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雲鈍さん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 タフでなければ生きて行けない。 優しくなければ生きている資格がない

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どうやら呪われているらしい

17/01/12 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 雲鈍 閲覧数:301

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 この部屋はどうやら呪われているらしい。入居者は次々に変わるし、長く居着いた試しがない。そして部屋を出て行く時はみな、口をそろえて「お化けがでた」と。……失礼な。ここには僕というジェントルマンしかいないのに。

 さて、他愛もない世間話に付き合ってくれる淑女の君に、礼として最初に種明かしをしておこう。そう、僕が幽霊。地縛霊。この部屋に潜み、影から人を驚かし、その滑稽なさまをさめざめと笑う、陰気な存在だ。おいおい、かといって塩を振りまくのは少し待ってくれ。除霊とかそうじゃないとか関係なしに、人の頭に塩をふりかけるって失礼だろう?
 ……だろう? そう思うだろ?
 わかってくれたらいい。これまでの無礼は許そう。許すから早く、その右手にもった塩を袋の中に戻すんだ。

 僕が幽霊になった経緯? 君も凡なことを聞きたがる。この部屋に「一人で」やってきた変人のくせに、思考は大衆と同じかい。ま、それは僕の論じることではないけど。
 長く話すのは苦手だから、結果だけを言うと。
 僕は気がついたら、幽霊になっていたのさ。

 ……え?
 具体的に何があったのかを知りたい?

 わかったよ、了承したから、その右手を下ろしてくれ。幽霊だからといって、過度に脅かすのはよくない。それに僕はほら、こうして言葉も通じるわけだし。

 一人の少女が、空腹で泣いていたんだ。僕は隣に住んでいた。少女の泣き声を聞いて、……菓子パンだったかな、食べ物を分けてあげようと思ったのさ。部屋をノックして、扉を開けて。遠目に異様に伸びた髪の毛と、膝をかかえて震える少女の姿。僕は声をかけようとして。「大丈夫?」と。けれど。
 気がついたら、この部屋に居た。今度は、部屋の外から中をみるんじゃなく、内から外を眺めていた。逆転しちゃったわけだ。ま、いろいろ考えた。僕は死んで幽霊になったとか、少女の霊に取り憑かれたとか。……住人も何度か入ったけれど、僕の姿に気づいてから、みな部屋を後にしたよ。そりゃそうさ、とびっきり脅かしてやったからね。勇気をふりしぼって塩を持つ変な女の子以外は。


 僕の中の結論は、こうだ。
 呪われているのは、この部屋自身。
 部屋が人を「取り込み」、そいつの存在を「亡かったことにする」んだ。そしてゆっくりと時間をかけて咀嚼する。最初に身体が消えて、次に魂が溶ける。すると微かにあった存在感さえ、まるでモヤのように薄れてしまう。
 まるで食中植物のよう。甘い匂いで誘って、中に引きずり込み、エサにして養分を吸い取るんだ。何が養分たるのか、それはまだわからないけれど。
 怖い? そうだろう、僕だって怖い。なんせ昨日の出来事だって、忘れてしまうのだから。……自分の名前なんて、とうに思い出せない。え? 違うって? ……怖いのは「部屋」じゃなくて「僕の存在」?

 ふむふむ。難しいことを言うんだね。
 どうして僕だけが永くとどまれるのか。
 僕が部屋の主なんじゃないかって?
 はは、そう願いたいものだけれど。

 ま、話は終わりなわけさ。
 君も満足したら−−納得しなくてもいいけれど。
 部屋を出なさい。出たら、しっかりと扉を閉めるんだ。最後に、僕が百均で買ったいかつい封印のテープを、扉に貼って起きなさい。そうしておけば、この部屋を訪れる人は確実に減る。君みたいな変人を除いては。

 僕と入れ替わった少女について知りたい?
 うーん、そうだなぁ。
 その子が部屋の外にでたとき、何度か遊んだ記憶があるよ。
 笑顔が可愛い子だった。
 でも、手足は不相応に細かったな。もしかしたら、虐待されてたのかもしれない。
 その子のことをもっと?
 え? 君に似てないかって?

 ……わからないな。僕はもう、自分の名前もおぼつかないから。

 ありがとう? 意味がわからない。僕が何をしたって?
 台所を見ればわかる? ……何もないよ。男の腐乱死体があるだけで。


「あなたは、守ってくれたの」
「うるさいマスコミと、養父の暴力から」
「自分を殺して、ここを「呪いの部屋」にしたことで」
「誰もこなくなった」
「私以外」

 ……そんなこと。


「でも、もういいんです」
「ありがとう」
「お世話になりました」



 少女は、右手の塩を、僕の頭にふりかけた。
 ああ、そうだったな。
 僕は思い出して。
 ……死んでも守る、そんなちっぽけな誓いを思い出して。
 死んで守っても、意味なんかないじゃないか。
 それでも、守れてよかったと思うべきなのか。
 でも妙に気恥ずかしくなって。
 死にたくなるのだった。


「さよなら、また来世」


 少女の言葉に、僕は頷いて。

 ああ、憑かれたなぁ、と。
 思うのだった。

 さらさらさら。

 ……。

 …。


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