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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで3年目に入りました。これからも勉強を重ね、たくさんの作品を書いていけるよう頑張りたいと思います。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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ころび地蔵さん

17/02/26 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:352

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 昔々、という程ではないけれども、まだこの鄙びた村に車が通っていなかった頃、村の入り口に『ころび地蔵』と呼ばれる地蔵さんがあった。
「地蔵さん、どうかうちの坊を転ばせないで下さい」
 こう言うて、這っていた赤ん坊が歩くようになると、家族の者は地蔵さんにお参りするようになる。ころび地蔵は童たちの成長を見守る、優しい地蔵さんじゃった。


 その頃、村には勇(いさお)という少年がいた。小さい童らから慕われる兄貴分で、両親はそんな勇のために、大きな町の自転車屋で見つけた、黒光りのする真新しい自転車を買ってきてくれた。
「お前も、もう一人前だのう」
 産業は近代化を迎え、田畑を耕すだけだった村の者は、自転車を手に入れて、最近は町の工場へ働きに行くようになった。両親は、息子にもそうあって欲しいと願っていたのじゃった。


 しかしその期待は勇の中で形のない恐れに変わり、自分でもわからぬうちに次第に臆病になっとった。
 勇はこの村が好きじゃった。山や谷に囲まれ、緑豊かな自然は川を作り、田畑に水を注ぎ実り豊かな大地にも恵まれている。
 それなのに町に行かなければならない、そんなの嫌だ。
 しかし誰も勇の気持ちなんて分かりっこない。
「ピカピカじゃのう。勇兄ちゃん、おら達にも乗せてくれんか」、憧れの自転車にうっとりした二人の弟が、次いで村の童がしきりに勇にせがんだ。
「兄ちゃんも乗ってみてくだされ。さぞ格好よかろうて」
「駄目だ!」、言葉がきつくなるには訳があった。
 実は勇は、まだ一度も自転車に乗ったことがなかった。
 まあ、それは内緒じゃった。
 今更ころび地蔵の世話になるような練習も恥ずかしかったから、勇は自分の将来に迷うばかりじゃった。


 しかし、ある日の事、家で留守を守っていた勇のもとに、二人の弟が血相を変えて駆け込んできた。
「大変じゃ、山菜摘んどったら将太が崖から落ちた!」
「なんじゃと!」、勇は驚いて立ち上がった。
「足を痛めて動けんのじゃ、どうしていいのか……」
 ぼろぼろ泣き出す弟たちを、勇は励ました。
「お前たちは大人に早く知らせて、将太を助け上げろ。おらは町に行く!行って医者を呼んでくる!」
 勇が、大口を叩いてしまったのに気づいたのは、弟たちがいなくなった後のことじゃ……。


 勇は、自転車を押しながら自分の足で走り続けた。
 何ということだ……町とつながる自転車のおかげで、この村も便利になったというのに。おらはただずっと村に居続けたいだけで、勝手に町を嫌っていた。大人は、本当に助けの必要な時を知っとるから、町を妬んだりせんのじゃな。
 思っても後の祭り、サドルに跨って漕いでみてもよろめくばかりでとても自転車に乗れたものじゃない。
 そんな時じゃった。
 急に自転車がぐらつかなくなった。驚いて勇が振り返ると、石で出来たはずのころび地蔵がひょこひょこ歩いてきて、しっかりと自転車を支えているではないか! 地蔵さんは「心配ない」とでも言いたげに、にっこり微笑んだ。
 そして、地蔵さんに押されるように自転車が前へ進んだので、勇はペダルを漕ぎ出した。
 最初は恐る恐るだったが、地蔵さんに支えられて自転車の速度はぐんぐん上がる。勇は自分を励ましながら必死で隣町へと急いだ。
「自転車もこの足と同じ、走らなきゃあ意味がない。失敗を恥ずかしがって前に進まないなんて、おらが馬鹿だった」
 田畑を抜け野を渡る一本道を通り、がたがた揺れながら自転車は走った。

『進まなかったのは自転車じゃない、お前の心だ』
 染み入るような柔らかな声が、勇を包みこだまする。
『大人になりたくない、お前の心じゃ……』

 ようやく大きな街道に出た頃、勇は振り返ったんじゃ。
 地蔵さんはゆっくりと手を放しなさった。
 勇の体が自転車に乗ったままスイスイと、地蔵さんから離れていく。
 もう車輪はゆるぎなく、土埃を巻き上げ地面を進んでいる。
 いつの間にか、勇は自転車に乗れるようになっていたのじゃ。


 大急ぎで町医者を荷台に乗せ村に戻ると、将太は助け出されていて、意外にも軽い怪我で済んで良かったと、勇は胸を撫でおろした。
 ころび地蔵は、勇よりも、勇の心を分かっていたのじゃな。大事な時に最後まで転ばぬよう助けてくれたことに、勇は感謝してころび地蔵に手を合わせた。
 それからの勇には優しさが戻り、童を自分の自転車に乗せてやるようになった。その中には派手に転んだりする者もあったが、不思議と怪我をするものはなかった。地蔵さんが見守ってくださるおかげじゃろうと、人々が噂したもんじゃ。
 
 大人になった勇は町で働きながら金を貯め、やがて村に戻って自転車屋を開いたそうな。
 じゃからころび地蔵は寂しくならずに、童たちからますます親しまれることになったんじゃと。


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このストーリーに関するコメント

17/02/26 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・この物語は創作童話です、事実に基づいた話でなくフィクションになります。
・画像は「写真AC」からお借りしました。

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