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栗山 心さん

俳句歴15年。

性別 女性
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松竹梅

17/01/15 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 栗山 心 閲覧数:363

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 「304号室?4が付くなんて、あまり良い部屋では無さそうだけど」
 「この病院では欠番は無いんですよ。個室をご希望でしたよね。304号室はこの度出来た新館の角部屋の個室です。晴れていれば富士山も見えますし、一番良い日当たりの良い病室だと思われます。松竹梅なら、松ですね」
 「そうなの?それならその部屋にしておくわ」
 「わかりました。六人部屋との差額の金額を頂くことになるんですが」
 入院担当の看護師が、入院に関する冊子を見せた。入院の際の諸注意や持ち物、諸々の金額が書かれている。さすがに松竹梅とは書いていないが、個室から六人部屋まで分けられていて、もちろん金額も違っている。
 
 文香の叔母・園子が、肺炎のため入院し、親族の代表として入院に立ち合うことになった。幸い大事には至らず、二週間ほど入院することになったが、四十代で病気ひとつしたことが無い文香にとっても病院には全く縁がなく、入院手続きは人生初の経験である。独身でずっと独り暮らし、気位が高く我儘な叔母の気性を考えて、個室に入れることした。304という数字は気に入らないが、仕方ない。
 
 「パジャマやタオルはレンタルされますか?感染予防のためにもレンタルをお勧めしているんですが」
 「そうね、お願いします」
 「松竹梅、とありまして」
 また松竹梅かあ。なんだか鰻屋さんみたい。
 「タオルのみが梅、タオルとパジャマが竹、紙おむつまで入ったものが松、となります」
老齢の叔母は、しばらくの間、起き上がってトイレに行くのは無理だろう。
 「『松』でお願いします」
眠る園子の枕元のボードに大きな「松」のシールが貼られた。
 「タオルですが、『松』が、ドバイの星付きホテルでも使われている最高級のコットン百%のタオル、『竹』が国産、オーガニックの今治タオル、『梅』が業務用タオル、となっています」
 今度はストレートに高い方から提案して来た。最初に良いものを聞いてしまえば、後のほうはどうしても見劣りする。しかも最上級の304号室だ。あまり安いものではつり合わない。ケチな親族と思われるのも癪だ。
 「ええっと、それは今決めないと行けないの?」
 「とりあえず、保留にして下さっても大丈夫です。次に行きますね、パジャマですが、シルクは着心地は良いんですが、滑るので当病院では使っていません」
 「そうですか…」
 「『松』が貴重なモンゴル産カシミアとコットンをミックスしたパジャマ。色も五色から選べます。『竹』がインド産の高級三重ガーゼのオーガニックコットンパジャマ。『梅』は、病院オリジナルのロゴ入り寝間着、になります」
 「それもちょっと考えさせてください」
 「分かりました、次、行きますね」
 まだあるのか…。くらくらしてきた。
 「紙おむつですが…」
 「松竹梅、ですよね。今までの全部『松』で!」
 「かしこまりました」
 看護師は心得た、とばかりに園子の頭上の大きな「松」の下に、小さな「松」のシールをぺたぺたと貼った。 
 
 数日すると点滴の管も抜かれ、順調に回復。入院からニ週間での退院が決まった。早速、一人暮らしの園子の退院後の生活について、医師や看護師らと面談が開かれる。以前から叔母を担当していたケアマネージャーが、こちらの要望に合った施設やサービスを提案することになる。もちろんそれはこちらの要望を汲んだものであるのには違いないが、
 「松」 二十四時間介護付老人ホーム
 「竹」 標準的なグループホーム
 「梅」 特別養護老人ホーム
あたりになるのだろうか。介護レベルの度合いや金額や待機人数との兼ね合いで、なんとも言えないが、きっとそんなところだろう。小金はあっても定期収入の無い叔母にとっては、利用料の高い施設に入り、いつまで続くか分からない、毎月の利用料を支払い続けるのは厳しい。叔母とは逆に、お金はあっても施設に入りたがらない老人も多いと聞く。
 やがて叔母が亡くなる時がやって来る。葬儀のランクや墓地の場所、墓石の種類、戒名に何の字が入るかで、全く金額が変わると、いつだかの法事の席で喪主と親族が話しているのを小耳に挟んだ。
 
生きていても松竹梅、死んだあとも松竹梅。


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