1. トップページ
  2. 雨の日

笹岡 拓也さん

文章で笹岡 拓也の世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

性別 男性
将来の夢 自分の作品を多くの人に読んでもらうこと
座右の銘 生きているだけで幸せ

投稿済みの作品

0

雨の日

17/01/13 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 笹岡 拓也 閲覧数:546

この作品を評価する

こんな雨が降る中で私は傘もささずにただただ歩いた。
道行く人々は私のことを可笑しな目で眺めるだけ。きっと私だって雨の中、傘もささずただただ歩く女がいたら、可笑しな人だなと見てしまうだろう。だから私は怒りさえ覚えない。
雨の中傘をささずに歩き続けようやく街に辿り着いた。あともう少し。
街を歩く人々は皆傘をさしている。傘と傘が重なり、私はその間をすり抜けるように歩く。
やっと辿り着いた先は一軒の魚屋さん。私は店主に雨の中来たことを伝えようとする。しかし生憎魚屋さんは休みだった。私は雨の中、首を傾げながら魚屋さんの周りをうろうろする。すると魚屋さんの店主の奥さんがずぶ濡れの私を見つけて
「あらやだ!雨で濡れてるじゃない!」
と私を家に連れて行ってくれる。魚屋さんの裏にあるお家は昔ながらの佇まい。私は時々店主に上げてもらっていた。その時には毎回美味しい魚をご馳走してくれる。でも今日はいないんだ。
奥さんからタオルを借り、ストーブの前で濡れた体を温める。温めながらぼんやり部屋を眺めていると、この前来た時には無かった大きな黒い家具が置いてあった。そしてそこには店主の写真が飾られている。これはなんだろう?
すると私のもとに奥さんは来て
「そうよね、あなたはうちによく来てくれた子よね」
と声を掛けてくる。きっと店主は私だけをこの家に入れてくれてたんだと気づくと嬉しく感じる。そんな話をしてくれる奥さんは元気がなかった。そして奥さんは私に話し続ける。
「この前ね、主人亡くなったの。急だったわ。亡くなる前にあなたのこと話してくれたわ。『雨の日はいつもずぶ濡れで来るから、家のタオルで拭いてやってくれ』って」
私は店主が亡くなったことを知らなかった。あんな元気だった店主がどうして。私は悲しくて悲しくて仕方なかった。悲しくて仕方ない私に奥さんは少し笑みを浮かべながら話してくれた。
「主人は雨の日が嫌いだった。売り上げも伸び悩むからって。でもあなたが来るようになってから主人は雨の日も嫌いじゃなくなったの。あなたが来るからって」
店主がいつも優しくしてくれるから私は雨の日、欠かさず魚屋さんに足を運んだ。
私だけが嬉しいと思っていたけど、店主も喜んでくれてたと知った時、私は声を大にして鳴いた。
「あら。あなたも言葉が分かるの?やっぱり不思議な猫さんだね。あなたは主人の大切なお客様。いつも主人に優しくしてくれてありがとうね。またいつでもいらっしゃい」
店主の家を出た時、雨はすっかり止んでいた。もう店主の優しさには会えないと考えると悲しい。でも私は雨の日が来たら、また魚屋さんに雨に濡れて足を運ぶ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン