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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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失恋とサイクリング・ロード

17/02/19 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:1件 あずみの白馬 閲覧数:748

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「恋なんて、簡単に終わるのね……」
 新幹線から見える景色は、山あいの白さに包まれて、ここがいつもの場所じゃないことを思わせてくれる。

 私はひとり、ふらっと傷心旅行に出ていた。元彼とは婚約までしていたのに、その親がかたくなに反対した。私が高卒なのが気に入らなかったのだ。
 家の事情でやむを得なかったと、何度話し合いをしても相手の言い分は変わらず、交渉の席で彼は黙っているだけ。ついに一ヶ月前、婚約は破棄されてしまった。

「なんで……」
 一人ため息をつく。とにかくいつもの景色から離れたくなり、日帰りの出来る長野へと旅立ったのだ。

 到着のアナウンスを聞いて新幹線を降り、プラットホームに立つと、冬の冷たい風が私の身を切りつける。

 改札を出て、あてもない中歩いてみると、長野電鉄なる私鉄があることに気がついた。風情ある電車でも走ってないかなと思ってそちらに向かうと……
「あれなに!?」
 ホームには、小田急のロマンスカーにそっくりの車両が止まっている。
「あれは湯田中まで行く特急じゃよ」
 初老の紳士に声をかけられた。残念ながら運命の出逢いという感じはしない……、そんなものだ。
「そうですか。なんかいつも見ていた電車によく似てたので……」
「なるほど、ここは東京で走っていた電車が第二の人生を送るところでもありますな」
 老紳士はゆっくりと諭すような口調で話す。非日常を味わいに来たのに日常出会っていた電車を見て拍子抜けしたが、懐かしい電車と言うのも悪く無いと思った。
「そうなんですね……。ところでこの辺に、観光出来そうな場所ってありますか?」
「それなら、途中の須坂で降りてみるといいじゃろう。古い町並みに動物園もあるから退屈はせんと思うぞ」

 この電車は須坂を通ると聞いた私は、老紳士と一緒に電車に乗った。

 長野を出た電車は、1両に20人ぐらいのお客さんを乗せ、都会に比べるとのんびりしたスピードで走っていく。中は見慣れたロマンスカーなのに、外は空が広く、まわりに野原が広がっている。なんとも不思議な光景だ。
 しかし、窓の外にカップルを見て、失恋を思い出してしまう。
「ふぅ……」
「傷心旅行、かの」
 私がため息をついたのを見て、老紳士が声をかけてきた。私はあまり話す気にはなれなかったので、軽く相槌を打つ。
「まあ、そんなとこです」
「それはまた、寂しいことじゃな……」
 老紳士が社交辞令的に言葉を返したように感じて、思わず反抗的になってしまった。
「……、おじいさんに何がわかるの……?」
「わからん」
「だったら黙ってて」
「そういうわけにもいかん」
「だって何もわからないんでしょ?」
 まるで子供の喧嘩のような受け答えになってしまった。
「そりゃあ、人間同士、本当にわかると言うことは無い。だが、お節介かも知れないが、わしはそういう話を聴くと放っておけないものでな……」
 それを聞いてはっとした。この人なりに考えて、手を差し伸べようとしてくれているのだ。
「す、すみません」
「謝ることは無い……。そうじゃ、須坂には自転車を貸してくれるところがある。町歩きにちょうど良いから、借りてみるといい」
 電車は須坂駅に滑りこむ。老紳士に頭を下げ、勧められたレンタサイクル屋さんに向かい、自転車を借りてみることにした。

 久しぶりに乗った自転車。最初はぎこちなかったが、だんだん慣れて来た。ペダルを漕ぐと子供の頃を思い出す。

 あの頃は何の悩みも無かったな……

 物思いにふけりながら、歴史ある町並みをゆく。古い倉庫に広い空。いっそこのまま空の中に消えて行きたいとさえ思った。

 しばらく自転車を走らせると、使われなくなった線路が見えた。さっき降りた駅から続いているように見える。だが、もう電車が来なくなって何年もたつのか、線路はすっかり錆びついてしまっていた。

「終わった恋みたいね……」
 ひとりつぶやいてみる。役目を終えた線路というのはわびしいものだ。ところが近くに『サイクリングロード予定地』なる看板が見える。

「ここに自転車が行き交う日が来るのかしら……」
 心の中で、そんな風景を想像してみる。するとさっきまでただわびしいだけに見えた風景が、不思議と明るいものに感じられた。

「気の持ちよう、かな」
 サイクリングロードができるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。しかし、作ろうとしなければ出来ないのだ。漕いだぶんだけ進んでいく自転車のように。

 終わった恋が思い出になるにはまだまだ時間がかかるだろうけど、それでも前にこぎ出さなくては……、そんなことを考え始めていた。

「動物園に行ってみようかな」
 そこに何があるのかわからないけれど、行ってみなければ始まらない。私は自転車を漕ぎだすと、不思議とギアが軽くなった気がした。


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このストーリーに関するコメント

17/02/21 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

人だけでなく、列車にとっても人生とはわからないものですね。思いがけないこの旅路が、終わった恋のほろ苦さだけでなく、前向きになった主人公の気持ちとしてラストにつながって読み終えた後すっきりした気持ちになりました、良い話をありがとうございます。

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