1. トップページ
  2. 春ノ桜ノ

紙袋あけるさん

短編が好きです。

性別
将来の夢
座右の銘 日進月歩

投稿済みの作品

0

春ノ桜ノ

17/02/15 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:0件 紙袋あける 閲覧数:406

この作品を評価する

 ――パキッ。
「ひゃぁん!」
「先輩、気持ち悪い声出さないでください」
「だって小枝ちゃんが」
「その乙女キャラの源流はどこなんですか」
「俺の中に流れる微量の女性ホルモン?」
 窪田は無言でずんずん前へ進んで行った。振っておいて無視された。窪田ひどい。
 夜の校舎は外から見ても思ったより真っ暗で怖い。真っ暗ではあるけれど廊下に設置された消化ホースのランプだけは煌々と光っていて窓の奥がうっすら赤いのが怖さを助長しているように見える。普段見ているものとはまったく違うようだ。
 まだ肌寒い四月も中頃。俺と窪田は中庭を目指して校舎の脇を歩いている。
 自分で踏んだ小枝の折れるに音すら少し驚きながら、俺たちは中庭に到着した。満開の桜の木が白く浮かび上がっている。桜の木の下には死体が埋まっているという迷信が現実味を帯びるように感じてしまうくらいその光景は不気味だった。同時に夜桜が綺麗なのはライトアップされていたからだと知る。改めて光って偉大だ。
「現れますかね」
 窪田は冷えているのか手を擦り合わせながら呟いた。この状況で言われると幽霊か何かを待っているように思われそうだが、今日の俺たちの目的は違う。
「現れるさ。今日が一番満開だからな」
「深夜に満開の桜の下で他人の恋路を見守るなんて悪趣味ですよね」
「その悪趣味に付き合ってくれる窪田もなかなか悪趣味だよな」
 俺たちの通う学校には、ありがちな噂がある。『深夜に中庭の満開の桜の下で告白して付き合い始めたカップルは長続きする』というものだ。もういつからあるかわからないくらい昔からの噂で、卒業生が持ち出したせいかこの町の都市伝説のようになっている。そこまで広がるということはやはり実現したケースが多いのだろうか。
「成功したカップルがくんずほぐれつイチャイチャし始めるところを拝もうってんだ、窪田ってばちゃっかり年頃の女の子なんだから」
「あー先輩の後頭部蹴り飛ばしてぇ」
 からかうのが過ぎたようだ。黙ろう。
 話すこともなくなり、しばらく無言で並んでボイラーの影に隠れていた。しかし男女どころか狸も現れない。
「ひょっとして私たちが学校に侵入するのを目撃されたから誰も来ないんじゃないですか?」
 なるほど。窪田の言うことが本当なら本末転倒じゃないか。
「最近の情報拡散力ってすごいですからね。ひとりがSNSにでも発信すれば、どんどん広がりますし、今日のところは諦めたほうがいいかも知れません。今度やるならやはり裏手から侵入しましょう」
「マジかよぬかりすぎたな俺たち」
「今日のところは退散しましょうか」
 俺たちは立ち上がってもと来た道を辿ることにした。途中、桜の木の下を通る。そこで立ち止まると、少し先へ進んだ窪田が小首を傾げながら振り向いた。
「なんてな」
 窪田が訝しげに俺を見る。
「そりゃ正門から堂々侵入すれば目撃されてもおかしくないよな」
 正門から入ろうと言ったのは俺だ。窪田は最初から裏手に回るべきと言っていた。
「情報拡散力の強い現代で本当良かったぜ」
 今日行うことをSNSで宣言したのは俺だ。お陰で誰も来なかった。
「ていうか窪田は俺のこと全然わかってねぇよな」
 ここに誘った時点で気付けよ。
 窪田がようやく俺の言わんとしている事を察してうろたえ始めた。
「先輩?」
「まぁ俺は窪田のことよーく知ってるからこう誘わなきゃ来てくれないってわかってたけどさ」
 窪田の目をまっすぐに見据える。戸惑いで泳ぐ瞳は心なしか潤んで見えた。
「俺たちで確かめてみようぜ。この噂が本当か」
 唾を飲む。なんで自分の気持ちを発信するのってこんなに緊張するんだろう。
 それだけ本気だからか。
「好きだ、窪田。俺と付き合ってくれ」
 少しの沈黙。顔は笑ってるつもりだけどその実胸がいっぱいでどうにかなりそうだ。
「先輩は、クソバカです」
「は?」
「バカです。ほんっとーに、どうしようもないです」
「落ち着け窪田」
「……でも、こんなベッタベタなことされて喜んでる私は、もっとクソバカです」
 深呼吸をする窪田。そして、消え入りそうな声で言った。
「私も好きです、先輩のこと」
「うみゅ」
「うみゅってなんですか覇気の無い返事ですね」
「うるせー今感動を噛み締めてるんだ」
「ほんっと先輩って私より乙女ですよね」
 窪田が笑った。
 わかってるよ。都市伝説はあくまで噂に過ぎない。俺たちはそれに頼らずとも長く付き合える関係になっていかなきゃいけないんだって。
 まあ、大丈夫でしょう。俺と窪田だもん。それなりにやっていけるんじゃない?
 ――パキッ。
「ひゃぁん!」
「だから気持ち悪い声出さないでください」
「彼氏に向かって気持ち悪いだなんて」
「彼氏だからです」
 嬉しくなって、俺は窪田の手を握った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン