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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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誰かさんがころんだ(顔落とし)

17/02/17 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:9件 クナリ 閲覧数:654

時空モノガタリからの選評

確かに子供の遊びというのは、確かに得体の知れない怖さを感じさせるものが多いですね。人の心に潜む恐怖感が静かに伝わってくる完成度の高いホラー作品だと思います。顔というのはその人の人格を表し、対人的・社会的な関係を築くために不可欠なものでしょう。それだけに顔の印象を失うということは、根本的な生存を脅かされるような恐怖を抱かせるのかもしれません。これは子供であっても同じことだと思います。母親でさえも首をかしげるような顔の印象の消失は、あまりにも彼女には辛い現実だったことでしょう。また作品全体に立ち込める不穏な空気を描き出す手腕は、さすがだと思います。例えば紙のような「白い何か」が落ちるシーンでは、大げさな描写は何もないのに、大事なものが、薄っぺらい紙のように簡単に失われてしまうこと、人間の運命のあまりに不確かさが伝わり、静かな恐怖が伝わります。ラストの一文も、詩的な余韻が残り素晴らしかったと思います。

時空モノガタリK

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 「誰かさんがころんだ」という遊びがある。
 人気のない、ある高台のお堂が僕らにとってのこの遊びの舞台だった。
 子供たちが数人で、お堂の周りを時計回りにぐるぐるかけっこする。鬼が一人いる。振り返ってはいけない。だからすぐ後ろに誰かが迫って来ても、鬼かどうかは分からない。鬼に捕まったら、その子が次の鬼。周回遅れなどは度外視。
 この遊びは、夕暮れに行なってはいけないことになっていた。全力疾走するので、暗くなると危ないというのは勿論だが、同時に子供の中で囁かれていた、もう一つの理由があった。
 この遊びのルールには、転ぶという要素がない。なのに「誰かさんがころんだ」と呼ばれるのは、――……



 小学校の時、好きな女の子がいた。
 目立つ子ではなかったけど、穏やかな顔立ちで、優しい性格がその顔ににじみ出ている、可愛い子だった。僕とはクラスの中でも特に仲良く、僕もまた、彼女からの好意を感じ取っていた。
 ある夏の日、その子を入れて、五人ほどで「誰かさんがころんだ」をした。
 夢中で走り回っていたら、気がつけば日が暮れかけている。それでも、高揚していた僕たちは、やめ時が見つからずに遊び続けた。
 黄昏の中で、誰が誰やら分からなくなった。息切れする声と足音だけが響く中、誰が鬼なのかも、前を行くのが誰なのかも、朧げになる。
 さすがにもう潮時かと思った時、僕のすぐ後ろであの子の悲鳴がした。
 思わず振り返った。
 彼女が転んで、地面に倒れ伏していた。
 そのすぐ横に、何か手のひら大の、白いひらひらしたものが舞って落ちた。
 彼女の後ろの闇の中から別の誰かが走って来て、その白い何かを踏みつけ、僕の脇を通り過ぎた。誰なのかは見えなかった。
 白い何かは、濡れた紙が水に溶けるように、暗闇に消えた。
「大丈夫?」
 僕は彼女を助け起こした。
 あれ、この子はこんな顔だったっけ、と僕は首を傾げた。その時は、暗いせいで印象が変わっただけだろうと思った。

 その子と、次の日に学校で会った。
 普通に挨拶し、同じクラスで授業を受けたが、僕はずっと、違和感を抱き通しだった。
 どこがどう変わった、とは言えない。でも以前とは何か、顔から受ける印象が違う。いや、違うのではない。
 あの、大人しくも確かな、優しい雰囲気が失われていた。僕にはもう彼女の顔から、何の感情も生じることがなかった。
 穏やかというより、起伏がなく、印象がない顔。
 会話する分には、彼女は以前とまるで変わらないのだが。
 しかしその日から、僕が淡くも確かに抱いていた彼女への想いは、雪が融けるように消えて行った。
 彼女は寂しそうだった。傷ついた顔をした。でもそれも、もう僕にとっては、ちり紙にしわが寄るのと大差のない現象に過ぎなかった。

 中学になると、彼女とは別々のクラスになり、口をきくこともなくなった。
 まるで彼女など初めからいなかったかのように、滅多に思い出しもしない。何かの拍子に名前くらいは浮かんでも、顔はろくに思い出せなかった。
 卒業式を控えた頃、彼女から電話があった。その時にはもう、電話口で名乗られても、一瞬誰なのか考えてしまうくらいになっていた。
「久しぶり。あのね、ずっと聞きたかったんだけど……私の顔、どう思う?」
 どうとも思わない。正直にそう答えた。
「私、あのお堂で転んだ日から、一度も鏡をまともに見てないの。怖くて、ずっとできなかった。何が怖いのかも分らなくて。でも、ずっとこのままでいられる訳がないから、……今日からは、ちゃんと鏡を見ようと思う。君には、それを言っておきたくて」
 電話は切れた。
 彼女が何を思って僕に電話して来たのか、もう聞くことはできない。
 その日の夜、彼女は家族が寝静まった後、洗面所のドアノブにタオルで首をくくって死んでしまったからだ。

 あの日、転んだ彼女が何を落としたのか。
 それを踏みつぶしたのは、誰だったのか。

 あの遊びは、なぜ「誰かさんがころんだ」というのか。
 転んだら、何が起きるのか。
 それは表のルールから隠されてしまい、転んだ者だけしか知ることはない。ただ、行なってはいけない時間だけが、戒めのように伝わっている。
 隠された。誰によって?
 最後の夜、鏡の中に、彼女は一体何を見たのだろう。



 後日、一度だけ、あの子の家に線香をあげに行ったことがある。
 彼女の母親が応対してくれて、僕は仏壇の前に座った。
「今日はありがとうね。あの、君、昔、娘と仲が良かったわよね」
 母親は、おどおどと言った。遺影を見ながら。
「こんなこと聞いておかしいとは思うんだけど」
「ええ」
「あの子は、……こんな顔だったかしら」
 まるで、知らない誰かさんを見るように。

 転んだ者はいなくなり。
 噂だけは街に残った。


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このストーリーに関するコメント

17/02/18 のあみっと二等兵

拝読させていただきました。
表現もですが、読み終えた後に残る「怖さ」と、「謎」が、
更なる想像を掻き立てるのが、とても印象的でした。
素敵な作品を有り難う御座いました。

17/02/18 文月めぐ

はじめまして。文月めぐと申します。
小説、拝読させていただきました。読み終わったとき、背筋がぞくりとしました。
怖いけど、もう一度読みたくなる小説でした。

17/02/19 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。
好きだから気づけたんだろうな、ってのと、
子供はこういうの手をだすよな、ってのと。
謎にぐいっと引っ張られれました。

17/02/19 白沢二背

顔を落とすという発想が面白かったです。又次の作品を楽しみにしています。

17/02/19 クナリ

のあみっと二等兵さん>
自分ホラーが好きで、しかも何らかの論理性があるものが好きなのですが、「なんだかんだでよく解らないものが一番怖い」とも思っていますので、謎の塩梅がうまくいっていれば嬉しいです!

文月めぐさん>
はじめまして、よろしくお願いいたします。
自分は元々ホラーが好きで文章を書き始めたので、楽しめるホラーが書けていれば幸甚です!

にぽっくめいきんぐさん>
その好きな気持ちが消えていく……という、モンスターが醸し出すものとは違う恐怖を、表現したかったのです。
「謎」が持つ迫力の表現も、高めていきたいものですッ。

白沢二背さん>
顔が落ちて、見た目には顔はついてるのに、もう本当の顔が戻ってこなかったらやだなあ……という辺りから着想しましたッ。
ホラーは発想が大切だと思うので、誉めていただけて嬉しいです!
白沢さんのように多作にはなかなかなれませんが、また頑張って書きますッ。

17/02/20 冬垣ひなた

クナリさん、拝読しました。

顔を落とすなんて怖い話ですね、ぞくりとします。こうして真実を伝える者は消え謎だけが残って……そういえば、子供の頃の都市伝説って本当に怖いものが多かったですね。童心にかえった恐怖を上手く表現されていると思います。

17/02/25 クナリ

冬垣ひなたさん>
子供が味わうホラーの、もっとも怖いところは、子供の世界では警察も医者も銃もナイフも、まるで無力であることが多いという点だと思います。
大人になっても、当時の無力感にとらわれてしまうから、思い出した都市伝説はおっかないのかもしれません……。

17/03/28 光石七

静かな怖さがジワリと迫ってくるお話ですね。
謎が残ったままにするあたり、さすがだと思います。
見事なホラーでした!

17/04/01 クナリ

光石七さん>
迫り来るモンスターの恐怖あふれるサスペンスも好きですが、「え……何……?(ゾワゾワ)」という感じのホラーも好きなんですよねー!
心霊現象のルールを考えるのも好きなんですけど、その謎が解けてしまうことは、幽霊を一気に手の届くものにしてしまうので、あんまりやらないほうがいいかなと。
コメント、ありがとうございました!

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