しかし、そこは紛れもなく寺なのだ。

インドで日本人観光客向けのガイドを初めて4年が過ぎたが、それは初めての要望だった。
「仏教発祥のころのような寺が見たい」。
学生のバックパッカーが個人でガイドを雇うなどと、無駄に金をかけたのは、ツアーやガイドブックでは知りえない現地情報を求めてのことだったのだな、と合点はいった。
だが、観光・・・

0

運、云々

13/01/20 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1235

妹はファミレス運が悪い。
ファミレスですんなり食事ができることは、ない。

○家族でファミレスに行く。妹にだけ水が来ない。

○家族が食事を終わる。まだ妹のオーダー品はやってこない。

○妹がほうれん草のバター炒めを頼む。青虫がついてくる。

○妹がオニオングラタンスープを頼む。半分凍ったまま出てくる。

○妹がオムレツを頼む。菜箸・・・

0

忘れない空

12/12/23 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1393

突然、携帯が鳴った。

離島の小学校に赴任してから一週間、一度も鳴ったことがないので驚いた。
遠くへ行くと告げた僕に愛想を尽かし、みんな僕から去って行った。
友達はおろか恋人さえ連絡をくれなくなった。
それでも習い性で、毎日、充電しては持ち歩いていた。

メールボックスを開く。
送信者は「ゆみ」。
送信日は……。なんだ、僕が赴任したその日じゃな・・・

1

歳の瀬に

12/12/23 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1364

奉書紙を引き伸ばし、文鎮を据える。
硯に水を一滴、ゆっくりと墨を磨る。
水を一滴、また一滴。
落としては磨り、磨っては落とす。
単調に手を動かしながら、頭の中では書き付けるべき言葉をまとめて行く。

`置き土産
`年賀の品
`筆、墨

そうだ、箸もいるな。
長く真っ白なヒゲを撫で下ろしながら、翁は一人うなずくと墨を置き、筆をとって<・・・

0

八四八

12/12/02 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1413

「箸が折れた。ほら」

そろそろ寝ようかな、という時間に、
半分ニートの妹がにやにやしながら自分の箸を見せびらかしに来た。
なるほど、たしかに真ん中からボッキリと折れている。

「何しよったん?」

「ハンバーグ千切ろうとしたら折れた」

どんだけ硬いハンバーグを食べていたのか謎だったが、とりあえず私のスペア箸を貸してやった。
箸の・・・

0

赤の誘惑

12/12/02 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1792

とにかくショートケーキだ。
俺の頭の中は、真っ赤なイチゴと真っ白な生クリームでデコレーションされていた。
出張で初めて訪れた町。海風が骨の芯まで凍みる。
18時だというのに日は暮れて真っ暗。いっそう風は冷たくなった。
仕事も片付いたことだし、コンビニでおでんを買って、ビジネスホテルで一人酒と独身オヤジらしい夜を過ごすつもりだった。

クリスマスソングが聞こえる。・・・

0

好きなものは好きだからしょうがない!!

12/11/17 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1518

「ぜったい、コロッケ!!」

「だめ!メンチカツ!」

「もう、どっちでもいいから早く決めてよね」

妹の真由はわがままだ。
ママが
「おやつにスーパーの安売りのメンチカツか、コロッケを買おうか?」
といったので、ボクとママと真由でスーパーにきたんだ。
メンチカツもコロッケも値段はおなじ、1パック100円。
ただ、コロッケは3コいり・・・

0

暮れ行く空の彼方

12/11/10 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1445

 ヨアヒムの朝は早い。
まだ陽も昇らぬうちから、ベエベエと鳴きはじめる羊たちにせっつかれ、冷たい草地から身を起こす。
寝袋として体を包んでいた分厚い織物を、外套として身につける。帽子を被りなおし杖を手にすれば身繕いは終了である。
「ホーホー」
と甲高い声で羊たちに呼びかけると、群れは山の方へ動き出す。暗い斜面を羊たちは危なげもなく登って行く。途中、立ち止まって草を食べようと・・・

0

ある日、暗闇がおとずれ

12/10/16 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1398

ガクン!

と大きく揺れた。
一瞬、地震がきたかと身構えたが、揺れたのはこのエレベータだけだったようで、揺れは一回だけで収まった。
安堵したとたん、ふ、と真っ暗になった。


静寂。

日々とぎれることない耳をつんざくような、工場の喧騒も聞こえない。

真っ暗な中、何が起きたのか理解できず、張り詰めた五感のうち、聴覚だけが生きていて・・・

0

コンビニの女

12/09/27 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1348

 大学に合格してからバイトの時間を深夜帯に変更してもらった。
 どちらかと言うと夜行性の寛大は、バイト代はあがるし遅刻の心配はなくなるし一石二鳥と満足して、今夜もバイトに精を出している。

 深夜0時の品出しの時に、その女性客に気がついた。
 雑誌コーナーにずっと立って、見るともなく手に持った雑誌をぱらぱらとめくっている。
 駐車場に車が入りヘッドライトの明かりが店に・・・

0

リアル逆脱出ゲーム

12/09/09 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1558

鍵がない。

玄関で靴を履き終えてから気付いた。
由美子は舌打ちしつつ靴を脱ぎ部屋に戻る。
今日から秋らしいカバンにしようと思って詰め替えたから、昨日使ったカゴバッグに入れっぱなしかもしれない。
クローゼットを開けカゴバッグをひっくり返したが、無い。
では、昨日のジーパンのポケットか。
洗濯機を引っかき回しジーパンを裏返すが、無い。
玄関の靴箱上の小・・・

0

ターミナル

12/09/07 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1575

「これ何?痣?」

保が私の手首を握りたずねる。

「ううん、ターミナルのあと」

「ターミナル?」

「うん。点滴のターミナル。
24時間点滴はね、皮膚の下にプラスティックの管を通して固定して、そこから点滴輸液をとおしっぱなしにするんだ。
って言っても三日に一度は別の場所に差し替えないといけないから、私の腕やら足やらターミナルだらけなん・・・

0

あなたとワルツを

12/08/21 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1301

「かなめちゃああああん。チークタイムだよお。おどろうよおおう」

三次会のスナックで、かなめの上司が、かなめの手を取って引っ張る。

「もう。部長。いい加減にしないと、私、強いんですよ?太極拳やってますからね」

かなめの言葉を聞き、そばで聞いていたまだまだ素面の課長が爆笑する。

「太極拳!?それはつよいね!それは勝てないわ。ははははは!!」

0

あいたくて

12/08/17 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:1541

角を曲がってビーチサンダルをパタパタ鳴らしながら憲太が駆けて来る。

「とーちゃん、ただいまー!!」

「そんなに急ぐと転ぶぞ。まだ時間あるからゆっくり歩け」

とーちゃんの言葉を聞いても憲太は駆け続け、あっという間に門前にたどり着いた。毎日プールで泳いで憲太の肌は真っ黒に日焼けしている。今日も昼前から出かけていって、もうすぐ4時と言う今になるまで泳いでいたのだ・・・

0

ネコの目日記

12/08/14 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:1432

 病院からの帰り道、依子は縁石に座り込んでしまった。
やっぱりまだまだ自宅まで歩ききることは出来なかった。そうは言っても最近は病院の前からタクシーに乗ることも無く、そもそも病院で点滴を受けなければ帰れないほど疲労困憊しているわけでもない。
 慢性疲労症候群と診断されてから三年、なんとか快方へ向かってはいるらしい。
 とは言っても綿に泥が染み込んでいくような不快な疲労が重く体にのし・・・

0

六輪ピック

12/08/06 コメント:1件 かめかめ 閲覧数:1606

男は手作りのカヌーで南極に渡った。
手製の旗を立て、独立国の宣言をした。

氷を積んだ家に住み、アザラシを獲って食べた。
男は日本生まれだったので、日本の観測基地に出入りし、貴重な労働力として重宝された。
その噂が広がり、アメリカ、ロシア、韓国、各国の観測隊で人手が欲しい時には呼ばれて行った。

各国政府は男の独立宣言を無視していたが、男の地道な広報活動に・・・

0

羊水プール

12/07/31 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1828

愛梨は水に執着する。
飲み水は日に3リットルは飲む。台所、洗面台、洗濯機、風呂場。水音がすれば即座に飛んできて手を伸ばし、水に触れようとする。
目を離せば風呂場やトイレで水を流して触っている。おかげでトイレには外からかけられるよう鍵を取り付けることになった。

愛梨の産みの母が、浴室で溺死したことと関係があるのかもしれない。
彼女は自宅の浴槽に水を張り水底に身を横たえ・・・

0

夏空

12/07/24 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1640

『バッターボックスには石橋。期待の一年生エースです』

久しぶりに見る遼ちゃんはテレビの中、なんだか大きく見えた。
この半年、見ないうちに、ずいぶん背が伸びたんじゃないだろうか。
甲子園のマウンドに立つ。
球児なら誰もが夢見るその姿を、遼ちゃんは手に入れた。
当たり前だ。だって、遼ちゃんだもの。

二軒お隣、二歳年上の遼ちゃんは、小さい頃から私のヒー・・・

1

追善能

12/07/16 コメント:5件 かめかめ 閲覧数:1677

楽屋口から駐車場に出ると門が閉められ警備員が立ち、門の向こうにはぎっしりと無数の人の顔がこちらを向いていた。一体何事だろう、何かあったのだろうか?
「あの、車を出したいんですが」
警備員に話しかけると、彼はビックリして振り向き、かなり大きな声で言った。
「あんたたち、能楽堂の人!?今、車出すのは無理だよ!!花火が終わるまで待って!」
そうか。今日は8月1日。大濠公園花火大会・・・

0

願いごと、ひとつ

12/07/09 コメント:6件 かめかめ 閲覧数:1700

「まいちゃん、またリハビリさぼったって?」
看護師と廊下で顔をあわせた途端、そう声をかけられた。
「手術までに筋力つけておかないと、後がキツイよ?」
「私、手術うけませんから」
舞は視線をそらして答える。
「えっ?なんで?」
「歩ければ十分ですから。今のままで十分」
「でも、手術さえ受ければ…」
「もう、いいんです!」
大声を出した舞自身がビッ・・・

1

うたかた

12/07/03 コメント:9件 かめかめ 閲覧数:1719

中央星系ドーム水族館の目玉は、人魚姫だ。

宇宙中から人魚姫を一目見ようと、大勢の客が押し寄せる。
中央星系のテラフォーミングの過程で、強酸の海でしか生きられない生き物が存在していることが判明したのは、海の中和がほぼ終わった頃だった。
たった一人、岸に打ち上げられた人魚姫だけが保護された。
現在は強化ガラスの中に住む。

青年は中央星系に仕事に来たついでに・・・

0

都市伝説

12/06/30 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1839

哲は「怪談師」をもって自認している。
と言っても、怪談を自作し「これは友達が実際に体験した話なんだけど…」と、人に話すことを趣味としているだけだが。

きっかけは、小学生の頃。
クラスで怪談が流行り、放課後、知っている怪談を語り合った。
毎日そんなことを続けていたので、哲はすぐにネタ切れになってしまった。苦肉の策で、適当にありそうな話をでっちあげた。
反応は上々・・・

0

Tre Memoria 大分の思い出三つ

12/06/25 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:2478

父の幼馴染が脱サラして故郷の宇佐市でうどん屋を始めたと聞き、墓参の折に立ち寄った。
当時、大分自動車道が全線開通したばかりで、それまで半日以上かかっていた道程が地元福岡から二時間でたどり着けることに感動した覚えがある。とは言っても、宇佐は、まだまだ、と言うかとんでもない田舎で、父の実家の半径2キロ以内にある店舗は雑貨屋を兼ねた古い薬局と、パーマ屋だけで飲食店は、たずねたうどん屋、一軒だけだっ・・・

0

ジゴクメグリでオニにあう

12/06/11 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1942

「ほら、マサヒロくん、豆菓子、食べるかい?」
「いらない。ぼく、ソフトクリームがいい」
マサヒロは、ぷいっとそっぽを向く。パパは、去年、とつぜん、マサヒロのパパになった。マサヒロの本当のパパは、マサヒロが生まれる前に死んだそうだ。
「わがまま言わないの!パパにお礼言いなさい!」
ママに叱られて、マサヒロはしぶしぶ手を出し、豆菓子を受け取ると、ポケットにつっこんだ。
「・・・

0

星をみあげる

12/06/01 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1977

もう、二時間。
葉子と並んで、夕焼けで赤く染まった川を眺めている。
黙ったまま、ぼーっとしている。

「恋愛ってさ」

独り言みたいに、葉子がつぶやく。

「恋愛って、お互いを見つめ合うことなんだって。そんでさ」

ぽつり、ぽつりと言葉をつむぎ、また、だまってしまう。
僕は、川を見たまま、聞くとも無く聞いている。

「結・・・

0

黒と白

12/05/28 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2610

しほちゃんは、お昼ごはんのあと、画用紙にクレヨンで、絵をかいていました。
ぽかぽかあたたかい日で、おなかはくちくて、しほちゃんは、うつらうつらすると、ことん、と寝てしまいました。

しほちゃんが、すーすー、寝息を立てているのを確認して、クレヨンたちがニョキニョキっと立ち上がりました。

「あ〜あ。らんぼうに握るから、体が半分で折れちゃったよ」

「私なんか・・・

0

つつみこむように

12/05/14 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:1957

誕生日に何か欲しいものはないか。
と尋ねると、夫は、とんかつ屋で一緒に食事をしたいと言う。

由香は揚げ物が苦手だ。
とくに、天ぷらととんかつは、一口食べただけで胸やけと、頭痛までしてくる。
揚げているニオイだけでも気分が悪くなるので、とんかつが好きな夫には申し訳ないが、揚げ物は外で食べてくれるように頼んでいた。

しかし、年に一度の誕生日だ。
出来・・・

0

京都の和菓子

12/05/05 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2323

(明日は休みだ。今日を乗り越えれば、明日はこのツマラナイ仕事から開放される)
重い足を引きずりながら、オレは心の中でつぶやく。
毎日毎日、ノルマノルマ。
「お前が無能だから売れない!」と罵られ続ける。
毎朝、吐きそうなほどの胃痛と共に出社するコッチの身にもなれってんだ。

毒づきながら、目の前のチャイムを押す。
今時、インターホンじゃない、ただ音が鳴るだけ・・・

0

ON  THE  DISPLAY

12/04/30 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2131

 「京都」と言うパソコンゲームがあった。
 もう、15年は昔の話だ。

当時、まだウィンドウズは今ほど巷間に流布しておらず、パソコンは非常に高価だった。貧乏学生な私がおいそれと買えるものではなく、姉の仕事用のパソコンを借りて遊んだ。

「京都」には、説明書というものが付いていなかった。ゲームの起動方法が、かろうじて、パッケージの裏面に印刷されていただけ。

0

きっと、忘れられない

12/04/17 コメント:2件 かめかめ 閲覧数:2020

(姫の傘だ…!!)



16歳の誕生日プレゼントに貰った傘を見て、心の中で叫んだ。

ほんとは大声で叫びだしたいくらい嬉しかったのだが、そーゆーキャラではないので、心の中でだけ欣喜雀躍としていた。




「姫 100%」と言う少女マンガが大好きだった。
主人公の姫という名前の女の子は、北海道の原野で父親と二人きりで暮らして・・・

0

小雨の日に

12/04/16 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:2113

中学2年の夏から、学校に行けなくなった。


朝起きて家を出るところまでは、何ともないのだが、

バスに乗ろうとすると、ぐぐうっと胸を押されたような圧迫感がして、吐き気がして頭痛がして、家にもどって寝る日々が続いていた。

上手くバスに乗れた日も、乗り換えのバス停で、どうしても次のバスに乗れずに、近くの商業ビルの非常階段で一日座り込んでいることが多か・・・

1

キズ持つワタシ

12/04/04 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2509

私の部屋には、一本の木の棒がある。

長さ160cm、幅15cm、厚さ3cm。

この棒は、もとは弟の部屋にあった。




弟は、私が7歳のときに、突如、あらわれた。

7年間、一人っ子としてあまあまと甘やかされた私にとって、弟は私をおびやかす、
敵だった。

それでも、生まれてからしばらくの間は、私も弟をかわい・・・

0

ゆりかご

12/03/30 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:2839

女一人で、どこの店にも入れるようになって、10年はたつ。
ラーメン屋、バー、居酒屋。
昔は独り呑みなんて考えられなかった。
ところが、独身、彼氏なし、キャリアだけが積みあがるアラフォー女になると、友達は皆、子持ちの主婦。
プライベートの時間まで会社の人間の顔を見たくはない。

必然的に、独りに慣れてしまった。

今日も、始めての居酒屋に、ぶらりと入る・・・

0

12/03/05 コメント:0件 かめかめ 閲覧数:2295

「なんじゃ、こりゃあああああ!!!!」

 歩道橋の上で、私は絶叫した。となりにいる千佳がケタケタと笑い出す。

「ありえん、ありえんよ、何アレ!?何、あの、高さ!?
 摩天楼?これが摩天楼!?スカイスクレイパー!?」

 叫び続ける私と、腹を抱えて笑い続ける千佳を、道行く人は気にもとめず、これまた、ありえん早足で歩き去る。


 東京の・・・

  1. 1
ログイン
アドセンス