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六月一日 憂さん

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アイシテ

17/01/09 コンテスト(テーマ):第125回時空モノガタリ文学賞【優しさ】 コメント:0件 六月一日 憂 閲覧数:311

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「あんたなんかッ!あんたなんかッ!!」
「やめてお母さんっ!!」
「うるさいっ!!」
「…っ」

飛んでくる物を避けたらダメ。
避けたら余計に怒らせるから。
飛んでくる物が無くなるまでジッとしていれば解放される。そう、我慢していればいい…。

「あの女によく似た顔で私の前に近寄らないでッ!!」
「ごめんなさい…ッ」

父が浮気をした。浮気相手の女の間に生まれた私は実の母が死んだ後にここへ引き取られたのだ。
だからって父さんが帰ってくることは少ないし、私は実の母との思い出が一切ない。

病気だったらしく私が物心つく前に亡くなり、実質私の母はこのヒステリックな声を上げて泣き叫ぶ女の人だ。

目を合わせれば逆ギレされ、情緒不安定な母は父の帰りをただただ待ち焦がれながら泣いている。
裏切られたと怒りながら泣いて、そんな時に私を見かけたら襲いかかる勢いで怨み言葉を吐き出し、物を投げつけてくる。それを救ってくれるのは……

「母さん!!もうやめろ!」

このヒステリックな女の人から生まれた、所謂私にとっての腹違いの兄だ。
母さんは兄を見ると泣きついて、どうしてこんな子を庇うのかと縋り付いてまたわめきだす。
母の意識が私から逸れた時、兄は目配せで部屋に行けと合図をくれる。私はただそれに従うしかできない…。

最初こそ有難いと思ったけれど幼い頃から繰り返されるその毎日の中で私だって生きた人間だ。
彼女に……私にとっては彼女しか母と呼べる存在が居ないから彼女に……愛されようって頑張った時期もあった。

少ない小遣いで花を買ってみた。誕生日に何時間も店を往復してプレゼントを選んだ。母が好きな料理を作ってみた。母に似合いそうなアクセサリーを見つけたら買ってみた。今度こそ笑ってくれるかもしれないと期待を込めて…。

愛して欲しいなんておこがましいことは立場上百も承知で、それでも私にとっての母は彼女だけ。父はいつも家を空けっぱなしで帰ってきても私に構おうとすると母が喚きだすものだから何年も口をきいていない。

「花なんて嫌いよ!!」
「誕生日?あんたに祝ってもらいたくもないわ!!」
「あんたの作ったものなんて食べられるわけないでしょう?私を殺すために毒でもいれたっていうの?」
「こんなもの要らないから死んでよっ!!」

花は踏み潰された。プレゼントはゴミ箱行き。料理は流しに捨てられ、アクセサリーは踏み壊された。
期待を持つことはそれでもやめられず…ごめんなさいって叫ぶしかできない私なんて、死ねばいいんだろうって本気で思っていた。それでも…

「ごめんな。母さんのこと…」
「兄さんが謝ることじゃないわ。」
「でも…傷だらけじゃねえか。ほら、手当てしてやるからおいで」
「うん…」

兄は優しかった。私を気遣ってくれる唯一の人だった。

「泣いていいんだぞ。」
「…っ泣かないよ。私が泣いていいことじゃないじゃん。」
「んなわけあるかよ。生まれた子供に罪はない。」
「………その言葉で充分だよ。」

優しく抱きしめられる腕の中で何度泣きたいと思ったか知れない。兄の温度だけが私の縋りつける温もりで、兄だけが私の唯一の味方だった。

でもね、本当は知ってるんだ。

私がこれ以上傷付かないためにも父さんが母さんへ償いとして働き、お金を稼いでみんなを生活させようとしていること。

母さんが直接私を殴らない為に物を投げつけ、暴言だけを吐き散らかすこと。

兄が私を必死に妹として見る為に、私に手を出さないよう良い兄を演じていること。

私のためなんて言葉はいらない。いっそ私のせいだって言われた方がマシだと何度も思ったけれどそれを口にしたことはない。

「兄さん…」
「うん?」
「……ううん、なんでもない。」

どんな形でも良いんだよ。愛してくれるなら…愛されたことがないから余計に欲してしまう自分を押し隠した笑顔で兄を見つめてしまう。

例え血が繋がっていようが本気で想ってくれるなら…愛情ってものを教えてくれるなら…兄の想いに縋り付きたくなる。

でもそれは誰のためにもならないことだってわかってるから私は今もこうして妹の振りをして殴られる毎日を過ごす。

まやかしの日々の中で偶に思う。
誰かが誰かを想う時、そのカタチはそれぞれで……どんな優しさよりも残酷だって…。


fin...


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