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第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】

今回のテーマは【酒】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2018/03/05

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は3作品とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2018/01/01〜2018/01/29
投稿数 77 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数 3
総評 今回もなかなか良い作品が集まったと思います。人間同士のコミュニケーションを円滑にし、人との出会いや別れの場には欠かせない酒の性質が生かされた作品が多かったですが、酒が引き起こす不幸や孤独をテーマにしたものにも説得力がありました。また、内容被りが少なく、コンテスト対策としてそれはとても大切なことだと思いますが、それだけではまだ物足りない部分があって、作者自身の生き方や視点が反映された説得力のある作品をもっと読んでみたいと思います。意外性も大切ですが、それだけでは奇をてらった印象や説得力に欠けるものになりがちです(もちろん人によってその受け止め方は様々であることは承知の上で、述べていますが)。文章が上手くまとまりも良いのに、もう一つ心に響かない作品が散見されるのは、そのあたりのことが一因かもしれません。人の心を掴むためには、常日頃から自分というものを観察したり、様々な方面の本を読んだりして、小説を書くという枠を超え、本来の自分の在り方やモノの見方を再認識、あるいは再構築していくことが、もしかしたら必要なのかもしれません。コンテストの頻度が減ったのを、この際うまく利用していただき、さらに内容の濃い、層の厚いコンテストになることを願っています。 「無重力爺ちゃん」―――独特のユーモア表現とやさしさが詰まったリズムの良い文章が良かったです。はじけたキャラクターの爺ちゃんと孫のユキの掛け合いも楽しく、むねすけさんの良さが生きた作品ですね。 「大晦日の夜」―――老人親子の淡々と過ぎゆく生活は一見侘しくも映りますが、そのゆるりとした時間の流れと、先を見すぎず、今という時に寄り添うかのような生き方は読みすすめるうちに魅力的に思えてきました。 「ルナパークに酔いしれて」―――社会へ出て数年後というのは、迷いが出る時期なのかもしれません。満月の下、過去との再会と未来への希望が交差し、何かが生まれる予感に満ちた情景が印象的でした。 「足の生えたビール瓶」―――足の生えたビール瓶とは酒場が生んだ幻想なのか、あるいは同僚の願いの強さが引き寄せた幸運なのか、それとも路地の奥の酒場が象徴するように精神的な袋小路に入り込んでしまったのか。そのあたりは明確にはされないものの、足がはえたビール瓶を追いかける同僚の、自分の気持ちにあまりにも素直なところはなんだか憎めず、ラストシーンのシュールさも個人的には好みの作品でした。 「溺れた男」―――幽霊の登場に驚きつつも一緒に清酒を飲み、結果的に「浄化」させてしまうというある意味間の抜けた展開がのどかで良かったです。「幽霊というのは、存在も言い分も、道理に反している」などの一文に妙に説得力があり、作品全体を引き締めていると思います。 「レディキラーにご注意を」―――浦野の誠実なキャラクターと二人の世間ずれしていない初々しさが魅力的でした。理性的な態度の裏に垣間見えるやさしさに、女性は惹かれるのかもしれませんね。二人の恋の始まりを予感させるラストシーンが全体をきれいにまとめていると思います。

入賞した作品

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再会

18/01/24 コメント:2件 秋 ひのこ

 8年ぶりに再会した宮下は、記憶にあるよりほんのちょっとオッサン化していた。30なんて感覚としては学生の頃と大差ないが、時は確実に過ぎているらしい。  私が選んだ人気のスペイン料理店。カジュアルだが客単価が若干高めなので落ち着いた雰囲気だ。宮下とこんなお店に入る日がこようとは思わなかった。  サーバーに飲み物を聞かれ、宮下はメニューも開かずに「生」と応じる。  私の胃がきゅっと縮んだ。サーバーは慣・・・

2

月の夜に

18/01/19 コメント:2件 紅茶愛好家

上弦の月が出ていた。 底冷えする寒さのなか、月明かりを頼りにキンと冷えた井戸水で野菜を洗う。木製の勝手口からは客の楽しそうな笑い声が漏れ聞こえてくる。 「光太、来るついでに紅さつきを持ってきてくれないか?」 勝手口が少し空き、店主銀次が声を掛けた。光太は振り向いて首を伸ばし「ハイ!」と返事をした。 光太は野菜と一緒に冷やされていた薩摩焼酎『紅さつき』を水から拾い上げタオルで水滴を拭った。カウンター・・・

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この一杯のために

18/01/16 コメント:1件 若早称平

 子供の頃、私にはお父さんがよく口にする嫌いな言葉があった。仕事から帰宅して晩酌する時に一杯目のビールを美味しそうに飲んで必ずこう言うのだ。 「あぁ、この一杯のために生きてるわー」  それを聞くたびにお父さんは私よりもお酒の方が大事なのかな、などと思って勝手に傷付いていた。我ながら可愛いらしい少女時代だ。それでも時々私が正面の席に座り、ビールをお酌してあげると「由依が注いでくれるビールは格別だな!・・・

3

引火メチル着火アルコホル

18/01/08 コメント:1件 クナリ

 中学二年生になったばかりの岡田マイは、普段から愛想がない。 「お母さんの、キャバクラの仕事って忙しいみたい」 「へえ」  同じ団地に住む、しかし常にそっけない幼馴染みの加藤ケイスケと、昨年からゴーストタウン化したその団地の物陰で話すのが、マイの日曜日の過ごし方だった。  地面に打たれたコンクリートが、何のせいなのか一メートル四方ほどクレーター状に浅くえぐれた場所がある。そこにはよく水が溜まってい・・・

最終選考作品

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無重力爺ちゃん

18/01/29 コメント:6件 むねすけ

――今日占いで寿命をみてもらってきたよ。  爺ちゃんが独り言のように話し始めるのは大事な話を切りだすいつもの癖だ。 ――当たるって評判の占い師なんだ。スターフィッシャーズは今年も最下位だとさ。  スターフィッシャーズが最下位になると爺ちゃん落ち込んで仕事しなくなるからな、当たりませんように。 ――水晶でも手相でもないんだなぁ。髪の毛を一本くれってさ。その占い師。俺の髪の毛どうしたでしょうか? 爺ち・・・

1

大晦日の夜

18/01/28 コメント:2件 秋 ひのこ

 冷えると思ったら、雪が舞い始めている。結露に濡れた窓の向こうに色のない景色を見上げ、ヤスオはコタツから這うように上半身を伸ばし、ヒーターをつけた。  95の母親が隣で小さく丸まってテレビを観ている。耳が悪いのに、音量は小さい。この人は1日中ほとんど動かない。  柱時計を見上げる。午後4時を過ぎたところだ。今年も残すところあとわずか。といっても、65で退職して早や5年。日がな1日家にいるヤスオと、・・・

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ルナパークに酔いしれて

18/01/23 コメント:4件 元町 杏

「言えばよかったって後悔して終わるより、全うしたいじゃない。 だってもう『私』が私として生まれることはないんだから」 今、目を閉じても思い出せる。真っ直ぐに見据えた紗雪の瞳を。 賑やかな路地を抜けた静かなバー。 カウンターの端から2番目の席。そこが俺のお決まりの席。 その右隣に紗雪が座り、紗雪を挟むように修哉が座る。紗雪は決まってルナパークを飲んでいた。 俺はいつもラムコークを。修哉は「ジュー・・・

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足の生えたビール瓶

18/01/22 コメント:1件 吉岡 幸一

「足の生えたビール瓶をつかまえて飲むと結婚できるって知ってるか」  そう聞いてきたのは同じ職場の同僚だった。屋台でおでんを頬張りながら三本目のビール瓶を握って離さない横で、僕は終電を気にしながら付き合っていた。 「ビール瓶に足なんかあるわけないだろう」 「それが夜遅くになると足の生えたビール瓶が繁華街を走っているっていうんだ」 「なんだそりゃ、新しい妖怪か」 「ねえ、大将も聞いたことがあるでしょ。・・・

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溺れた男

18/01/06 コメント:2件 マサフト

さて寝ようの布団に入ったものの、いかんせん寝付けないまま時間が過ぎたせいか、体が硬直してしまった。頑張っても指先すら動かない。これはまさか話に聞く金縛りというやつではないのかと思い、目を開けてみようとすると、不思議と瞼だけは動いた。 暗闇の中目を凝らすと、腹の上にぼんやりとしたものが乗っかっているではないか。腹の上に乗っかっておれの安眠を妨げるとは、不届きなやつだ。失礼じゃないか。えいと腹・・・

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レディキラーにご注意を

18/01/05 コメント:4件 氷室 エヌ

 二十歳になって、初めての飲み会。お酒に詳しくないと言うと、同じサークルの先輩たちが親身になっていくつものカクテルを紹介してくれた。最初に渡されたのは、オレンジ色の美しい液体に満たされたグラスだった。 「これは何ですか? 綺麗な色ですね」 「それはスクリュードライバー。オレンジジュース主体だから飲みやすいと思うよ」 「はあ、では」  一口口に含むが、確かに飲みやすい。フルーティーで、まるでジュース・・・

投稿済みの記事一覧

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追憶

18/01/29 コメント:1件 無銘

ある年の正月の日のことだ。例年通り昔馴染みの奴らと初詣に行った足である人の墓参りに行き、夜な夜な酒を飲みながら談笑していた。
「今日も晴れてたな。」
「こうも毎年晴れてると思い出しちゃうよね。」
カップルの二人がふと呟く。
「玲雄も彩もその辺にしな。もっと悲しい人がそこにいるだろう?なぁ秀。」
酔いどれの女が煽るように振った。
「あまり来ないから瑞稀らの顔を見る・・・

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逢瀬の星酒

18/01/29 コメント:1件 君形チトモ

 陣来はボトルを手に取って、グラスにワインを注ぐ。七日前までただのワインだったはずの中身は漆黒の液体となっており、部屋の明かりでちらちらと小さな光がいくつも瞬いた。この酒は四年前に死んだ恋人だ。正確には、星となった恋人の、欠片を閉じ込めた酒である。
 恋人がデートの帰りに事故で亡くなった時、まだ大学生だった陣来は、同じ大学で知り合った、人生初の恋人と青春を謳歌していた。まさしく青天の霹靂、葬・・・

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宴(うたげ)

18/01/29 コメント:2件 そらの珊瑚

 わぁ、みんな久しぶり。何年ぶりかなあ。中学を卒業してからだから……いやだ、15年ぶり? でも変わらないわね。お世辞じゃないわよ。  リナちゃんも花ちゃんも結婚して子どもも産んだんだってね。おめでとう。田舎は結婚が早いって? そうなの? だったら私も東京なんか行かずにここに残ってたら今頃結婚してたのかなあ。なんてね。そしたら作家なんか因果な商売しないでみんなみたいにのんびり奥様やってたかもね。作家・・・

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スナック 鏡

18/01/29 コメント:2件 nekoneko

 真一にとって、このスナックに入るのは初めての事であったが、実際、いざ入って見ようと思うと何故だか妙に変な躊躇いが生じていた。右手を少し伸ばせばドアノブがある。「ここのドアノブを回すだけでいいんだよな。そうすれば中へ入れるんだ」口元から漏れたのか慰める様な自分の声が耳元に聴こえた。真一が、この店を知ったのは、3日前であった。何時もの通り道、その通りから脇道に入って奥まった所。気にして見なければ簡単・・・

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飲みながら書きました

18/01/29 コメント:0件 志水孝敏

はーい、どうもこんにちは、志水孝敏です。
今日はですね、締切ギリギリと言うかですね、あのー、今月からですね、
こちらの時空モノガタリさんのサイトの方が、月一での賞の開催になったんですね。

それで、自分ちょっと勘違いしてまして、月一回ということは、
「ああ、じゃあ月末までオッケーなのかな?」と思ってたんですが、
そうじゃないと。
いままでと変わらず、四週か・・・

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神様の梅酒を飲んだ日に

18/01/29 コメント:0件 冬垣ひなた

「昼間からお酒って、いいの?」
「孫娘の20歳の誕生日にはと決めていたんだ」
「ありがとう。今年も綺麗に咲いてるね、おじいちゃんの梅の花」

 家の縁側に腰掛ける美華は、祖父の信彦とグラスを傾けた。傍らには、去年漬けた梅酒の瓶が琥珀色の光を帯びながら鎮座していて、「家の中心は我なり」と自己主張しているようだった。
 この片田舎では、梅の木には神様が宿ると信じられている・・・

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Bloody Wine

18/01/29 コメント:0件 みや

ポンというコルクの栓が抜ける心地良い音を聴くのは今夜が三日目だ。マスターが美しい赤色の液体をグラスに注いでくれて、私は味わう事も無くゴクゴクと飲み干しマスターが続いて注いでくれた二杯目も一気に飲み干した。

「アルコールにもだいぶ慣れて来たみたいですね」
「そうですね。このワインの影響かな」
「執筆の方は如何ですか?」
「全く…早く効果が現れてくれると良いのですが」<・・・

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青汁ハイ

18/01/29 コメント:0件 ケイジロウ

「いかがでしょうか」
 健太は眉間にしわを寄せて、口内に入っている液体の正体を暴こうとしていた。少し間を置き、一度頷いてから言った。
「うん、これでいい」
「かしこまりました」
 蝶ネクタイをつけた男はロボットみたいに会釈をした。そして祥子の前に置かれたピカピカのグラスにワインボトルをソムリエ風に傾けた。グラスが少し満たされると、急いでボトルを新体操の選手のようにひねり、ボ・・・

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笑い上戸の泣いた様

18/01/29 コメント:0件 甘宮るい

 今日までの3年間が満足だ、ってお酒に浸された脳みそでも自信を持ってそう言える。小さな私たちのバンドには、多すぎる思い出ができた。ただ、この脳みそでも今日でこの居酒屋に集まってする打ち上げが最後だと思うと、耐え切れない寂しさが襲った。
「笑いながら泣いて、大丈夫かぁみっちゃん」
 ひろまろは、私の肩を叩いてそう言って笑った。ドラムみたいに響く、少し低い音のする引き笑い。
「武田の・・・

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羽化登仙

18/01/29 コメント:1件 OSM

 愛美の父親は、酒を飲み過ぎたせいで死にました。場末の酒場で安酒をたらふく胃に流し込み、したたか酔っ払った帰り道、橋の欄干に上がり、足を滑らせて川に転落し、溺れ死んだのです。
 父親が搬送先の病院で息を引き取ったという知らせを聞いて、愛美の母親は「せいせいした」と呟きましたが、愛美は大泣きしました。父親は酒癖が悪い人でしたが、酒をいくら飲んでも、一人娘にだけは暴力を振るわなかったし、暴言を吐・・・

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酒のカップに咲いた花

18/01/29 コメント:0件 そらの珊瑚

 この仕事を始めてから、冬は天国だと思うようになった。寒いので臭いが幾分マシだからだ。孤独死というワードが世間に広まったのはいつ頃だろうか。俺が小学生の頃にはなかった気がする。昔も孤独死はあったのだろうが、社会問題化するほど数が少なかったのかもしれない。今のままでいけば自分が死んだら絶対に孤独死だろうから、死ぬとしたら冬がいいな。後片付けをする人にかける迷惑を少しだけ軽く出来そうだから。死。それは・・・

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お酒のちから

18/01/29 コメント:0件 宮下 倖

 お酒ってすごいな。
 ダイニングテーブルに突っ伏して小さくいびきをかいている母を見て私はため息をついた。ビールやチューハイの空缶が今日も散乱している。まるで何かの墓標のようだ。
 お酒ってこわいな。人をここまで変えてしまうんだから。
 私は成人してもお酒なんて飲まない。絶対にだ。
 結局、今日の三者面談にも母は来なかった。自分の娘が来年大学受験だってわかっているのだろうか・・・

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たゆたう

18/01/29 コメント:1件 淳子


ゆらりゆらりと水面を揺蕩うのは、それぞれの思い出。
酒場にいくと、それぞれが必ずその揺蕩いを見つめる。
人々はその水面から好き勝手なことを思い出すのだ。学校のプール、幼いころ家族で行った海。

その時、酒は世界を映す鏡になる。

昨日みた近所の公園の水たまりから、ドバイで見た噴水まで様々なものをうつしだし。姿を変える。

水たまり、噴水、海、・・・

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名刺くばり

18/01/29 コメント:0件 霜月秋介

 喫茶店を始めた。喫茶店とは言っても、コーヒーや紅茶やスイーツを提供するばかりではなく、漫画も読めるしカラオケも出来る。うたごえ喫茶、もといカラオケ漫画喫茶と言ってもいいだろう。しかし店を始めたばかりだからなのか、客足はいまいちだ。SNSを利用してはいるが、『いいね』の数がなかなか増えない。バイトを二人雇っているが、このままではバイト代も払えなくなってしまう。
 そこで俺は思いきって、地元の・・・

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飲まない男

18/01/28 コメント:0件 野々小花

 聡志がアルコール依存症になったのは、就職して二年目の秋だった。残業で眠れない日々が続いていた。一人暮らしのアパートで、中毒症状を起こして意識を失っていたところを運よく管理人に発見され、専門の医療機関で治療を受けることになった。
 会社は辞めざるを得なかった。入院生活が続き、恋人や多くの友人達が聡志の元から離れて行った。自分は何もかも失ったと思った。それでも、いくつかの治療ステップを経て外来・・・

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笑い酒

18/01/28 コメント:0件 小高まあな

「結婚することになったの」
 彼女から珍しい飲みのお誘いだと思ったら、用件がとんでもない地雷のご報告だった。
「えー、まじでー、三島おめでとー!」
 表面上はへらへら笑いながら、手を叩く。
「ありがとう」
 嬉しそうに彼女は笑う。ああ、こんないい笑顔、初めて見たかもしれない。
 彼女に恋人ができたのは知っていた。だから最近、あたしとはあんまり遊んでくれなくなった・・・

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その血が酒の味ならば

18/01/28 コメント:2件 待井小雨

 俊也は「蓮村」と表札の出ているドアのチャイムを押した。欠席の続いている男子生徒にプリントを渡すよう、担任に頼まれたのだ。
 俊也は窓際で佇む蓮村の横顔を思い出す。言葉を交わしはするが多く話したこともない。蓮村と自分は、違うジャンルの人間だと思っていた。
 ドアを開けたのは親ではなく欠席した本人だった。
「柏木?」
 蓮村は具合の悪そうな様子もなく俊也の名を呼ぶ。
「・・・

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《ジャック・ター》

18/01/28 コメント:0件 リアルコバ

「いらっしゃいませ」
「・・・」
いつもの笑みを持たない彼女がカウンターに座った。
「何にいたしましょうか」
「・・・」 
「イタリアのいいワインも入ってます・・・」
ワイン好きな彼女だから喰いいてくると思ったのだが、今日はご機嫌斜めのようだ。
私が間を於こうとグラスを手に取ったその時
「マスター、ジャクターって知ってる?」
「カクテルですか、・・・

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雪に願いを

18/01/28 コメント:0件 待井小雨

 空から雪が降り始めた。
 ふと漂ってきた香りに、翔太はきんと冷えた外に出た。馴染みのある、よく知っている香りだ。仰向いて口を開き、雪を舌先に乗せる。
「……これ、お酒だ」
 両手を広げて雪を浴びる。その時、待ってー、と声が聞こえた。しんとした雪の日に不似合いな、慌てた様子の声だった。
「ちょっと待って!」
 声の主は小さな雲に乗り、雪に紛れて降りてきた。翔太は目を丸・・・

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発酵

18/01/28 コメント:0件 セレビシエ

酔っ払いが歩いている。
22時過ぎの、明るくなり出した街を、ふらふらと覚束無い足取りで。
酩酊状態。
彼の今の状態を表すのにぴったりの熟語だった。
僕はそれを2階の自室の窓から眺めていた。
彼はサラリーマンみたいだった。スーツを着ていて、まだ若い、30代くらいの、背が高く、髪は黒くボサボサだった。
勉強をしながらこうして窓の外を覗いてみると、酔っ払いが歩いていく・・・

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月夜に猫の酒を飲む

18/01/28 コメント:2件 待井小雨

 ほろ酔い気分で空を見上げた夜、猫が月に向かって翔けるのを見た。
 幻覚かと瞳をこすって再び見てみれば、そこに先ほどの猫の姿はない。
「何だ、見間違いか」
 息を吐くと、「いいえ」と間近で声がした。
「見間違いではありませんよ。あなたが見たのは私です」
 わたし、ではなくわたくし、と金の瞳をきらめかせて灰色の猫が言う。
「人間に見られてしまうなんて」
 猫・・・

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酔っ払い探偵

18/01/28 コメント:0件 林一

お酒を飲めば飲むほど推理力が冴えわたるという特異体質を持つ彼は、酔っ払い探偵として数々の事件を解決してきた。
 酔っ払い探偵の知名度はどんどん上がっていき、難しい事件の依頼が次々と舞い込むようになった。
 難しい事件になればなるほど大量のお酒を飲まなくてはならないため、酔っ払い探偵はお酒の飲み過ぎにより体を壊しがちになった。
 酔っ払い探偵の妻は、そんな夫を心配し、何度も探偵・・・

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酒浸りの人生

18/01/28 コメント:0件 林一

 日雇労働を終えると、その日の稼ぎを握りしめ、最寄りの酒屋へと向かう。そこで買えるだけの酒を買うと、ボロアパートでひたすら飲み明かす。酒を全て飲み終えると、また日雇労働をする。これが俺の日常だ。
 世間的には、いい年して定職にも就いていない、結婚もしていない、彼女すらいない俺は、負け組と言われるのだろう。だが、俺は今の生活に十分満足している。定職に就いていなかろうが、彼女や奥さんがいなかろう・・・

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世界一うまい酒

18/01/28 コメント:1件 葉月三十


 ある日A氏は秘書ロボットに命令した。
「世界一うまい酒を用意してくれ」
 女の形をした秘書ロボットは数秒の間のあと、
「かしこまりました。一週間後の金曜日の夜にご用意します」
 
 それから一週間、A氏は世界一うまい酒を楽しみに毎日の仕事に勤しんだ。A氏の傍らで秘書ロボットが方々に電話をしたり、ネットワークを繋げてなにかを調べたりしていることが、A氏の励みに・・・

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二日酔いの日

18/01/27 コメント:0件 マサキ

頭が痛い、気持ち悪い。ちょっと一杯のつもりで飲んで、はしご酒。まるでスーダラ節だ。昨日は会社の飲み会があったが、二次会、三次会まで行ったのが間違いだった。
呑んでいる時は気分は良いのだが、一晩経つと最低な気分になる。こんな感じになるのなら、毎回飲むのを止めようと思うができない。なんとか家には帰ってこれたが、飲んでいた途中の記憶がない。まあいい、帰って来れたのだから。
それにしても頭が痛・・・

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ハートカクテル-疲れたあなたに寄り添うBar-

18/01/27 コメント:0件 黒猫千鶴

「いらっしゃいませ」
 仕事帰り。何も考えずに足を運んだバーの扉を開けると、カウンターの中に一人の女性バーテンダーが立っていた。彼女は業務的な挨拶を済ませると、すぐに手元のシェーカーに視線を落とす。布巾で磨かれた銀の器は、照明の光を反射させた。
 店内を見回すと、僕以外の客は誰もいない。いわゆる貸し切り状態だ。
 カウンター席は五つ、テーブル席が三つとこじんまりしてる。でも、そこ・・・

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“すまーと”なる鬼退治

18/01/26 コメント:0件 田中二三○

 今回、童子様が欲されたのはとおい飛騨の地で愛飲されているらしい日本酒であった。
 いかな酒にお詳しい童子様も、この地よりまるで空に達さんほど遠い地である飛騨のことは知らぬご様子であり、その欲されておられる酒のこともよくご存じではないご様子。
 だが、呑みたい。
 そう仰せつかれば、童子様の一番の子分たるこの浦はたとえ火の中水の中、喜んで身を投じようというもの。直ぐさま飛んでいく・・・

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牛肉のビール煮

18/01/26 コメント:0件 エア

 それは仕事終わりが近付きつつあった日の事だった。
 ウチの会社にやって来た顧客がお歳暮に缶ビールのギフトをくれたのだ。
 しかも、缶には光り輝く金が豪華に施されていたことから、所謂プレミアムと呼ばれるものであることは分かった。
「お前も、どうだ」
 上司がそう言いながら、缶ビールを僕に渡したが、生憎僕はお酒が飲めない。かといって、せっかくのご厚意を無駄にする訳にもいかない・・・

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寂しい男の代表

18/01/26 コメント:0件 吉岡 幸一

 朝、目覚めると高級ホテルの一室にいた。昨夜も飲み過ぎたせいか頭が鐘をつかれたように鳴ってまぶたも重たかった。
 隣には見知らぬ女が裸で寝ている。二十歳くらいでモデルのように美しい。念のため心臓に耳をあててみると動いていない。
 テレビドラマではよくあるお決まりの場面だ。この後は身に覚えのない男は慌てて部屋を出てエレベーターに乗って逃げていく。エレベーターの監視カメラにはばっちり写って・・・

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下克上

18/01/26 コメント:0件 笹岡 拓也

「お前はいつもいつもダメなんだ!そんなだから契約もロクに取ってこれないんだぞ!」
俺は部長にいつも怒られている。もう慣れてはいるものの、四六時中怒られていると気が滅入ることがある。
「まぁ気にするなよ」
同期は俺の哀れな姿に同情し、優しい声を掛けてくれる。しかしその優しい声がまたダメな奴だと言われている気がしてならなかった。

ただ今日の仕事が終われば、俺の人生に光が・・・

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カラフル・カクテルRev3

18/01/26 コメント:1件 j d sh n g y

西野彩は静かなバーで女友達の村治咲が来るのを待っていた。肩まで伸びた艶やかな黒髪と鮮やかな口紅が仄かな照明で光っている。
客席をぼんやり眺めると、色とりどりのカクテルが存在感を示していた。
「おまたせ」
いつの間にか村治咲が西野彩の席まで来ていた。
「びっくりしたー…いつ来たの?」
「ついさっきだよ」
「ぜんぜん気づかなかった」
あいかわらずだね、と席に座・・・

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アルコールランプ

18/01/26 コメント:1件 浅間

 私は無意識に、いつもの赤提灯に入った。さながら、光に群がる虫のようだ。この時間に明かりがついているのは、この辺ではカラオケ店か居酒屋くらいだろう。そこに集る虫たち。黒いスーツだから、カブトムシかクワガタか。いや、飲食店に来るのだからゴキブリだろう。なんて、馬鹿馬鹿しい。
 そう思いながら、カウンターの一番端の席に座り、焼酎を頼んだところだった。
「お隣、いいですかねぇ?」
 話・・・

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今はただゆるゆるとほどける。そして、飛ぶ。

18/01/25 コメント:0件 向本果乃子

プルリングを開けて缶のまま口をつけ、ほんのり甘く炭酸を含んだそのアルコール飲料を喉から胃に流し込む。はぁ。体に染みわたるアルコールに力んでいた節々が緩む。噛み締めていた奥歯、こめかみ、首筋、肩、背中、腰。一日張り詰めていた筋肉がゆっくりとほぐれてゆく。もちろん、実際の筋肉はアルコールでほぐれたりはしない。だからそれは私の心が緩んで、結果として体に入っていた力が抜けているだけのことだ。お酒を飲まない・・・

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グラスの音に

18/01/25 コメント:0件 葉月三十

 1月20日。
 今日がなんの日かと訊かれたら、これだと答えられる人間は俺の身内ですらきっと少数だ。
 1月20日、今日は俺の誕生日。ただそれだけ。だがただの誕生日ではない、二十歳の誕生日だ。法律上は、今日から酒やタバコが許される、未成年から成人へと移る節目の歳だ。
 しかしだからといって今日が特別な日になるわけもなく、淡々と、ただいつも通りに一日は過ぎていく。何の変哲もない、金・・・

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甘酒日和

18/01/24 コメント:0件 れいぃ

 鉄格子の向こうに黒い頭が見えている。
 少女は一睡もしていない瞳でとろんと窓のほうを見上げ、天に近い場所からのぞきこんでいる生き物をじっと見た。
「なんだ、カラスか」
 前から見るとわりと間の抜けた顔をしていて可愛い。
 カアとひと声鳴いたのを「なにやってるんだ」と翻訳して、少女は顎を上げて答えた。
「ぶちこまれたんだよ、見りゃ分かんだろ」
 ふうとため息をつ・・・

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パオパオ

18/01/24 コメント:2件 トモコとマリコ

 休園日の動物園の象舎を点検しに行くと、象がパオパオ笑いながら踊り回っていた。やめろと言っても聞こえていないようだったので、持っていた竹箒で頭を引っぱたいて無理矢理黙らせた。
 後で他の飼育員に聞いたら、象の中の奴ら、休園日だからって朝から酒を呑んでいたらしい。・・・

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魂酒 ─〈想い酒〉─

18/01/24 コメント:1件 のあみっと二等兵


杯と白い陶器の瓶を抱えて、縁側から空を見上げる。

月は出ていない代わりに、音も立てずに降りてくる雪が、白く染まった庭を、いつもよりも明るくしていた。


「それはそれは丁寧に丁寧に、噛んでらっしゃいましたよ」

近くの神社で巫女が差し出したモノを受け取って来た。この酒は、君が、〈君自身〉を入れたモノだと聞いた。
三年経ったら、俺に渡して欲し・・・

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ビールの味は苦く、遠く。

18/01/22 コメント:1件 のあみっと二等兵


私の父の話をしよう。
父はとにかく呑むのが好きで、それは体臭がアルコールの匂いがするくらいだった。

私が中学二年の時、末期癌だと解って。
「あと3ヶ月でしょうか」
そう言われたと、母は私と兄を集めて、泣いて告げた。
私はまだ子供だったからか、すぐには受け入れられずにいて。
だって、つい最近まで仕事に行く父の背中を見送り。帰ってきたらとりあえず瓶ビ・・・

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旋回するおじさん

18/01/21 コメント:2件 つつい つつ

 太陽が顔を出し空が薄っすらと明るくなり始める頃、カウルゥおじさんはグアゥグアゥと鳴き喚きながら空を不安定によれよれと旋回し出す。時々バランスを崩すと、つまずいたように急降下するから、そのまま落ちてしまわないかと心配になる。
 私はうんざりした表情でおじさんを見上げる。
「毎朝、毎朝、よくこんなに酔っぱらえるものね」
 おじさんの妹であるママは「ほんと困ったものね」なんてにこにこ・・・

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○酒

18/01/21 コメント:2件 アシタバ

 ふと、男は何かに呼ばれた気がした。
 男は出張先で泊まったホテルを抜け出し、酒でも一杯ひっかけようと夜の街を彷徨っていたのだが、この辺は宵の口でもシャッターを固く閉じた店ばかりで探すのをあきらめかけていたところだった。
 そんな時、ネクタイを外したワイシャツの襟元に、生暖かいそよ風を感じた。
 そよ風には何故だか甘ったるい芳醇な香りが混ざっていて、それが鼻をくすぐると、あたかも・・・

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禁酒法よ、永遠なれ

18/01/21 コメント:2件 本宮晃樹

「なあお前」イライジャ・K・シャピロ氏はワイングラス片手に長々とため息をついた。「どうも最近、こいつからばかに魅力がなくなった。そう思わんかね」
「そうねえ」連れ合いのミズ・マクリーン・K・シャピロも同意見らしい。つまらなさそうにボトルからワインを注いで、たゆたう液体を眺めるばかり。「そうかもしれませんね」
「ルーズベルトは早まったと思うよ、わしは」
「国家禁酒法修正案にサインし・・・

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酒酔憐憫

18/01/20 コメント:3件 伊川 佑介

ボォォ、とエアコンの鈍い音が響いている。目の前の白衣の女はうんざりした表情で眼鏡越しに僕のことを睨んでいる。この女は何歳だろう。もしかすると五十以上だろうか。昔は美人であった面影のある顔で睨まれて、僕は申し訳なさそうに視線を落とした。
「荻野さんご自身の問題なんですよ」
生殖行為という側面だけを考えると、全ての男の欲求は若い女にだけ向けられるはずだ。けれど今なぜか、目の前の女の目尻のシ・・・

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じぃじの葬式

18/01/19 コメント:1件 笹岡 拓也

みんなじぃじの葬式を早く終わらせたくて仕方ない顔をしている。パパもママもおじさんもおばさんも、遠い親戚の人もみんな葬式が終わることを今かと待ちわびている。
「キヨヒコさんと過ごした日々を思い出してあげることが大事です」
お坊さんがお経を唱えたあと、私たちに有難い話をしてくれる。昔はお坊さんの話なんて聞いてられないと思ってたけど、今聞いてみると素晴らしいことを言っていたんだと感じる。

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サイドカー

18/01/18 コメント:1件 かわ珠

 酒の力は、魔法のようなものだ。
 人の気持ちを大きく動かす。
「僕、今日こそはあの子に告白しようと思うんです」
 と、カウンターに座る彼は私に報告して、手元に置かれたジンベースのカクテルを一気に飲み干す。
 バーで働く私はこんな光景を何度も見たことがある。
 酒の力を借りて、意中の相手に告白を試みる。
 気持ちはわからないでもない。
 告白するというのに・・・

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夏の酔い

18/01/16 コメント:1件 ぜな

 シャツにスーツのズボンってこの暑い夏を凌ぐのには適していない。だけど仕事上この格好が勝負服なので脱ぐわけにはいかない。
 暑さでだるく重くなった体を引きずりながら、会社に戻る。さあっと体に吹き抜ける冷たい風が気持ちいい。冷房の涼しさを体全体で感じていると、同僚の渡がこっちに近づいてきた。

「よ!錫谷、今日飲みに行かね?」
「……そうだな、きつい仕事には焼酎一杯に限る」<・・・

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プルタブで切れた命綱

18/01/16 コメント:0件 入江弥彦

酒を飲もうと言い出したのは、元気だけが取り柄のカイトだった。
コンビニ袋の中にはチューハイが三本。ちょうど人数分だ。真面目で気の弱いシュウヤが反対するものかと思っていたが、彼は何も言わなかった。それどころか、調子に乗ったカイトに肩を組まれて、嬉しそうにはにかんでいる。
「もちろんカズオも飲むだろ?」
「ああ」
疑問形のように見えて、カイトのそれが命令だというのは長年の付き合・・・

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人の役に立つ幽体離脱は酒匂う

18/01/16 コメント:0件 吉岡 幸一

 一升瓶三本分の酒を熱い湯の入った浴槽に混ぜ、三十分ほど浸かっていると幽体離脱できることを知ったのはつい最近のことだ。
 幽体離脱とは生きたままで魂だけが肉体から出てしまう現象のことだ。死後の世界などを取り扱ったテレビ番組ではよく聞かれる言葉だが、生死を彷徨っているわけでもない僕が、こんなにも簡単に幽体離脱ができるなんてNHKが知ったなら全国ニュースで取り上げてくれるに違いない。
 だ・・・

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上条家の丙午の嫁

18/01/13 コメント:0件 斎藤緋七(さいとうひな)

玄関のチャイムが鳴る。 「またか。」 十三日トミカは台所で飲んでいたビールを慌てて隠す。 昼間から、ビールなんか飲んでるところを親戚連中に見つかったら、何を言われるか分からない。 「十三日さん?いないの?」 姑・繁の声だ。 「いますー。」 「なんだ、いるんじゃない。」 繁、登場である。 また、鍵を開けて勝手に入ってきている。 ここは「息子の家」だと言う事を夫の和喜側の親戚はまるで分っていない。 「・・・

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カナシイ サケ

18/01/12 コメント:0件 斎藤緋七(さいとうひな)

 「あの子が人妻?うそだろう!」  長吉芳樹40は驚いた。  「年、25だって。」  情報を仕入れてきた鈴木は言う。  「25で人妻、子供はまだらしいよ。」 『あの子』とは最近アルバイトで入ってきた女性職員の夏生の事だ。夏生は小柄で眼が大きく胸も大きいのが目立つ。素肌が綺麗ですっぴんでも美しく、顔が小さくて、足が細い。幸運な事に、配属されたのは芳樹のナナメ前の席である。そしてあろうことか、芳樹は人・・・

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お酒の力

18/01/12 コメント:0件 ひらい

思わず強く目を閉じて吐息をもらしてしまった。
建物の中にある浴場から出てきて、一瞬にしてすっかり冷えてしまった体には露天風呂は天国のように思えた。
降り続く雪によって少し熱く感じる程度になった温泉は、体の奥にゆっくりと沁みていく。
押せば倒れてしまいそうな竹づくりの柵に囲まれた露天風呂には、他にもう一人初老の男性が入浴しているだけだった。
湯気がひっきりなしに立ち上っている・・・

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一人でカクテルを飲む理由

18/01/11 コメント:2件 小峰綾子

あの日は終電まで働いてふらふらしながら家路に向かっていた。疲れてはいるものの、煮詰まった頭の中をすっきりさせたいし、誰かと話をしたい気分でもあった。ブラブラと歩いていると、平屋建ての、日本家屋を改装した感じのバーが視界に入る。
雰囲気は良さそうだし、ちょっと一杯飲むだけだし、一度一人でバーに行くのも良いなと前から思ってはいたところだ。建物横の駐車スペースにはminiとライトバンが停まっている・・・

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ふつかよい

18/01/10 コメント:0件 羽海 灯

久々に暖かくなった日曜日。
俺は何とも言えない頭の痛さと、内臓がひっくり返るようなムカつきを抱えたまま、ベッドの上で呻いていた。
カーテンの隙間から、朝日にしては明るすぎる光が飛びこんでくる。
無遠慮な光が瞼の裏でチカチカとやかましい。
本来なら感じる筈のない眩しさは、頭と足を逆向きに寝ていたせいだ。
せめてきっちりカーテンを閉めるか、ちゃんと枕に向けて倒れ込めと、昨・・・

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立つ鳥跡を濁さず

18/01/09 コメント:1件 sandie

 夕方、始発駅で停車中の車内。
 座席はちょうど人で埋まった程度の混み具合だった。

 座れたことに安堵しつつ、中吊り広告など見上げてぼーっとしていると、車両連結部のドアが開いて、一人の小柄な年配の男性(推定65〜75歳)が入って来た。
 ドカジャンというのだろうか。作業服の上から防寒のアウターを着込んでおり、赤らんだ顔、手ぶらのようすでポケットに手を突っ込みふらりふらりと・・・

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怪物に変身できる洋酒

18/01/08 コメント:0件 とむなお

あるクリスマスの夜――僕は、残響を終えて、マンションに帰宅途中、近くの公園で奇妙な洋酒を入手した。
ラベルに――G――の文字しかなく、少し怖かったが、クリスマスの奇跡を信じて、夕食後、グラスにそそぎ飲んでみた。
味はワインぽく、なかなか美味で、僕はウキウキした気分になった。
「久し振りに、クリスマスっぽい夜だな……」
一気に飲んでしまうのは、もったいない――と思った僕は、残・・・

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ストレス発散には晩酌と幽霊

18/01/07 コメント:0件 チャンドラ

 俺の名前は北口祐介(きたぐちゆうすけ)。都内のIT企業で働いており、今年で28歳で、メガネをかけたいかにもサラリーマン風の容貌をしている。
 最近、俺がはまっているものが一つある。
 ――それは、晩酌だ。俺は、仕事終わり一人暮らし用の部屋で酒を飲むのに最近ハマっている。

 仕事というのはつくづくストレスが溜まるもんだ。
 嫌な上司、無茶な要求をしてくるクライアント・・・

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夫婦の戦い

18/01/07 コメント:0件 バビロン

 冷蔵庫のビールが切れている。最近夫の辰己は仕事から帰ってくるなりすぐに就寝するため会話もめっきり減ってしまった。あまり飲まなくなったのはいいけれど、こうも機械的になると自分が退屈で飲んだくれてしまっている。
 ジャケットを羽織ってバイクにまたがった。コンビニに駐車したところで、周囲から妙に視線を感じた。女性のバイク乗りは珍しいからよくあることだが。
 六本入りの缶ビールとおつまみを購・・・

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17階の窓からきた彼女

18/01/07 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 地上17階の窓際に座り、はるか眼下の景色をながめながら、ちびちびと酒をのむのもまんざらではない。高所だと、人間の姿にわずらわされることがないのがなによりだった
 朝からのみはじめたボトルも、そろそろ半分ほどになったころ、酒は極力控えるようにとの医者の言葉が蘇り、ボトルに蓋をしかけたそのとき、誰かが窓をこづいた。
 まえにいちど、鳥がぶつかったことがあったので、こんどもそれかと窓をみた・・・

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私とお酒のこと

18/01/06 コメント:0件 浅月庵

 高校を卒業して、そのままとある不動産会社の事務員になるけど、未成年とはいえお酒の席はつきもので、新入社員歓迎会で上司にアルコールを勧められる。少人数の小さな会社? アットホームな職場?にかこつけて、無礼講と叫びながら、やってることは犯罪だ。未成年の飲酒に対し、より一層厳しくなったこのご時世で、よくもまぁヘラヘラと「おら、ビール飲め」なんて言えるもんだ。

「高野さん、飲まなくていいよ・・・

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これは私の片想い

18/01/05 コメント:0件 Motoki

 朝食の用意をしていると、背後で起き上がる気配がする。
 振り返れば、彼は二日酔いの頭痛に顔を顰めながら、眉間に皺を寄せてこちらを見遣っていた。
「すまない…」
「いえいえ。何を仰いますやら、先生」
 少しの悪戯を含んで言えば、幼馴染の近藤健一は「ハーッ」とこの世の終わりのような絶望さで溜め息を吐く。
「僕は昨晩、君に絡んだりしなかったかな?」
 お酒で記憶を失・・・

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ブランデーが織りなす夢

18/01/05 コメント:2件 W・アーム・スープレックス

 ミジンコのはいったガラス容器に目をやりながら、悠然とブランデーグラスをかたむけるときが、麟三の至福のときといえた。
 IT関係の仕事にあけくれ、まる一日人と一度も顔をあわすことなくパソコンにむかって過ごすのが常態となっている彼にとっては、ミジンコといえども血の通った生き物で、家にかえって部屋にひとり、机にならべた容器のなかにこまかくうごめく微小生物に、そこはかとない愛情を覚えたとしても誰が・・・

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酒では酔っても酔わされない

18/01/05 コメント:0件 桜野

酒は飲んでも飲まれるなという言葉があるが、誰だって酔わなきゃやっていられない時もある。

「お客さん、そろそろ止した方のが……」
「いーや!今日は朝まで飲むの〜」

失恋したばかりの女に効くのは、今はお酒しかないのだから。

バーのマスターはため息をつき、どうしたものかと困り果てていると、扉が開く音が店内に響く。

「マスター、カクテルお願いで・・・

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最古の酒、とほぼ同じもの

18/01/03 コメント:0件 TWWT

「殿下、籠城していた連中から降伏したいと使者が」
「うむ、通すが良い。待ちかねたぞ」
 目前の城から様々な物資を、調達した牛車や馬車たちが運び出すのを見ながら、満足気に頷いた。実際彼は嬉しかった。一年にも及ぶ攻城戦の末、ようやく立てこもる相手の心をへし折ることができた。半ば無断で兵を出した結果ではあるが、これで兄王たちとの後継者争いでも一つ優位に立てるはずだ。
「殿下、参られまし・・・

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世界禁酒計画

18/01/03 コメント:0件 TWWT

 某国某所、世界中の権力者たちが一堂に会する集まりが催されていた。もっとも、彼らの正体は世間には知られていないが、その実力は絶大で、各国の大統領すら彼らにしてみれば、即座に交代できる看板のようなものに過ぎない。そんな怖いものなどない権力者たちは、皆一様に疲れ切っていた。
「分かった。やむを得んな。世界の一般市民に関しては、酒を飲ませることは止めるという方針を進めていく。結局酒席や酔漢がいなく・・・

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美酒と愛執

18/01/03 コメント:0件 蒼樹里緒

 日の昇らぬ常闇の世では、酒呑みの刻限も無きに等しい。
 木の匂いに囲まれた小さな居間には、仄かに甘い香りも漂っている。
 座布団に正座し、娘はぷはぁ、と満足気な息を吐いた。両の手に包んだ湯呑茶碗には、白く濁った液体が揺れている。
「今宵の甘酒もなかなかに良い出来ではござりませぬか、あるじ様?」
「うむ。また一段と腕を上げたのう」
 開かれたままの障子戸の向こうで、老・・・

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一升瓶

18/01/02 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 仕事帰りに、たちよった居酒屋で、ビールをのみながら三つ四つ料理を食べるのがぼくのいつもの夕食だった。
 ビールは一本しか頼まない。もっとのみたい気持ちがあっても、追加注文はしないことにきめていた。両親とも酒が好きで、酒のうえの醜態を、子供のころなんども目にしていたぼくは、じぶんだけは酒にのまれないようにと肝に銘じていた。
 酔った勢いで日ごろのうっ憤をぶっつけあう父と母、ときには物が・・・

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あともどりはできまへん

18/01/01 コメント:0件 井川林檎

 ここはどこだ。
 
 うちの中ではない。草むらの上で大の字で寝ていたらしい。
 はっと目を開いたら、見知らぬ犬覗き込んでいた。くうん。

 抜けるような青空に、純白の雲が流れてゆく。もさもさの茶色い雑種犬は、心細そうに耳を垂れていた。

 起き上がると頭が痛い。二日酔いである。
 そうだわたしは昨晩、適当な居酒屋に入って、しこたま飲んだのだ。一度も・・・

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酒場

18/01/01 コメント:0件 風宮 雅俊

 仕事帰りに、新しい店を探す。趣味の無い私の唯一の楽しみだ。
 なぜ、新しい店を探すのか。それは、演奏家の違いで曲の良さの引き出し方が違う。と言うイメージだ。出張先でふらりと入った酒場でそんな出会いをして以来、路地裏を彷徨っている。
 以前通った時には見なかった店が開いていた。名前は『酒場』なんともストレートなネーミングだ。

 薄暗い店内、広がる酒の匂い。様々な酒の匂いが・・・

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