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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

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ルールは守りましょう

17/01/13 コンテスト(テーマ):第97回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:482

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「ところでちょっと気になったんだが」宇宙船〈トライアンフ〉号の船長は、ブリーフィングのあとにぽつりとつぶやいた。「いまどのあたりを航行してるんだ?」
「そりゃもちろん」一等星図航海士がホログラムイメージを睨みながら、「紀元前五世紀のベテルギウス近傍ですよ」
「ふうむ、紀元前五世紀のベテルギウスね。なんでそんなところにいるんだっけか」
「しっかりしてくださいよ。あの悪夢を忘れたわけじゃないでしょ」真空魚雷管理官が得意気に、「ベテルギウス星系から例の極悪宇宙人が侵攻してきたからじゃないですか」
「そうだったな。空間的な問題はまあよしとしよう。で、なんでよりにもよって紀元前なんだ?」
「ええと、確か」船長につられたのか、航海士も自信薄といったようす。「そうだ! 連中があんまりしつこいもんだから、ずいぶん地球がやられちゃったんです」
「ありゃひどかった。小惑星の軌道が変えられて太平洋に落っことされた。五百メートルの津波が世界中を襲ったんです。ぼくのふるさとも水没しちまった」と魚雷管理官。
「じゃあなにか? 連中の文明が宇宙航行レベルに達する前――つまり何千年も前にこっそり忍び寄って、ベテルギウス第三惑星だか第五惑星だかをメタメタにすると」
「まさしくその通りです。やっと思い出してもらえましたか」
「しかしなあ、どうも引っかかる。ちょっとこれを見てくれんか」船長はホログラムイメージを投影した。

ベテルギウス
タイプ M型 赤色超巨星
距離 六百四十二光年

「これがなにか?」
「確か『光年』って単位は光が一年かけて進む距離だったはずだが」
「それで合ってますよ」航海士の眉間にしわが寄る。「あれ、おかしいな」
「だろ? 光速はこの宇宙の最高速度で、それでさえ六百四十二年かかる。で、この宇宙船は光速を出せるのか? こんな大むかしのスペースシャトルみたいなかたちをしたボロ船がさ」
「無理でしょうな」魚雷管理官も冷や汗を流し始めている。「加速すればするほど物体は質量を増しますから、そのぶんそいつを引っ張るエネルギーが余分に必要になる。速くなればなるほど無限大のエネルギーを自力で生成しなきゃならない」
「いや、きっと例の航法を使ってるんですよ」
「聞こうか、その航法とやらを」
「船長も聞いたことくらいあるでしょう、ハイパースペースを経由するとかワームホールを通るとか。そういう小難しいのがお嫌いなら単純にワープしちまえばいい」
「ワープってどうやるんだ?」
「ですから、ブラックホールに飛び込むとか、まあそういうたぐいのことでしょうよ」
「よおしわかった」船長はぜんぜん納得していないものの、しぶしぶ続ける。「空間のほうはそれで解決したとしよう。で、紀元前五世紀にどうやってわれわれはやってきたんだ?」
「タイムマシンってのがあるでしょう」管理官が業を煮やした。「そんなことも知らないんですか、船長」
「あるだろうとも。で、その作動原理は?」
「やだなあ。そこらに据えつけてあるボタンを押して、いきたい年号を選択すればいいだけでしょうが」
「どうも釈然としないな。過去へいくには太陽の何百倍もの質量の円筒を光速でぶん回さなきゃならなかったはずだが、この宇宙船にそんなしろものがついてるのかね」
「そんなのがあったらとっくに重力崩壊してますよ、こんなちんけな船」航海士はいよいよ青ざめてきた。「どうも妙ですな」
 船長はスコープを望遠モードにしてみた。暗褐色に燃える赤色超巨星が鎮座している。「なあ二人とも。あれが本当にベテルギウスだなんてことがありうるだろうか?」
「まずありえないでしょうね」航海士は悟りの境地に達している。「どう考えたってありっこない」
「あんまり聞きたくないんですが、そうなるとぼくたちはこの世界に存在しないんじゃ――」
 その瞬間、彼らは消滅した。彼らどころか宇宙そのもの――光速をやすやすと突破できたり、スイッチひとつで過去へ自在に旅行できたり、六百光年かなたの宇宙人がピンポイントで地球に興味を持ったりする、幼稚園児が創造するよりなおひどいそれ――も消滅した。
 ここまで徹底的に物理法則が蹂躙されたら、誰だってかぶりを振ってため息をつきたくなるものだ。
 宇宙は愛想が尽きて、姿をくらましてしまったにちがいない。


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