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  2. 第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】

第109回時空モノガタリ文学賞 【 旅 】

今回のテーマは【旅】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2016/07/04

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は2〜3作品程度とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。メモリアル

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2016/05/09〜2016/06/06
投稿数 72 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数
総評

入賞した作品

9

天空の駅、ひとり

16/05/30 コメント:11件 冬垣ひなた

 1人分の朝食、1人分のリュック、1人分の切符――。
 平ヶ谷 有希様(ヒラガヤ ユウキ サマ)。
 プリンターで印刷した宿泊情報に書かれた、元の姓には簡単に馴染めなくて、私はすぐさま防寒着のポケットに突っ込んだ。
 2人が3人にならず、1人になった時思った。
 心の財産は等しく割り切れることはない。離婚して軽くなったのは、心から見えない血が流れすぎたからなのだ。
<・・・

3

給水塔の丘

16/05/23 コメント:4件 雨宮可縫花

 中学一年の夏休み、総太はひとりで旅に出た。
 といっても自転車で日帰りできる距離だから、そう遠くへ行くことはできない。目的地は決めずに家を出た。特に行きたい場所はなかった。ただ、思うままに走ってみたかったのだ。
 中学生活に馴染めないうちに一学期が終わってしまった。小学生の頃にはなかった科目、学校生活を送る上で必要なルール。皆はもうすっかり慣れているように見える。自分だけが馴染めてい・・・

5

独り狂いとハッカ飴

16/05/14 コメント:6件 クナリ

 勢いまかせで家出した中学生の所持金などたかが知れていて、一ヶ月もしないうちに底をついてしまった。
 家を出る時に一緒だったアカネはもういない。
 アカネは置き手紙代わりに、僕の好物のハッカ飴を残して去り、二人での逃避行は終わった。幼馴染とはいえ、彼女の家は稀有な資産家だ。温室のバラには、屋根の下の方がよく似合う。あの時は裏切られたと思った僕も、今はそれで正しかったと思っている。

最終選考作品

8

終の残響

16/06/06 コメント:5件 宮下 倖

 
 かたつむりがいなくなった。少し目を離した隙の逃亡だ。のたりのたりと気が遠くなるような歩みのくせに、こういう逃げ足は速い気がする。

 昨日からの大雨がようやく上がり、眩しい陽射しに目を細めながらカーテンを開けたら、窓ガラスを這っているかたつむりを見つけた。下から上にぬめりと光る筋が延びていて、その先にコートのボタンくらいの大きさのかたつむりがいたのだ。空気の入れ換えに窓を開・・・

6

無為はYを辿った

16/06/01 コメント:4件 各務由成

 この扉が開いて目が合ったら、それが合図なのだ。
 ひょっこり顔を覗かせた彼女が背伸び気味に腕を伸ばして、僕を手に取る。新たな旅立ちの予感。今回はどこへ行きますか?
 僕は彼女のお気に入りだ。
 真っ白い合皮に生成の生地を合わせた、上品なコンビカラーのトート。持ち手は茶色の皮で補強されている。
 ユニセックスな僕の風体は、髪が短くマニッシュな彼女に良く似合う。どんな旅の服装・・・

5

時間旅行者は機械馬で夢を見る

16/05/29 コメント:6件 泉 鳴巳

 机上の時計が示す時間は、午前零時三十秒。
「また、喪ってしまった……」
 もう何度目か分からない。だが何度見ても、いや、回数を追う毎に、張り裂けそうになる胸の痛みは増大していく。
 やりきれない思いを振り払うように、俺は“それ”を視界から外すと、乗馬マシンに腰を下ろした。一昔前に大流行したフィットネス機器に、努めて神妙な顔つきで跨る。そして電源を入れ、目蓋を閉じる。
 す・・・

5

はるくんと海

16/05/24 コメント:2件 こぐまじゅんこ

 はるくんは、二才の男の子。
 はるくんが、あそんでいると、おばあちゃんが、そばにきて言いました。
「これから、いっしょに、おでかけしようよ。」
「うん。」
 はるくんは、おおよろこび。
「それじゃぁ、じてんしゃにのって、海にいってみよう。」
 はるくんは、まだ海をみたことがありません。
「なに?」
 はるくんは、くびをかしげました。
「海だよ・・・

2

北上する中二病患者と、徐々に南下おじさん

16/05/14 コメント:4件 にぽっくめいきんぐ

 中二の僕は、アニメの劇場版試写会の為、宮城から18切符で東京九段下にやって来た。
 会場には行列。受付の人が「カメラは預かります。撮影禁止です」と言うので、素直に預けた。
(ばら撒くファンなんているはずないのに)
 席は早い者勝ちだった。本の読みすぎで視力が低下気味の僕は、前列中央の席をゲット。
(真ん中の方が左右対称に観れる。でも、両側を挟まれるのは窮屈だなあ)
・・・

2

旅の化け物(昔語り風)

16/05/10 コメント:0件 yoshiki

 これはもうだいぶ昔の話なんだが、ある若者が北の地方を旅しているとな、夕暮れ時に山道に迷ってしもうて、ちょうど村があったので一夜の宿を求めてのう、村に入っていくと、なんだか村の衆が浮かない顔なんだな。なんかこう覇気がなくって、沈んだ顔をしておる。旅の若者は多少の金は持っていたから、宿を頼むとな、飯がないというのじゃ。
 これにはさすがに若者も驚いてのお、ずいぶん意地の悪い村だと思っていたら、・・・

2

お客様のなかに

16/05/09 コメント:2件 戸松有葉

「お客様のなかに、お医者様はいらっしゃいませんか」

 快適な空の旅は、その一言で空気が一変した。
 機内がざわつくなか、一人の男性が応じる。
 客室乗務員は頬が緩み、しかし真剣な目で言った。
「私と結婚してください」
「喜んで」
 婚約を済ませると早速、乗務員は次の人を探した。

「お客様のなかに、神父様はいらっしゃいませんか」

投稿済みの記事一覧

9

夜行バス

16/06/06 コメント:11件 泡沫恋歌

 夜行バスなんかに乗るんじゃなかった!
 車内の消灯時間を過ぎても、後ろの座席の女性三人グループがお喋りを止めない。お菓子を食べる音や、時々聴こえてくる忍び笑いが耳について眠れない。それでもウトウトし始めたら、サービスエリアに停車する度に目が覚める。
 初めて夜行バスに乗ったけれど、運賃の安さで選んだわけじゃない。夜バスに乗って、目が覚めたら東京ディズニーランドに着いてるというのが、気・・・

1

喉から手が

16/06/06 コメント:0件 林一

 私は弟と二人で、未知の地球外生命体と交流するため、小型宇宙船で旅をしていた。
「兄貴。この星、生物反応があるぞ」
「おお! そうか」
「建造物のような物も見えるし、文明を持っている可能性が高いと思う」
「ついにこの自動翻訳機にも、出番がやってきそうだな」
「今までの星では、言語を使える知能の生物がいなかったからね」
 私達がこの星に着陸すると、現地の住民達が出・・・

0

君の瞳のその外へ

16/06/06 コメント:0件 むねすけ

旅に出るって、どういうことなの?
ここがあなたの場所だって、あなた言ったじゃない。

確かにそうだったんだ、
僕は誰かに綺麗に見てもらいたかった。
僕が鏡の中に見る姿、みんなが僕を見る、醜くて愚かな姿ではなく。

僕が目を閉じて思う、僕の綺麗な姿で、見て欲しかった。
そして、君は僕のことを僕の望む姿で見てくれた。
だから僕は、
君の瞳の外・・・

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ミズヒの旅が始まる

16/06/06 コメント:0件 むねすけ

世捨て人の星読み、遠目の視力ばかりが発達していた反目に、近いの厚みを覗き見る努力を怠ってしまった。
見えない人間たちを忌み、遠ざけ、避けて避けて、
人のない島に辿り着く。
いけないことにこの星読み、孫娘をサラッて舟に乗せたのだ。
波で揺れる小舟の中で無垢な寝息をたてる乳飲み子に、
星読みは背中で何を感じることもなかった。
ただ、波が追いかけてくる俗世の汚れた手と・・・

12

ナメラスジの向こう

16/06/06 コメント:5件 石蕗亮

小雨が降りしきる中、私は狐の妖に足首を掴まれ夜の林を引き摺られていた。
これは当然の報い、禁忌を犯した結果なのだ。
もう人の住む世界には戻れないだろう。
辺りの景色が一変する頃、私はそう覚悟した。
「さて、この辺りで良いか。」
狐はそう言うと私の足を離した。
私は起き上がることもせずに一度大きく深呼吸した。
 「覚悟はできております。」
「潔いのぉ・・・

1

ハゲを激しく励ます親友

16/06/06 コメント:0件 欽ちゃん

このまま仕事尽くしの人生を送るのか。
部下のミスは僕の管理不足。上司のミスは僕の能力不足。
休日を変更して作成した資料は「今更遅い」と言われて一瞬でごみになる。
お世話になってるカツラを取ればストレスでできた見事なミステリサークル。
この世には神も仏もないのか
まさに「カミ」の無駄使い・・・

今日の実績報告会議の資料が出来上がった頃には、寝起きの太陽が町・・・

2

トリップ・トラップ

16/06/06 コメント:2件 にぽっくめいきんぐ

 僕は、旅をしている。
 勢い任せでなんとなく飛び出した僕は、「時空モノガタリ」という駅にいる。

 ここには旅人や、旅人以外の人が集まる。

 旅人としての僕の話をしよう。
 駆け出しの、客観的には青い話だ。

 ◆

 応用美術の「常識」を覆す新しい判決が出た。

 トリップ・トラップ(TRIPP TRAPP)幼児用椅子著・・・

2

めがね

16/06/06 コメント:0件 黒川

 その老人は路肩に小さな店を出していた。 黒い布を敷いた低いテーブルに沢山の眼鏡を並べ、ぼんやりと店番をしている。

 夕焼けの優しい橙が次第に町全体を覆う頃、友達と遊んだ帰りだろうか、ちょうどそこを通りかかった少年はその店に強い好奇心を抱いた。 今までこの手の店は休日のフリーマーケットか、そうでなければ道端の占い師くらいでしか見たことがなかったのだ。
「おじいさんは眼鏡屋さんな・・・

1

【エッセイ】明日はどこへ行き、何を見て、どんなものを聴こうか。

16/06/05 コメント:2件 FRIDAY

 大学二年生の春と夏、長期連休を目一杯使って、私は日本を一周した。目的地は、神社。
 およそ一年生の間にアルバイトでコツコツ貯めたお金を全て出し尽しての、一人旅。基本的に道連れはいない。まあ神社にしか立ち寄らない旅行に同行者なんてまずいない。ついでに言うと、北海道は地元なものでこの行程では行かず、北は青森恐山(は寺だが)から南は沖縄波上宮まで、実は四国にも立ち寄れなかったので日本一周とはやや・・・

6

とわうみ

16/06/05 コメント:5件 そらの珊瑚

 にぎわっていた海水浴客の姿も、お祭りみたいにカラフルな色して咲いたビーチパラソルも、秋になると海から姿を消した。
 今、それらにとってかわったのは、黒いサーフウエアに身を包んだサーファーたち。まるでカラスの群れのように波間に漂っている。

 余計な色はない。
 灰色の砂浜。
 青い空と海。
 白い波頭。
 
 能天気なサーファーたちが、羽の代わりに・・・

1

旅は道連れ、世は情け……?

16/06/05 コメント:1件 あずみの白馬

「(明日の朝には青森ね……)」

 私は夫と喧嘩になった勢いで家を飛び出し、上野から夜行列車に飛び乗ってしまった。私は別に青森の人間じゃない。ただ、遠くに行きたかった。

 車掌さんが案内放送をする中、私は考え事をする。好きで結婚したはずなのに、なぜこんなことになったのか……

 旦那は半年ほど前から急に、平日は帰りが毎日のように遅くなり、休みの日は疲れたと言っ・・・

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二十二世紀の新婚旅行

16/06/04 コメント:0件 OSM

 勇太と理奈は新婚旅行先にハワイを選んだ。
 移動手段はテレポーテーションである。
 テレポーテーションを移動手段に選んだのは、交通費がロハで済むからでも、移動時間がかからないからでもない。テレポーテーションで新婚旅行に出かけるのが二十二世紀のトレンドだからである。
 テレポーテーションなので、移動は一瞬で完了する。さっき日本の自宅を発ったと思ったら、次の瞬間にはハワイのオアフ島・・・

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妄想トラベラー

16/06/04 コメント:0件 みや

”次の方、中へお入りください”
アナウンスと共にトラベリングルームに入って来たのは冴えない三十代前半の男だった。アナウンスの音声は続いて、”何年後にトラベリングを御希望なさいますか?”と男に問いかける。

「一年…いや、三年後にトラベリングをお願いします」
”かしこまりました。では、目を閉じて下さい。フューチャートラベリングをスタンバイします”

スタッフ達は直・・・

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傷心旅行

16/06/04 コメント:0件 ネコライオン

頑張っているのに空回り。
何もうまくいってなかった。要するにスランプってやつだ。
満員電車の中でふらふらと揺れる火曜日午後九時。
スーツを着たサラリーマンが不満気にスマホを触る。
そんなに不満なら触るなよと思いながら、僕もスマホを触る。
Facebookを開く。他人の幸せが目に移る。
なぜ世の中にそこまで幸せ自慢をしたい人がいるのだろう。
気分が悪くなって・・・

1

旅先で自分が求めていたのも

16/06/04 コメント:0件 イルカ

 誠と居酒屋で別れた。付き合っているが、友達と言えるのか分からない。それなら、
 なぜ付き合っているのかと言うと、彼以外に友達と言える人が無く、孤独になるのを
 恐れていたからだ。

 気分転換に旅行に行くことにした。
 宿泊先の民宿で夕食を食べている時だった。
 壁に朝の座禅会の張り紙が目についた。じっと見ていると、
「お兄さん」と声がした。近くの席にい・・・

5

どこへだって行けるし、何にでもなれると思った頃のうた

16/06/03 コメント:2件 黒森あまやどり

 ボストンバックにありったけの札束を詰め込んで屋敷を出た。
 他に荷物はないものない。
 でもこれだけあればどこへだって行けるし、何にでもなれると思った。

 出来るだけ遠くへって願いながら乗り込んだのは生まれて初めての列車だ。
 一等車両の個室で、ただただ発車のベルが鳴るのをじっと待った。
 いつ追っ手がやってきて連れ戻されるかもしれないと思っていたから、ノッ・・・

3

小説家症候群

16/06/03 コメント:0件 しーた


〜それはきっと、物語を紡ぐ中で誰もが罹る幸せな病〜

 小説を書こう。
 とある休日の明け方、普段より早く目を覚ました彼は、ふとそう思った。
 話の構成をしっかり作り込んだりしているわけではなかったけれど、書きたいシーンが頭に浮かんだのだ。
 元々文章を書くのは好きな方だし、まあなんとかなるだろう。
 そんな考えを抱きつつ、ノートパソコンの電源ボタンを入・・・

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【エッセイ】忘れられない思い出

16/06/03 コメント:0件 風富来人

 私はこれまでにたくさんの国内旅行や海外旅行に出かけた。旅先でデジタルカメラで撮影した写真はパソコンのハードディスクにフォルダー分けして保存している。写真を見ればそれぞれの旅のことを思い出すことができるが、写真を見なくても克明に思い出せる旅の思い出が一つある。このエッセイではその思い出についてお話ししようと思う。
 私は一九九九年から二〇〇一年の三年間、連続して少し遅めの夏休みを取って会社の・・・

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天国への旅路

16/06/03 コメント:0件 田中ヒロポン

「チヒロくん、いつもお世話になっております。コウジの母です。
コウジは24日に亡くなりました。今まで仲良くしてもらって有り難うございました。
あの子から何か悩みとか、愚痴とか聞いていませんでしたか?親の目からではあまり変わったところもなかったのでビックリしています。」
 
 ある日、コウジ本人のアドレスからこんなメールが送られてきた。はじめは何かの冗談だと思った。いつものあ・・・

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2000字に自分探しの旅

16/06/01 コメント:0件 血文字の雁木麻里子

俺はまだ正気だから本は余り読む方ではない。そんな俺でも何故かボードレールは知っている。たぶんネットで見て読んだんだろう。酒浸りのロクデナシ的仲間意識が働いたのかも知れない。気に入ってんのは三好達治訳文の『どこへでも此世の外へ』。
〈この人生は一の病院であり、そこでは各々の病人が、ただ絶えず寝台を代えたいと願っている。〉
ニューヨークの地下鉄には「人生はセックスで蔓延する病である」・・・

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アメリカ駅

16/06/01 コメント:2件 白野幸英

よく晴れた日。小さな駅前。ベンチに座っている若者に、60代くらいの一人の男が話しかけてきた。


「あの、つかぬ事をお聞きしたい」
「なんでしょうか、年配の方」
「いきなり年配の方と言うのはどうかと思うが」
「じゃあ何とお呼びしたら良いのですか」
「お兄さんとでも呼ぶべきじゃないのかね」
「お兄さんなんて、お爺さんの間違いじゃないのですか」
「・・・

1

ユートピア

16/05/30 コメント:0件 恵本とわも

そのパンフレットは、数年前に祖父がくれたものだった。
綺麗だろう、と目を細めて、僕の手に乗せてくれたのだ。それだけだが、いい思い出だった。
パンフレットの表紙の写真は、しっかりと目に焼きついている。何度見ても不思議な情景だ。
最初は、ただ町並みを上空から撮影しただけの写真だと思っていた。だが、少し角度を変えて見るだけで、建物の色が変わったり、湖が透き通って見えたりする。
実・・・

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ツアーガイドさんと少年

16/05/30 コメント:0件 永春


 そりゃまあ、私はツアーガイドとしては新人だ。仕事を始めてまだ二年目で、経験も足りていない。だけど。それにしたって。さすがに、これは無いんじゃないかと思う。

「えーと……お客様?」
「ん?」
「ほ、本日ご案内する団体様は20名と承っておりましたが」
「うん」
「他の皆さまは……」
「キャンセル」
「キャンセル!?」

 私の前に・・・

1

彼女を捜す、神の元へ向かう

16/05/30 コメント:0件 ゆきどけのはる

 太陽に照らされた水面がゆらゆらと揺れている。透き通った水色と白が交互に俺の身体を行き交う。奥へ奥へと引き摺りこまれていく、光の届かぬ黒い闇に、俺の身体は沈んでいく。息も出来ず只、己の最期を感じ取りゆっくりと瞳を閉じる。何も聞こえない、たまに耳にする水音は母胎の中を思い出させる。覚えている筈もないのに体はそれを覚えている。
 ――ああ、どうしてこんなことになったのだろう、と俺は薄れゆく意識の・・・

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赤い簪

16/05/30 コメント:0件 阿部藤

真っ赤な羽のついた女の子。涼しい夜、窓を開けていたらコトと音が聞こえ、外を見た。まだ明るくない。良かった。彼女にとって、夜が終わってしまうのは大変な苦痛だ。朝がきてしまった!と、どこか昔の人みたいな後悔の仕方をする。

彼女の羽が赤くなってしまったのは、池袋のフリーマーケットで赤い簪を買ってからだった。簪の先端には丸いボールが付いているのが常だ。最近ではガラス玉やステンドグラスのような・・・

0

片道切符

16/05/29 コメント:0件 柊木



さあさあ、いらっしゃい。
現代の煩わしい全てのことから解放される旅。
なにもかも棄ててしまいたいそこの貴方様にぴったりですよ。
この旅の出発時間は誰にも分かりません。
ついでに申しますと目的地も分かりません。
さながらミステリーツアーのようでしょう?
あ、わくわくしてきましたね?それはそれは良かった。
だってこの旅は貴方様のためだけに用意さ・・・

0

あかいはいひーる

16/05/28 コメント:0件 ゆい城 美雲

 知らない間に通り過ぎ去ってしまった暖かな季節を必死にかき集めているような、変に湿った空気だった。口をつくごとに出てくる白い息が顔にまとわりついて、頭痛と吐き気を引き起こしている。突如後ろで、細い棒のような隕石が、大気を切り裂いてアスファルトに突き刺さったような、金属的な音がした。頭の中に響くような音だった。わななきながら振り返ると、何てことない、背中におぶされたエシマの赤いハイヒールの片割れが落・・・

1

【豚骨旅行と謎のおんな】

16/05/27 コメント:2件 吉岡 幸一

 ホテルに戻ってくると、見知らぬ女が真っ赤なバラの造花を花瓶に挿していた。
「どちらに行かれていたんですか」
 振り向いた女の笑顔は人懐っこく、とても初めて会ったようではなかった。
「舞鶴公園に行って、福岡城跡を見てきたんです」
「天気が良かったから気持ちよかったでしょう」
 僕は曖昧に頷いた。白いワンピースを着ているところをみるとホテルの従業員のようには見えないし、・・・

2

1996年夏・僕はあなたに会いに行く

16/05/26 コメント:7件 あずみの白馬

――あなたにもうすぐ逢える

 昨夜札幌を出発した夜行快速ミッドナイトは、眩しい朝日の中、かつては青函連絡船が行き交った、潮の香りがする函館駅に滑り込んだ。

 僕は眠い目をこすりつつ、カバンから取り出したミニノートパソコンを携帯電話に接続し、
「おはよう、今日いよいよあえるね」
 と、温子さんにメールした。
(当時の携帯電話は通話しか出来ず、メールするた・・・

1

悲しみ日本海

16/05/25 コメント:0件 かめかめ

 そうだ。冬の日本海が今の私にはぴったりだ。
 涙も枯れた腫れぼったい目を見開く。久しぶりに見たテレビの中では、今まさに刑事が犯人を追い詰めたところだった。海に突き出した崖の上、砕け散る波濤、吹きすさぶ寒風、その中で犯人の独白が始まった。
『愛も、お金も、夢も。あの男は私のすべてを奪い去ったの』
「ああ、わかる。わかるわ。私も同じ」
 思わずテレビの中の犯人に向かって語りか・・・

0

群青色の世界

16/05/24 コメント:0件 ぜな


 ぼんやりと空を見つめていると一人の好青年が店に現れた。黒いスーツに藍色のネクタイと実に誠実な姿に肩に重たそうなボストンバックを下げて、まるでこれから旅立とうとする格好をしていた。
 一通り店内を見渡してからカウンターに一歩近づく。私と目が合うと申し訳がなさそうに眉を下げて苦笑した。彼が言いたいことは分かる。二十年間毎日のように同じものを尋ねてくるのだ。流石に彼から聞かなくても分かっ・・・

0

約束の旅

16/05/23 コメント:1件 ココ

 私は彼と喫茶店にいた。付き合い始めた頃に行きつけだった店だ。
 コーヒーを一口飲んだ彼が突然、からかうような口調で言った。
「ねえ、俺が急にいなくなったらどうする?」
「なんで?」
「いや、なんとなく」
 彼は不思議な人だった。それは今も変わらない。何かを考えていると思ったら、急に突拍子もないことをよく言い出す。尤も、私は彼のそういった要素に惚れたところがある。何か・・・

0

逃避行と呼びますか?

16/05/23 コメント:1件 つけもン

まさゆきは口笛を吹くのを止めた。よく、何か諦めたときや、決心がつくと、急に世の中を達観してるみたい感じがして、気分が楽になって口笛を吹いた。だか、母の言いつけを思い出したからであろうか、

「夜、笛をふくと蛇がでるわよ」

まるでプログラミングされてるかのように、母によく言われたもんだ。小うるさいと思っていたこそ、今となっては、懐かしいものになるというのはご愛嬌みてーな・・・

1

旅人X

16/05/22 コメント:2件 W・アーム・スープレックス

それは和紙でできたハガキだった。
人の温もりが伝わってくるその柔らかな手ざわりが久美は好きだった。彼女はときどき、これまで自分に宛てて届けられたそのハガキを、母親に頼んで一枚一枚、みせてもらうことにしていた。
最初の一通が舞い込んだのは、彼女が難病の筋ジストロフィーで歩くことができなくなったころのことだった。差出人の名はただ、『旅人X』とだけ書かれていた。

―――こんにち・・・

1

古寺の声

16/05/22 コメント:0件 蹴沢缶九郎

昔、ある村のはずれに人がめったに立ち寄らない古寺があった。この古寺に、最近になって妙な噂が持ち上がった。古寺から連日不気味な声が聞こえるというのだ。人々は「妖怪の仕業」や「老いた古だぬきが化かしている」とそれぞれに噂をし、いっそう古寺に近づく者はいなくなった。

ある日の夜、古寺の噂を耳にした一人の旅人が、化け物の正体を見極めてやろうと古寺にやってきた。着くとなるほど、寺の外にいても不・・・

1

クオリア・クローラ

16/05/22 コメント:3件 alone

Updating. Please wait...

「初めまして。私が君の先生だ」
「先生? 一体、何の」
「すべてさ。君という存在に関わる、すべて」
突然現れた存在は僕にそう語る。
いや、突然だったのは僕の方か。僕の意識の発露はほんの数瞬前だ。
「クオリアは知っているかい」
「クオリアはヒトが主観的に体験する『感じ』のこと。その内容は五感や痛覚など・・・

0

初めて出会う大親友。

16/05/21 コメント:0件 れいぃ

 早朝、見ず知らずのそいつと待ち合わせした。
 LINEのIDもメアドも知らないし、電話番号も分かんなかったから、とりあえず、オヤジの遺した手紙にあった住所にハガキ送った。手書きなんてひさしぶり、でも書くことなんて全然ない。相手は知らない奴なんだから。
 単刀直入に、
「先日うちの父が亡くなりました。で、出てきた手紙にあなたのことがありました。俺が死んだら、俺のいちばんの友達の息・・・

6

妖精の旅

16/05/21 コメント:2件 ラズ

 琴子の当初の目的はいまや完全にふきとんだ。
 高校の手芸部である彼女は、さきほどまでは提出課題にとりくんでいた。
 初のフェルト(羊毛)ポーチづくりの参考になるサイトや動画をさがしていたのだ。
 しかしいま、自室のノートPCのディスプレイには妖精が映っている。
 見知らぬ町なみをバックに、つぶらな黒ボタンの目をこちらへむけながら、
「あれが、うちの通っていた学校です・・・

0

森の分かれ道

16/05/20 コメント:0件 蹴沢缶九郎

旅人が森の分かれ道でどちらに進むべきか悩んでいる。別に目的地を決めての旅でもなく、気ままな一人旅なのでどちらの道を行ってもよかったのだが、これも旅の一興と旅人は道を決めあぐねていた。

その時、突然どこからか誰かの歌声が聞こえてきた。

「右だよー右に進もうー ラララ右には幸せがいっぱいー」

歌声のする方を見ると、木の枝に止まっている小鳥が歌っていた。こんな事・・・

5

最終列車

16/05/20 コメント:2件 デヴォン黒桃

  
 シュッシュッシュッシュッ

 何時の間にやら眠りこけていたらしい。車窓から外を眺めると、夕焼空に黒煙が、滲んで溶けて、灰色を薄くばら撒いていた。

 シュッシュッ……ボォォォォォォッ

 蒸気機関車が汽笛を鳴らす。
 
 オンギャア、オンギャア


 若い母親が、泣いて喚く赤子を抱いて、オロオロとしておった。
・・・

1

意地っ張りな君のための旅

16/05/19 コメント:0件 秋澤

「私のために今すぐ死ね。」

「初めてのおねだりがそれって、ハードル高いなあ。」

何の脈絡もなく唐突に「私のために死ねるか。」と愛しの彼女様に問われ、「君が危険に晒されるなら、喜んで。」と返したら、これである。
見る限り、彼女は今命の危機にさらされているようには感じられない。どちらかと言えば彼女に銃を突きつけられているおれの方が危機的状況にある。女社長、部下・・・

0

名も知らぬ旅の同行者

16/05/19 コメント:1件 星野けい


ある日突然その人は現れた。
たいして話をしたわけでもなく、何に惹かれたのかもわからない。
だが、今私はその人と旅をしている。
目的など聞いてもいない、行き先さえも。更に言うと、旅の同行の許可さえ貰っていないし、この人の名前も知らない。
この人も、自分の目的も、行き先も、名前も言わない。
同行は許可された訳ではないが、拒否てもいない。私はそれを都・・・

1

旅は道連れ、世は不可思議

16/05/18 コメント:0件 yoshiki

 カナコは街角を曲がったとき、なにか人の行列ができているので、この近くに新装の店でもでき、安売りでもしているのかと思い、その行列に並ばないまでも様子を確かめようと思った。
 カナコはもともと好奇心が旺盛なので、その列の先頭を探したが、なかなかたどり着かない。それに雰囲気がへんなのだ。スーツケースを持つ者や、地図を持つ者、リュックや帽子の人が多い。
「これって旅行者っぽくない」
 ・・・

2

鉄の旅人

16/05/17 コメント:2件 W・アーム・スープレックス

『鉄の旅人』をみつけたら、あとをつけろ。ただし、迂闊にはちかづくな。
亜郎が、いつも大人たちからきかされている警告を思いだしたのは、無草地帯を夕美といっしょに歩いていたときのことだった。無草地帯は、大人たちから、足をふみいれるなとふだんから釘をさされているところだった。草も生えないほど夥しく汚染されているからだというが、ロボット対人間の戦争がおこったのは亜郎たちが生まれるずっとまえのことだか・・・

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健康の国

16/05/17 コメント:0件 上村夏樹

「ここが健康の国か!」
 入国した若い旅人は感嘆した。
 遠くを見れば、高層ビルが群れをなしてそびえ立っている。旅人が思い描いたとおりの大都会だった。
「なんだあの車! 都会すげぇな!」
 流線形のメタルボディの車が道路を行き交っている。科学技術が高度に発展した国なのだろう。旅人は眼前の光景にかなり興奮しているようだ。
「都会スゲェナ」
 旅人の肩に乗っているオ・・・

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石の旅

16/05/15 コメント:2件 犬飼根古太

 旅をしたことがない。
 自我に目覚めてからずっと、ただの一度もだ。
 おそらくこれからも出来ないのではないだろうか。なぜなら私は、石だからだ。
 流れの速い渓流に、旅人たちに主に利用される橋が架かっている。それを見下ろす崖上に私はずっといる。
 ずっと、という漠然とした感覚でしか石であるため分からない。長い間、目的地に急ぐ旅人や風景を楽しんでのんびり歩く旅行者など、いろい・・・

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自分パンフレット

16/05/15 コメント:0件 安藤みつき

僕は、〇駅で旅行パンフレットが並べられた棚を眺めていた。
ゴールデンウイークを一か月に控えていた僕は、どこか遠くへ旅行に行こうと考えていた。
できれば仕事の疲れを癒せるところがいい。
自然豊かで温泉に入れたら尚更いい。
毎朝仕事へ行くために満員電車に乗り、仕事では営業に出かけては取引先と話す。
そんな毎日にほどほど嫌気が差していた。
旅行先ぐらいは人に会いたくな・・・

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青い空へ

16/05/14 コメント:0件 素元安積

「りっちゃん。そろそろまた旅行に行こうと思ってるんだけど、今年はどこへ行きたい?」

 私は、隣で膝を抱えたリンコに聞いた。
 七年前に私の前に来てくれたリンコは、私の愛おしい一人娘。
 けれど、私はシングルマザーで経済環境が苦しかった。それは、家にいることより職場にいる時間が長かったくらいに。その間、母親代わりになってリンコを育ててくれたのが私の父、リンコのおじいちゃんだ・・・

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目的地まであと10分

16/05/14 コメント:0件 守谷一郎

時計台へ続く長い上り坂の途中、石畳の上で、次の一歩が踏み出せない。
私はもう何度目かの思考を繰り返す。
こうなったのはどうしてか。一体どうするべきなのか。
いくら考えてみても、この状況を打破する時間がいくらも足りない。しかしそれでも、考えずにはいられない。
意味ないことだとわかっていながら、坂の下で偶々寄った時計屋での光景が反芻される。

そうだ、文句を言ってや・・・

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サイコーな一人旅

16/05/13 コメント:2件 つつい つつ

 大学生になり、初めてのGW。僕は前から憧れていた一人旅に出ることにした。ぶらりと知らない場所に訪れて、森や川や自然の景色を堪能したいって思ってたけど、高校生の時は、なかなか泊まりの旅は許してもらえなかった。だけど大学生になり親も国内ならって、許してくれることとなった。
 僕はあえて行き先も決めずに始発の電車に飛び乗り五時間後、昼前には来たこともない田舎町に降り立った。リュックひとつに寝袋を・・・

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goukaな彼

16/05/13 コメント:0件 阿部藤

「どうぞありのままに生きてください。あなたはもうそれだけで輝いていますから。」

夏らしく風鈴の絵柄の入った水色の便箋。冷房の効き過ぎたスーパーのステーショナリーの古びれた棚から選んだのか。どこのブランドでもありやしない、子ども同士でも大人同士でも送り合わない、かもめ〜るみたいな、平坦な夏の便箋。私の為にわざわざ選んだのだろうか。

情けない。ファンレターみたいなものは本当・・・

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蟻地獄

16/05/13 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

稲光に引き裂かれた黒雲から、あふれでた雨が大地にふりしきるなかを、俊之はいっさんにかけつづけた。雷鳴がしだいに接近しつつあるのも不気味だった。
まともに目もあけられないような雨に抗って彼が、しゃにむに走りつづけていると、前方に家らしい灯りが認められた。奥深い山中、ほとんど民家らしい建物などみかけなかっただけに、助けに船とばかり俊之はさらに速度をはやめた。
大きな屋敷だった。住人などいな・・・

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映画『2001年宇宙の旅』について

16/05/13 コメント:2件 yoshiki

 旅で何か書けないかと思っていたら、記憶が自動的に2001年を思い起こした。大好きな映画だから。知らない方の為に、少しだけ情報提供すると、原作者アーサーCクラークはSF作家で「幼年期の終わり」が代表作。映画版はスタンリー・キューブリックが監督・脚本を担当し、1968年公開された。1968年というと米ソ冷戦真っただ中だし、人類まだ月に行ってないのよ。
 その時に私はまだ中学生だった(歳がばれる・・・

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プラチナの片道切符

16/05/12 コメント:2件 天野ゆうり


「今日は、天気がいいね」

夕飯を食べたあと、彼がポツリと呟いた。
夕暮れから藍色に空が変わりゆく時間。
食器を洗い終え、私もベランダの外へ視線を向けた。

私と彼とは、2年の付き合いだ。
同棲しはじめて半年が経つ。

そろそろ一緒になりたい、なんて思っていても、口には出せないまま今日に至っていた。

このまま、ずっと馴れ合・・・

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南下する中二病患者

16/05/11 コメント:4件 にぽっくめいきんぐ

 宮城在住、中二の僕が、初の単独南下を行う、1ヶ月程前の事。

 とあるTVアニメの劇場版試写会が、東京の九段下で行われるという情報が入った。
 当時は、ネットも携帯も、PHSやポケベルもなかった。通信手段は家電話だけ。
 友達から借りたマンガ雑誌に広告が載ってたんだ。
 現役の中二病全開のオタクだった僕は、これに食いついた。

 その作品を最初に知ったの・・・

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旅に出てみませんか

16/05/11 コメント:0件 窓際

「僕と一緒に旅に出てみませんか?」

唐突な発言に彼女は目を丸くしている。

「また明日来ますその時返事を下さい」

そう言うと彼女は少し戸惑いながら笑顔で頷いた。

彼女と出会ったのは半年前のことだった。
最初の印象はあまり良いものではなかった。
彼女の僕に対する警戒心と不信感は僕に直接突き刺さるような鋭さで、僕は少し気分が悪かった。<・・・

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マイウェイ

16/05/09 コメント:0件 希咲 海

 娘がまだ小学五年生のとき、初めて連れて行った博物館でティラノサウルスの模型を見た事がきっかけだと思っている。あの時のひまわりのように明るい笑顔はあれから六年経った今でも脳裏に焼き付いていた。いつかそれを言い出すのではないか……と心の準備をしていたにも関わらず、いざそれを言われてしまうと僅かながら動揺してしまう。
「私、栃木にいきたい」
 語気を強めて言い切ったその言葉。詳しく話をきく・・・

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ポイントオブノーリターン

16/05/09 コメント:0件 アトウダ健

 電車に揺られている間、風景が徐々に都心から離れていく様子をしばらく楽しんだが、先の事を思うと、温かい春の日差しとは対照的に気持ちは沈んでいった。小気味よく電車は進んでいくにつれ、いよいよ襲ってくる眠気とは裏腹に頭のほとんどを埋め尽くす心配の種が、僕の心をいたずらに刺し続ける。東久留米を過ぎる頃には、この逃避行にほとんど意味を見いだせなくなっていた。どこまで進もうが彼らには終点があり、あるいは跳ね・・・

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2人旅

16/05/09 コメント:0件 ポテトチップス

「メシはまだか?」ベッドに横たわったまま、顔だけ向けて幸彦が言った。
「父ちゃん、メシは10分前に食ったばかりだろ」和樹は、街中でもらった無料求人誌に顔を戻しながら言った。
「そうか、メシは食ったばかりか。父ちゃん、頭がバカになってきてるから、和樹に迷惑ばかりかけて申し訳ないな。父ちゃんなんか、早く死んだ方がいいんだ」
今年87歳を迎えた幸彦の口癖である、父ちゃんなんか、早く死ん・・・

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見捨てるのはよくないです

16/05/09 コメント:0件 戸松有葉

 仲間が全員死んでしまったので、勇者は一人旅を続けている。
 そんな道中、倒れて苦しんでいる――ように見える少女がいた。
「うう、あたしがあんな魔物にやられるなんて」
 親切にも現状を説明してくれた。
 無視して旅を続ける。
「なっ! ちょっと待ちなさいよ!」
「……なんだ、元気じゃないか」
 少女は抗議と共に、起き上がってもいる。元気そうだ。
「あ・・・

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ビール瓶の中の美女

16/05/09 コメント:0件 笛地静恵

 今夜は寒い。いや、ダンボールの家に、入れてもろえた。ワンカップまで、ご馳走になった。あたたかい。えらい世話になった。
 最近、こんなに親切にされたことはない。お礼に、むかし話を聞かせよう。まだ夜は長い。日が明けるまでは、わしは眠らない。まあ、いろいろとあっての。独り言だと思って聞き流してほしい。
 ご覧のように、わしの持ち物といえば、このビール瓶一本だけじゃ。
 人の目のないあ・・・

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石垣くん、インドを旅する

16/05/09 コメント:0件 Fujiki

 石垣くんは黙ってさえいれば美男子だと思う。背は高く、顔の作りも整っている。彼の薄い茶色の虹彩は日光の下で金色に見える。本人は目の色を気にしているのか、外ではサングラスをかけることが多い。せっかくのきれいな瞳がもったいないと僕は言ったのだけど、聞く耳を持つ気配はないようだ。
 最初に知り合った場所は桜坂のゲイバー、彼はカウンターの端の席で壁に体を向けるように座っていた。マスターとは知り合いら・・・

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