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木野 道々草さん

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鳥と男

17/01/29 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 木野 道々草 閲覧数:357

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 ある緑に囲まれた住宅街に、野鳥と触れ合うことをコンセプトにしたアパートがある。広い敷地内にイチジクの木が植えられ、鳥がその実を食べにやってくる。住人はベランダに餌台を置き、一年中鳥の声が絶えない。
 三階に住んでいた一人暮らしの男も、餌台を作りみかんを置いていた。彼は、餌台にビデオカメラとマイクも取り付けて、いつもやってくる三羽の小鳥たちの「興味深い」鳴き方を観察していた。
 八月。男は、三羽が他の鳥とは異なり、単語を組み合わせて会話をしていること、「言語」を持つことを知った。
――鳥と会話ができたら面白い。
 そう思った男は、三羽の会話を記録したビデオを頼りに、彼らの言葉を学ぶことにした。

 一ヶ月後、語学の才に恵まれていた男は、三羽の言葉を理解し始めた。彼は試しに、三羽が餌台に止まると話しかけてみた。
 {みかん 好き ですか}
 男は、なぜ三羽はイチジクの実がなっているのにみかんを食べにくるのか知りたかった。
 三羽は返事をせず飛び去った。自分たちが「言語」を持つことを他の動物に知られるのは、固く禁じられているからだった。
 ところが、一羽だけ戻ってきた。その鳥は、好奇心が強かった。
 男が両手を差し出すと、鳥は彼の手の平に止まった。鳥は、男の手の平を気に入り、しばらくこの人間と一緒にいてもいいと思った。
 鳥は男に話しかけた。しかし男は、{私}と{教える}しか理解できなかった。鳥は、{あなたの発音はあまりに悪いから私が教えます}と言ったのだった。
 
 この日から鳥は男の部屋に住み、彼に発音を教えた。鳥は、男の発音に少しでも間違いがあると何度も手本を聞かせ繰り返させた。男は、まるで親鳥に鳴き方を教わるひな鳥のようだと思った。
 男の発音の上達ぶりには目を見張るものがあった。彼は鳥に質問をしながら語彙を増やし、より複雑な構文を学んでいった。ただ、飛行や空の空間に関する表現は、飛べない男には理解が難しかった。
 次第に男は、鳥に教えてもらってばかりで申し訳なく思うようになった。彼は、鳥が数字を持たないことを知ったので、数字と加減乗除を教えることにした。彼は数字のカードを使って教えた。鳥はすぐに数字の表記を覚えたが、数字そのものの理解には時間がかかった。
 こうして鳥と男は教え合い、また、互いの世界を学び話すための新しい語を増やしていった。鳥は、{アパート}{ドア}{窓}などの居住空間を表す語を造った。

 ある日、鳥が計算を見せると言った。まず数字のカードをくちばしにくわえて、304の並びを作った。それは、男の部屋番号だった。
 {この部屋のドアのしるしの数字です}
 と鳥は説明し、3のカードを右方向へ、4のカードを左方向へ、3と4が互いに近づくようにカードを移動させた。0のカードの上に、3と4のカードが「乗った」状態になった。
 {一緒になって 0になります}
 男は少し考えて、鳥は3と4のカードをつなげることを「足し算」と言っているのだと解釈した。
 {3と4を一緒にしたら 7ですよ}
 と男は7のカードを指差した。鳥は否定した。
 {いいえ 0です 3と4はここから消えました}
 実は、鳥が見せた計算は(3+4)×0だった。
 
 また別のある日、男と鳥はベランダで語らっていた。
 男は、裏庭のイチジクの木を見てかつての疑問を思い出し鳥に質問した。
 {どうして あなたたち三羽は イチジクの実があるのに ここにみかんを食べにきたのですか}
 鳥は少し間を置いて答えた。
 {あの実は 食べてはいけないのです}
 男は、イチジクの木は他の鳥の縄張りで、三羽の小鳥は近づけなかったのだと解釈した。そこで、鳥にちょっと待っているように言った。彼は、鳥のためにイチジクの実を数個摘んで、ベランダに戻ってきた。
 鳥は、一時ためらったが、目の前のイチジクを無視できず、その実を一口また一口と口に含んだ。美味しそうに食べる鳥を見て、男もイチジクを口にした。
 男は、気分良く鼻歌を歌い始めた。鳥も、男に向かって歌い出した。鳥は、遠くまで響く澄んだ声で、複雑な旋律を繰り返し発展させて歌った。
 すると、鳥の仲間の二羽が、久しぶりに男のベランダへやってきた。鳥は、二羽に気づくと歌を止め、空に向かって飛んだ。男は、三羽の再会を喜んだ。
 ところが、二羽は鳥に攻撃を始めた。空中で鳥を追いかけ回し、くちばしで激しく突いた。鳥は、悲痛な鳴き声をあげた。男がこっちに来るよう叫び両手を伸ばしたが、声も手も鳥には届かなかった。
 三羽の姿はどんどん男から遠ざかり、やがて空の向こうに消えてしまった。
 何日待っても、鳥は帰ってこなかった。アパートに集まる野鳥の鳴き声は、男にあの鳥の姿を思い出させた。彼はそれが辛く、ついに304号室を去った。


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