若早称平さん

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性別 男性
将来の夢 小説で食べていければそれが最高です。
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青空

17/02/15 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:534

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 ぎゅっと目をつぶって、ゆっくりと開いたらあの夜に戻れないかな。そう思いながら目を閉じた。

 ガチャッという嫌な音がしたなと思ったら案の定自転車のチェーンが外れていた。ダイエット中にも関わらず夜中に突然アイスが食べたくなってパジャマのままコンビニへ向かった天罰なのかもしれない。
 ちょうど家とコンビニの中間くらいの場所だった。このまま手ぶらで帰るのも悔しくて、私はギコギコと不快な音を立てる自転車を押しながら天罰に逆らうことにした。昼間はまだまだ残暑の厳しい九月とはいえ夜は薄着だと肌寒くて、駆け込むように店内に入った。
 目的はアイスと決まっているのに、コンビニに入ると用もなく雑誌のコーナーから回ってしまうのはどうしてだろう? パラパラと雑誌を立ち読みしていると「水原?」と後ろから声を掛けられた。振り返ると大学のサークルの先輩がいて、私はとっさに神様を呪った。密かに想いを寄せている先輩にすっぴん眼鏡姿を見られるとは、私はそんなに罪深いことをしましたか?
「なにしてるの?」
「あ、はい。いや、アイスを買いに……」
 私の慌てぶりに先輩が吹き出した。
「俺は肉まんを買いにきた」そう言ってレジに向かったので私も急いでパピコを手に取り先輩の後ろに並んだ。
「アイスとか寒くないの?」
「寒くても美味しいんですよ」
 一緒にコンビニを出てから自転車のチェーンのことを思い出し溜め息が出そうになる。
「さっきチェーンが外れちゃったんですよね。明日修理に持って行かなくちゃ」
「直してやろか?」
 浮かない表情で鍵を開ける私を見かねたのか、先輩が自転車のチェーンを覗き込む。
「ああ、余裕だわ、ちょっと待ってて」
 私に肉まんの入った袋を渡すとゆっくりとペダルを回しながらチェーンをはめていく。
「先輩すごいですね」
「高校の時チャリ通だったから、自然と出来るようになった」
 私も中学高校と自転車で通学していたがそんな技術は身に付いていない。
 ただ先輩の作業を見ているだけというのも気が引けたので「なにか出来ることありますか?」と手伝いを申し出たが、「大丈夫だからアイスでも食べてな」という答えが返ってきた。その言葉に従ってパピコを二つに割り、一つをくわえてもう一つは袋に戻した。カフェオレの味が口の中に広がり幸せな気分になる。
「よっしオッケー。ちょっと手洗ってくるから待ってて」
 ペダルを回しチェーンがはまったのを確認した先輩は油で汚れた手を私に見せ、コンビニの中へ戻った。残された私は自転車を眺めながらもしかしたらこれはチャンスなのではないかと思い、先程までの非礼を神様に詫びた。待っててってことはまだ一緒にいられるってことですよね? ここが告白のチャンスなんですかね? そう思うと急に心臓が痛くなってきた。
「お待たせ」と戻ってきた先輩に「ありがとうございました」と頭を下げ、お礼に残ったパピコを差し出した。
「サンキュ、でも肉まん冷めないうちに食べちゃうから。水原食べなよ」
「アイス好きじゃないんですか?」
「暑い時食べるのは好きだけど、寒いじゃん」
 私の大好きな、屈託のない笑顔で肉まんを頬張る先輩の隣を自転車を押しながら歩いた。
「水原の家こっちの方なの?」
「はい、あそこのパン屋の手前を曲がって真っ直ぐ行ったとこです」
 送って行こうか? という言葉をどれほど期待したことか。
「でもラッキーだったな」
 先輩の口から出たのは期待に添うものではなかった。肉まんを食べ終え、パーカーのポケットに手を入れて歩く先輩は「いつもと違う水原見れて、レアな眼鏡姿」そう言って笑った。
「すっぴんなんだからあんまり見ないでください」
 私は恥ずかしさで俯きながら我に返った。自分の今の格好を思い出したのだ。すっぴん、眼鏡、パジャマ、雑にまとめた髪。誰にも会わないと思って気を抜きまくっていた今が告白のチャンスなわけがないじゃないか。
「じゃ、俺こっちだから。また明日な」
 ふざけて敬礼する先輩にもう一度お礼を言って私は自転車に跨がった。「また明日」その言葉にニヤけてしまうのを堪えながら。

 先輩に彼女が出来たと聞いたのはそれから一週間後のことだった。同じゼミの人に告白されたらしい。一度あのコンビニで先輩と彼女を見かけたが、二人で肉まんを食べる姿はとても幸せそうに見えた。
 あの時私がアイスじゃなく肉まんを買っていたら、ちゃんとした身なりで出掛けていれば、あんな格好でも告白する勇気があれば、そんな後悔が限りなく続く。
 今日、先輩が結婚する。式場へ向かう前にあのコンビニに寄って肉まんを買った。
 ぎゅっと目をつぶって、ゆっくりと開いたらあの夜に戻れないかな。そう思いながらゆっくりと目を開いた。でもそこには二月にしては暖かい、雲一つない青空が広がっているだけだった。


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