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sasaki akiさん

性別 男性
将来の夢
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やさしさについて

17/01/09 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 sasaki aki 閲覧数:365

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 控室の扉が開いて、廊下から窮屈そうに長身の男が室内に入った。先に部屋にいた少し小柄な男を視界に入れると長身の方は自然な動作で小柄の方の隣にあるパイプ椅子に腰を下ろす。窮屈なのは部屋が狭いなどと言う理由ではなさそだった。
「こないだの収録のコメントだけど、あれあんまりよくないな」
 唐突に、思いのほか高い声音で長身が話しかけた。言いながらパイプ椅子を引いて二人の座り位置が少しハの字になる。
「こないだ言うとアレかな。ルーレット回して出た数分すれ違った人に宝物聞くやつかな」
 答えた小柄の声はさらに高い。
「違う違う。あれもう2週間も前の収録だし」
「じゃあアレだろ。買い物でしりとりする……」
 今度は最後まで言わさずに長身の男が小柄の目の前で大きく手を横にふった。
「いやいや、あれはかなりいい出来だったと思うけど」
「え、そう?」
 小柄が少し照れて初めて長身と目を合せる。呼吸半拍の後長身が顎に手をやった。目に少し真剣な色がともる。
「先週京都で録ったうどん屋の」
 長身がそこまで言うと小柄が自分の膝を叩いた。
「先週京都で録ったうどん屋のな!」
「……それもう言ったから」長身が視線で制するが小柄は気にも留めずに「で?」と促す。
 少し目線を上げて天井と壁の隣接してるあたりに視点を固定すると、長身がいかにも判らないといった表情で口を開いた。
「味の感想の時、お前やっさし〜って、言っただろ。やっさし〜って何なの」
 言い終わりで小柄に視線を戻す。小柄は少し困ったような表情をしていた。
「やっさし〜はやっさし〜味ってことだけど」
「いや、それってどういう味? 俺もわからないんだけど」
 そう言われて小柄はあえぐように口をパクパクさせる。
「うーん、まろやか〜って感じかな。すーっと染み込んでくるような暖かみがあるっていうか、家庭の温もりみたいな」
 長身の表情がますます渋くなって、小柄は更にあたふたし始めた。
「だったらそう言った方が録れ高なくない? お前こないだだけで7回は言ってるよ」
「……でもMさんも食レポでやっさし〜言うてはるで」
 小柄のヘンな関西弁をスルーして長身が「ならパクリやんけ」と同じようなイントネーションで返す。室内を少し沈黙が横切った。
「じゃあ聞くけどお前にとってのやさしさってどういう定義?」
 今度は小柄が質問をする。長身が腕を組んで相手の視線に目を合わせる。
「Wさんみたいな感じかな」
 長身は大物司会者の名前を口にした。
「Wさんは優しくないだろ……」
 あっけにとられた顔で小柄が少しのけぞった。どうやら苦手な相手であるらしい。
「つっこみ容赦ないし、目は笑ってないし若手に厳しすぎることない?」
 長身が呆れたように首を横に振る。
「そんなことないだろ。収録中必ず二回は振ってくれるし、毎回ダメ出ししてくれるし面倒見のいい人だろ」
「お前やっさし〜」
 言ってから小柄がハッとして自分の口を押えた。
「……むっちゃ上からいっちゃった」
「まあそれはそれだけど、なんかね。やっさし〜って微妙すぎる」
 小柄は何度か言い聞かせるように一人うなずいていたが不意に長身を仰ぎ見た。
「でもWさんは優しくなくないか」
 何を言うかと思えば、と長身が呆れ顔に呆れ顔を上塗りしようとしたところで扉がノックされた。
「お二人ご準備おねがいしま〜す」
 扉越しに女性アシスタントの声が聞こえて二人は声を揃えて「はーい」と返事した。廊下に出るとさっきの女性アシスタントがペラ紙を手渡しながら、Wさん先にお入りです〜と間延びした喋り方で告げる。二人はなんとなく顔を見合わせた。
「Wさん先入りしてるって」
 小柄がバツ悪そうに言うのに長身が「さっきトイレで挨拶したな」と答えた。現場へ続く廊下を歩きながら二人とも押し黙る。
 現場に入るとスタッフと談笑していたWが気付いて二人を手招いた。小柄がほんの少し緊張の色を見せる。
「よう順調そうだね」
「お蔭さまで」と長身が如才なく答える。小柄の表情はこわばっていた。
 Wはにやにやした表情を崩さないまま、ジャケットのポケットからタブレットケースをを取り出して、その中からいくつか粒を口に放り込んだ。かすかにミントの香りがする。
「二人は来年どんな年にするの」
 新年特番の収録だからか、年末のこの時期に相応しい質問なのか、長身が少し考えている間に小柄が口走る。
「僕は来年はやっさし〜を封印します!」
 少し汗ばんできた額を照明にキラキラさせながら言った小柄を横目にする、長身の緩んだ表情を見てWは来年もダメそうだなと思った。
「なんだよそれ。意味わかんないよ」
 含み笑いをしながらWは二人から離れていった。Wの反応にわたわたする小柄をよそに長身は立ち去るWに軽く頭を下げた。表情は少し窮屈そうだった。


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