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甘咲アユミさん

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思い出の自転車

17/02/15 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:2件 甘咲アユミ 閲覧数:435

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「ねえ、レイヴン。ワタリガラスって神さまの使いなんでしょ?私を学校まで連れてってよ」
「また無茶なワガママを言いだしたな、娘よ」
娘は、朝食のパンを持ちながら、くちびるを尖らせ、自転車のカギをくるくると回している。
「いくら私がワタリガラスの鳥人だからと言って、そんな魔法みたいなこと…」
「ワタリガラスって、スゴイ神話が色々あるじゃん?やってみたら案外できるかもよ?」
 外は冷たい風が吹きすさんでいる。しかし、今目の前にいる女子高生の制服のスカートはひざ上丈である。タイツをはき、マフラーにコートを着るとはいえ、これは寒々しいんじゃないか?
「背中にカイロでも貼るんだな」
「適当〜!レイヴンは、あたしが凍え死んでもいいんだ!」
 眉間にシワを寄せ、食べかけていたヨーグルトのスプーンを皿にガシャンと置く娘。
「行儀の悪いぞ。ヴィンテージの皿に傷がつく」
「レイヴンのバカ!鳥頭!死肉荒らし!」
「私は死肉は食べん」
「知らない!腹くだしちゃえ!」
 娘はそう吐き捨てて、イスに置いてあった革鞄を引っ掴み、家を飛び出していく。
「後からコッソリ様子でも見に行くか…」
朝食を片付け、洗濯を干し、部屋中の掃除をしてから、外にでる。強かった風は、大分弱まった。黒い羽を広げ、塀に飛び乗る。そのまま勢いをつけ、屋根へと飛び移りながら、風に乗り、娘の学校の方へと羽を傾けていく。
途中、あるものを見つけた。
「あの曲がり角…懐かしいな」
ああ、あった。娘の高校だ。どうやら、校庭で体育の時間らしいな。………ん?
「…誰だ、あの男は」娘に、ずいぶんなれなれしいんじゃないか?
 *
「……レイヴン?どうしたの。学校まで迎えに来てくれるなんて初めてじゃない?」
 自転車置き場で待っていた私の姿を見つけた娘が、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あ、例の鳥人さん?めちゃカッコいいじゃん!」「羽おっきい〜!やっぱり獣人と違って、シュッとしてんね」「カラスってトコがクールでいいよね〜」「鳥人さんと帰んでしょ?またね」そう言って、友人たちは娘に手をふって校門を出て行った。
 手をふり返していた娘が、私のほうを向いて、ニッコリと笑う。
「じゃ、帰ろ〜」
「……朝の事だが」
「あ…それを気にして来てくれたの?ゴメンって。朝、寒すぎたんだもん。ん〜ごめんね。つまんないことで空気悪くさせたよね」
 そう言って、自転車のチェーンを外し、ガタンとスタンドを戻し、自転車置き場から自転車を出す、娘。私が何も言わないので、娘がフシギそうに私を見あげた。
「どうしたの?……怒ってる?」
 怒ってなどいるはずがない。
いや今、胸をしめているこの感情が何なのかわからないのだ。娘に私以外の男が触れているのが、なぜこんなにも気にくわないのだ。
鳥人の私がまさか、人間の娘に執着しているとでもいうのか。
 ハッと、気がつけばいつのまにか私たちは校門を出ており、娘は隣で自転車を引きながら、やはりまだ何も言わない私を心配そうに眺めていた。
そこで娘が「あ、」と声を上げ、指をさす。
「あそこ、レイヴンと初めて会った場所だ。めっちゃ久しぶり〜。ね、寄ってこうよ」
 そう言って、羽で隠れそうな私の毛むくじゃらの手を握り、ぐいぐいと引っ張っていく。
そこは、小さな公園だった。ブランコがわずかな風に吹かれてゆれていた。
「中学の時にさ、そこの曲がり角をよそ見しながら曲がったら、案の定大コケしちゃって。もうヒザズルむけで…よろよろこの公園まで自転車引っぱってきて、そこの水道でヒザの砂、洗い流してたら、なんか…情けなくきて。メソメソ泣きながらヒザ洗ってたら、レイヴンがあたしを見つけてくれたんだよね。そんで…」
『娘よ、泣くな。私は…女は嬉しい時にだけ、泣いてほしいのだ』
「って言って…ふふふっ…大きな宝石くれたんだよね……虫入りの!」
「あれは”琥珀”と言う、太古の樹脂が固まってできた宝石だ。美しい蝶々だったろう?」
「うん、すごく嬉しかったよ。もう転んだ悔しさなのか、虫入りのすっごくキレイな石を見て面白くなっちゃった涙なのか、わかんなくなったもん」
「お、面白さ…?嬉しくて泣いてくれたんじゃなかったのか」
「あ、ごめんごめん!嬉しかったって!」
 娘はそう言って、私の腕にぎゅうう、と抱きついてきた。
「ハーッ。レイヴンの羽ベッド〜ッ!あったか〜い!冬の寒さで凍え切ったあたしのカラダに染み渡る〜!」
「ジジ臭い娘だな…」
「せめてオバアチャンでしょ!?」
 あの場面を見たとたん、冷水を浴びたように冷え切っていた私のカラダも、娘が触れている部分から、どんどん暖かさを取り戻していく。まだ…まだこうしていたい。
何でもない日常が、一番の幸せなのだ。

               了


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このストーリーに関するコメント

17/02/17 まー

読ませていただきました。
ちょっと嫉妬するレイヴンが可愛いですね。
ファンタジックな雰囲気が漂っていて楽しかったです。
ありがとうございました。

17/02/17 甘咲アユミ

まーさまへ。
お気に入りのキャラクターなので、うれしいです!
異種間恋愛をめざしてみました。
コメント、ありがとうございましたっ!

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