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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで3年目に入りました。これからも勉強を重ね、たくさんの作品を書いていけるよう頑張りたいと思います。 写真を撮り、絵も描きます。こちらでupするなかで、特に記載のない画像は冬垣の作品です。 ・ツイッター https://twitter.com/fuyugaki_hinata ・時空モノガタリでもお読みいただける、拙作「渋谷スイングバイ」の動画があります。 内容は同じですが、音声読み上げ朗読、エンディング付きです。 「softalk朗読渋谷スイングバイ」  https://www.youtube.com/watch?v=6nsb8bo8Egs (=は半角に直してください)

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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【エッセイ】初めての新宿

17/02/13 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:592

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 東京都庁が出来てしばらく後のことだったので、ああ、私が新宿へ足を運んだのは旧世紀末の出来事だったのかと思い出した。
 当時社会人になりたての私の憧れは、東京の名を冠した千葉県のTDLだった。まだ大阪にテーマパークはなく、さらにテレビに映る噂の新都庁の姿を見るにつけ、東京はズルいなあと悔しがったものだ。
 念願のTDL旅行を決行するべく、ついに夜行列車で東京入りした私と友人が、「ついでに新宿へ寄ろう」となったのは、ニッポンの都・大東京に対抗心を燃やす大阪人として、ごく自然な流れであった。


 まだ8時になっていない時刻だったと思う。
 JR新宿駅を出ると、差し込む朝の強い光に照らされた街並みに、寝ぼけ眼だった私たちは見る見るうちに興奮してくる。
 初めての新宿。快晴の観光日和だった。
 大阪よりも洗練された印象の強い駅前の雑踏には、サラリーマンだけでなく若者の姿が目立つ。一口で言えば、懐の広い街だ。私たちがチャラいと敬遠するようなファッションやアートが、この街では非常にオシャレなものとして広く許容され、もてはやされていることをこの目で確かめながら、私たちは噂のアルタ前へと移動した。巨大なモニターの下に、プラカードを持った人がいる。『笑っていいとも』の観覧者案内だ。
 やっぱり、くすんだ大阪の街と違う。
「新宿やねぇ……いいねぇ」、私たちは東京への嫉妬もどこかに落っことし、新宿を手放しで礼賛していた。
 それが良くなかったのかもしれない。
 次どこに行こうかという事になって、私は都庁へ行きたかったのだが、「待って」と友達が制した。
「ここも有名じゃない?」
 友人が地図で指さしたのは、歌舞伎町だった。


「ええ!怖い噂ばっかり聞くんやけど」
「大丈夫。朝やし!」
 確かに歌舞伎町は近かったし、だいたい噂なんてあてにならないものだ。東京のすがすがしい空気も手伝って、私たちは思い切って足を運ぶことにした。


 行ってみて、拍子抜けした。
 歌舞伎町というからには、暗黒小説のような犯罪者がうろついている(それはそれで困る)と思ったが、人通りもそこそこあり物騒な人影も見当たらず、清潔そうな建物に禍々しさは見当たらなかった。ゲームセンターではちょいワルな少年が遊んでいるくらいだ。のどかな光景で私たちは胸をなでおろした。
「なんや、大したことないわ」、私たちは自動販売機で買った缶ジュースを飲みながら、そんな感想を抱いた。
 旅行かばんを手にした私は多分、この時すでにターゲットにされていたのだ。


 そこからどれくらい歩いただろうか。
「あっ!」、私は青ざめた。
「財布がない!」「嘘やろ?」
 確かに先程かばんの中に入れた財布が、どこにも見当たらないのだ!
 新宿の裏の顔を覗いた、そんな気がした。
 初めての新宿。大都会の真ん中で、全財産を失い私は途方に暮れた。


「……スリですね」
 駆け込んだのは、新宿駅に似合わないとても小さい駅前の交番で、丁寧な物腰の警官が応対してくれた。
「多いんですよ、この辺」
 私は必要書類を記入した。幸いだったのは、銀行が開いてから軍資金を追加しようとしていたため、財布には一万円ほどしか入っていなかったことだ。
「旅行ですか?」、私は聞かれてもうなだれるしかできない。
「見つからないかもしれませんが」、警官は言った。
「見つかったら必ずお知らせしますので」、そうはいったがこんな大きな街で見つかるはずがない。
 初めての新宿。奥知れぬ冷たさだけが尾を引いて残った。


 結局、友人に金を借りることになって、都庁には行く気になれず東京見物は終わった。しょげていた私だったが、代わりにTDLのシンデレラ城に入るころには機嫌も治っていて、旅の結びは悪いものではなかった。
 夜遅く新幹線で大阪の家に帰ってみると、驚いたことに新宿の交番から電話があったという。


 あの後すぐ、駅のトイレに財布が捨てられているのを不審に思った方が、わざわざ交番に届けてくれたのだ。名前は名乗らなかったそうだ。
 数日後手書きの便箋を添えられて、財布は新宿から帰って来た。現金は残念ながら残ってはいなかったが、カード類は無事だった。
『見つかったら必ずお知らせしますので』、新宿に暮らす人の言葉どおり、新宿ではぐれた財布は、遠い街で遅れたようにこの手に戻った。あの時交番に出した御礼状は、新宿まで迷わず届いたろうか。


 裏の裏は、やはり表なのだろう。
 あれからずいぶん経ったが、新宿という街について考えるとき、私は良い思い出も、悪い思い出も、いまだにどちらも捨てられないでいる。新宿に住む人たちは、多分もっと複雑で繊細な日常を生きているのだ。
 ありがとう、初めての新宿。
 色々あったけれど、あの旅がくれた経験は私の宝物の一つである。


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このストーリーに関するコメント

17/02/15 野原 豆

意外と東京「新宿」捨てたもんじゃないでしょ?
残念な事に、お金はなくなってしまったけれど
ナカナカどうして人情味がある街ですよ〜。
「新宿」嫌いにならなくて、ホッと胸を撫で下ろしました(笑)
情景が浮かび、楽しく読ませて頂きました。
(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゚ஐ⋆*

17/02/16 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・画像は「写真AC」からお借りしました。

17/02/16 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・画像は「写真AC」からお借りしました。

17/02/16 冬垣ひなた

びっけさん、コメントありがとうございます。

東京は数回しか行った事ことがないのですが、
色々楽しめる所も多いし、素敵な街だと思います!
どういう語り口がいいのか悩むところですが、
飾らず、素の自分で書いてみました。
楽しく読んで頂けて嬉しかったです<(_ _)>

17/02/18 クナリ

新宿で直接的に怖い目にあったことはないですが、夜になるとやっぱりただならぬ気配は感じますね…。
人がもたらす闇を照らす光もまた、人がもたらすんですよね。

17/02/19 冬垣ひなた

クナリさん、コメントありがとうございます。

この話は1990年代ですが、治安は以前よりは今の方が良くなっているようです。都庁にまだ行ってないので、思い出したら新宿に行きたくなりました。新宿は色んな人がいて輝いている街なのだと再認識しました。

17/03/09 時雨薫

方言を作品に組み込めるので、関西出身他、メジャーな方言を母語にする人は本当にうらやましいです。
地の分まで関西弁のエッセイや小説があってもいいと思います。というか読みたい。関西出身の方頑張って!
「とーほぐの訛りでかぐと何言ってんだがよくわがんねって人も多いかんない。それに声音と濁音の書き分けがわがんねんだで。なじょすっぺ?」

17/03/09 光石七

拝読しました。
東京で暮らしていた時期がありますが、歌舞伎町へは昼でも行く勇気が無かったです……
新宿での体験と感じられたことが素直に書かれていて、読みやすくすっと心に入ってきました。
「冷たい」「怖い」というイメージもある東京・新宿ですが、優しい親切な人もいるわけで。私も良い思い出と悪い思い出、両方がありますね。
素晴らしいエッセイでした!

17/03/11 冬垣ひなた

時雨薫さん、コメントありがとうございます。

今まで関西弁を交えた作品は幾つか投稿したのですが、関西圏以外の方はどう思われているのだろう……と気になっていたので、読みたいと言って頂けて嬉しいです。私の父の実家が東北(福島)なので、あちらの訛りには親近感わきます。最近熊本弁の会話文のエッセイ本を読みましたが地元を旅するような感覚がわきます。方言って、温かみがあって私は好きですね。


光石七さん、コメントありがとうございます。

治安って地元の人でないと分からない事多いですよね。歌舞伎町は本当に新宿駅から歩いてすぐの所で、都会の光と影が混在した場所なんだと思いました。
今でも新宿って東京の中でも特別なイメージがありますが、今はどうなっているのでしょう。ほんの一瞬だけの思い出なのに、とても懐かしい場所のような気がします。
このエッセイが書けて本当によかったと思います。

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