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白沢二背さん

白沢二背と申します。現在、月に一度もペースで執筆中。

性別 男性
将来の夢 恐竜になる事
座右の銘 石の上にも三年

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秘密の自転車屋さん

17/02/04 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 白沢二背 閲覧数:461

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 或る風の便りに聞いた物語である。
 此の白前町には、秘密の自転車屋さんが通る。
 曰く、カスタマイズドが便利だの、魔法の仕掛けを組み込んである、だの。
 惜しむらくは其の自転車屋さんは風の様に早いんだとかで、十二年も此の街に住む私も一度も御目に掛かった事が無い。
 自転車屋さんの朝は早い。
 うっかり寝過ごそうモノなら、俟っては、くれない。
 八時十五分。登校の時間である。
 今日はちょっと遅くなってしまった。
「みーちゃん、俟ってて、くれるかなあ」
 私は、のんびりとだが、校門前の坂道を下った。
 と。
 亜音速で脇を何かが通り抜けた。
「魔法の自転車屋さんだ!」
 思わず口が衝いて出る。
 だってだって、「確かに書いてあったあもの」。野。

 翌日からだが、私は躍起になって自転車屋さんを追った。
 人の持つ可能性は無限大だと、聞いた事が有る。
 私の足だって、鍛えれば何とかなるんじゃないか。
 そう甘い事考えていたのは、否めない。

 翌々日にはサドルを持って。其の亦翌日にはペダルを扱いで。
 私は、私が風になった様に思えた。
 漸く追い着ける様になった頃には、だが、ブレーキホースがブツリと切れた。サイドブレーキなんて気の効いたモノは無く、私は私の、足を使って止った。

 更に翌々日には、ドリフトも出来る様になった。
 ああしいてもらおう。斯うしてもらおう。
 其の裡、気概だけが大きくなって、基の意味を失う様になっていった。

 十八日目。
 遂に私は自転車屋さんを捉えた。
 序でに『木之下工務店』なる昇りも目に付く。
 十九日目。
 私は私が本来の意味を失っていると悟った。

 今日も天気は晴天である。
 人の持つ可能性は無限大である。

 私は、私が時速百km近い早度である事を悟った。
 人の持つ可能性は無限大である。

 調子の良い時には車の窓から手を振る子供が見えた。
 もっと調子の良い時には、其れ等の子供等に手を振り替えす猶予が出来た。
 今や校内でも私のドリフトを知らぬ者は居無かった。
 自転車屋さんも『木之下工務店』の看板を下ろし始めて、いた。
 三代続くスピードスケーターの家系らしく、彼は私を褒め称えていた。
 私は、有頂天になった。
 街の自転車屋さんは、既に二の次になっていた。
 面白くなって、私は開業する事に至った。

『街の自転車屋さん』が、私のママチャリにペイントされた。

『街の自転車屋さん』は直ぐ様話題となった。
 時にはtvの取材も受けた。
 時には挑んで来る若造を突っぱねて、やった。
 そう斯うしている裡に、オファーが三通程届いた。
 他人の事を抜け抜けと、まあ。
 曰く、『恐ろしい程の腕前』だの『秘密の自転車屋さん』だの『僕の御爺ちゃんが病気です』だの。
 私は私でいる事が急に恥ずかしく、なった。
 居たたまれない気分になって、急に徒歩を推奨する様になった。
 それでも依頼は――此の場合は病室発のモノ迄含んで――急増していった。
 私は、私がウサイン・ボルトにでもなったかの様だった。
 実際、隣りに居たら、勝つ自信が有った。

 時を隔てて、私は私である事を已めた。
 もう女性である事もかなぐり捨てて、病室の御婆ちゃんだか御爺ちゃんだかの為に奔るのも、已めた。

 もう時速40kmは出ている筈だった。
 端っこ車線から、徐行車を追い抜いた事も有る。
 校門前には人だかりが出来ている。
 勿論、ママチャリは引き摺っている。

 もう時速60kmは出ていた。
 自転車の修理をしながらでも、奔れた。
 一時、ブレーキランプを採用していて、此の手の事には詳しくなっていた。
 今日は、御婆ちゃんが入院していた子が、御爺ちゃんの入院していた子と連れ立って、私の足を見に来た。
 もう80kmは、出ていた。
 もう100kmも、出ていた。
 自転車屋さんは、楽しいなあ。
 自転車屋さんは、夢、有る、なあ。

 私の街には『自転車屋さん』が、有る。
 曰く、『自転車片手に修理中』だの、『時速120kmは出ている』だの、『人の可能性は無限大』だの。
「またまたあ」「そんな訳、ないじゃん」「私、聞いた事すら無いもん」。
 私の街には『自転車屋さん』が通る。風の便りに聞いた話だ。
『自転車屋さんは空を飛ぶ』。人の可能性は無限大である。
『自転車屋さんは、片手で飛ぶ』。人の可能性は無限大である。
『自転車屋さんは、決して諦めない』。何時か、私もそうなれたら、なあ。

 此ちら白前町三百番地の七。
 本日も青天の霹靂である。続く。








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