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結簾トランさん

お話を書くのが好きな、結簾トランと申します。紅茶とケーキと古めのものも好きです。よろしくお願いいたします。

性別 女性
将来の夢 たのしいお話を生み出す人になりたいです。
座右の銘 「結局俺たちに選べるのは、やるかやらないだけなんだ」FFXのジタンの台詞です。

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304号室の女王

17/01/11 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:0件 結簾トラン 閲覧数:497

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 そんなに私のお話が聞きたいの?
 あぁもうしつこい、仕方ないわね、特別よ?こう見えて色々忙しいんだから、手短にお願いね。幼いからって見くびられては困るわ。
 だいたいこの304号室はとくべつなお部屋なの。誰も彼も好きに入らせてはあげられない。つまり、そこに住んでいる私は差し詰め、このミニチュアリゾートのリトル・クイーンってとこね。
 では、話してあげるわ。よく聞きなさい、私に嫌われたくなかったら、お話の腰を折らないこと。質問なら後で聞いてあげるわ。あなた、ちゃんと正装で来てるものね。帽子を取って挨拶できたことも、評価してあげるわ。見習ってほしいくらいだわ。
 まず、私には五人の専属給仕がついているわ。清掃人は別。私がお部屋にいないときに、そっと妖精のようにやってきて綺麗にしてくれるのよ。給仕たちは皆大人で、きちんとした教養のある者ばかりよ。そのように揃えさせたの。美しい会話の出来ない人間なんて、女王の傍には相応しくないでしょう。そうそう、それでよ、そのせいだったのよね。出来損ないだった六人目は首を切ったわ。ほんとうに気の利かない、でくの坊だったわ。ああ、思い出すだけで腹が立ってきた。
 話題を変えましょう。あの女の話は美しくないわ。もう終わったことだもの、あれ以上時間を進めようがない。良い思い出になんか上書きできないわ。そうね、このお部屋の様子、どうかしら。私がコーディネート案を出してあげて、壁紙からクッションまで全て、三人の給仕に設えさせたの。あとの二人は教養こそあるけれど、驚くほど時間の融通が利かないのよ。まぁ、時間にきっちりしているのは美しい事よね。自分で言う姿は言い訳みたいだったけど。それでも二人の首を切らないのは、彼らがとてもいい気分にさせてくれるからなの。午前と午後で一日二回、お部屋いっぱいに薔薇の香りを漂わせて、美しいお話をして……。私がリラックスして過ごせるように取り計らってくれるわ。ねぇ、こんな給仕、あなたも欲しいでしょう。
 あら、そうよ、お部屋のお話だったわね。今私が腰かけてるベッド、ピンクの天蓋が可愛らしいでしょう?フリルをたっぷりきかせて頂戴と特注で作らせたのよ。カタログのデザインは味気ない物ばかりで嫌だったから。それに、女王が平民たちと同じベッドで眠るのも可笑しな話でしょ。窓に掛けるカーテンも一緒よ。一枚一枚は透けたレースなのだけれど、外から絶対に見えないように何重にも重ねてあるの。私の姿を外から眺めるなんて、呆れるほど大それたことだわ。そんな失礼が出来ないように、まぁ予防策ね。
 深窓の令嬢というモチーフは、いつの時代も庶民の興味を掻き立てて困るわ。
 食べ物?それは勿論一流のシェフに作らせているわ。でも、あんまり食べ物って興味がないのよね。シェフが心配して、四季折々の素材を取り入れてくれるのだけれど。味が一緒だからかしら。
 いやだ、私の入浴のお話に興味があるの?堅物に見えるけれど、やっぱり男の人なのね、あなた。まぁいいでしょう、話してあげると承諾したのは私ですから。
 といっても、私は何もしないわ。湯船にゆっくり浸けるのも身体を優しく洗うのも、給仕の仕事よ。当然でしょ?特製の羽みたいに柔らかなスポンジでね、割と気に入ってるのよ。そうよ、気に入っていたの……そんな素敵な時間をあのでくの坊が、台無しにしたのよ……。思い出すわ、あの女が言った事。この人殺し、よ?意味が分からない。あの言葉忘れないわ、女王への不敬罪よ。だから首にしてやったの……もう二度と、私の目に触れることなんかないようにね、良い気味だったわ。ほんとうに美しくないものって嫌い。あなたもそうでしょう、だからここに居るのでしょ……?
 あら、薔薇の香り……もうそんなじかん、なのね、ではわるいけど、ここまでよ……。おはなし、できて、よかったわ……あなたなら、またえっけんを……きょかしても…――。


「特別房に入れたのは、間違いだったんだろうか」
 男はガスマスクを着けた研究員と入れ違いに、ぬるい鉄箱から出て呟いた。無機質なドアプレートの数字は、「304」。レースの覗く格子窓の手前には、防弾硝子が嵌まっていた。
「いや、どうせ薬漬けのイカレ娘だ。痛みも感じなければ力の制御も出来ないんだよ。風呂で監視員の首を爪と素手でもぎ取って沈めるなんて、予測できる事態じゃなかったさ」
「女の方も、バカな復讐を企んだもんだな」
 待っていた特殊部隊の同僚が、聴取内容を書き留めた手帳へ目を落とす男の肩へ手を置く。
「さぁ戻ろう。任務は終わった。奴の起こした件の処分は上が決めるだろう」
 この島は狂った殺人鬼ばかりさ、長居するとこっちまで気が狂っちまう。そう言って男は小型ボートのキーを取り出した。ありふれていると知らない娘は、今日も304号室で夢を見ている。


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