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本宮晃樹さん

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人間力発電所

17/02/07 コンテスト(テーマ):第99回 【 自由投稿スペー ス】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:563

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「本日はお忙しいなか、各位には遠いところからお集まりいただきまことにありがとうございます」刑務所長は誇らしげに、「早速全国に先駆けて当刑務所が導入した、最新鋭の超高濃度中性子線原子炉にご案内します」
 各位たちはぞろぞろと所長の後ろについていく。彼らの内訳は官僚や政府系技術者が大半を占め、なかには名の知れた政治家も姿を見せている。常日ごろからなぜ自分の分身がもう三体か四体ばかりいないのかと首を傾げているほど多忙な彼らが、どうしてこんな薄汚い場所に集結しているのか? それはおいおい判明するであろう。
「ご覧ください」
 各位はごろうじた。それは一見なんの変哲もないパイルであり、お馴染みの燃料棒と制御棒があるきり。これが本当に日本のエネルギー問題を解決し、死刑制度を廃止論者たちさえ納得させる合理的なものとせしめ、ついでに受刑者本人を晴れやかな気分で逝かせるであろうという、あの超高濃度中性子線原子炉なのか?
「このパイルの壁には無数のポロニウムとベリリウム箔が埋め込まれており、ポロニウムのアルファ崩壊によって放出されたヘリウム核がベリリウム箔にぶつかります。すると核反応によって中性子が叩き出される。そういうわけでいま、パイルのなかは無数の中性子が飛び交う放射線地獄となってるわけですな」
 熱心にメモをとる官僚がいるかたわら、技術者連中はあくびしているやつが大勢を占めている。釈迦に説法なのだ。
「このパイルへ死刑囚を放り込むと――あ、ちょっと待ってください」所長はすばやく端末片手に話をまとめた。「ちょうど今日、死刑執行の決まった案件があるようです。せっかくですので実施例を見ていただきましょう」
 間もなく死刑囚が連行されてきた。彼は現金ほしさに善良な一家へ押し入って壮年の夫婦を殺害し、三日前に誕生日を迎えたばかりの十三歳になる娘を強姦したという猛者であった(娘はその後自殺。遺書には犯人に対する呪詛の言葉が大学ノート数ページにわたってしたためられていた)。彼は率直に言って、人間のクズであった。
「ご覧のように受刑者にはあらかじめ薬剤が投与されており、意識はありません。これは従来の絞首刑のように死の直前まで意識を保たせておくような非人道性に配慮した、当刑務所オリジナルの改善点となります」
 さかんに死刑廃止論者たちがうなずいている。これは新しい。必ずしも残酷とは言えないのでは?
「この通り操作も容易です。あとは受刑者をパイルへ放り込むだけ」
 人間のクズがパイル内へどさりと投げ出された。まるで屠殺場の家畜かなにかのように(この表現はフェアではない。なぜといってその家畜のほうが彼より数億倍は価値があるからだ)。
「人間はおもに炭素を骨格としたタンパク質で構成されてますが、ご存じの通り炭素には同位体が存在します。陽子数六は固定で、それぞれ中性子数にばらつきがある。それが多い同位体ほど不安定になるわけですが、これは陽子と中性子にある程度決められた比が存在するからですな」
 勉強の足りない文系の官僚たちのなかには、ちらほら降参し始めているのが出てきた。最寄りの技術者に尋ねる者、お手上げだとばかりにたばこを吹かす者、端末で一生懸命検索する者。
「いっぽう中性子は速度の遅いほうが原子核に取り込まれやすい。ならばセオリー通り軽水で減速してやり、熱中性子にしてからそいつを受刑者へ叩き込めば……」
 各位はごくりと息を呑む。
「そら見てください! どんどん受刑者の身体が変化してるのがわかるでしょう。ちょっとお待ちを」照明が落とされた。「ぼんやり緑色に光っているのが見えますか。そうです、いまや彼を構成している原子の大半はウランとプルトニウムになりつつある!」
 みんな呆気にとられてしまった。話には聞いていたものの、いったいなにがどうなって人間が核燃料なんかに?
「ベータ崩壊ですよ、みなさん」所長はいまや有頂天になりながら続けた。「中性子過剰の原子核は安定になろうとして自身の中性子からベータ線、つまり電子と反ニュートリノを放出します。お手元の資料にある通りにね」
 ちなみにお手元の資料にはこう記載されていた。
 中性子のベータ崩壊 n → p+ν+e ※nは中性子、pは陽子、νは反ニュートリノ、eは電子
「そうです、ベータ崩壊は陽子の増加を引き起こすんですね。みなさん高校一年で習われた通り、元素の特性は陽子数で決まる。炭素は六ですが、こいつをどんどんベータ崩壊させてやればいずれ原子番号九二のウランになる道理です。もちろんウランは通常の原子炉と同じく、さらなるベータ崩壊でプルトニウムにもなる。そしていままさに、みなさんの眼前でそれが起こっているというわけですな」
 一瞬の間が空いたのち、割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。死刑囚をこれ以上有効活用する方法がほかにあるだろうか? ただ無為に窒息させるのではなしに、原子炉の核燃料にしてしまうとは……。
 これで他国から天然ウランを輸入する必要がなくなる。日本はエネルギー自給率を大幅に改善することができる。社会貢献するとなれば死刑囚だって潔くなるだろうし、廃止論者も表だって反抗しづらい。いったい一石何鳥なんだ?
「もちろんまだまだ改善点はあります。いまは人体のウラン・プルトニウム転換率は多くて十三パーセント前後。効率が高いとは言えません。われわれはこの結果に満足することなくこれからも技術向上に邁進し、最終的には転換率三十パーセントを目指します!」
 いまやパイル周りはライブ会場のような喧騒に満ちている。指笛で盛り上げている若い官僚がいるほどだ。いやしくも四六時中日本の未来に頭を悩ませている模範的官僚諸君であるならば、この件で騒がずにいるのは難しいはずだ。
 そこは安心してほしい。全員が狂騒状態にちゃんと陥っていた。みんな国のことを第一に考える模範的官僚なのである。

     *     *     *

 例の大成功に終わった超高濃度中性子線原子炉見学会の数日後、法務省から突如として通達があった。
 それはもちろん、一部の刑事罰の厳罰化である。法務省は遺憾としながらも、この改訂によって死刑囚が数パーセント増加する見込みであると発表している。


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