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鬼風神GOさん

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華麗なるタエちゃんの料理

17/02/02 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:0件 鬼風神GO 閲覧数:463

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 新宿の喧騒からはなれた路地の一角に密かに人気を集める食堂があります。
 その名も、「タエちゃん食堂」。
 夜の八時に開店し朝の五時に閉店するこの店は、残業で疲れたサラリーマン、夜のお仕事をやっている女性、終電を逃した者など様々な人間が訪れます。
 もちろん料理はおいしいのですが、お客さんはタエちゃんの人柄に惹かれて、仕事の愚痴や恋愛相談、果ては転職先についてどの会社がいいのかなど何かしら相談事を持ってきます。
 竹を割ったような性格のタエちゃんは相手の話を聞くのもそこそこに、こう言います。
「あんたはどうしたいんだい? 答えはもう決まってるんじゃないの?」
 もう一つ、タエちゃんは不思議な力を持っていました。それは人の記憶に残るおいしい料理と、レシピが分かる能力です。初めてタエちゃん食堂に訪れた者にはさっそくタエちゃんが腕を組んで、脳の奥底にある料理の記憶を読み≠ワす。
「かぼちゃの煮物だね。それもかなり甘いやつだ」
「すごい。俺の母ちゃんの得意料理だ」初老の男性は素直に驚きを示します。「こりゃ驚いたな。味もその通りに作ってくれるの?」
「ああそうだよ。楽しみに待ってな」
 ほどなくして、男性の前にうっとりするような甘い香りを漂わせた器が置かれました。目を少年のように輝かせ、男性は箸を伸ばし、十分火が通って柔らかくなったかぼちゃを口に運びます。
 何かを噛みしめるように味わっていた男性は思わず目に手をやります。
「おいしい……おいしいよ、タエちゃん」
「そうかい。そりゃよかった」
「もうどれくらい食べてなかったかな。一生食べられないと思っていたよ」
 記憶に残る食べ物に接したとき、人はその食べ物にまつわる思い出話を宝物を披露するように話してくれます。
「普通かぼちゃの煮物ってここまで甘くないだろ? 俺が、今日も甘いなあ、って言うと、じゃあもう食べなくていいよ、って母ちゃんが下げようとするんだよ」男性はまた目を拭います。「もちろん本気で言っていたわけじゃない。俺はこれが大好きだった」
 タエちゃんは静かに微笑んで話を聞きます。
 コの字型のカウンターの別の席ではそんな様子を眺めながら、常連たちがいつものタエちゃんの正体§bで盛り上がっています。
「もう何十年も前に離婚して旦那が子供引き取って、それ以来ずっと一人らしい」
「俺は実家がすごい金持ちだったけど駆け落ちして勘当されたって聞いたぞ」
「いやいや子供と生き別れてそれを探してるって徳さんが言ってた」
 ある日、一人のサラリーマンがタエちゃん食堂を訪れました。若い男性ですが、スーツがとてもよく似合っていて、仕事がよくできそうです。
 常連たちが囁き合います。
「息子がいたらあれぐらいになっていてもおかしくないんじゃないか?」
「そういえば少し目元が似ているような……」
「おい、タエちゃんがいつもの儀式をやるぞ」
 いつものようにタエちゃんは腕を組み、若い男性の顔を食い入るように見ます。
「うーん、浮かばない。すまないねえ。何かリクエストしておくれ」
「あ、じゃあカツ丼で」
 その場が静かにざわつきます。
「おいおい嘘だろ。こんなの初めてだぞ」
 お調子者の男性がいつもとは違う真剣な表情で言います。
「分かった! あれが生き別れた息子さんなんですよ。ほら、俺たちは空気読んで店を出ましょう」
 タエちゃんはぞろぞろと出ていくお客に眉をひそめながらも料理を続けます。
 やがて若い男性の前に置かれたのは、カレーライスでした。
「あれ、俺カツ丼って」
「実はあの後、この料理が浮かんだのさ。まあ、食べてみな」
「記憶に残る料理かどうかはあまりピンとこないけど……。でもおいしそうですね。いただきます」
 最初はおそるおそる食べていましたが、徐々に勢いがついてきます。
「これめっちゃおいしいですね。でも母のカレーじゃないなあ−−がっ」
 若い男性はカレーと血が混じった液体を口から吐き出して、椅子から転げ落ち、冷たい床をのたうち回ります。
「高瀬くん久しぶり。こつこつ頑張ってたらどっかで神様が見てくれてるんだねえ。ようやく二人きりになれた」
 タエちゃんはゆっくりとした動作でカウンターを出て、高瀬と呼ばれた男性に近づきます。
「あんたが殺した聡の母親だよ。覚えてないかい? よく遊びにきて、いっつもこのカレーをご馳走してたじゃないか。今日までこの能力だけが頼りだった。念のため整形もした。でも、本当に新宿で働いてたんだね」
 死の間際だからでしょうか、それともタエちゃんの正体に気づいたからなのか高瀬は目を大きく見開き、絶命しました。

 新宿の喧騒からはなれた路地の一角に密かに人気を集める食堂がありました。その名も「タエちゃん食堂」。
 以前は活気のあった場所ですが今はもう訪れる者はいません。


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