1. トップページ
  2. タイムマシン

八王子さん

よく書きます。ジャンルや傾向はバラバラです。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

タイムマシン

17/02/27 コンテスト(テーマ):第130回 時空モノガタリ文学賞 【 失敗 】 コメント:2件 八王子 閲覧数:228

この作品を評価する

「できちゃった、タイムマシン」
 塩川エミリ26歳――特に知識もないのに作れてしまったタイムマシン。
 場所は研究室やなんかではなく50歳を過ぎた両親と一緒に暮らす築20年を数える一軒家――そのトイレの個室。
「こんな簡単にできていいのだろうか」
 始まりは100日ほど前に遡る。

 その日、残業で帰宅が遅くなった私は、実家暮らしの甘えもあり夕飯に問題はなかったが週末ということもありアルコールを欲していた。
 コンビニで発泡酒ではないロング缶の缶ビールを奮発して2本買った。
 謎の達成感とようやく休めるという幸福感での浪費だ。
「お嬢さん、良い物はいらんかね」
 意気揚々とコンビニを出るや否や、しわがれた声がかけられた。
 コンビニの電気に集まる夏の虫のようにやって来ては、あと一歩届かなかったのかコンビニの入り口で倒れた男がいた。
「今ならビール1本で譲ってあげよう」
 顔面でアスファルトとキスをする男は手の平の上に載せた小さな小箱を掲げた。
「なにこれ」
「タイムマシンのパーツだ」
 タイムマシンだなんて、そんなものは未来からネコ型ロボットを連れてくるぐらいの証拠を見せてくれないと。
「一度にすべてはやらない。僕に缶ビールを1本献上することで、次のパーツを与えよう。そして100個本揃うと、なんとタイムマシンが完成する」
「デ○ゴスティーニか……あるいはユー○ャンか……。でも、ビール100本は高い!」
「なんと初回はそのビールでいいから、次からは発泡酒でもチューハイでもいい」
 普通、そういうの創刊号が安いんじゃないの?
 でも、100本――2万円ぐらいでタイムマシンが手に入る?
「わかった。面白そうだから今日の分をあげる」
 私はロング缶とパーツの入った小箱を交換した。
「ありがとう。これで明日を生きられるよ」
 この怪しい人とのやり取りは、会社帰りにコンビニに寄って出てくる度に行われた。

 小さなパーツと最低限な説明書だけを頼りに続けていたら、気づけば我が家のトイレにタイムマシンが完成した。
「これで完成したはずだけど、どうやって使うんだろう」
 100個集めても操作パネルとか、時間を入力するものもない。
「おーい、エミリ、トイレまだかー」
 晩酌をしていた父が外から木のドアを叩いてくる。
「すぐに出るよ」
 入ったついでに用を足して、私は父にトイレを譲った。
 私自身はなにも気づかなかったが、トイレから出てきた父は、
「便座があったかいな。買ってくれたのか? 温かいやつ」
「うん、まあそんなところ」
 ウォシュレットはついていないが、なぜか便座に保温機能がついた。
「さすがは社会人の娘だ。よし、父さんに酌をしてくれ」
「私も飲みたい」
 そして私は母の作るおつまみを肴に第三のビールを飲んだ。

「トイレトイレー」
 日付けが変わろうかという時間、尿意に駆られてトイレへと駆けこむ。
「はあ、あったかい」
 タイムマシンなど荒唐無稽な話だが、便座が温かくなったことは良いことだ。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 

 我が家のトイレに、100本のアルコールと引き換えにタイムマシンが完成した。
「これで完成したはずだけど、どうやって使うんだろう」
 説明書には組み立て方しか載っておらず、操作の仕方は不明だ。
 便座を持ち上げたりしても、特になにかが起動したりはしない。
「おーい、エミリ、トイレまだかー」
 遠慮なしに父がトイレのドアを外から叩いてくる。
「すぐに出るよ」
 尿意を催さなかった私は、急いでトイレの外に出る。
「便座があったかいな。買ってくれたのか? 温かいやつ」
 ジャー、と水の音がした後、父が嬉しそうな顔をして出てくる。
「うん、まあそんなところ」
 タイムマシンではなく保温機能が便座についた。
「さすがは社会人の娘だ。よし、父さんに酌をしてくれ」
「私も飲みたい」
 私は父の発泡酒を分けてもらってアルコールを飲んだ。

「トイレトイレー」
 数時間後トイレに行きたくなったのは布団に入る前の日付けが変わる直前。
「はあ、あったかい」
 タイムマシンはできなくても、便座が温かくて嬉しい限りだ。

 翌朝、寝坊しかけて慌ただしく目覚めた私は父と入れ替わりにトイレに入り、用を足してトイレから出れば、時計の針は日付けが変わろうかという時間だった。
「そそろろ寝よう。明日も仕事だし」

 一度このトイレを使うと、前回使った時間まで戻ってしまう――

 パーツが1つ足りないことに気づく者は、永遠に現れないかもしれない。

(了)


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/02/27 まー

何という恐ろしいトイレ......。
面白いループ物ですね。ありがとうございました。

17/02/28 八王子

感想コメントありがとうございます。
しっかりと確認しなければいけない、ということですね。

ログイン
アドセンス