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ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

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自転車のおせわって、とってもたいへんなの……

17/01/30 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:1件 ちほ 閲覧数:509

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「こっちに来て、ウォルター。あなたの自転車よ。素敵でしょう?」
 子ども用のひよこ色の自転車。母の新しい恋人ピートが手に入れてくれたそうだ。ウォルターは、背の高いピートを背伸びして見つめる。ピートは、笑顔で右手を軽く振った。この人は、いつも笑顔を向けてくれる。優しい人かもしれない。
「……ありがと」
 ウォルターは、ちょこんと頭を下げた。そして、初めての自転車を家の前の道へ引っ張っていく。
「坂道には気を付けてね。絶対に坂道を下りてはダメよ。……で、ピート、気になることがあるんだけど……ウォルターの自転車のことだけど、アレって本当に発明家のS博士が作った作品なの?」
 坂道には気を付けること。よくわかっていた。でも春一番の強風が、自転車にまたがったウォルターを強烈に吹き飛ばそうとする。
「……S博士って、もしかして10年前に『変人』と噂の高かったあの……」
 母の声が強風に掻き消されていく。ウォルターの体も自転車ごと風にさらわれていく。悲鳴を上げる暇もなく、ウォルターは坂道を滑っていった。どんどん自転車のスピードがあがり、すぐに補助輪が跳ね飛んだ。補助輪がなくても倒れないので大丈夫だろうとぼんやり考えた。
 滑らかな坂道を下り終わっても、スピードは相変わらず速い。どうしようかなぁ……と思っているうちに、大きな桜の木にドンッと勢いよくぶつかった。ウォルターは、自転車からブーンと飛ばされて、花びらの山にドサリと落ちた。パサッと花びらが舞い上がる。自転車は? と探して、そして見つけた。自転車は勝手によろよろと走り、金色のベルがリーン! と一つ鳴り響いて弾け飛ぶ。チェーンも地面にバサリと落ちた。そうして、ふらふらと湖の淵まで動くとバタンと倒れ、倒れた弾みでサドルと前のタイヤが、湖にドボーン!
 ウォルターは、のろのろと立ち上がった。半分ガラクタになった自転車を引き摺って、とにかく家に帰ろうと決めた。ピートがくれたものだ、最期まで面倒をみなくては。でも、あまりにも簡単に、しかも勝手に壊れていくのはどうすればいいのだろう……?
 ずるずると引き摺りながら、一歩一歩坂道を上る。重くて仕方のない荷物だが諦めたくはなかった。もうすぐ家というところでハンドルだけが手に残り、またもや自転車本体は坂道をバタンバタンと転がり落ちていき、後ろのタイヤが宙を飛び、残りの部品も全てがバラバラに、最終的には空中分解してしまった。

 母親は、ブラウスの袖をちょいちょいと引っ張られて振り返った。頬に擦り傷をつけ、服も砂や泥に汚れたウォルターの小さな姿があった。自転車と一緒に家の前の道に出かけ、母のもとになんとかして戻ってくるまでにかかった時間は5分ほど。母もピートもS博士の噂話に忙しくて、ウォルターが不本意な大冒険に巻き込まれていたことなど、まったく知らなかった。やっとのことで帰ってきた息子に、母は首を傾げる。
「まぁ、こんなに汚れて。擦り傷ができているわ。一体どうしたの? あら、自転車は?」
 ウォルターは疲れた顔で、ハンドルを母に差し出した。
「これは何?」
「ボク……つかれたの……」
 ふらつく幼い息子を母が抱きとめると、彼はそのままの姿勢で眠ってしまった。
「自転車の練習って、そんなに疲れるものだったかしら?」
「さぁ? ところで、自転車はどこにあるんだろう?」
   ◇
 ピートは、S博士に電話をした。
「もしかして、失敗作をぼくに売りつけたのか?」
「失敗作じゃない! 大発明だよ! 『乗れば少しずつ分解していく自転車』だぞ! 大成功だっただろう? 次は、『乗った瞬間に分解する自転車』を発明するぞ! 絶対、事故を起こさない自転車だ!」
「こっ……このぴんぼけ発明家―――っ! 自分で乗ってみろ!」
   ◇
 ピートはウォルターに、また新しい自転車を手に入れることを約束したが、
「あのね、自転車のおせわって、とってもたいへんなの……」
 ウォルターは、涙目でしみじみと答えた。

「みんなに好かれたくて、ついつい発明家という名前に魅かれ、信用してしまったんだよ」
 そう言って反省するピートを、ウォルターの母は軽く睨んでから溜息を吐いた。


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このストーリーに関するコメント

17/01/30 ちほ

『ロビン』シリーズは、次の通りです。

・「お父さん、大好き!」
・「大根」
・「5歳児の『理由ある反抗』」
・「ウォルターと不思議な304号室」
・「自転車のおせわって、とってもたいへんなの……」

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