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浅月庵さん

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本の虫は秘蜜につられる

17/02/19 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:4件 浅月庵 閲覧数:673

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 近年の利便性を考えてのデジタル化は、すべてに良い結果をもたらすとは限らないですね。

 私みたく鞄に、常にお気に入りの“本”を忍ばせていないと安心できない者もいるのです。紙質やインクの匂い、本によって変わる栞紐の色。片手で操作できる薄っぺらい電子の箱とは、違った味わいがあるとは思いませんか。

 ーー私の住んでいる地域は比較的田舎で、周囲に娯楽施設がありません。
 でも、携帯電話やネットの普及が人々の暇を片っ端から潰しました。
 それに伴い、町外れの図書館へ訪れる人も、極端に少なくなったのです。

 皆、紙の本の良さをわかっていない。
 私は自転車で三十分の距離を苦だと思わず、ほぼ毎日のように図書館へ通い詰めました。学校終わりでも、休日でも。 

 ただそこには、もう一つ別の理由があったのです。

「あのオンボロ図書館、秘密の部屋があるって知ってた?」クラスの男子たちの声に、私は聞き耳を立てます。
「知ってる知ってる。何でも部屋の中には、世に出回ってないレアな本が陳列されてるらしいな」
「本自体に興味ないけど、ロマンはあるよな〜」

 くだらない噂です。
 だけど、その話にしっかり虜になってしまった私は、幾度となく図書館へ向かいました。ですが、未だにその部屋へは行き着いていないです。

 ーー自転車のスタンドを下ろし、今日も私は図書館の中へ足を踏み入れます。老朽化が進んだ館内は灯りも乏しく、いつ来ても不気味な印象は拭いきれません。
 今日は私一人しかお客さんがいないみたいで、これは初めてのことです。

 司書さんが小さな声で「こんにちは」と呟くので、私は軽く会釈をしてカウンターを通り過ぎます。

 まずはミステリー小説のコーナーに行き、タイトルや作者名で気になった本を、人差し指を使い傾け、抜き出し、ページをぱらぱら捲り、顔を近づけて少しばかり匂いを確認し、また棚へ戻します。フィーリングがあった書籍に関しては、本棚近くのテーブルへ積み重ねていきました。いつものことです。

「慣れた手つきですね」
 不意に声をかけられたので、私は小さく声を上げてしまいます。
「あ、司書さんでしたか」
 彼の顔は何度か見かけたことがありますし、本を借りるときに会話をしたことはありましたが、向こうから話しかけられたのは初めてでした。
「貴方、本の虫ですか? 文字の羅列を這い回る、本の虫」
「ん、周りの高校生のなかでは、一番本に接する機会は多いと思いますが」
「そうでしたか。どうです? ここの図書館の品揃えは」
「そうですね。そろそろ新刊か、もしくは昔の珍しい本なんか入荷していただけたら嬉しいですね」
「ありますよ」
「えっ?」
「僕に付いて来てください」

 私は、陽炎のように頼りない彼の背中を追います。
 彼は、何の変哲もない壁の前で立ち止まり「館内では静かにしましょう」と書かれた張り紙を剥がし、そこに現れた僅かな窪みに指をかけました。すると黒ずんだ壁がぽっかり口を開きました。
「これは……」
「どうぞ。お入りください」

 四方を本棚に囲まれた、狭い一室。そこに並ぶ本たちは皆、タイトルが書かれておらず、似たような背表紙をしていました。
「なんですか、この本たちは」
「さぁ、どれでも良いので本を手に取ってください」
 やっぱり、クラスの男子たちが話していた噂は本当でした。ここが秘密の部屋ですか!

 無数の書籍の中から私は一冊を抜き取り、表紙を撫でました。やけにその本はしっとりとしていて、艶やかで、手に馴染みます。鼻を近づけると、何だか嗅ぎ慣れた匂いが香りました。
「不思議な感覚です。この本って、一体」
「この本たちは、本を愛する者たちです」
 一種の謎かけでしょうか。何度その言葉を反芻しても意味が理解できません。
「わかりやすく教えていただけますか?」
「ふふん。つまり、こういうことです」そう言って司書さんはエプロンを捲り、お腹に隠していた軍人用の大きなナイフを取り出しました。「本が大好きで堪らない人を本にすると、それはまた堪らない本ができあがるんですよ」
「え、えっ?」
「貴方は若くて肌が白い。綺麗な“皮”の装丁になるでしょうね。物語は僕が紡ぎます」私の手は意志に反して震え、持っていた本を落としてしまいました。あるはずのない瞳が、ページとページの隙間から私を睨んでいるような気がします。
「嘘……」
「それにしても最近、なかなか人が寄り付かないから困っちゃいましたよ」そう言いながら男は、ポケットから取り出した携帯電話をちらつかせる。「ネットの掲示板に書き込みしたの、僕です」
「あぁっ!」
 それを見たクラスの男子が噂を広めて、それにつられて私は……。
「便利な世の中になりましたね」

 私は最後に自分が、短く、鋭く息を吸う音を聞きました。


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このストーリーに関するコメント

17/02/21 日向 葵

拝読させていただきました。
都市伝説のテーマに沿った秀逸なホラーですね。
人が本になる工程を想像して、心から込み上げてくるような恐怖を感じました。
「あるはずのない瞳が、ページとページの間から私を睨んでいるー」この表現が更に想像を掻き立てました。
語りかけるような文体もテーマと内容に凄くマッチしていて良い作品だなと思いました。

17/02/22 浅月庵

向日 葵様
ご感想ありがとうございます!
いかに直接的な表現を使わずに怖がらせるか、どういった文体が有効か考えながら書きましたので、ピンポイントでそこを褒めていただけるなんて......とても嬉しいです!!

17/03/11 とよきち

どうもとよきちです。一応言いだしっぺなので、感想落としに参りました(笑)
それではさっそくさっそく。

飛んで火にいる本の虫、という言葉がぴったりな作品でしたね。
気に入った部分を挙げますと、司書のセリフで、

>「貴方、本の虫ですか? 文字の羅列を這い回る、本の虫」

この部分ですね。いい感じにこの人物に違和感を与えていて、効果的だったと思います。オチとの落差を軽減する働きも見せていました。
ただ、やっぱりオチとの落差はそれでもかなりあって、唐突感は否めないです。ワンクッションおいてオチを作ったほうが、読者も受け入れやすいと思います。
決定的に欠落している部分は『人が本にされる』という部分ですかね。この部分の情報が、もう少し前半にあったほうが全体のバランスをとれます。
たとえばなんですが、その『人で作られた本』をのっけから出してみてはどうでしょうか。ある日主人公がその奇妙な本を見つけて、その本がある図書館で貸し出されている。そしてその図書館には秘密の部屋の噂があって、主人公が気になって探し出す、という感じで。
あとはまあ、もっと主人公にはネットや電子関係のものを徹底的に毛嫌いさせたほうが、ラストがもっと映えてくると思います。『暇を潰すくらいなら携帯を物理的に潰したほうがマシである』とか(笑) ちょっと行きすぎているくらいのほうがいい気がします。『何かに傾倒しすぎると、それはそれで痛い目にあう』という教訓的なテーマがこの作品にはあると思うので。

自分からはこんな感じで。まだまだ未熟者ですので、実になりそうなものだけ持っていって下さい。
それでは浅月さん、ごちそう様でした!

17/03/12 浅月庵

とよきち様
感想ありがとうございます!
twitterの方でも、アドバイスありがとうございました。

オチとの落差ですか。緩急つけたかったので
あえて人が本にされる部分は隠していたのですが、
唐突すぎましたね......。なるほど!
ネットを毛嫌いする部分も確かに、過剰にしすぎるくらいの方が
丁度良いかもしれませんね。そこは自分でも気になっていた部分ですので、
ご指摘を受けて改めて客観的に見れたような気がします。

作品について考察していただきうれしかったです!





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