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モモユキさん

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深夜の訪問者

17/01/29 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 モモユキ 閲覧数:589

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 深夜二時をまわっている。
 大学に入学するために上京し、都内のワンルームマンションの304号室で暮らし始めて、今日が二日目の夜だった。寝付かれず、テレビを観ている。
 ピンポーン。
 インターホンが鳴った。びくっとする。こんな時間に? 誰だろう。
 訪問者に心当たりはない。ぼくの実家は群馬県で、東京に知り合いはほとんどいない。
 ピンポーン。
 こんな夜の夜中に訪ねてくるなんて非常識だ。群馬では考えられないことだが、東京ではめずらしくないことなのだろうか。
「どちら様ですか」
 玄関のドアの前に立って声をかける。
「夜分遅くにすみません。インターネットの通信回線についてご紹介をしております。少しお時間をいただけないでしょうか」
「夜遅いんで、今度にしてもらえますか」
「御迷惑をおかけして申し訳ありません。わたくし事ですが、毎日の営業ノルマがありまして、今日はあとお一人様にご説明させていただければ終わることができるんです。どうかお願いします。二、三分で済みますので」
 話を聞いてしまったほうが早そうだ。ぼくはドアを開けた。
「しゃべるな。口を閉じて、両手を頭の後ろにまわして組め」
 黒の皮ジャンにグレーのスラックスの男が、こちらに黒光りする拳銃を向け早口で言った。
「ちょ、ど、どういうことですか」
「黙れ。他の住人に聞かれる」
 男は銃口をぼくの腹の辺りに定めたまま、ドアを閉めて、鍵とチェーンかけた。
「奥へ行け」
 ぼくは頭の後ろで手を組み、部屋のなかへ入っていった。
「動くな。動いたら撃つ」
 見たところ男は三十代半ばくらいで、額が後退していて、口臭がきつい。
 背中にまわした腕に手錠をかけられ、猿ぐつわをかまされた。
「これから外へでる。絶対に騒ぐんじゃない。騒いだら、ためらいなく撃つ」
 状況がのみ込めなかった。どうしてぼくがこんな目にあわなくてはいけないんだ。この男は強盗じゃない。ぼくをどこかへ連れていこうとしている。
「やっと見つけたぞ。手こずらせやがって。お前らの好きなようにはさせないからな」
 男があぶらぎった顔に笑みを浮かべて言った。息使いが荒く、表情に興奮の色が貼りついている。
 この男はぼくを誰かと勘違いしている。
 すぐに思い浮かんだのは、ついこの間までこの部屋に住んでいたであろう、かつての住人だ。
「違う。何かの間違いだ。ぼくは昨日この部屋に引っ越してきたばかりの、ただの大学生なんだ」
 そう喚いたが、猿ぐつわのせいでただの唸り声にしかならない。
「黙れといっているだろ。いうことを聞かないと、この場で撃ち殺すぞ。しゃべれないようにしてから運んでもいいんだからな」
 ぼくの頭に銃口を突きつけて言った。口をつぐむしかなかった。
「立て」
 男が命令した、そのときだった。
 玄関のドアの鍵が開けられる音が、小さくかちりと鳴った。とっさにそちらへ顔を向けると、わずかに開けられたドアの隙間から、大きなニッパーのような工具が突きだしているのが見えた。チェーンが切断される。
 ドアが勢いよく開き、銃声が鳴った。
 ぼくの隣に立っていた男が、顔をのけ反らせて後ろに引っくり返った。
 発砲した男が、あとから入ってきた二人に何か指示をした。三人ともサイレンサーのついた銃を握っていて、撃たれた男よりも若く見える。
 三人の顔は日本人そのものだが、話している言葉は日本語ではない。
 発砲した男が撃たれた男のポケットを探り、ぼくの手錠と猿ぐつわを外した。そして、訛りのある日本語で言った。
「今起こったこと、誰にも話してはいけない。もし誰かにばらしたら、あなた、そこに転がっている男と同じようになる。わたし、この304号室に、先月まで住んでいた。見えない場所に三カ所、盗聴器、仕掛けてある。隣の303号室に、わたしの仲間、住んでる。その303号室で、この部屋をずっと、盗聴していた。盗聴器は、すぐに回収する。あなたこの先、何もなかったこととして、この部屋に住み続ける。あなたには、もう、何も起こらない。あなた連れていこうとしたこの男、今夜中に灰になる」
 エアコン、部屋の奥の壁のコンセント、玄関の上部に設置されているブレーカーの三か所を、工具を使って何やらいじっていたあと、三人は死体と共に去っていった。
 その後、確かにこれといったこともなく、ぼくはその部屋で暮らし続けている。ドアチェーンは業者を呼んで自腹で付け替えた。
 変わったことといえば、いつの間にか隣の303号室の住人がいなくなり、空き部屋になっていたことくらいだ。
 東京というのはやはりすごいところだと思う。


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