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のあみっと二等兵さん

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Missionary of sound

17/02/17 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:4件 のあみっと二等兵 閲覧数:486

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ライヴハウスの地下に続く階段を少し弾んだ足取りで降りて行く。
「あ〜。お久しぶりです〜」
私を認めて、受付の彼……Anji君が、相変わらずの間延びした声音を掛けてきた。彼は横浜近辺のライヴハウスを掛け持ちするスタッフだ。まだオープン前。私が一足先に入れたのは彼のお蔭だった。先週唐突に送られてきた、彼からのメッセ。
「あのバンド、デビュー決まったよー。チケット確保しますー?」
断る理由などあるはずもなく。
「Anji君さまさまですなー。お蔭で見逃さずにすんだよっ」
挨拶すら適当になってしまう程、とにかく御礼の言葉を伝えたかったのだ。彼の担当は主にステージの裏方メインである為、なかなかゆっくりは話せないから。
「でもホントすごいよね。だってこれで何回…?」
彼の少し眠そうな瞳を見つめ、感心とも尊敬ともつかない口調の私に、Anji君は軽く吹き出し、それは確かな笑い声になる。
「偶然だってば〜」
言って、再び愉しそうに笑う。偶然の一言で片付けるには、彼の関係者のデビュー率が高過ぎる。青年を見る私はちょっとだけ不機嫌な面持ちになってゆく。実際に不機嫌になっている訳ではなく有り得ないと感じるのだ。彼から送られてくる様々な意味で唐突なメッセの内容の度に生まれる、この不思議な何とも形容しがたい感覚。その正体を、ただ無償に確かなモノに変換したくて。思いきって口を開いたが、彼の姿は既にそこには無い。慌てて辺りを見回した視線の先、ステージの傍にある扉の向こうに入ってしまう彼の後ろ姿があった。忙しいのだから仕方がない。頭では理解出来ている。不完全燃焼で何時までも燻り続ける事に、今は耐える術を探す他無かった。そして気付く。ブーツの内側、足首辺り。空調が送る微かな風で何かがひらりと動いた。片足を上げると、暗いハウス内を照らす細いライトがそれを明確にしてくれる。
いぶかしげに触れて、驚いた。それは大きめの付箋で、かなりしっかりと張り付いていたから。数秒の間、瞬きだけを繰り返す私だったが、急に耳についた空気中のざわめきで我に返る。いつの間にか押し寄せたファンのコ達で溢れていた。付箋を剥がし、書かれている文字に目を通した。
「音楽は繋がり 音楽は永遠音楽はいつも君と共にあらん事を」
どうゆう意味なのかは、正直よく解らなかったけれど。彼が書いたのだということはすぐに解った。たった一度だけれど連絡先を交換した時と同じで癖のある独特の字体なのだ。ライブが終了したら、この言葉の意味を訊けばいい。そう思いながらやっと始まった演奏にいつしか夢中になっていた。

あれから何年経っただろう。結局あの意味は訊けずじまいで。

すっかり環境も変わり、音楽好きは相変わらずだが、今はキッチンに集中している。
「腹減った!! 今日の晩飯何?」
高校生の息子が急かすようにわめく。傍らにはギターケース。音楽好きはしっかり受け継がれている。夕飯を食べ終えたら練習に行くのだろう。
「前に話した先輩がさ、横浜で演奏したらデビュー決まったって」
半ば吐き捨てる様に言って溜め息を吐く。悔しいのだろう。彼なりに音楽に対して真剣なのだ。
「良かったわねー。才能あったのねー」
私は忙しさもあいまって、適当に相槌を打った。
「違うよ! Anjiの御加護だよ!!!」
キッチンに派手な金属音が響いた。シンクに取り落とした手鍋が転がる。一気に蘇る記憶と、あの時燻り続けた感覚に支配されて行く。不思議でいて懐かしい。ようやく理解出来た気がした。

息子曰く、横浜近辺のライヴハウスには天使が棲んでいると。その息吹きが触れた者には幸福が訪れる。Anjiは、Angelを文字ってついた通り名なのだと。付箋に綴られた言葉の意味も、今なら理解できる。そんなことをぼんやり思う私の瞳には、すっかり音楽に魅了された息子の姿が在るのだから。


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このストーリーに関するコメント

17/02/17 まー

読ませていただきました。
Anji君カッコイイですね〜。音楽を愛でる者に訪れる天使とは何ともロマンチックです。
素敵な作品をありがとうございます。

17/02/18 クナリ

都市伝説の陰にある、確かに紡がれていた人間ドラマが趣深いです。
思いがけず過去の想い(出)に遭遇した時のドラマチックさが表現されていると思います。

17/02/20 のあみっと二等兵

>まー様
コメント有り難う御座いました。
キャラクターを褒めていただけるのは、とても光栄で嬉しく思います。
ロマンチックでもあり、ライブハウスという"夢"の詰まった場所が舞台なので、このストーリーにしてみました。拙い文章を読んでいただき有り難う御座いました。


>クナリ様
コメント有り難う御座いました。
確かに紡がれていた……まさにです。このような拙い文章でしたのに、伝わった事が何よりの励みになります。本当に有り難う御座いました。

17/03/09 楓の葉っぱ

拝読致しました。
私も一時期、ライヴハウスに通っていた事ありまして、よく聞いたのは所謂「怖い霊現象」ばかりだったので、
この物語は素直にいいなと思わせてくれるなって感じました。

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