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第136回 時空モノガタリ文学賞 【 音楽 】

今回のテーマは【音楽】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2017/07/17

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は2〜3作品程度とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2017/05/22〜2017/06/19
投稿数 94 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数
総評 充実した作品が多く集まったと思います。もっと感覚的な作品に偏るかと思いましたが、しっかり構成された作品が多く読みがいがありました。「クラシック音楽」というテーマと比べてかなり書きやすかったのではないかなと思います。最終選考の『この曲は永遠に輝き続ける』は、記憶を失いつつある作曲家の視点で恋人(?)が彼の未完成の曲を完成させる過程が目撃され、朧げな状況が最後に明らかになっていく構成が印象的でした。『ラブソング』は、テンポがよく読みやすいですね。ラブソング嫌いのバンドメンバー二人を引き合わせ、それを作らせてしまう手際の鮮やかさと、ラストのほろ苦さが魅力的でした。『ホロホロ鳥の歌』は両親の幻影としての鳥を通して、大切な人を亡くした悲しみがひしひしと伝わってきました。「ホロホロ」という語感が直接的に胸に響きました。『音楽は騒音だと思う。まず何から語ればいいか分からないがとりあえず語ろう』は音楽の有害性を説く主人公のセリフが、なかなか的を得ているのではないかと思います。しかし結局主人公自身も無意識にリズムを刻んでいたのはなんとも皮肉で、人間の音楽への衝動の根深さを感じます。 『Background music』は「社会的な違い」を超える「あの人」へのひたむきな感情と、彼を待つひとときの空気感が爽やかでした。『妖怪ババアに捧ぐ』は祖母と孫、口が悪いながらもどこかで通じ合う二人の関係性が魅力的でした。『音楽は、人の心を動かさない』は、10代らしい甘い夢を見るマコトが身近にいそうな感じで、彼を突き放して冷静に見つめる主人公との対比が印象的でした。『夫の鼻歌』は夫の鼻歌から、音楽検索アプリを通して彼の裏切りを知る仕掛けがうまいなあと思いました。しっかり構成されて読みやすいところも良いですね。『音楽の魔法にかかった友人』は音階だけで会話が成立してしまうラーメン屋の舞台設定と二人の掛け合いがとてもうまいと思います。訳の分からない魔法にかかった友人、それに対し真面目に対処する主人公、二人のやりとりがなんともユーモラスで笑ってしまいました。次回も期待しています。

入賞した作品

3

スティーラー卒業試験

17/06/11 コメント:4件 むねすけ

 地下室のミーティングがおひらきになって、僕らはそれぞれのねぐらに戻る。
「トゥイン、戻らないのか?」
 僕は部屋に戻る前に、一度中庭に出て、空を見たかったんだ。
「あぁ、ちょっと中庭に出てからにするよ」
 父さんの分厚い体から語られた、卒業試験の内容と、クリアした先の僕らの拓かれた未来に、みんなはすっかり中てられてしまって、ちょっとついてけないんだよ。
「先に戻って・・・

6

そんなに優しくしなくていいよ、泣くのはそれほど好きじゃないから

17/05/27 コメント:5件 クナリ

 八階建てのビルの屋上のへりは、風が強く、柵の外側に腰かけた少年と少女は、頼りなく空中に投げ出した足を揺らした。
 夏の夕方はまだ明るいが、路地裏に向いた一角であるため、地上からはまだ見つかっていない。
 二人は同じ中学の同学年で、背格好もほとんど変わらない。それぞれの制服姿でなければ、同性に見えたかもしれない。
「もう何十度か体を前に傾ければ、死んじゃうのね」
 少女は眼・・・

3

開演

17/05/22 コメント:2件 風宮 雅俊

「お先に失礼します」
 階段を軽快に踏み鳴らして降りると、タイムカードに打刻する。そのままの勢いでエントランスまで行くと、ワンテンポ遅れて自動ドアのモーターが唸り音を上げ半分ほど開けた隙間をすり抜け雑踏の中に飛び込んだ。
 そう、今日は金曜日だ。今日の為に一週間がある。金曜日だけは一番に帰る僕の事に同僚は興味があるみたいだけど、それは内緒だ。でも一度だけ答えた事がある、コンサートに行く・・・

最終選考作品

1

この曲は永遠に輝き続ける

17/06/18 コメント:2件 山野薫

 重い瞼を持ち上げると真っ白な天井が視界に入る。辺りはカーテンから差し込む淡い光で満ちていて、頭を傾ければ中身のない花瓶が棚に置かれている。
 周囲の様子から、ここが病院なんだろうということだけはわかった。頭の中が空洞になったみたいだ。思い出せることがあまりない。自分が誰なのかさえわからなかった。
 天井をぼっと眺めているとどこからかピアノの旋律が聞こえてくる。
 不揃いの音の連・・・

3

ラブソング

17/06/17 コメント:3件 ツチフル

 カーラジオから流れてくるのは、ラブソング。
 吐息が触れあうほど近づいても、その唇に触れられない。そんな恋愛初期のもどかしさを歌っていた。
「こいつの歌、ラブソングばっかだな」
 祐介は舌打ちをして、ラジオを切る。
「ほかに歌うことないのかよ」
「でもこれ、ヒットしてるぞ」
 彰人は助手席から手を伸ばし、切られたラジオをつける。
「俺らもこういうのを歌お・・・

7

ホロホロ鳥の歌

17/06/14 コメント:6件 待井小雨

 ホロホロ鳥が鳴いているのだ。
 ホロホロ、ホロホロとあれは涙を零しているに違いない。
 幼い日に聞いたあの鳴き声は確かだったと思うのに、ホロホロ鳥はそのようには鳴かない、それは君の架空の生き物だよ、と婚約者に言われてしまった。
「これがホロホロ鳥の鳴き声だよ」と彼に見せてもらった映像では、本物のホロホロ鳥がけたたましく鳴いていた。
 確かに、ホロホロ、と囁くように鳴く私の・・・

2

音楽は騒音だと思う。まず何から語ればいいか分からないがとりあえず語ろう。

17/06/10 コメント:1件 犬飼根古太

「音楽というものが嫌いだ! あれは僕にとっては騒音以外のなにものでもない。声も楽器の演奏も機械的な音でも何でもだ! そもそも君は知ってるのか? 音楽というのはもともとエセ宗教や軍隊などで大きく用いられることで発展したということを! 音というのは防げない。案外やっかいなものなのだ。考えてみてくれ。汚い物からは目を背けらる。だが音から〈耳を背けられる〉か? 目は閉じることができる。だが〈耳を閉じる〉こ・・・

2

Background Music

17/06/08 コメント:2件 糸白澪子

 雨が激しく降っている。
 誰もいないローカル線のプラットホームでは、そこいら中、雨の存在感で満たされている。大粒の雫が駅舎のトタン屋根を叩く。雨樋は勢いを含んだ水流を抱えてはちきれそうに唸る。プラットホームから線路を覗くとそこはうっすらと洪水していて、新たな雨粒によって水面はうねりを帯びている。風が、豪、と空気を荒らしていく。
 その風景を、私はオレンジ色のベンチの上で眺めていた。<・・・

3

妖怪ババアに捧ぐ

17/06/06 コメント:4件 秋 ひのこ

「この阿呆! 染物の風呂敷を洗濯機で回す馬鹿がおるか! 脳みそカラか! え? 空っぽか!」
「洗濯してやったのに文句言うな鬼ババア! たかが風呂敷じゃねぇか!」
 今日も、陣内家の軒先は騒がしい。
 70の祖母キヌと、10歳の孫トモだ。
 母が男と逃げ、父ははじめからいない。地方でひとり暮らすキヌの元へトモが移されて、半年になる。
 気性が荒く、口が悪いキヌは実の孫に・・・

2

音楽は、人の心を動かさない。

17/05/26 コメント:0件 耳たぶ

初めて僕がギターを持ったのは去年の夏、つまり、高校2年の夏だった。

漫画に影響されて「バンドやろうぜ、楽器とかも任せとけよ」と鼻息荒く言いだした幼なじみの言葉を、僕は断る事が出来なかった。
しばらくしてから「楽器が届いたから取りにこいよ」という連絡を受けて幼なじみの家に行ったのだけれど、結論から言えば、僕がバンドをすることはなかった。

僕を呼び出したマコトは、ベッ・・・

4

夫の鼻歌

17/05/22 コメント:1件 ちりぬるを

 いわゆる普通の幸せというものを私が手に入れて三年が経つ。愛する夫と結婚し、勤めていた会社を辞めて専業主婦になった。都内にマンションを買い、趣味も充実していて何不自由のない暮らしだ。

 夫が帰ってくる時間に合わせて鼻歌を歌いながらカレーを煮込んでいた。最新の圧力鍋でトロトロになった牛肉を入れたビーフカレーは夫の大好物だった。
 玄関で鍵を開ける音がした。私は火を弱め、鍋に蓋をし・・・

10

音楽の魔法にかかった友人

17/05/22 コメント:4件 笹岡 拓也

大学生の俺は昼休みに友人とラーメン屋に向かった。この友人はかなりのくせ者で少々付き合いにくい。それでも友達が少ない俺にとっては大事な友人だ。
「ドレ?」
「あそこの店だよ。ほらあの行列の」
先日たまたまバイト帰りに立ち寄ったラーメン屋がとても美味しかったので、俺は友人をそのラーメン屋に招待したのだ。やはり俺が美味しいと思った店なだけあって、かなりの行列になっていた。
「ここ・・・

投稿済みの記事一覧

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そのメンバー有害につき

17/06/19 コメント:0件 石蕗亮

 深夜番組で料理を見ると食べたくなってしまうのは何故だろう。
こんな夜更けでもコンビニがあるせいで食べたくなったら行ってしまう。
さすがに日付が変わった後では客は自分しか居ない。
店内にはラジオ放送らしきものが流れていた。
深夜だというのにかなりロックな旋律と意識せずにはいられない不思議な歌声に耳を持っていかれてしまった。
性別の判らない声。
力強いドラム。

1

ワイングラスと音楽の精

17/06/19 コメント:2件 木野 道々草

 六月のある日、寝付けない夜だった。緊張をほぐそうとワインを飲んで、またベッドに横になってみた。しかしそれでも眠られず、何度も寝返りを打つ間に真夜中は過ぎた。一人暮らしのこぢんまりとした部屋が、薄暗い洞窟のように感じた。

 その洞窟が、白いランプを灯したように明るくなった。もう朝だろうかと時計を手に取って見ると、午前三時三分だった。私が生まれた時刻だ。この嬉しい偶然に気を取られたが、・・・

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My Favorite Things

17/06/19 コメント:0件 泡沫恋歌

同じ吹奏楽部の立花葵から楽譜を買いにいくので付き合ってと頼まれた。私、澤木梨恵はフルートだが、葵さんはクラリネットであまり親しくない。なぜ私を誘ったのか不思議だが、部活が終わったら一緒に楽器店へ行くことに――。
校門の前で待っててといわれて、そこで待っていると葵さんが男子生徒と一緒に現れた。その顔を見た途端、私はドキドキしてしまった。
「澤木も一緒か?」
吹奏楽部の櫻井部長だった・・・

1

夏色アンセム

17/06/19 コメント:0件 冬垣ひなた

『事務の立花さんだ』
『存在感ないし、ちょっと気持ち悪いよね……』
 不意に届いた『心の声』に栞は腹が立ったが、結局胸の奥底にしまい込む。こんな気持ちでも、クシャクシャに丸めてポイ捨てしたら、世の中に嫌なことが溢れてしまう気がして。
 夏が近づき暑苦しいスーツを着た栞は、会社帰りの雑踏をすり抜けるように家路につく。


 不協和音にサンドイッチされた人々の思念が・・・

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フラウ・バッハ

17/06/19 コメント:0件 沓屋南実

 わたしはとても悩んでいます。楽長先生の結婚の申し込みに「はい」と返事をして良いものか。
 彼は、ケーテンという小さな宮廷の楽長でありながら、ドイツ全土はおろか外国の著名な音楽家から尊敬されています。新しい作品、それも良いものばかりどんどん生み出されるのですから、音楽の神から選ばれた輝かしいお方に違いありません。そんな方から妻として求められることに、たった19のわたしは驚きと戸惑いでいっぱい・・・

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採音マニアへのクイズ1

17/06/19 コメント:0件 tomoya

ある朝方、いつものように音の採集をしているときに、工場前の公園でサラリーマン風の男に出会った。
「あのう、あなたのスマホと私のスマホを2時間だけ交換しませんか?謝礼はお支払いします」
そう言うと男は自分の免許証と封筒に入った10万円を見せた。
突然のことなので驚いたが、断ろうと口を開きかけた瞬間。
「先ほどから工場の写真をお撮りになられている様子が見えました。私は工場の中に・・・

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ノーライフ・ノーミュージック

17/06/19 コメント:0件 そらの珊瑚

「こんばんは。あなたの思い出の音楽は何ですか? 冬鳥ムネオのノーライフ、ノーミュージックの時間です。残念ながら今夜が最終回です。三十八年もこの番組をやってこられたのは、聴いてくださり、又お手紙をくださったリスナーの方のおかげです。ご紹介させていただいた曲は延べ約千八百曲あまり。その曲のひとつひとつに、たくさんの方の思い出がありました。音楽のない人生なんてつまらない。人生は辛く悲しいことの方が多いか・・・

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耳鳴リズム

17/06/19 コメント:0件 小高まあな

 耳鳴りがする。
 キーンと音がする。
 ここ一週間、ずっとだ。
 うんざりしながら、ベッドに倒れ込む。うつ伏せになった状態で、後頭部から枕を押し当てる。
 こんなことしても、音は消えないけど。わかってるけど。
 貴重な休日を病院に行くことでつぶしたくない。だから、まだ医師の診断は受けてない。放っておけば治ると思うんだ、これぐらい。
 調子のいい時に、ケータイで・・・

1

アラートの街、未完のレクイエム

17/06/19 コメント:3件 滝沢朱音

 校門にたどり着いたとき、私は舌打ちした。時間がないけど家に戻らなきゃ。だってイヤーポッドをつけ忘れてきてしまったんだもの。耳に手をやり立ちつくしていると、同じクラスの男子が話しかけてきた。
「もしかしてポッド忘れた? スペア貸してやるよ。君も響の新曲、ダウンロードしたんだろ?」
「うん!」
 思わず二人で顔を見合わせ、微笑んだ。
 響って、私たち十代にとってのカリスマミュ・・・

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透明ブレス

17/06/19 コメント:0件 宮下 倖

「菖子先輩、これ受け取ってください!」
 おじぎをしながら高々と両手をさしだすと、菖子先輩はわたしの勢いに押されたのか「え?」と言いながらもすんなりとそれを手にした。
「受け取りましたね? それもう先輩のですから! 返品不可ですよ!」
 跳ぶように一歩後ろへ下がる。受け取ったものを訝しげに見た先輩の表情がみるみる険しくなった。
 わたしがさしだして先輩が受け取ったもの。それ・・・

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His Wor[l]d

17/06/18 コメント:0件 アベアキラ

 別に僕は学校が嫌いなわけではない、クラスにも最低限の友達はいるし、休み時間は談笑をするだろう。何の変哲もない、僕は普通の高校生だった。
 居場所がないわけではない、楽しくないわけではない。だけども満たされないんだ。足りないんだよ、なにかが。
 思春期特有の、と自分で言ってしまうのも恥ずかしい気がするが漠然とした不安が僕に覆いかぶさってくる。将来への不安とか、とにかくそんなの。誰もが持・・・

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震えて揺れる、音模様

17/06/18 コメント:2件 風白高部

「今日は一体何をするんです?」
「ふふっ、それは見てのお楽しみ」
 僕の質問に美奈先輩は眼鏡を直しながら、柔和な笑みを浮かべた。
 先輩の手元にあるのはパソコンにつないだ小さなスピーカーと薄い鉄製の円板、小型のマイク、それと何故か食塩の入った小瓶。先輩は、さも楽しそうに目を輝かせて鉄板にスピーカーを貼り付け始めた。
 しんと静まりかえった科学部の部室の中にいるのは、僕と先輩・・・

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僕たちのミュージック

17/06/18 コメント:0件 みや

僕たち犬には、色んな物の音や人間が話す言葉が音楽の様に聞こえるって知ってた?

朝の音楽。お母さんが朝食の用意をしている包丁の音や食器の音は幸せな音楽。僕のごはんの用意も忘れないでね。お父さんがヒゲを剃る音は少し耳障りな音楽。萌音ちゃんが髪をセットするドライヤーの音は少し苦手な音楽なんだ。おばあちゃんが僕を抱っこしながら新聞をめくる音は眠りを誘う音楽。いけない、起きたばかりなのにもう眠・・・

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海色の演奏

17/06/18 コメント:0件 凜灯

 「あなたの音楽は、青色ね」
目の前に突然現れた少女はそう呟いた。僕はそれを聞いて目を見開いた。真っ白な鍵盤の上に力なく置いた指先は、すっかり音を奏でるのを止めてしまった。ドクドクと鼓動が加速して、上手く息が出来ない。窓から差し込む夕焼けを浴びて、優美な雰囲気を纏う黒髪ロングの少女は、ずいぶんと大人びた笑みを湛えて僕を見つめていた。
「ずっと聞いていたの?」
「ええ。忘れ物を取り・・・

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マーラーと工事現場の警備員

17/06/18 コメント:0件 吉岡 幸一

 静けさを求めて郊外のマンションに引っ越して来たばかりだというのに、彼は昨日から騒音に悩まされていた。
 フリーのDTPデザイナーを自宅でしていた彼は日中だけでなく一日の大半をこのマンションで過ごしていた。
 向いのマンションが取り壊されるなんて不動産屋からは聞いていなかった。
「近くに学校もスーパーも駅もない代わりに静かな環境ですよ」
そんな言葉を真に受けたのが悪いのか。・・・

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「一時の夢」

17/06/18 コメント:0件 紫葵

僕の彼女は、ストリートシンガーだった。
一本のアコスティックギターを片手に、路上ライブを繰り返す。平日の晴れた日に街角に一人、小銭入れを置いてそこで自分の思いを吐き出すようにして歌うのである。
正直なところ、ギターの腕も大してうまいわけではない。歌唱力が特別秀でているわけでもない。それでも、何かに渇望しながら歌う様は、僕にはとても魅力的に見えた。
「路上ライブ、やめようとは思わな・・・

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まちがいというあまい理想のなかに、いきている

17/06/18 コメント:0件 犬飼根古太

 声をかけようとして、名前を思い出せずとまどって、逆に声をかけられて親し気にされてもやっぱり思い出せず、笑ってごまかして、そっとため息をつく。
 同窓会の会場についてから僕はそれを繰り返していた。何度目かのため息をつき、ちょっと余裕が出てきて辺りを見回してみると、そこかしこに今の自分みたいな対応をしている人がちらほら。
(しゃーないよな……久しぶりだし……)
 どこか懐かしい顔立・・・

1

花火師

17/06/18 コメント:2件 ぴっぴ

二十三歳の彼は花火師になると言って、行き先も告げず突然アパートを出た。
四つ歳上の私は彼と結婚するものと思っていたが、その理想も花火のように散った。
「オレ明日の弁当いらないから」それが最後の言葉になり二年が経つ。その間メールや電話、なにもかも連絡を絶たれた。
腹が立つというか、呆れるというか......それからの私は飲むと愚痴が出て来て攻撃的になり、最後は自己嫌悪で涙して自分・・・

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音楽はご飯の代わり

17/06/17 コメント:0件 駿河 晴星

白と黒の階段を、高速でかけ登る。途中で止まることは許されない。失速した瞬間、音楽が死んでしまうから。巨大な木の板が振動し、低音が唸る。乾いたシンバルの音がそれに追従し、スネアのアクセントが和音と絡み合う。
ああ、なんと心地よい。
ピアニストの合図を受け、端で待機していた大柄の男が真ん中までやってきた。金色に光る相棒は、男が持つと小さく感じられた。ベルがこちらを向く。真っ暗な・・・

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素晴らしい時間

17/06/17 コメント:0件 つつい つつ

 そろそろレッスンが始まってから七五分経つ。終了まであと一五分だ。講師の高橋さんは期待と不安の入り交じった表情で私や私の指先を見ている。レッスン四回目の私のたどたどしい指先は、ボローンだの、キーンだの、ピィーンだの、不安定な音を紡ぎながらぎこちなく動いている。
 およそ一か月前からピアノのレッスンに通っていた。たまたま仕事の資料を探しに行った本屋の前で体験レッスンに参加しませんかと捕まったの・・・

1

懐かしいメロディ

17/06/17 コメント:0件 比些志

どこかで聴いたメロディだ。
でもどうしても思い出せない。

その甘美で哀愁に満ちた歌声は、リビングから流れてきた。
オレは自分の部屋のベッドの上でまどろみながら、それを夢うつつに聴いている。

遠いむかし、大好きだった人たちといっしょに聴いた音楽なのだが、題名もいつどこで聴いたのかも思い出せない。

「おはよう」
ボクが小さな声でそう言うと、・・・

4

コーヒーミルに愛を込めて

17/06/17 コメント:6件 日向 葵

 日曜の朝、入口のカウベルが鳴って、彼女は店にやってきた。
 ドア窓にはまだCLOSEの文字を掲げているので、店内に客はいない。

「おはようございます、早いですね」
「おはよう、コーヒー貰える?」

 そう言って彼女はいつものカウンターテーブルに座った。
 別にコーヒーが好きだったわけではない。実家の喫茶店を兄が継がないと言ったので、僕が継ぐことになった・・・

0

RTフォーエバー

17/06/17 コメント:0件 miccho

 好きな言葉はルーティン、現状維持、中立・中庸、腹八分。
 嫌いな言葉はイレギュラー、現状打破、対立・極端、ムラ八分。

 そんな僕が下校のルーティンを逸脱してまで見知らぬおじさんに声をかけたのは、正義感からでは、もちろん無い。
 ただそのおじさんが、まるでテスト終了5秒前に、裏面にも問題があることに気づいたみたいな、絶望しきった顔を浮かべていたとあっては、さすがの僕も放・・・

2

オルゴールに願いを込めて

17/06/17 コメント:2件 月野 光

もうすぐ30歳になるというのに未だ独身の安達 久美は、引越しの準備のため整理をしていた。
しばらく開けていない押入れの物を出していくと、奥の奥に何かがあるのに気付いた。
 恐る恐る取り出して見ると、それは木で組まれた埃を被った長方形の箱だった。
「これなんだろう……」
 久美は、ゆっくりとその箱の埃を振り払っては箱の蓋を開ける。
 特に何も起きない。
 ただそこ・・・

0

紅白なんか、見ないよーっ

17/06/17 コメント:0件 seika

紅白の視聴率は99%だった。年末になると街中では誰もが紅白ネタで盛り上がる。紅白では山崎ハコが「たどり着けばいつも雨降り」を歌い、子供バンドが「たどり着けばいつも雨降り」をうたい、大友康平が「たどり着けばいつも雨降り」を歌い、ラベンダーもとモー娘のユニットが「たどり着けばいつも雨降り」を歌い、そして元祖モップスが「たどり着けばいつも雨降り」を歌っていた。また洋楽版ではCCRがhave you ev・・・

0

こんなどうしようもない日には

17/06/16 コメント:0件 あしたば

一日中煙るような雨が降り続けた、九月末日の今日もその日だった。思えば、朝から体調が悪かった。咳と鼻水を無理やり止めるため強力な薬を飲んだ。果たして要らない部分だけがよく効いてしまったようで、やっとのことで午前と午後の授業を終えた。事務をこなし、質問に来た生徒にもにこやかに対応できた。辛い一日だった。それでも、何とか自分の芯を崩さずに、一人の教師として振る舞えた。そう思っていた。
職員室から出・・・

1

ライフサウンド

17/06/16 コメント:1件 要崎紫月

 僕の仕事場に休憩に入る度、音楽を聴いてばかりの後輩がいる。僕より三つ年下の彼、一番年が近い筈なのに独特な雰囲気の所為でいまいち打ち解けないでいた。音漏れのしにくいイヤホンなのか、何を聴いているのか分からない。素通りしようとしたが、やはり気になって聞いてみた。
「何聴いてるの?」
 話し掛けられた事に気付き、彼は上目遣いで僕を見上げると左耳のイヤホンを外した。なかなかの音量で聴いている・・・

0

カイジュウさんのマーチ

17/06/16 コメント:0件 ちほ

  青年は、昨日から地下1階の古着屋でアルバイトをしていた。落ち着いた雰囲気の店だ。この店に辿り着くには、U字になっている長い階段を歩かなくてはならない。彼は暇だった。さっきまで本を読んでいたが、それにも飽きた。そこに、小さな子どもの可愛い歌声がきこえてきた。
「〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜犬さんワンワン〜ネコさんニャーニャーないても〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜ウシさんモーモー〜ひつじさ・・・

3

ネジマキ式の音鳴りさん

17/06/16 コメント:6件 入江弥彦

 狭い部屋で俺がでたらめにギターをかき鳴らしていると、右側の壁からドンっと大きな音が聞こえた。相手に見えるはずもないのだが心底面倒くさいというようにあくびをしてから、鏡の前で寝癖を整える。弁当の空き箱でパンパンになったゴミ袋が鏡の下半分をふさいでいた。
 ギターを持って部屋を出ると、ドアの前に先ほどの物音の犯人が立っていた。
 俺はパジャマ代わりにしているスウェットの裾を引きずりながら・・・

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音楽技術研究所 日直員募集

17/06/16 コメント:0件 maimo

音楽技術研究所 日直員募集しています。

【採用人数】1名
【勤務日と時間】4月1日〜 平日8時半から17時
【報酬】応相談
【業務】日直員
【資格・経験】不問 ※誰にでもできるお仕事です

日直員としての仕事は簡単で、「誰にでもできるお仕事」という募集文句の赤字に嘘いつわりはなかった。住宅街の行き止まりにあるその建物へ面接に行くと、五十歳くらいの・・・

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夏の覚悟

17/06/16 コメント:0件 佐倉愛斗

 夏が終わった。
 構えていたホルンを膝に下ろし、息を吸った。まだ胸が熱い。顧問が指揮台の上から私たちをすくい上げる合図をして私たちは立ち上がる。スポットライトの奥、薄闇の中からライバルたちと審査員の棘の混ざった拍手が浴びせられる。どちらが美味しい瓜なのか私たちを品定めする。そう、ここは私たちの戦場なのだ。
 吹奏楽部地区予選中学生の部A編成。十三分間の間に中学生は課題曲四曲の中から一・・・

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ああなたが遺した北極星

17/06/16 コメント:0件 かめかめ

「久保、よく顔が出せたな」
 こっそり去ろうと足早に向かった葬儀場の出口で林の声が背中に刺さった。見なくてもわかる。林はあの頃と変わらず僕を見下しきった目をしている。僕は見えない鎖に縛られて動けなくなった。
「フルートの才能なんかこれっぽっちもないお前を見捨てなかった先生を裏切ったくせに」
 葬儀の間に奏された林のフルートは圧倒的な力で荘厳な空気を会場いっぱいに響かせた。先生の奥・・・

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トイレのバタコさん

17/06/15 コメント:0件 霜月秋介

 最近、私が勤める会社の女子トイレがなにやら騒がしい。いや、騒がしいといっても、聞こえてくる女子社員のガールズトークがはずみにはずんでうるさいといった意味ではない。それはいつものことだ。ここ数日、本当に騒がしいのだ。うちの部署である週刊モノガタリ編集部に、あの子が、都井畑子が入社してきてから。

 畑子は高校卒業したての、黒縁眼鏡をかけた内気な女の子だ。素直でいい子なのだが、内気でなか・・・

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呼び起こされる想い

17/06/15 コメント:0件 麗蘭

その日の深夜の音楽番組は、期待の新人と謳い、マイナーな若手の歌手の歌を流していた。
「俺、この歌嫌い」
私は彼のその言葉を聞いて、鈍器で殴られたような鈍い衝撃が走った。
彼は私の微妙な表情の変化に気付かない。
「だってさ、なんか女々しくねえ?別れた女のこといつまでも引きずるなんてさ」
まったくの同意見だった。私もそう思っていて、同じことをあの人に言ったのだ。
そ・・・

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不滅の文化

17/06/14 コメント:0件 本宮晃樹

〈レコーダー〉は率直に言って、半死半生だった。
 水にありついたのですらどのくらい前だったのか記憶はおぼろげ、まともな食事ともなれば――定義のしかたにもよるが――生まれてこのかた口にしたことすらないというありさま。〈カタストロフ〉後の一人旅はとかく厳しいのだ。
 つぎ当てだらけの外套に包まれた身体は痩せ細っているが、ターバン式に巻いた布きれからは豊かな黒髪がのぞいている。総じて不潔で砂・・・

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キミに、目覚めのメロディを

17/06/14 コメント:0件 風白高部

 放課後で、夕暮れだった。
 忘れ物を取りに来て、航は彼女を見つけた。寂寞とした教室の中、彼女は自分の席について目を閉じ、頬杖をついていた。
 北上という女子だ。
 下の名前は聞いたことがあるものの、覚えていない。いつも自分の席で居眠りをしているか、今みたいに頬杖をつき目を閉じているのが彼女のおきまりのポーズ。彼女は授業中以外はだいたいそうして一日を過ごす。もちろんそんな彼女には・・・

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ミュージック・ライツ

17/06/13 コメント:0件 安城和城

「あんたもうすぐ、死ぬよ」
 できることなら、そう忠告してやりたいのだが。
 店のマスターは今夜もカウンター席で一人酒を飲む背広姿の男に目をやり、心の底からそう思った。
 マスターは「死の気配」というものに敏感だった。理屈でなく、ただその気配を直感的に感じ取ることができる。
 しかしだからといって、マスターにできることは、せいぜい男の半生を想うことくらいだ。
 背広姿・・・

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一次元マインドコントロール

17/06/13 コメント:0件 Fujiki

 あいつが勝手に俺の頭の中に入ってくるんだ。俺にはそれをどうすることもできない。まぶたを閉じれば目は見えなくなるけど、耳の穴はいつも開きっぱなしだからね。手のひらで耳を覆っても、洞窟の中で響くこだまみたいにあいつは鼓膜の内側を暴れ回って三半規管を揺さぶりやがる。そんな時、俺の手足は弛緩してあいつの思うがままになってしまう。糸で引っ張られて踊るだけの操り人形さ。
 腰を振れ、とあいつは俺に言う・・・

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胸で聴く

17/06/12 コメント:0件 栗山 心

 うわんとした耳鳴りと胸の残響が収まらない。生で音楽を聴くと決まって、胸の内に音楽が反響して、鼓動とは違ったどきどきがしばらく残る。体まるごと音楽に包まれているような感じ。それが、ドラムやベースが反響したものなのか、音楽を胸で聴いているからなのか分からないが、この余韻が私は好きだった。
 高校から帰宅し制服を着替えると、予備校や友人の家に勉強に行ったふりをして、情報誌であたりをつけたライブハ・・・

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奇妙な街

17/06/12 コメント:0件 どようび

『音楽は人の心を一つにします』
 その掛け声と共に、テンポの良い音楽がリビングに響き始めました。
 私はその時偶々リビングに居合わせていたのですが、この番組は地方の教育番組としては人気が高く、意識的に見ていた人も多かったと思います。画面の中で快活なお兄さんたちがリズムに合わせ揃って踊っており、やけに笑顔が強く印象に残りました。彼らに合わせてのろく動く母を見て、たくさんの人が今こうしてい・・・

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崩壊カプリッチョ

17/06/12 コメント:0件 かわ珠

 僕の耳は、言葉を理解することができない。
 音は聞こえるのだ。
 鳥が鳴く声も、飛行機の轟音も、街の雑踏も。人の声だって。けれども、言葉を意味のあるものとして捉えることができない。文字を読むのは問題がないというのに。
 けれども、そんな僕にも特技がある。音は聞こえるけれども、言葉は理解できないという特性を持っているからこそ得ることのできた特技なのかもしれない。
 僕は歌に・・・

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暗転Nightステージ

17/06/11 コメント:0件 瑠真

 闇とは、
 それがなければ「無」だという状況に、街中からこだまする騒音だとか吹き抜ける肌寒さに、かろうじて大気の存在のみを知れる、空間のこと。
 その闇の向こうから、獲物を狙うような眼は不意に浮かび上がる。
 次第に近づいてくる「ビースト」。もう眼の前という土壇場でそっぽを向いたかと思うと、前面に縦縞の格子を2つ、ナンバープレートとともに突き出したーー玄関前に堂々と横付けされた・・・

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エチュードと銃声

17/06/11 コメント:0件 猫野まち

 「パパの車庫には近づいちゃいけない」
 わたしは幼い頃から母にそう言われていた。
 父の車庫からは、時々とても大きな音でクラシックの音楽が流れていた。
 あれはブラームスの交響曲第3番。これはビゼーのカルメン組曲。ガーシュインのラプソディー・イン・ブルー。ルロイ・アンダーソンのシンコペイテッド・クロック。
 時折聞こえるその音楽に、母は耳を澄ませわたしにその曲名を教えてく・・・

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音痴の恋歌

17/06/11 コメント:0件 忍川さとし

 思い返せば小学生の頃。
「好きな教科」と問われたら、「音楽」と即答していた私は、見事な音痴を惜しげも無く晒していた。
 しかし、中学にもなると『好きな教科』は、イコール『得意教科』と意味を変える。
 数学が好きだと言う者は超難問をスラスラできたし、美術好きを公言する者の絵は、カンバスが輝いていた。音楽の好きな者は、やはりなにか楽器ができたし、歌えば惚れ惚れとする美声だった。

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彼女はきっと

17/06/11 コメント:0件 八王子

「この先の丘の上には人魚がいる」
 保育園から一緒の大輔が小学校からの帰り道、正面に見える広場を指さして言う。
「あそこはただの広場だよ」
 小さい子供を連れた親子がレジャーシートを広げてピクニックをするには程よい場所だが、小学生ぐらいになるとボールを蹴って遊べるような平らな場所ではなく、小高い丘のようになっているため足が遠ざかる。
「母ちゃんが言ってたから間違いない」

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3400年前のレクイエム

17/06/11 コメント:0件 miccho

 おばあちゃんの葬式から一週間が経った。
 実家から東京の下宿先に戻って来たはいいものの、大学には行かず、一日中家でぼんやりしていた。
 両親が共働きだった私の面倒を見てくれたのはいつもおばあちゃんだった。あの皺くちゃな笑顔を見ることはもう無いだなんて、未だに信じられなかった。

 高校生になったあたりからは友達感覚で、よく恋愛相談にも乗ってもらった。
「ケイスケった・・・

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いにしえの彼女のためのパヴァ―ヌ

17/06/11 コメント:0件 吉岡 幸一

 公園の真ん中には大きな池があり、その周りはジョギングコースになっていて早朝から夜まで人が走っている。
 今朝は絹糸のような小雨が降っていたが走る人はいた。アスリートと呼べそうな体つきの人は天候に関係なくいつも走り続けている。一周二キロ、走りやすいように弾力のある塗装のされている路面は足をやさしく守ってくれている。
 僕はアスリートではないが毎朝池の周りを三周だけ走っていた。秋に開催さ・・・

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音楽などヨコに置いた浅く広い底の底

17/06/09 コメント:0件 秋 ひのこ

 誰かを信用するきっかけというのは、案外情けないほど青臭かったりするのかもしれない。
 タカノの場合、サダが同郷出身、卒業と同時に同じようにギター片手に上京し、夢破れて今に至る、という話を聞いた瞬間、取引を決めた。
 特に気に入ったのは、サダもまた、自分と同じくかつて馬鹿にして嫌っていた星の数ほどある無名の音楽事務所に就職し、デビューを夢見る若い連中を喰い物に日銭を稼いでいる、という点・・・

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ぼくは音楽が嫌いだ

17/06/07 コメント:0件 なっぱ偽者

 ぼくは音楽の授業が嫌いだ。
 ぼくの声はかすれているし、音程はずれるしテンポも悪い。だから合唱の授業ではクラスメイトからブーイングが飛び交い、グループワークでは仲間に入れてもらえない。
 昔はそんなことはなかった。小学生の頃は子供らしい甲高くてよく通る声でうまく歌えた。なのに中学生になった途端に声がかすれてうまく歌えなくなって、音楽が嫌いになったんだ。

「声変わりね」<・・・

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彼とピアノとわたし

17/06/07 コメント:0件 ちほ

 7歳のわたしは、ピアノは大好きだが勉強は大嫌いだった。特に、母が自宅で催すパーティーは何よりも大嫌いだった。パーティーでは誰もが母の美貌を賛美し、ついでにわたしのことも「お母様に似て、将来が楽しみね」などと言う。そんなお世辞は嫌いだったし、化粧の匂いや香水、煙草には息が詰まりそうだった。
  お客様に対して礼儀正しく愛想笑いをしていたが、疲れてしまった。ピアノの演奏も終わったことだし・・・

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音楽を見に

17/06/07 コメント:0件 miccho

「音楽って、何がいいの」
 前々から気になっていた疑問を敏明にぶつけてみた。
 敏明がヘッドホンでいつも何かの音楽を聴いていることは知っていたが、私には縁のないものだった。
 敏明は、うーん、としばらく考える素振りを見せた後、おもむろに、
「今度、音楽を見に行かないか」
 と切り出した。
 あれ、まさか次のデートのお誘い?
 付き合ってまだ二ヶ月だったけど・・・

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終わってしまった世界の音楽

17/06/05 コメント:4件 むねすけ

 終わった。
 世界が終わった。
 終わった世界で、一人の少年がピアノを弾いてようとする。
 僕には無理だ。指が上手に回らない。譜面だってないし。教えてくれる先生もない。
 世界は少年を一人だけ置いて、まだ終わったまま。
 目をどうして閉じているのか、耳まで塞いだままで、ピアノを弾けるつもりなのか。
 少年に、誰かがしてあげたいアドバイスは、終わった世界に響かな・・・

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17/06/04 コメント:2件 田中あらら

 愛ちゃんの布団の傍らには、おばあちゃんが付き添っていた。昨夜から熱を出し、赤い顔をして寝ている愛ちゃんを時々心配そうに見て、額の濡れ手ぬぐいを取り替えていた。
 愛ちゃんは目を開け、おばあちゃんがそこにいるのを確かめると「おばあちゃん、ここにいてね」と言い、おばあちゃんが「ずっといるからね」と言うと、また眠りに落ちた。
 愛ちゃんはおばあちゃんっ子だった。大好きなおばあちゃんがそばに・・・

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田園

17/06/04 コメント:0件 犬飼根古太

 オーストリアの首都ウィーンから遠く離れたアルンベルク村は、楽聖ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが「通った」村として有名だ――と村民達は思っている。ベートーヴェンがウィーンにあるアン・デア・ウィーン劇場での演奏会に行く際、普段通っている街道ががけ崩れで封鎖され、その馬車がこの村を通過したらしい。
 無論通過しただけで滞在したわけではない。
 けれどそんなことは、村民達には関係ない。・・・

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壊れたロックンロール

17/06/02 コメント:0件 ジェームズボンバークライシス

僕は誰もいない小さなライブハウスにいた。
ペグが外れ、弦もちぎれ、ボディとネックギターが分かれているギターの前で僕は、拳を握り立ち竦む。
そして、何度も何度も僕はギターに頭を下げる。
「ごめんよぉ・・・ごめんよぉ・・・。」
孤独の痛みを知って、ただ泣き叫ぶ。
「壊すつもりはなかったんだ・・・」
ギターは、何も言わなかった。

3年前の春
僕は「・・・

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口笛

17/05/31 コメント:0件 林一

 田村大輔はかつて、口笛を吹くことができなかった。大輔がそのことに気が付いたのは、小学生の時だ。
 友達が口笛を吹いているのを聴いた大輔は、真似をして口笛を吹こうとしたのだが、フーフーと息が唇から漏れるだけでうまくいかなった。
 中学生になっても、大輔は口笛を吹くことができなかった。この頃から大輔は、口笛ができないことに対して、コンプレックスを抱くようになっていた。
 高校生にな・・・

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ストラディバリウス

17/05/31 コメント:0件 林一

「ストラディバリウス・アンサンブルコンサートへおこしくださいまして、誠にありがとうございます。このコンサートは、ストラディバリウスのみを使った演奏を楽しむコンサートとなっております。それではみなさん、ごゆっくりとお楽しみくださいませ」

 コンサート終演後。
「いやー、素晴らしいコンサートだったなあ。やっぱりストラディバリウスの音は別格だな」
「本当よね。ストラディバリウス・・・

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チャイム

17/05/31 コメント:0件 林一

「キーンコーンカーンコーン」
 誰もが聞き覚えのあるであろう学校のチャイム。このチャイムが今、廃止の危機を迎えていた。全国の学校で、近隣住民からチャイムがうるさいという苦情が殺到するようになったためだ。
 生活様式の多様化により、深夜に働き昼間に睡眠をとるような住民も増えている。そんな生活の中、朝から夕方まで、授業や休み時間の始まりと終わりごとに一日十回以上もチャイムを鳴らされては、確・・・

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選択授業、音楽

17/05/31 コメント:0件 スタンピード喜多見

 第一印象はそれは当然悪かった。授業に遅刻してもへらへらと平気な顔をしているのだから、真面目な彼女にしてみれば不良行為と何ら変わりないくらいに悪印象だった。
 最後列の彼女の隣の席しか空いておらず、そこが彼の座席となった。
 彼は毎回遅刻してくる上に、教科書も何も持っていないのだから、呆れすら通り越して可哀想にさえ思えた。先生は毎回出席を確認するから、教室にいるほとんどの人が彼の“浅葉・・・

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僕の居場所

17/05/29 コメント:0件 アイト

僕は幼い頃から友達というモノを作った事が無かった。というか、しなかった、必要なかったから。
そもそも、友達とは何なのか、君は言えるかい?言えないでしょ?そんなモノだよ、友達ってのはさ。あ、勿論僕も分からない。
だからかな、僕は学校で居場所が無かった。それのせいでイジメられもした。本当に苦だったよ。でもきっと君には友達が居て、居場所もあって、イジメられもしないでさ、幸せな日常を送っ・・・

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子守歌

17/05/30 コメント:0件 イルカ

 駅のホームは、仕事を終えた人で混雑していた。3号車の1番の列に並んだ。
この列は比較的空いていて、座れると思ったからだ。電車がホームに来るとアナウンスが
あった。しばらくすると、電車がホームに来た。車両の窓から空席があり、われ先に席に
座ろうとレ車内になだれこんだ。誠は、車内に入ると、空席を見つけ席に座った。
 降りる駅まで三十分、いつもの様に、居眠りが出来る。
<・・・

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塔の上のピアニスト

17/05/29 コメント:0件 ちほ

 築100年のマナーハウス。ここにはグランドピアノがあり、いつもヨハンが弾いている。12歳のウリーは、大きな窓からそっと覗いてみた。ヨハンが何者かは知らない。わかっているのは、綺麗な音楽を奏でるということだけ。たくさんの音が小さな泡になって、ふわりとそよ風に飛ばされていくような優しい透明感に、ウリーは夢見心地になる。しかし、その夢を破るようにピアノの演奏が止まった。数秒後、目の前の窓が開いた。

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トランペット

17/05/28 コメント:0件 蹴沢缶九郎

夜の浜辺で青年が一人、トランペットの練習をしている。青年が「プー」とトランペットを吹くと、夜空を流れ星が横切った。
続けて青年がトランペットを吹くと、また流れ星が空を横切った。

「プープープー」

青年がトランペットを吹く度に、流れ星は現れて消えた。流れ星はまるで、青年の吹くトランペットの音に合わせて出現しているようだった。楽しくなった青年はトランペットを吹き続け、・・・

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好きなんです

17/05/27 コメント:0件 眠々瀬未々

 あなたは、当然私の恋の醜さなんて知らないんでしょうね。それは、あなたが醜くないからです。ちっとも醜くないからです。だから好きなんです。だから愛おしくっておかしくなりそうなんです。私はもう、結構おかしいんです。あなたのせいなんです。醜くないというのは、あなたのモラルが、その良心が、この社会の中で、電車の中でだって、交差点でだって、雨の中でだって、もはや痛々しく輝くその心が、常に訴えかけるってことな・・・

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音楽を喰う男

17/05/27 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

 まりあのもとへ、酒場の使いがやってきた。
「ご主人が、酔い潰れて」
 いやな顔ひとつみせずにまりあは、使いといっしょに酒場にむかった。
 主人のいきつけの酒場は、朝から晩まで一日中、生バンドの演奏がつづき、酒や料理をもとめてやってくるものにまじって、まりあの夫のように、純粋に音楽に魅せられてくるものもいた。彼じしんもともとテノールの歌手で、以前は舞台にたって、観客相手に自慢の喉・・・

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今日、君に伝える音。

17/05/27 コメント:0件 宮城 透

「今の音はファね」
 青と白にキラキラと光る港。高い空にはカモメが気持ち良さそうに泳いでいる。今日は絶好のお出掛け日和。
 クリーム色のベンチで目をつむりながらそう言ったのは、僕の彼女だ。
「へえ。じゃあ、あの遠くで鳴ってる船の汽笛は?」
僕が港の奥で揺らいでいる船を指差すと、彼女は耳を澄ました。
「あれはドの音よ」
「君はすごいなあ、どんな音でも音階にできる」・・・

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その歌は彼女の耳には届かない

17/05/27 コメント:0件 かわ珠

 小さなライブハウスに響く重低音。
 観客席は八割ほどが埋まっている。そのステージで俺はギターをかき鳴らし、大声で歌っている。
 ステージから客席は良く見える。知った顔が沢山いて、皆いつものようにノッてくれている。
 その中に一人、初めて見る顔があった。彼女の存在が目に入ったのは必然だった。彼女は明らかに浮いていたからだ。
 他の皆は手を上げ、声を上げ、俺の音楽にノッている・・・

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とあるピアノコンクールにて -音楽とは何か、容姿かコネか出来レースか-

17/05/26 コメント:0件 藤原光

光は、友人の朋子が参加するというピアノコンクールの話を耳にした。ただ朋子は「知り合いが来ると緊張するからダメ」と言っていた。

光は友人と、帽子をかぶり変装をしつつ、朋子にはこっそり会場に向かうことにした。光自体は音楽コンクール会場に来るのは初めてであったため興味津々で会場や周辺を観察していた。

朋子はあまり裕福な家庭ではなく、有名な先生に師事することはできない。それでも・・・

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籠のカナリヤ

17/05/25 コメント:0件 家永真早

 夜に窓を開けてはいけない。魔女の歌が聞こえるから。魔女はその歌声で人間を誘き寄せて食べてしまう。そうして、不老不死の体を手に入れている。
 イヴァが小さい時からある街の言い伝えだった。
 泥棒避けとか送風翅を売りたい商人の作り話だとか多くの人は半信半疑だけど、夜はどこの家も扉や窓を閉め切り、通りを歩く人は一人もいなかった。
 こんな美しい歌声を聴いているのはきっと自分だけだ、と・・・

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遥かな世界からの石板

17/05/25 コメント:1件 空 佳吹

 夏のある夜……
 国立公共施設内の一階にあるの特別会議室では、四人の男が、椅子から立ったり座ったり……。
 コーヒーを飲みながら……タバコを吸いながら……
 その部屋の中央に置かれた大きな石板を前にして、思案を重ねていた。

 その石板とは……
 昨夜、某機関から運び込まれた物で、ある国の山奥で見付かった――としか分からなかった。

 その石板を見・・・

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Youtuber

17/05/25 コメント:0件 もにたん

「はいどうも〜。ケヤキンで〜す。今日はこの食材を使って料理をしていきますよ〜」
人気Youtuberケヤキン。
彼は持ち前のトーク力と、プロのような料理の腕前で、一世の人気を博していた。
動画の内容はただ料理するだけ。だが、その料理の作り方、食べ方、写し方が非常に品がよく優秀で、それでいて経験豊富なトーク。スキャンダルが多い彼だが、それす・・・

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学級内末端の僕と彼女の携帯型音楽端末

17/05/24 コメント:8件 浅月庵

 園崎静流と僕の唯一の共通点。
 それは、休み時間にイヤホンを耳に入れ、机に突っ伏していることだ。

 だけどその行為だって、彼女は自身の持つ魅力に惹かれてやってくる、同級生たちを遮断するためのものだし、僕の場合は友達が一人もいない寂しさを紛らわすためのものなので、意味合いは全然ちがう。

「ごめん、全部面倒くさいから」
 彼女は顔立ちが整っていてスタイルもモデ・・・

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深夜に届け

17/05/24 コメント:0件 むろいち

 深夜のファストフード。
 とっくに閉店時間は過ぎている。
 ツナギ姿の石渡が慣れた手つきでのモップがけをしている。
 四十も半ばの石渡はここで清掃のバイトをしている。
 この歳で定職に就いていないのは本業があるからである。
 本業でメシを食えていない。バイトの方が収入は多い。だが、石渡はあくまで自分には本業があると思っている。
 本業とは作曲。
 石渡は・・・

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メロディ

17/05/24 コメント:0件 蹴沢缶九郎

小学三年生になる美咲という女の子がいた。ある時、美咲の頭の中にメロディが思い浮かんだ。そのメロディはどこか懐かしく、不思議と心が落ち着く優しいメロディだった。
だが、美咲はそのメロディが一体どこで聞いたメロディなのか、思い出せないでいた。CMの曲か、お母さんが観ているドラマの主題歌だったか、はたまた自分が好きなアイドルの曲だった気もしないでもなかったが、そのいずれも違うようだった。
友・・・

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パム

17/05/24 コメント:0件 蹴沢缶九郎

新しい楽器を作った男がいた。その楽器はクラリネットのような管楽器や、ギターのような弦楽器ではなく、また、ドラムのような打楽器や、ピアノのような鍵盤楽器とも違う、今までにない全く新しい楽器と言えた。

男は楽器にパムと名付けた。もっとも男からすれば、楽器の名前などは何でもよく、「ないと呼ぶ時に困る」から付けた、その程度のものであり、重要なのは楽器の音の方にあった。
パムの不思議な音・・・

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はるくんのうた

17/05/24 コメント:2件 こぐまじゅんこ

 いまは、あき。
 はるくんとおばあちゃんは、山ぞいの道をおさんぽしています。
 はるくんは、二さい。おばあちゃんと手をつないで、トコトコ トコトコあるきます。
 道のまんなかに、どんぐりが、ひとつころがっていました。
「おや、どんぐりがあったよ。」
 おばあちゃんが、どんぐりをひろいます。
「どんぐり?」
 はるくんは、おばあちゃんの手をのぞきこみました・・・

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「コスモスの咲く頃」

17/05/24 コメント:0件 寛解男子

夏が終ろうとしていた。青木睦子には、大好きな秋がやってくることが嬉しくて仕方がない。毎年のことだが、落ち着きがない。そんな彼女をもっと嬉しい落ち着きのないことが待っている。今日は、睦子にとって何十年目になるかわからないが、試乗者に乗る。ペーパードライバーだった睦子にとって、自動車学校に行って、自動車の、路上運転の講習会に参加して、さらに、夫がいつも運転しているセダンの自動車にも乗った。何回もシュミ・・・

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思春期の挫折

17/05/22 コメント:1件 笹峰霧子

 音楽とは私にとっては愛着でもあり、悔しさでもある。幼い時からピアノを習い、自己主張をすることもなくそれが自分に与えられた道だと思って音楽大学を受験すべく、青春を犠牲にして猛練習をしていた。
 今になって思えば、たかが四年制の音大を卒業したとしても、田舎の音楽の先生かピアノ教室を開くぐらいしか能はなかったと思う。それならば、塾を経営していたのだから良いではないかと言われても、高校卒業後晴れて・・・

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魂を輝かせるもの

17/05/22 コメント:0件 家永真早

 魂を食らう死神、キル子はライブ会場に来ていた。力強く美味しそうな魂を持ち、日々一口を乞いながらも断られ続けている人間、理恵の後を追ってだった。
 理恵は毎週休日になると朝から晩までパソコンやスマホでゲームをしているオタク女子なのだけれど、今日は珍しく朝から出掛ける支度をしていた。訊ねてみたところ、アイドルのライブコンサートに行くのだとぶっきらぼうに答えてくれた。それからはメイクだ何だ、物販・・・

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あがり症のインコ

17/05/22 コメント:0件 瀧上ルーシー

 電車で通勤ラッシュに揉まれながら高校まで通う。
 ぼくの耳には携帯プレイヤーから流れる愛おしい音楽しか聞えない。おかげでやかましい女子高生の会話も、おじさんの屁の音も聞かないで済んだ。おじさん差別ごめんなさい。ぼくは今時月に十枚はCDを買う。中古のだけれど。もうこのご時世それだけでCDマニアを名乗っていいのじゃないかとも思う。猫もしゃくしもスマホを使ってユーチューブで無料の音楽を聴いている・・・

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君の世界に響け

17/05/22 コメント:2件 家永真早

「今日はライブ休みなん?」
 バイト先の更衣室で、いつも背負っているギターがないことを見つけられ、徹平は先輩に訊かれた。
「ギター壊れて」
 昨日のことを苦々しく思い出しながら、不機嫌な顔で徹平は答える。
 徹平はメジャーデビューを目指す路上ミュージシャンで、毎日近くの駅前でライブをしていた。夜7時、花壇の前が指定位置。
 ファンも何人かつき、声援を送ってくれる子もい・・・

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パクパク

17/05/22 コメント:0件 PURIN

友人に聞いた話。

ガタゴトという揺れと、暖かな日差しが心地よい。
電車の長椅子の端っこに座っていた友人は、うとうととまどろんでいた。
スマホにつないだイヤホンから流れてくるゆったりした曲も、眠気を誘っていた。

目的の駅まではまだだいぶあるし、このままちょっと寝ちゃおうかな…

そう思っていると。
急に半開きの視界の中に茶色い何かが現れた。<・・・

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