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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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泳ぎ疲れたセルフィッシュ

17/01/14 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:627

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 私のこと甘やかしすぎじゃない?って彼女が苦笑いするから、次の日からしばらく連絡もせず放っておいたら、さすがに寂しいなんて言い出す。
 どうやらお風呂の湯加減と一緒で、人によって“丁度良さ”というものが違うらしい。難しい。

 初めてできた彼女のことが僕はすごい好きで、デートの送り迎えは勿論、行きたいところも食べたいものもすべて彼女優先だった。
 毎日夜に僕から彼女へ電話をするのが日課だったんだけど、次の日が仕事でも会いたいと聞けば飛んで行ったし、風邪で体調が悪いと聞けば、仕事を早退して看病しにも行った。

 僕の世界は彼女中心で回っていたし、それが全然苦じゃなかったし、この地球上で僕が一番幸せ者だと全国民へ叫んでやりたい気分にもなった。で、実際一人の部屋で叫んだ。馬鹿だ。それが半年前の話。

 とある金曜の仕事終わり。
 一人で居酒屋のカウンターで枝豆をキュッキュつまみながらビールを喉に流し込んでいると、隣に座った五十代くらいの五十嵐と名乗るサラリーマンと世間話が始まる。
「僕がおかしいですかね? 彼女を甘やかさないためにも、こっちから電話もメールも一時ストップしたんですけど」
「極端だなぁ。彼女がどういう心理でそんなこと言ったのか、聞かなかったのかい?」
「勝手に察して、距離を置きました」
「散々お姫様待遇だったのに、急にそんなことされたらビックリするんじゃないか? というか彼女のこと、もう好きじゃなかったりする?」
 五十嵐さんの一言に、僕は内心ドキッとする。
「好きだと、思いますよ。ただ最近、あれこれ要望に応えるの、少し面倒だと思ってたかもしれません」
「初めてできた彼女だから何でもしてあげた〜いって気分になって、だけど日を重ねるにつれ、関係性にも慣れて……めんどいよ〜んって感じか」
 何がよ〜んだ。腹立つな。でも、当たりなのかもしれない。
「かもしれませんね」
「憶測に過ぎないけどさぁ。もしかしたら彼女は、最近の兄ちゃんの態度から察して“甘やかしすぎじゃない?”なんて言ったのかも。遠回しに無理しなくていいって伝えたかったのかもよ」
「無理が見えないよう振舞ってたつもりですけどね」
「兄ちゃんがそのつもりでも、女の人はそういうのに敏感よ〜。彼女の一言に肩の荷が下りて、彼女と向き合うことさえ放っぽり出しちゃいかんよ。もう疲れました、付き合い切れません!って無言でアピールしたようなもんじゃないか?」
 社会人になるまで恋愛経験のなかった不器用な僕の、不甲斐ない末路だ。
「でも僕も、今まで頑張ったと思いませんか。すべて彼女の気持ちを最優先したんですよ。優しさの塊ですよ!」
「はは。自分で自分のこと優しいなんて言う奴は、優しくないよ」
「……」
 もう最悪だ。滅多打ちだ。五十嵐さんから受けた正論を具現化すれば、僕のボディー辺りに青アザがいっぱいついてそうだ。
「そうですね……」
 敗戦後のボクサーみたいにぐったり項垂れる僕の肩を五十嵐さんは軽く叩き、立ち上がる。
「悪い。ちと、言い過ぎたかもな。お詫びにここは俺に奢らせてくれ」
 そう言って五十嵐さんは一万円を置いていく。
「え、そんな。悪いですよ」
「良いんだよ。俺、優しいから」
 ニヤリと笑う五十嵐さんの表情を見て、僕も少しだけ笑う。自分で優しいって言う奴は、優しくないのだ。

 そのあと、僕は迷惑承知で夜遅くに、お酒も入っていたので歩いて5km先の彼女の家に向かい、彼女と話し合う。で、別れる。
 このギクシャクは、取り戻せない方向に捻じ曲がっているとお互いに納得して、僕の恋愛が終わる。

 ーー僕は元彼女の家からの帰り、歩道橋の上に立っている。
 美しい朝焼けの時間帯だ。肌寒いけど、今の僕には丁度良い風が頬を撫でる。

 彼女は、僕の愛情ゆえの奉仕の精神が、いつしか惰性的に行われていると、わかっていたらしい。五十嵐さんの言ってた通りだ。

 彼女は一切、僕を責めることなく、自分が無理をさせて悪かったと、最後まで貫き通した。僕が悪いのに。
 僕は自分に初めて彼女ができたという嬉しさで暴走し、自分の愛情を彼女へ注ぎまくって、満足したらテンションだだ下がり。他人のためのつもりが、実はすべて自分本位でしか行動していなかった。自分の心の都合にしか寄り添えていなかったのだ。

 彼女は、彼女の持つ優しさのせいで、最後まで僕に怒りをぶちまけることができなかったのかな。
 だけど、僕の駄目な部分を洗いざらいぶつけてきたとしても、それは僕の今後の恋愛に対する教訓になったかもしれなくて、ある意味それも優しさに繋がる。

 優しさの捉え方は人によって違うし、受け手にしかわからないものであって、こうやって目に見えないものを形にしようとゴチャゴチャやってる内は、多分僕はまだまだなのだろう。


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このストーリーに関するコメント

17/01/15 野々小花

浅月庵さま

拝読いたしました。
「優しさ」とは、何なのだろう。そのことを考えながら読み進めました。
相手のことを見ている、考えている、主人公も彼女も、そして五十嵐さんも、この物語に出てくる人物は、皆が優しい。
読み終わったとき、そんな風に思いました。とても、胸に残る作品でした。

17/02/19 浅月庵

野々小花様
遅くなりましたがご感想ありがとうございます。
胸に残ると言っていただきとても嬉しいです。

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