1. トップページ
  2. 泳げこいのぼりくん

密家 圭さん

読んで下さる皆様ありがとうございます。 耽美派の綺麗な文体で幻想的なファンタジーを書けるようになりたいです。 ツイッターをやっているのですが友達が増えず放置気味なので、皆様どうぞ適当な気持ちで遊びに来てください。

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

泳げこいのぼりくん

12/04/03 コンテスト(テーマ):第三回 時空モノガタリ文学賞【 端午の節句 】 コメント:1件 密家 圭 閲覧数:2168

時空モノガタリからの選評

最終選考

この作品を評価する

 子供の発想は、自由で真っ直ぐだ。考えすぎる僕ら大人には、理解し難い程に。

「ほんとうに泳いでたんだよ、こいのぼり! 」

  優斗は興奮気味の大きな声を出し、窓の外を指差した。今年で六歳になったばかりの、まだ幼い息子の言うことだ。おそらく青空にはためいている様が、泳いでいるように見えたのだろう。一生懸命な言葉からそう推し量ったのか、妻は曖昧に笑んでいた。
 ……しかし、困ったな。
「パパもみてたんだよ、泳ぐこいのぼり! 」
 ねえパパ、と子供特有の高い声で優斗が尋ねてきた。
 
 そう、優斗の言う通りだ。僕は泳ぐこいのぼりを見た。公園からの帰り道、「パパ、あれ見て! 」と優斗が空のある一点を指差した。その先を見上げると、空色を凝縮したような真っ青なこいのぼりが雲の流れる方向に漂っていた。どこかの家のこいのぼりが風に飛ばされたのかと思ったが、風一つない中真っ直ぐに進む様は意志を持っているようだった。風を吸い込み、尾をはためかせながら、こいのぼりは青空の真ん中を泳いでいた。

「ねえ、見たよね、パパ」
ぼうっと考えていた僕を引き戻すように、優斗がワイシャツの裾を小さな手で引っ張る。それにしても、本当に困った質問だ。肯定で返せば非現実的で、非常識な知識をつけてしまうかもしれない。しかし、否定で返せば子供の自由な発想を奪ってしまうかもしれない。その点、妻の曖昧な笑みは実に有効な手段だ。曖昧さは、否定にも、肯定にもなり得る。便利ではあるが、どこかに誤魔化しのある卑怯な手にも思える。
 全く、発言一つでここまで考えなければならないなんて、自分は随分と堅苦しい大人になったものだ。もう少し自由になってもいいよなあ。優斗の真っ直ぐな瞳を見つめ返し、僕ははっきりと言った。
「うん、パパも見たよ。青くてでっかいのが、空を泳いでたよなあ」
「うん! 」
 小さな白い歯を見せ、優斗が笑う。妻は非現実的なことをいう僕を窘めるように横目で見てきたが、すぐに小さく肩をすくめてふふ、と笑った。大人が子供みたいにどうしようもないことを信じたっていいだろう? 夢のない大人なんてただのクソだ。そんな意味を込めて、僕も妻に微笑みかけた。
 優斗は窓まで駆けていくと、べったりと張り付くようにして空を見上げた。泳ぐこいのぼりが居ないか、また探しているのだろう。やっぱり風のせいだったんじゃないか、と頭の中で否定してみたが、僕の足は窓の方へと向かっていった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/04/12 かめかめ

そういう大人がクソかどうかは置いておいて。
私はこういう奥さんになりたいです。

ログイン