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ゴキブリの見解

17/01/28 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:517

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「304号室は、法的に私のものです」303号室が言った。
「304号室は、オラのいとこが昔住んでたから、オラのもんだ」305号室が言った。
「304号室は、アタイが子どもを産んだ部屋だから、アタイのよ」204号室が言った。
「304号室は、オレのもんや。文句あんならかかってこい」404号室が言った。
 303号室は一つため息をつくと、ちゃぶ台の上に一枚の書類を置いた。304号室の狭い部屋にあるただ一つの家具である。
 ゴキブリが一匹、壁を這っている。
「これが証拠です。ちゃんと判子も押してある。法律はすべてです」
 404号室がのぞき込んだ。
「101号室と405号室、それと502号室の三つだけしかないやんけ。話になりませんな。しかも、そいつらみな、オタクの連れやないかい」
「そうよ。その法律っていうのもあなたたちが決めたものでしょ」
 204号室が緑茶のペットボトルをみんなに配りながら言った。
「いいえ、議会で決を採り、賛成多数で承認されたものです」
「これどうやって飲むんだっけな?」
 305号室のペットボトルを204号室が取り上げると、素早くキャップをひねり、305号室の前に置いた。
「おーありがと。あーそうそう、それで、その議会には何人いたの?」
「……」
「どうせ5人やろ」
「出席者の人数はどうでもいいではありませんか。どの根拠に一番説得力があるのか、それを第三者の皆様のフィルターを通して導かれた結論でありまして、そこが重要なのです」
 ゴキブリがもう一匹流しの方をのそのそと歩いている。
 ここ304号室は「ゴキブリの部屋」と呼ばれている。ゴキブリがたくさん住んでいるからである。大家は家賃を一万円にまで下げたが、誰もよりつかない。誰もが住む前にゴキブリを3匹同時に見たら、住みたいと思わないらしい。だから、ここ304号室はずーと空室であった。
「だからさきから言うとるやないけぇ、その第三者ってのがめっちゃあやしいねん」
「あらヤダ、みなさん、きれいよ。あっち見て」
 204号室が西側の窓を指した。
 窓の外では、夕陽が富士山を真っ赤に染めていた。そして、その燃え上がる光の前に少し霞のかかった巨大な影が直立にそびえていた。スカイツリーである。闇と光の間にある、あいまいだが明確な線がちょうどスカイツリーの先端に位置していた。
「オラの部屋からは看板が邪魔で、こんなにきれいに見えんだ」
「そういや、おっさん、スカイツリーが出来てからちゃうかったけ、この部屋を欲しがったんは」
「いや、それは違うだ。昔いとこが住んでたんだ。それを言ったら、あんたもスカイツリー完成直後じゃなかったかのお」
「なにをごちゃごちゃぬかしとんねん。お前はペットボトルすら開けられへんねんで」
 404号室はペットボトルを開け、一気に半分飲んだ。
「とにかくよ。よくあるじゃない、永住権を取るためにお腹を抱えて国境を超えるって話。それよ。別にアタイはね、永住権が欲しくて、こんなゴキブリだらけの部屋で産んだわけじゃないんだよ。うちの暴力亭主から、子どもを守るためにここでこっそり生んだの」
「あのー、僕もしゃべっていいですか?」
「あなたがしゃべる権利は法的に認められておりません」
「オラのいとこの方がお前より偉いんじゃ」
「アタイ、嫌いなのよ。キモい」
「踏みつぶすぞ、ワレえ」
「いや、しゃべらせてもらいます」
 一匹のゴキブリがちゃぶ台の上に載った。
「この304号室は誰のものでもないのではないでしょうか。もちろん、僕のものでもありません。僕はここに1000年くらい住んでいます。でも、それでも僕のものではありません。
 そもそもみなさんの部屋も、もともとはみなさんのものではなかったじゃないですか。誰のもの?誰のものでもありません。それをみなさんは、暴力や飴玉を使って居座るようになった。勝手に線を引いて。線なんてものに実体などないのに、それが幻だということを認めようとしない。いや、その不都合な真実にうすうす気づいているものの目をそらし続けている。違いますか?
 ここ304号室は、誰のものでもないし、誰のものでもある、それじゃダメなんですか?自由に出入りできる。夕方ビールを飲みながら夕陽を見て涙を流す。子どもを産みたければ、産めばいい。皆でお産を手伝えばいい。
 先ほど、204号室さんがここから見る夕陽が美しいとおっしゃっていた。そして、皆さんも同じ感想をお持ちになったように、僕には見えた」
 ゴキブリはみんなを見渡した。そして、続けた。
「大丈夫なんですよ。結局、美しいものは美しいのですから」
 303号室、305号室、204号室、404号室は黙っていた。そして、ペットボトルを口につけ窓の外を見た。
 窓の外では、闇をスカイツリーが天に向かって突き刺していた。


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