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いありきうらかさん

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憂鬱と走光性

17/01/26 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:0件 いありきうらか 閲覧数:509

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定時をとっくに過ぎた時間に駅を歩く。
どうして新宿駅というのは行きも帰りもこんなに人がいるのだろう。
恐らく上空から見ると、餌に群がるアリのように見えるのだと思う。
上京して3ヶ月になるが、未だにこの人混みと定員オーバーの電車には慣れていない。
朝から怠さの残った体で、鉄の塊に収容され、大量の肉の塊と同じ時間を過ごすと考えると、憂鬱になるのを避けられない。
朝は小型のサウナに閉じ込められ、
夜はアルコールの臭いが染み込んだ車内で眠気と戦いながら体を揺らす毎日にうんざりさせられる。
朝、スーツを着て覇気のない目で車外をじっと見ている中年を見ると、
自分はあと数十年この生活を続けるのか、と、ため息が漏れる。
こんな変化のない毎日を過ごしていると、新宿駅の東口からネオン街へ向かっていく大人が多いのも頷ける。
直属の上司は、2度もぼったくりの被害に遭っているというのに、月末にはネオン街へ飛び込んでいく。
自分には理解が出来ないが、自分も数年後同じような道を辿るのだろうか、と考えると、寒気がする。


大学の卒業式で、顔も見たことのない白髪の老人は言っていた。
「皆さんは、期待と不安を胸に社会の一員となるわけですが・・・」
何を勝手に代弁してくれているのか。社会になど何も期待してない。
不安ばかりが募った心に油を注がれる気分だった。
都会など行きたくなかった。自分に合う訳がない。
しかし、地元で就職先が見つからず、就職活動も難航し、結局東京が職場となった。
研修後、程なく本社勤務が決まり、約1時間かけてこの街へ来ている。
大学時代の数少ない知り合いとたまに連絡を取ると、話題はもっぱら残業や給料、上司への愚痴だ。
世間ではブラック企業がなんだ、過労死がなんだ、と騒いでいるが、東京において、
黒く塗りつぶされていない場所など存在しないのではないか、そんな気もしてくる。
しかし、不思議と仕事をやめる気にはならない。
恐らく華やかだったキャンパスライフから落下した、能力の備わった奴らが、自信を武器に根城を変えているのだと思う。
少なくとも、無個性で、何の起伏もない大学生活を過ごした、自分のような人間ではない。


精密機械を触りながら人混みをかいくぐっていく女。
お互い腰に手を回してどこかへ向かう年の離れた男女。
誰もいない壁に向かって頭を下げながら電話をしているスーツを着た男。
新宿駅を歩いていると、未だに新種の生物に出会え、サファリパークを歩いている気分だ。
しかし、それにしてもすれ違う人たちは一体普段何を考えているのだろうか。
歌舞伎町に行く人も、ルミネのお笑いの劇場に行く人も、ホームで電車を待つ人たちも、
仕事や勉強に励んだり、家族の顔を見るのを心待ちにしていたり、それぞれのストーリーがあるのだろう。
この人たちは今の状況に何も感じていないのだろうか。
誰もが味わうことだと受け入れ、堪え忍び、毎日を過ごしているのだろうか。
誰にだって同じことだと、我慢しているのだと、現状を受け入れられない自分は、
社会のパズルにははまらないピースなのだろうか。


ふと気づくと、自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
見覚えのない風景が広がっている。
自分が普段通っている道を見失ってしまった。
昔ははぐれてしまっても、店員に助けを求めれば、母親がすぐ駆けつけてくれた。
今は電波を用いれば簡単に人とは繋がるが、助けてくれる人はいない。
自分の頭と体が、出口のない迷宮に閉じ込められてしまったように感じた。


壁に右手をつけて歩いていると、いつか出口に辿り着く、そんな話を聞いたことがあった。
そうすれば家に戻れるかな、と呑気に考えていた。
案内板を見てみると、「東口改札」と見えた。
いつの間に改札を通ったのだろう、と疑問に思いながら、案内板に従い進んでいった。
すると、「歌舞伎町方面」と書かれた看板を見つけた。
しばらく、頭が真っ白の状態で誰かに導かれるかのように歩いた。


眼前に、電飾で構成された街並みが現れた。
そうか、このために大人は、この街に来るのか、と感じた。
大学時代、知り合いに無理矢理連れてかれ、パチンコをしたことがあった。
訳もわからず遊戯すると、突如、爆音と閃光に見舞われた。
その日から、1人で轟音の中に自ら冒険をするようになった。
あの感覚だ。あの脳に直接注射をされたかのような感覚。
この妖しげな光が、電灯に群がる虫のように、人間を誘き寄せているのだ。
退屈で先も見えない暗闇を照らす、煌びやかな光。
ああ、自分も同じ道を辿るのか、と失望しながらも、
自分が社会のために形を変えているような心地がして、誇らしい気持ちも同時に抱えていた。


垢の抜けていない背広の背中が、ネオン街に消えていった。


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