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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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トラウマバイセコー

17/01/30 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:4件 浅月庵 閲覧数:977

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 朝の澄んだ空気が好き。スズメの忙しない鳴き声も好き。そのなかを毎朝、自転車で走るのが好きだ。

 玄関近くにママチャリが置いてあって、毎日高校への登下校にそれを使うんだけど、今日はなにやら様子がおかしい。

「え、なにコレ!」
 自転車のサドルが行方不明で、元々サドルが挿さっていた支柱に、なぜかニンジンが紐で巻き付けられている。うーん、横向きにしたら確かにサドルっぽいけども!

 ……少し迷って私は決めた。食べ物は粗末にしたくなかったけど、誰が置いていったかわからないものを食べるのはキモいし、危険という常識も持ち合わせていたので、私はニンジンを適当な方角に全力で投げた。カラスなんかが食べてくれることを願って。

 ーーどことなく気持ちが優れないまま、一日の授業がすべて終わった。
 自宅に戻ってソファーでケータイをいじっていると、早速お母さんがママチャリの異変に気づく。
「自転車のサドルどうしたの?」
「盗まれたっぽい。ずっと立ち漕ぎで、めちゃくちゃしんどかったよ〜」
「え、大丈夫なの? 警察に、」
「変な人もいるもんだね〜。帰りにホムセンでサドル買ったから、あとでお金ちょーだい」
 前にネットで見たんだけど、女子の自転車のサドルを好んで盗み、代わりにブロッコリーを突き刺していく変態がいたらしい。ニンジンの件も含めてお母さんに話すと心配をかけそうだったので、私は全然ミジンコほども気にしてませんよ〜って態度を装う。

 次の日の朝、片手に新品のサドルを掴み、私は外に出る。またサドルを盗まれても嫌なので、これからは自宅で保管することに決めていたのだ。
「嘘でしょ!」
 だけど不安はそこじゃなかった。私の目に飛び込んできたのは、サドルの代わりのタマネギだった。いやいや、こんなのお尻痛くなるわ!

 その次の日の朝。今度は小ぶりのジャガイモが私を待ち構えていて、そろそろ怒る。
 大好きな朝の時間をことごとく台無しにしやがって! 絶対犯人を捕まえてやる!!

 ーー夜の十一時。この時間までに何度か外の自転車を確認しに行ったけど、まだ野菜は置かれていなかった。なので私は物陰に隠れ、犯人が現れるのを待つ。

 すると十二時前に犯人が現れて、さも当たり前のように私の自転車の前でゴソゴソやってる。
 その光景を目の当たりにすると予想以上にキモくて、口からマーライオンしそうになった。

「アンタ、なにしてんのよ!」枯渇寸前の勇気を振り絞り、私は飛び出す。深夜ということで声量は抑えたけど、効果は抜群。犯人は手に持ったレジ袋を慌ただしく落とし、私の方へ視線を向けた。シャッターチャンスと思い、ケータイのカメラを犯人へ向け、フラッシュ。その光のなかで見た犯人の顔が見覚えのあるもので、私は卒倒しそうになる。「大河内が犯人だったの!?」

 私の問いに、同じクラスの大河内隼人がはにかんだ様子で笑顔を見せた。なに笑ってんだよ、怖い怖い。
 そして、まったく予想してなかった一言が闇討ち。私の頭をぶん殴る。
「神田時子さん。僕と結婚してほしい」ホワッツ!?

 私は一時間かけて大河内を説得し、今後人の嫌がることは絶対にしないと誓わせ、結婚できないこともそうだし、これからも大河内を好きになることは絶対にないと伝えた。当然だ。

 ーーで、大河内がなんでこんなことをしたのか聞き出したんだけど、入学早々行われたクラスの自己紹介で、私の特技が料理だということを知り、実際に家庭科の授業でも手際が良かったことから、私に惚れたらしい。どうやら掴みたくない胃袋を掴んでしまったようだ。

 で、大河内の好物はカレーらしく「毎朝僕のために味噌汁を作ってほしい」みたいな定番のプロポーズ的感覚で、私の自転車にカレーで使う食材をくくりつけていったみたい。発想が変態で大変だ。

 しかも私が説教をした日に用意したのが、野菜じゃなくて豚肉だったので、あー、大河内の家ってポークカレー派なんだっていうのはどうでも良くて、生肉攻撃を受ける前に食い止められて心底良かったと思う。良くないけど。

 ただ私はこの一件がきっかけで、しっかりカレーが食べられなくなって、再度大河内にブチ切れようかとも考えたけど、やっぱりやめておく。

 だって私はまだ、大河内から自転車のサドルを返してもらってないし、まず返してもらう気もないけど。なにかの拍子にふと、大河内の口からサドルをどこへやったのか、今どうなっているのかを聞いてしまい、それがショッキングな内容だったら、今度は自転車すら乗れなくなってしまうだろう。

 自分の好きなものを大河内のせいでまんまと失っていくなんてウザいので、嫌いなものには極力近づかないし、改めて嫌いだって伝えることもしない。

 それに、罵倒されるのが好きな変態だって、世の中にはいるらしいのだ。


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このストーリーに関するコメント

17/03/04 むねすけ

読ませて頂きました
軽妙なリズムの楽しい言葉の使い方が印象的で
ストーリーもほのぼのとした楽しさを根底に
しかしヒリッとした現実も忘れることがない
バランス感覚も素晴らしかったです

17/03/04 浅月庵

むねすけ様
ご感想ありがとうございます!

最初は割と淡々とした文体で書いていて、
後からくだけた形に手直ししたので、
その部分が印象的だと言っていただけて嬉しいです!
笑い話のようだけど実際気持ち悪いような......
そんなラインを攻めてみました。

17/03/14 光石七

拝読しました。
軽快なタッチで書かれていて、楽しく読めました。自分が主人公の立場だったら、楽しむどころじゃないですが。
これはトラウマになりますよねえ……
“嫌いなものには極力近づかないし、改めて嫌いだって伝えることもしない”、主人公のこの姿勢に妙に納得してしまいました。
面白かったです!

17/03/16 浅月庵

三石七様
ご感想ありがとうございます!

第三者の視点からだと笑い話になる
かもしれませんが、実際こんなことされたら......
トラウマものだと思います。笑
嫌いなものには極力近づかないし〜のくだりは自分でも
気に入っているので、その部分にご感想いただけて嬉しいです!

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