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若早称平さん

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オンリーワン!

17/01/11 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:516

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 いつもの公園を通りがかった時、ふと嗅ぎ慣れた香水の香りがした。ということは彼女がいるのではないかと周囲を見渡すと、思った通り噴水前のベンチのそばに彼女の姿を見つけた。
「やあ」と僕が駆け寄り声を掛けると「こんにちは」と彼女が会釈する。
「いい天気ですね」
「そうですね」
「どこか行かれるのですか?」
「いえ、これから帰るところです」
 過ぎ去る彼女の後ろ姿を僕は頭を掻きながら見送った。溜め息を垂れ流しながら帰路につき、家に帰るとすぐに一人反省会が始まる。毛布に顔を埋めて今日の彼女とのやりとりを反芻するのも慣れたものだ。

 白いな、というのが彼女を初めて見た時の第一印象だった。今日会ったのと同じ公園で、日課にしていた夜の散歩でのことだった。十五夜の月に照らされた彼女の体は妖しいまでに輝いて見えて、それに見とれながらすれ違う僅かな隙に、僕は恋に落ちていた。
 それから外出時には常に彼女の姿を探すようになった。ストーカーのようで少し気は引けたが、家から十分くらいの所にある例の公園には皆が不自然に思うほどよく通っていた。
 その甲斐あってようやく再会しーーと言っても向こうは僕のことなんて認知していなかったのだがーー声を掛けたのが三ヶ月前、それから会う度挨拶をするようになった。
「いやいや、三ヶ月でそれだけしか進捗しないのかよ!」
 数日前、初めて彼女から「おはようございます」と声を掛けてくれた。その笑顔を思い出し、にやけてしまう自分を一喝する。今まで自分はチャラい男だという自己分析だったのだが、彼女のことになると全然駄目で、年はいくつなのか、どこに住んでいるのか、彼氏はいるのか、好きな食べ物は? 趣味は? 知りたいことは何も聞けない。
「よし!」気合いを入れて僕は毛布から顔を上げた。次に彼女に会ったらもっと突っ込んだ話をしよう。その為に話したいことをリストアップして、シミュレーションを繰り返しながら夜は更けていった。

 イメトレの成果を発揮する機会はわずか二日後に訪れた。その日彼女はいつもと違うリボンを付けていて、それに触れざるを得ない時点で練り上げたシナリオは崩されてしまった。
「リボン可愛いですね」
「ありがとう」彼女は嬉しそうにそのリボンを触る。彼女のその表情を見て突然脳裏に「これはいけるんじゃないか?」という勝算が浮かんだ。
「あの……彼氏とかっていますか?」
 自分でも声が震えているのが分かり、恥ずかしさで逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。俯く僕の頭のてっぺんに「いませんよ」と彼女の笑い混じりの声がした。
「でも好きなヒトはいます。最近よく会う優しいヒト」
 意味ありげに微笑みながら彼女は言った。僕はその言葉を胸に刻み込みながら、今日の一人反省会は長くなるなと予感した。その帰り道、しっかりと足を踏みしめていないとふわふわと浮き上がってしまうんじゃないかと思うくらい僕の心は舞い上がっていた。

 窓の外は冬の冷たい空気で澄み切った綺麗な星空だった。こんな星空を彼女と一緒に見ることが出来たらどんなに幸せなことだろう。僕は一人でそれを見上げながら、優しさとは何だろうと考えていた。彼女の仕草や言動から僕に気があると思うのは決して自惚れではないはずだ。ただひとつ引っかかるのが「優しいヒト」という言葉だ。
 もちろん彼女に対して冷たくしたことなどないし、以前付き合っていた子から優しいという評価を受けたことはある。それでも挨拶程度しか話したことがないのに優しいと言われる要素が僕にあるのだろうかと首をひねる。
 優しさの定義が僕と彼女とで違うのだろうか、それとも何かにじみ出るものがあるのだろうか、などと無理矢理前向きに考えるのにさすがに疲れてきて思わず叫び出した僕に「うるさい!」と家族みんなから総つっこみが入った。

 根がポジティブなのが自分の長所だと思っている。優しくすればいい、というのがあの日一晩考えた結論だった。
 優しい言葉をかけ、レディーファーストを心掛ける。悩みがあるなら相談に乗ってあげて、時にはプレゼントをあげよう。そんなことを考えながら歩いていると足取りも軽い。そのせいもあり、「だからいつか僕と付き合ってください!」
 思わず心の声が外に漏れていた。そしてなんの運命のいたずらか角を曲がってきた彼女が目の前にいた。
「いや……これは違くて……」
 圧倒的にうろたえる僕を不思議そうに見ていた彼女は「ごめんなさい」と僕の脇をすり抜けた。「わたし、優しい『ヒト』が好きなの」
 彼女は真っ白い尻尾を嬉しそうに振りながら僕の飼い主の足にしがみつき、優しく頭を撫でられていた。僕はその光景を見ながらただ「ワン!」と吠えることしか出来なかった。


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