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  2. 第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】

第六十回 時空モノガタリ文学賞【 涙 】

今回のテーマは【涙】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2014/08/16

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は2〜3作品程度とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2014/06/16〜2014/07/14
投稿数 59 件
賞金 時空モノガタリ賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数
総評

入賞した作品

6

泣く真珠

14/07/13 コメント:10件 そらの珊瑚

 生まれたときから、わたくしには左右の目玉がありません。
 あるべきものがない其処は、ただの小さな空洞。
 
 ――何の因果だろう。あまりにも哀れだと嘆いた父は、南洋の海で採れたというそれは上等な天然の黒真珠を取り寄せ、わたくしのその空洞へ埋め込ませたということです。
 とはいえ、それが本当の目玉になるわけはございません。
 もとより視神経や血管、角膜などはないのです・・・

1

はつこひ

14/06/21 コメント:4件 カシヨ

 村はずれの神社はすっかりさびれ、お供えはおろかお参りに来る人もほとんどいない。 祠の柱に体を預け、じっと息を殺す。足場の悪い山中をやみくもに走ったせいだろう。痛めた足首を押さえながら、ぎゅっと目を閉じるお通は、もうずいぶん長いこと闇の中にあった。
 ふいに名を呼ばれて顔を上げると、心配そうな面持ちの男が立っていた。
「……吾助」
「心配したっちゃ。明日は祝言ちゅうのに、花嫁がお・・・

8

淵の底の泥と月

14/06/17 コメント:11件 クナリ

高校一年生の夏、私が髪をばっさり切った時、周りの誰もそれを話題にしなかった。
母にはそんな余裕がなかったし、父は警察に連れて行かれてもういない。
高校でも、春先に父が起こした事件の報道を受けて、私はクラスの汚物として扱われていた。
豊かな社交性が自慢だった母は、今では小さく背中を丸め、蚤の様に暮らしていた。少し禿げた気がする。
私は私で、中学の時の友達に電話するのさえ、人に・・・

最終選考作品

7

Mermaid Tears

14/07/14 コメント:6件 ナポレオン

国内最大の養殖真珠メーカー「CReeL」。世界各地の自社養殖場で製造されるCReeLの真珠は創業以来、世界中の女性たちに愛されてきた。中でも「マーメイド・ティアーズ」と呼ばれる純白に輝く大粒の真珠はこの世のものとは思えない美しさからすべての女性にとって憧れの的であった。そんなマーメイド・ティアーズだがどんな貝を使ってどのように生産されているかを知る者はほとんどいない。そのため、あれは本物の人魚の涙・・・

6

涙巻き ねたましいのは猫の恋

14/07/14 コメント:8件 そらの珊瑚

 いつもは静かな夕暮れの横丁が、今晩は騒がしい。
 
 ――猫の恋。
 桜の花が狂わすのは人間の心だけじゃなさそうだ。毎年この時期になると猫もさかりがつく。
 ぎゃあおうぅ。ぐえええー。何匹かののすさまじい声色が重なり合う。
 まったく恋に浮かれている声とは思えない、喧嘩だろ、ありゃ。どんでもねえ、わめきっぷりじゃんか。
 おおかた雌猫をめぐってオス同士が敵意む・・・

2

留守番

14/07/11 コメント:4件 山中

 軽快な音楽が耳に届くと、カーテンの隙間から差し込んだ陽射しがまぶたに触れて、俺は目を覚ました。時計の針は十二時をさしている。ふらふらと起き上がり鳴り続ける携帯を手にして通話ボタンを押した。
「もしもし和博?これから出掛けるから子供達見ててくれない?」
 悪びれた様子もなく、姉は用件だけを伝え電話を切った。姉は用事ができると俺を呼び付け、当たり前のように子供達の面倒を押し付ける。す・・・

4

水色のピアス

14/06/30 コメント:8件 黒糖ロール

 瑠衣にとってのピアスは、やっぱり感情の塊なのだ。無表情な瑠衣の顔を見つめながら、そう感じた。
 左耳に三つ、右耳に五つ、ある。仲良くなってから知った数だ。
 人が親しくなるにつれ、教えあう数字が増えてくる。家族の人数、年齢、経験人数、身長、体重……。まあ、生まれたときからあいてる穴の数は聞かなくてもわかるが、と下品なオチを考えていると、
「今、エロいこと考えてる」
 ぶっ・・・

2

最後の産声

14/06/27 コメント:2件 三条杏樹

母の息子として生まれてから、この人のそばで気を抜いた試しがない。母は十九歳で私を産み、女手ひとつで育ててきた。

「あんたが、あたし似でよかった。父親に似てたらとっくに捨ててる」

よくそう言っていた。
私は母の言葉に逐一相槌を打たなければ、激しく責め立てられることを分かっていた。母は私の人格を否定し、、今すぐにでもドブに捨ててやると言い放つ。

しかし私・・・

0

花火

14/06/22 コメント:1件 奈良春水

 ドォーーン。
 私は二階のベランダから花火を見ている。
 今日は8月15日。
 この日に私が住む地域で上げられる幾多の花火は、もともと戦争で亡くなった人を弔うために始まったものらしい。でも、今では亡くなったすべての人が対象になっている。お盆をそれぞれの家で過ごし、そして今日、花火に導かれて天国へ帰っていく。
 さっきから、1階では両親と一人の男の人が話している。
 ・・・

投稿済みの記事一覧

1

透明の願望

14/07/14 コメント:2件 タック

 これで、終わり。これで、ぜんぶ終わったわよ。アナシア。

……きついとか、ない? おかしかったら、言ってね?……ふふ、だいじょうぶ? いい子ね、アナシア。さすがは、ママの娘だわ。ママに似て、とってもお利口さん。これで、だれがどこから見ても、おかしいなんて言わない、素敵なお顔よ。自信もって、みんなの前に出られるわ、アナシア。
 みんな、きっとビックリするわよ。こんなにかわいい子が・・・

4

振り返った少女は

14/07/15 コメント:6件 四島トイ

 防波堤の先には鉛色の海が続いている。空は薄い雲に霞み、遠景に見えるはずの島々も身を潜めるように影が揺らめくだけだった。水平線は消失し、海と空の境は判然としなかった。
 軽自動車一台分ほど幅のコンクリートの道を少女が歩く。湿り気を帯びた風が右へ左へと髪と半袖を揺らした。
 防波堤の先端で彼女は立ち止まる。遠い視線。ふと肩が跳ねる。踵を軸にくるりと体が回る。
 振り返った彼女は。<・・・

1

萬屋〜不要なモノお売り下さい〜

14/07/14 コメント:0件 ゆえ

30XX年。
そこには二つの人類が存在していた。

「normal human」(nh型)と「non crying human」(nch)型だ。
度重なる環境汚染や、天災が多く起きた世界は人間を変えてしまった。
nch型はその名前通り、泣く事を忘れてしまった人達ーーすなわち涙が出ない人々だった。感情表現もnh型に比べると乏しかった。
政府はnch型には生まれてす・・・

1

涙いろいろ

14/07/14 コメント:0件 たつみ

――ねぇ、そんなにガチガチで大丈夫なの?
 最終ホールのグリーン上でパターを構える桜木翔太の体はガチガチである。このパットを決めれば、ツアー初優勝なのだから、そうなるのも当然といえば当然なのだが、それにしても緊張しすぎである。
――君は置き物か!
 固まったまま動かない。
 彼は大学卒業後プロになって6年目のプロゴルファーである。これまでツアー優勝こそしていないが、実力がな・・・

1

涙が枯れるまで

14/07/14 コメント:2件 汐月夜空

 汚い、と思った。
 額に滲む汗も、繋いだ口から滴る涎も。
 そう思ったら、もう無理だった。
 決定的な出来事なんかなかった。
 だから、悪いのは私だ。沢木、あなたじゃない。
「沙良」
 沢木が不思議そうに私の名を呼んだ。あなたを振り払った女の名を。
 おずおずと彼の手が伸びてくる。否定しないでくれ、と聞こえるような慎重さで。
「ごめんなさい」

6

MALADROIT

14/07/13 コメント:6件 光石七

 朝教室に入ると、クラスメイトの視線が私に集まった。
「ひより、その髪どうしたの?」
聞かれて当然だろう。ロングで通してきた私が突然ショートになったのだから。
「ただのイメチェン、気分転換。いい加減鬱陶しかったし」
用意していた答えを返す。
「だけど、今まで切っても整えるくらいで短くしたこと無かったじゃん。もしかして失恋?」
「まさかあ。ひよりのキャラじゃないで・・・

5

子供心の一コマ

14/07/12 コメント:10件 gokui

 家を出るのがだいぶ遅くなってしまった。可奈が二階の子供部屋の荷造りをするというので、もちろん手伝うと言って日曜日の予定を空けておいたのに、どうやら大幅に遅刻することになる。二階に上がってみると、もうほとんど荷物は段ボール箱に納められていて、きれいに片付いた勉強机と、その上に置かれた赤いランドセル、裸にされたベッドだけが段ボール箱に収まりきらずに姿を見せているだけだった。学校帰り、毎日上がり込んで・・・

8

あいつとあたし

14/07/12 コメント:10件 草愛やし美

 あいつ、剛太郎は、幼稚園からほんと泣き虫だった。ちょっとしたことでビービー泣くもんだから手に負えない。引っ越して来た家が近所だっていうだけで、一緒に通学することになったけど、道に出たとたんにビクっとしてもう泣き顔だ。
「とかげは何もしないってば」
「だってぇ……」 
 都会から電車でほんの二時間ちょっとの漁港のあるこの田舎町。あたし、灯(あかり)の家も、漁業で生計を立てている。・・・

0

夢と涙と青い空

14/07/12 コメント:0件 佳麓

 物心ついた時からの夢。
 男は空へと舞い上がった。
 遥かなる空から見下ろした風景は、男が幾度も想像した景色とは比べものにならないほど美しかった。地上から解放された楽園に漂いながら、感情が窮まってしまった男は、人目のない空で大泣きした。生まれ落ちた瞬間でさえ、ここまで泣かなかっただろうと言う程泣いた。
 悲しい。
 男の心の中に充ち満ちている悲しみ。
 大声を上げて・・・

10

バスツアー

14/07/12 コメント:11件 泡沫恋歌

母ちゃんと二人で旅に出る。
鞄に歯ブラシ、着替え、旅行の日程表と、最後にわくわくを詰めて、チャックを閉める。
「母ちゃん、出掛けるよ」
いつも、先に起きてるくせに、いざ出掛けるとなると、あれがない、これがないと慌てる困った母ちゃん。

バスツアーの集合場所に出発ギリギリに駆け込んだ。
先に乗り込んでいた乗客の皆さんに「ゴメンなさい」と謝りながら、私たちは座席に着・・・

2

少女の光、光の道

14/07/11 コメント:5件 タック

暗く、深い、底のない、
濃密な、真性の闇だった。
そのなかで少女は立ちすくみ、
体を抱いて、震えるばかりだった。

周りはすべて漆黒に包まれ、
温度のない冷たさに覆われ、
音も聞こえず、目標物も光もなく、
刺すような孤独感が皮膚にたやすく触れてくる、

しめつけられる自責の念に、
闇は闇以上に闇らしくうつり、
痛む目はいまにも・・・

1

暖かい涙

14/07/11 コメント:2件 イノウエヒロト

「だから私のせいじゃないでしょ!」
「お前はそんなこと言わなかっただろうがッ!」
 結婚して5年。近頃はこんな日常が続き、私と俊夫は次第に心が離れていくのを感じた。こんなはずじゃなかった……。私は彼と結婚するまでは、何もかもが楽しくて、どんな困難も乗り切れるものだと思っていたのだけれど……。

 突然私の携帯電話に一本の着信が来たのは8時過ぎだった。登録されていない電話番号・・・

0

涙色の紫

14/07/11 コメント:0件 村咲アリミエ

 旅人のリクは、とある老人の絵を見るため、定期的に彼のアトリエを訪れていた。
 何度も見た絵だったが、その絵を前にしたその瞬間、身体中に鳥肌が立った。
「ああ……ほんと、俺、いろんな国に行って、いろんな紫色を見てきたけど、やっぱり親父の描いた紫色が一番綺麗だよ」
「ありがとよ」
 老人はふ、と小さく笑うと「なあ、この絵のタイトル、覚えてるか」とリクに尋ねた。
「涙の少・・・

0

泣く男

14/07/10 コメント:0件 リアルコバ

「阿佐ヶ谷でも散策しよう」
それは何気ない土曜の提案であった。昔自分が住んでいた街を七海に見せたかっただけの事だ。
「なんか面白いね、下町の様でチョッとお洒落で」
七海は初めて見る街に興味津々で夕暮れを迎えた。
「あれ?この店まだあったんだ」
そこは古い映画や演劇のポスターが雑に貼られた店名すら出ていない喫茶店。
「俺、昔一度入ったことあるよ此処」

5

メアリーという女

14/07/09 コメント:8件 そらの珊瑚

  【古今東西、女の涙というものは武器である。もちろん例外もあるのだが】
                   気象博士レイニーチェルネンコの言葉より引用


「あなたはあの女の涙に騙されているだけなのよ。ジョン」
 ――結婚の約束までしたジョンが、私のもとを去ろうとしている。
 嫌だ! そんなの絶対許さないんだから。
 
 メアリーは負けん気が強い・・・

7

嘘泣き女

14/07/08 コメント:10件 泡沫恋歌

今から、みなさんに嘘泣き女の話をしましょう。

名前は篠田文奈(しのだ あやな)職業は女優のたまご? いいえ、結婚詐欺師というのが本業でしょうか。
美しい容貌(美容整形)とスタイル、巧みな話術で男性の心を掴み、結婚を餌に大金を貢がせるのが彼女のビジネスでした。
文奈は男たちに貢がせたお金で高層マンションに住み、外車を乗り回し、高級ブランド品で身を飾り、ギャンブルや海外旅行で・・・

0

怒の涙

14/07/07 コメント:0件 たにくん

 ある一人の男が捕まった。数ヶ月に渡り10数人もの人の命を奪った最悪の殺人鬼だ。私はその男をずっと追っていた雑誌記者だ。その男が捕まった時、新聞や雑誌類はもちろん、テレビにも大きく取り上げられた。
当然私たちも記事にした。しかしどこも似たり寄ったりで面白くない、独占スクープがなかったのだ。ずっと追ってきただけにガクンと気が抜けてしまった。
彼が捕まって数日後の夜だった。
・・・

7

もうひとつの天の川

14/07/07 コメント:9件 草愛やし美

「かあ……たん……」
 虚ろな母の目に、四歳の娘は映らず、再び名を呼ぼうとした小さな声は夜の闇に消えた。梅雨明け前の七夕は雨が多い。だけど、その日は珍しく月の綺麗な夜だった。月の光が、青白い母の横顔を優しく照らす。
 その日、夏奈が、保育園で貰った小さな笹飾りが、ザワッと揺れた。母の手は颯音のか細い首に回され力が込められていた。苦しさにもがき空を切る幼い手が、壁際に持たせかけてあった笹・・・

0

切なき呪縛

14/07/06 コメント:0件 たつみ

小学2年生の大輔に父はいない。母は……。
3ヶ月前、大輔は肺炎と喘息で入院していた。
体調が安定した頃、ベッドに横たわる彼に母親は「ちょっと仕事場に行ってくるね」と声をかけた。
それに対し大輔は泣いてぐずった。
普段なら、仕事に行く母を、彼は笑顔で見送っていた。本当は寂しかったとしても。
だけど今は、病気で心細くなり、無理矢理抑え込んでいた素直な幼な心≠ェ顔をだして・・・

2

可哀想な男

14/07/05 コメント:4件 さがみの

 大学時代の友人が今の仕事を辞め、どこかの田舎でひっそりと暮らすという。私はその言葉を聞いて、その晩は彼とお酒を飲むことにしたのだった。

 半年まえのこと、彼は私にあることを頼み込みにきた。
「君の会社で受けもっているA社の融資を打ち切ってほしい。これは個人的感情からのものだし、君にも君の会社にも迷惑をかけることはわかっているけれど、どうかこれで納得して欲しい」
 彼が持・・・

2

寒い日になったら、きっと

14/07/05 コメント:4件 坂井K

 目の前の道に穴がある。何かを入れてみたくなる。僕はポケットに手を入れて、何かないかと探り出す。ティッシュにハンカチ、定期券。あの子と撮ったプリクラ一枚……。

――彼女に告白されたのは、高校二年の秋だった。「サカイくん。私と付き合ってくれる?」廊下で擦れ違ったとき、いきなり言われて驚いた。「いいけど、どこに?」告白だとは気付かずに、間抜けな返事をしたものだ。「そうだねえ。学校の行き帰・・・

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人魚の泪

14/07/03 コメント:0件 まつおそら

その娘産まれながらに両の足不自由なれば十にして歩くこと儘ならず、耳患いて人話す声聞けずしゃべることあたわず、人の目届かぬ奥の室にて囲われたり。
ある春先のころ。娘の父、我子人魚の先祖返りにてその泪万病を治すなりと触れ回り人を集めては娘に会わせし。
両の足動かぬはもともと尾ヒレであり二股分れてはかってわからずして、人としゃべれぬは鰓なきゆえに是もまたかってわからずといえり。
娘の父・・・

0

涙を止めるために

14/07/02 コメント:0件 地ー3

 あの日,父が死んだ。川で溺れかけた僕を助けようとして自らを犠牲にしたのだ。
 葬儀の時、母が泣いた。妹が泣いた。そして、僕も泣いた。そして、涙とともに決意した。誰も涙を流して欲しくない、誰かを助けることが出来る人間になろうと。
 そして、月日が流れた。

「これは……籠手、でしょうか?」
「どうやらそのようですね」
 達彦は装飾が施された籠手を拾い上げながら問・・・

2

My Sacrifice

14/07/02 コメント:5件 滝沢朱音

僕は素知らぬ顔で、死体になった彼女を見つめた。目尻を伝うその涙は相変わらず美しかった――


「それ、興味ある?」
背後の声にあわてて僕は振り返った。
「あ、天野さん」
天野美月。話したことすらないこの同級生のフルネームを、僕は余裕で知っていた。この中学に入学してまもなく、僕は友達と一緒に別のクラスまで彼女を見にいったことがある。
有名な監督か誰かが言って・・・

4

青春の熱病

14/07/02 コメント:7件 ナポレオン

それはひどく暑い真夏の夜のことだった。
僕は、その日もなかなか寝付けずにいた。田んぼや畑ばかりのこの小さな町では、夜になると虫やカエルの声だけが聞こえていた。やがて寝ることをあきらめた僕は布団から出て着替えを済ませると、静かに玄関の戸を開けた。寝付けない夜は、いつもこうして突然外に出てはふらふらと当てもなく町をさまようのであった。とはいってもこんな熱帯夜では涼みにもならない。真っ暗な道を歩く・・・

0

いっとき

14/07/01 コメント:0件 

 母の遺影の前で手を合わせている青年がいる。供え物もかかしていないようで、仏間はきれいに掃除されていた。ただ、彼の母の遺影は笑っていなかった。
 青年はとある料理店で料理長をしている、今より若い頃から修行を積み、確かな料理技能を習得して今の地位を得ることができた。
 仕事で腕を振るった、ある日。青年は仕事の帰り道にシルクハットの老人とすれ違った。
 ただすれ違っただけではない、老・・・

1

知らんぷりの海

14/07/01 コメント:2件 みや

「お姉ちゃん、背比べしよう」
「いいけど、私に勝つなんて百万年早いよ」

二人は笑いながら海を見つめている。毎年家族四人で訪れていたこの海を。

「お姉ちゃん、本当にお父さんの所に行くの?私、お姉ちゃんとずっと一緒にいたい。お母さんと私とお姉ちゃんの三人がいい」
「私がお母さんの所に行ったらお父さん一人になるじゃない。どうしようもない頼りないお父さんだけど、一人・・・

2

GOOD LUCK!

14/07/01 コメント:5件 メラ

 涙を流したのなんていつ以来だろう?私の心はすっかり冷え切っていたのか、少なくともここ数年は、涙を流すことなんてなかった。
 私はふと思い出したように、ネパールに一人旅をした時の写真を手に取り、涙を流していた。
 一年間付き合ったしていた男に振られた時も、叔母が亡くなった時も、話題の映画を観に行った時も。感動したり、悲しかったり、悔しさに打ちのめされたりもしたけど、涙は出なかった。ちな・・・

0

ブランコ

14/07/01 コメント:0件 小岩井豊

 塾の帰りに寄り道をして、公園に立ち寄った。
 見ると、男の子がブランコに揺られて遊んでいた。男の子といっても、別に、幼い男の子というわけではなかった。暗くてよくわからなかったけれど、たぶん、私と同世代くらいの男の子だった。
 私はブランコに近づいた。男の子が揺れるのを止めて、じっと私を見つめた。あいかわらず、暗くて表情がわからなかった。寒い夜だったので、彼の薄く開いた口から、細く白い・・・

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第2話 赤い果実ティア  魔九志夢(まくしむ)のアド・ミス物語

14/06/30 コメント:6件 鮎風 遊

 20歳の時、帰郷した私に、祖父の妖風魔九志夢(ようふうまくしむ)がアド・ミス物語の第1話を話してくれました。それを終え、「楼恋巣(ろうれんす)、この果物を食べてごらん」と手の平に赤い果実を乗せてくれました。
「おじいちゃん、これプラム?」と尋ね、歯の先でちょっぴり囓ってみました。すると甘酸っぱくて、思わず身体がキュンと。こんな反応に祖父はニコリと笑い、「ティアという果物だよ」と教えてくれま・・・

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君に会えたら

14/06/29 コメント:0件 てね

なんだかモヤモヤとした小さな世界。そこでさっき、私は生まれた。
私はまだぼんやりとした存在だけど、やるべきことはなんとなくわかってる。

よし、私を生み出してくれた君にさっそく会いに行こう。はやく君に、伝えたいことがあるんだ。

私は君の側に来て、ドキドキしながらこっちを振り返るのを待った。
でもどうしてだろう?君は私にちっとも気づいてくれない。呼びかけてみても・・・

0

氷の妖精

14/06/28 コメント:0件 yoshiki

 冷たくそそり立つ氷壁にトムと言う青年の姿がありました。ある時、山を愛するトムは足を滑らせ、クレバスに転落してしまいました。しかも直後に雪崩が起こってパーティの誰もトムを助ける事が出来ませんでした。薄れゆく意識の中でトムはもう終わりだと思いました。
 けれども、トムが気付くと目の前に美しい少女がいました。一瞬トムは自分はもう死んで天国にいるのかと思いました。でも少女がトムを見つめています。少・・・

0

乙女の涙とカエルの王子

14/06/28 コメント:0件 裃左右

王様は、髭を蓄えた薄汚いローブの老人に尋ねた。

「魔法使い殿、カエルにされた王子を……元の姿に戻すにはどうしたらいいのだろうか?」

老人は重々しく答えた。

「清らかな乙女の涙がその呪いを解くであろう」

当事者であるアルフォンス王子、つまり僕からしてみればそれが事件の始まり。
蛙になったことなんかそれと比べたら些細な問題だ。
本当に・・・

0

ゆりかごの歌

14/06/28 コメント:0件 裃左右

ひどく疲れた。
弱音を吐くことも出来なければ、安らぎを得ることも出来ない。
心から信頼した人間は、必ず離れていく。
愛情を口にした女性は、必ず言質を翻す。

「最後までやり遂げると約束しただろう」

友人が誘ってきた一大計画。
俺は熱心にそのために資格を取り、資金をかき集め準備を進めた。

「この日のために俺が何年準備してきたか、わかって・・・

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誇りを胸に

14/06/28 コメント:0件 北村ゆうき



「さあ、9回裏、2アウト満塁。
カウント2ボール2ストライク。
得点は現在3-2。
ヒットで同点。
もし、長打が出れば逆転サヨナラの場面です。
ピッチャーはサインに2度首を振りました。
3度目に軽く頷いた。
さぁ、勝負の一球。
振りかぶって、投げました!」


「後半44分に差し掛かろうとしています。
残り時間・・・

1

人生最期の言葉

14/06/28 コメント:0件 STAYFREE

「人生最期の言葉集」

何気なく立ち寄った古本屋で僕はこんなタイトルの本をみつけた。
本を開いてみると、多くの人の人生最期の言葉が1ページに一文ずつ記されていた。


「今までありがとう」

「本当に楽しかった」

「幸せだったよ」

「ごめんね」

「コーヒーが飲みたい」

「もっと……」
・・・

0

涙をちょうだい

14/06/27 コメント:1件 きまねこ

なんてことはない、事の始まりは私のこんな感想からだった。
――泣いてみたい。
まさか自分がこんなことを思う日が来るなんて思ってもいなかった。
テレビの中で眼球から塩水を流す人間を見つめては、どうしてあんなものが体内から分泌されるのだろうと不思議に思っていたのが随分と遠い日のように感じられる。
私は生まれてこのかた涙を流したことが無い。
別に必要なものではないし、小説な・・・

0

暗い暗い

14/06/27 コメント:0件 更地

 気が付いたら真っ暗な空間に立っていた。あまりに真っ暗なので、周りに何があるのか、ここがどこであるのかすら分からない。少し気味が悪い。しかし部屋の中などではないらしく、時折涼しい風が吹いて頬を撫でた。何故このようなことになっているのかてんで分からない。
 分からないなりに何とかしようと思い、とりあえず歩くことにした。何も見えないからおのずと歩みは慎重になる。一歩歩くたびに砂を踏むような感触が・・・

0

ひな鳥の涙

14/06/27 コメント:0件 北村ゆうき

「我が社の短期バイトの面接に来てくれて、まずはありがとう。」
貫録のある大きな体をソファに沈め、
社長は履歴書と目の前で立っている細身の青年を見比べながら、
右手に持っていた煙草を灰皿に投げ入れた。
「はい、宜しくお願いします!」
一度、深く頭を下げた青年の顔は明らかに緊張で強張っている。
「うちはライン作業だから、1人がその流れに遅れると全てに影響してしまうん・・・

1

ナミダブクロハマダラカ

14/06/25 コメント:2件 五助

「博士ー」
「どうした」
「かゆいよー、蚊にかまれた。お薬塗って」
「つばでも塗っとけば良いよ」
「ばっちい、なんかないのー」
「かけば良いじゃないか。かゆいんだったら」
「そう言うんじゃなくて、裏ワザ的なものー」
「ないね。蚊にかまれた、かゆみは、ほっとけば消えるものだから、何しても一緒だと思うよ。何か他のことでも考えたら」
「身も蓋もないよー。蚊・・・

4

オシドリ夫婦の涙 ── 刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)

14/06/25 コメント:6件 鮎風 遊

「夫の蒼々(そうそう)が殺されるなんて…」
 喪服姿の女優、空恋慕(そられんぼ)が記者団を前にして言葉を詰まらせた。そしてハラハラと零れ落ちる涙、それが止まらない。それでも辛辣な質問が続く。
「蒼々さんが殺害された時間帯に、マンションに出入りした女性が防犯カメラに映ってたとか。その方は蒼々さんの愛人のようですね、ご存じでしたか?」
 こんな問いに対しても、さすが大女優、シャキッと・・・

1

頬に涙の一滴

14/06/25 コメント:2件 FRIDAY

 大道芸通り、と呼称される大路がある。
 その名の通り、年間を通して世界中から集った芸人たちが種々様々な芸を披露する、観光名所にもなっている大通りだ。
 今日もまた、いつもと同じように数多くの道化師たちが踊っている。
 その、一角。
 ボールが、落下の音を連続させた。
 跳ねたボールは、その持ち主を見物していた少年らの足元に向かっていく。
「……へったくそだなあ・・・

1

一番星

14/06/24 コメント:2件 清野

「リリー、これはね、血でできているの」
 緋色のカメオを見つめる、おばさまのうっとりとした眼差し。私はおばさまの審美眼を讃えて同意する。「なんて、深くて、きれいなお色」と。
 病弱な私に与えられた、お屋敷でいちばん風通しの良いお部屋。羽毛がたっぷり詰まったピロウ、絹のネグリジェ、レースのカーディガン、上質な紙の手触りとインクのにおい、寝台から見える景色、そして、おばさま。それが私の世界・・・

2

『The Spy Who Loved Me』

14/06/23 コメント:5件 

「覚悟って?」
 和田が尋ねると、亮介は真顔で答えた。
「思いついた。このバンドをプロデュースする」
「えっ」
 他の三人は驚き、息を呑んだ。
「和田、おまえ確か、就職しないんだったよな」
「あぁ、親父の学習塾をぼちぼち継ぐ感じですね」
「卒論は」
「わりとユルいゼミなんで、まぁなんとか」
「そうか」
 亮介は頷くと、今度は皐羽と鹿野の方・・・

0

思春期は苦い

14/06/21 コメント:0件 ポテトチップス

スタートライン  海援隊
            作詞 武田鉄也  作曲 千葉和臣

夜明け前の薄暗い道を 
誰かがもう走っている
ひろった小石で誰かが書いた
アスファルト道のスタートライン
寒い身体を言い訳にして
町は眠ってる曇り空の朝に
自分の汗で自分を暖めて
寂しさ目指して走る人がいる
今 私達に大切なものは
夢や恋を語・・・

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間違い電話

14/06/19 コメント:1件 五助

 電話口から女の泣き声が聞こえた。ずいぶん派手に泣いているのか、ぽとぽと涙が落ちる音が聞こえる。
「どうしてなの、急に別れるってどういうことなの!」
 間違い電話ですよ。と言おうとしたが、知らない女の剣幕とその内容に躊躇してしまった。
「奥さんにばれたってどういうこと、奥さんとは別れるって、あなた言ってたじゃない」
 どうやら不倫関係にあった男から、奥さんにばれたからと、一・・・

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取引

14/06/17 コメント:3件 山盛りポテト

「やあ、俺は悪魔だお譲ちゃん。なんでこんな夜中に外をうろついてる」
「ママは私を叱ってばかりいるの。悲しくなって家を飛び出したのよ」
「そうかいそうかい。じゃあ俺がなんとかしてやろう」
「本当?嬉しいわ!」
「ああ、でも条件があるんだ」
一瞬、悪魔の目元がキラリと光ったような気がして、女の子は身震いした。
「条件ってなあに?魂をあげるならいやよ」
「いまど・・・

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北のくの一涙剣

14/06/16 コメント:5件 W・アーム・スープレックス

 一面雪の中に白装束ときては、小弥太の眼力をもってしても、容易には見定め難かった。
 どこから手裏剣がとんでくるかもしれず、伊賀の忍びの中でも選りすぐりの小弥太といえども、しばらくは立ち往生を余儀なくされた。
 が、さすがに小弥太、覆面の隙間からのぞく浅黒い顔を手裏剣の標的と決めると、あとはそこをめがけて投げれば、次々に悲鳴が上った。
 昨日、服部半蔵の命を受けて小弥太はこの、雪・・・

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14/06/16 コメント:7件 ぴーち姫

「やっと見つけたわ!」
 水面に怪しい霧を湛えた緑の沼を前にして京子は興奮気味に呟いた。
 夫を亡くし涙に暮れる毎日を送っていた彼女が、行きずりの不思議な老人からこの沼の事を聞いたのは半年前だった。
 死人を蘇らせる沼があるという怪しい話に、京子は儚いながら何某か希望を見出し涙を拭いた。
 その沼には精霊が住んでいるらしい。その精霊は訪れる者の持てる財産全てと引き換・・・

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君のために

14/06/16 コメント:6件 かめかめ

僕はなみだ。
いつも君のそばにあるもの。
哀しみを洗い、孤独を彩り、君の後悔をきらめく思い出にする。

僕はなみだ。
いつも君のために流れるもの。
笑い転げるとき、心揺さぶられるとき、君の明るさを照り輝かす。

僕はなみだ。
君が産まれたとき、君が転んだとき、君が成長するたび流れてきた。

僕はなみだ。
今日また、君のために流・・・

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